第68話 夕食は眠りながら……
――夜も更けて店が閉まり、俺たちは家の中へと戻る。
「いやー手伝ってもらって助かったっすよ」
「いえ、お世話になってますからこれくらいは」
イスに座って一息つく。
重労働ではなかったが、慣れないことをするとやはり疲れるものだ。
「なかなか楽しかったのう」
俺の隣にナナちゃんがちょこんと座る。
「そう? 疲れなかった?」
「疲れはしたのう。今夜はよく眠れそうじゃ」
「そっか」
ナナちゃんがしていたのは商品の袋詰めだ。俺がお客さんからほしい野菜を聞いて買い物袋を受け取り、ナナちゃんが店頭から集めてその袋に詰める。小さい身体で一生懸命に野菜を集めて袋に詰める姿は微笑ましく、いつもの大人びた様子とは違う子供らしい一面が見れた。
「しかしハシュバントおじさんはさすがじゃのう。にーにとナナが2人でやっとこなしている仕事を、ひとりで何倍も素早くこなしておった」
「はは、長年やってて慣れてるっすからね」
俺やナナちゃんと違ってまったく疲れている様子は無い。さすがである。
「さてそれじゃあ夕食の準備をしましょうか。あれ? そういえばシャオナさんはどうしたんすか?」
「あ、まだ寝てるのかも。ちょっと起こしてきますね」
……
……そして起こして連れて来るが、シャオナはものすごく寝惚け眼で、支えていないとこの場で倒れて眠ってしまいそうな状態であった。
「大丈夫っすか?」
「ええはい。夕食を食べるか聞いたら食べると言うんで連れて来たんですけど……ほんとに平気?」
「あい……」
眠そうな声で返事をする。
それなりにたっぷりとは寝ていたはずなのだが……。
「部屋にあった本を読んでましてね……。そしたら眠るのが遅くなってしまいまして……」
「ああそれで。ごめん。俺が本なんか薦めたから……」
「いえ、マオルドさんは私の健康を気遣ってくれただけですから。本を読み過ぎてしまった私が悪いんですよ。ふあぁ……」
欠伸をするシャオナをイスへ座らせる。
「でもお腹すきましたー。食べたらまた寝ますぅ」
「あ、うん」
結局、食後すぐに寝てしまいそうだ。
……それからハシュバントさんに用意をしてもらい、夕食を食べ始める。
今日のメインは魚料理だ。口から尻尾までを棒で貫かれて焼かれた魚の焼き加減と塩加減は絶妙で、調理した人の腕が素晴らしいとわかる。
「これはうまいのう。うむ。うまい」
美食に興味の無いナナちゃんも絶賛だ。
「これはおいしいですね。見たことない魚ですけど、川の魚ですか?」
「王都の側にある湖の魚っすよ。丁度さっきご近所さんが釣りから帰ってきましてね。何匹か分けてもらったんすよ」
「そうだったんですか」
湖の魚ってのもおいしいんだな。村の側には川しかないから、湖で穫れた魚は新しい味わいだ。
「シャオナは湖の魚って……ええっ……?」
隣に目をやると、そこには寝息を立てながら食事をしているシャオナの姿があった。
完全に寝ている。しかし手は動いており、魚を貫いている棒を持って身をかじっていた。
「すぴー……もぐもぐ」
「器用なことするなぁ」
食後すぐに寝ると身体に悪いって聞くけど、食べながら寝るのはどうなんだろ? そもそも食べながら寝れる人がシャオナ以外にいるのかわからんけど。
「行儀の悪い女じゃ」
「いや、そういう問題かな……」
まあいいか。
「それじゃあ昨日の話の続きをするっすかね」
「あ、そうですね。お願いします」
「はい。えっと、昨日はデーモンアイ討伐へ向かう前日にジャスティスの拠点へ行ったところまで話したんでしたよね?」
「はい。その帰りに食事へ行ったってところまでですね」
「じゃあデーモンアイ討伐へ向かった日のことから話しましょうか。言うまでも無いっすけど、団長もキーラキルさんライアスさんも俺も生きて戻ることができました。けどあの日は自分が生きて戻れる可能性はほとんど無いと思ってたっす。こうして生きていられるのを今でも不思議に思うことがあるっす」
「デーモンアイを討伐することはできたんですか?」
「それはこれから話していきますよ。まあ、俺とライアスさんは途中で団長と別れてしまうので、結末は見ることができなかったんすけどね。だからデーモンアイが最後にどうなったのかは、あんまりくわしく話せないかもしれないっす」
「そうなんですか」
そこはちょっと残念だ。
「では話していきますね。えっと、俺たちは早朝からデーモンアイのアジトへ向かって……」
やがて昨夜の話の続きが始まった。
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