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第67話 ルナリオを頼ってみる

 食事は終わったが、さてこれからどうしようか?


「シャオナに傭兵は無理じゃないかの?」


 不意にナナちゃんがそう言う。


「そ、そうですか?」

「うむ。仮に今朝の仕事をお前ひとりで受けたとして、成功させることはできたかの?」

「えっと……それは」

「あのチンピラどもをひとりで倒せたかの?」

「む、無理かも……です」


 俯きつつシャオナは答える。


「そうじゃろう。あんな程度の仕事もひとりでこなせぬようでは傭兵など務まらん」

「で、でも、もっと安全な依頼もあるだろうし……」


 と、俺は思ったことを言うが、


「そんなのは稀じゃ。普通は安全な仕事など傭兵に頼まん。危険だから傭兵に頼むんじゃ」

「まあそうか……」


 もっともなので返す言葉も無い。


「でも他にできる仕事あるかな?」

「ルナリオに頼めばよい」

「ルナリオ様に?」

「うむ。あの男は偉い立場なんじゃろ? シャオナの事情を説明すれば解決できるかもしれん」

「なるほど」


 ルナリオは国王の妹の息子だ。つまりシャオナに似ているというイルーラ姫のいとこにあたる。姫様の命令でシャオナが彼女の代わりに仕立て上げられた件を相談すればなんとかしてくれるかも。


「そうするのが一番かな。シャオナはどう思う?」

「あ、はいっ。そうしてもらえるのがいいと思います」

「うん。そうだよね。顔を隠しながらここで生活していくよりも、この件を解決して故郷へ帰るのが一番だもんね」

「はい……」


 答えるシャオナの声音は寂しそうだ。

 その理由はわからなくもなかった。


「うう……」

「シャオナ?」


 俯いた状態から、勢いよくシャオナは上体を起こす。


「私、このことが解決したらマオルドさんの村へ行きたいです!」

「えっ?」

「いいですよねっ?」

「で、でも……」

「解決できたらもうご迷惑はかけませんもん! だからいいですよねっ?」

「まあ……シャオナがそうしたいなら、うん。いいよ」

「やったーっ!」


 声を上げて立ち上がったシャオナが俺の頭を胸に抱く。


「ちょちょちょっ……ちょっとシャオナっ」

「んふー。マオルドさぁん」


 この状態だと顔は見えないが、なんか色っぽくて嬉しそうな声音だ。

 てか心地良い。女の子の香しい甘い匂いもあって、気持ち良さにこのまま眠ってしまいそう……。


「いだだだだだっ!」


 突如として太腿に激痛が走る。

 見下ろすと、小さな手が太腿の肉を摘まんでこれでもかというほど捻っていた。


「ナナのにーにに気安く抱きつくでない」

「あ、ごめんなさいっ。つい嬉しくって」


 慌てた様子でシャオナが俺の頭を離す。それと同時に、肉を摘まんでいた指も離れる。


「いたた……」

「にーにも簡単に抱きつかせんようにの」

「えっ? あ、うん。てかつねられるの俺なの?」

「シャオナをつねったら、自分のせいでシャオナがつねられたとにーには申し訳ない気持ちになって落ち込むじゃろ。だからにーにをつねったのじゃ」

「あ、そ、そっか。うん」


 確かにそうかもしれない。

 誰かが自分のせいで痛い思いをするより、自分が痛い目にあったほうがましだ。

 しかしナナちゃんはよく俺のことを理解している。短い付き合いなのに、まるで長年共に過ごしてきたみたいだ。


「そうじゃろ。まあにーにが気にせんのなら、この女の乳首を捻り千切ってやってもいいがの」

「い、いや、それはダメだよっ」


 本当にやりそうなので怖い。


「えへへー。……じょ、冗談ですよね?」

「冗談? 冗談とは笑えるものじゃろ? ナナは笑えることなど言った覚えはないぞ」

「あ、うん。そうね。あはは……。マオルドさんごめんなさい。太腿をつねられてください」

「それがいいね……」


 むちゃくちゃ痛かったけど、シャオナが乳首を捻り千切られるよりはマシだろう。


「それでこれからどうするのじゃ? ルナリオに会いに行くかの?」

「いや、まあ、そうしたいところだけど、そう簡単に会える人じゃないからね。今日はたまたま偶然に会えただけだし、また会うのは難しいよ」

「そうですよね……」


 少し空気が重くなる。


 彼はまた会おうと言ってくれたが、あれほど高い身分の人に庶民が会うのは普通は難しいと思う。ふたたび会うにはまた偶然に期待するしかないか……。


「ワークスに行けばまた会えるんじゃないですか?」

「うん。頻繁に来てるのかはわからないけど、あそこで待ってればまた会える可能性は高いね」


 身分を隠して傭兵をやっているのだ。

 こちらもワークスに通っていればいずれ会うことはできるだろう。


「……ふむ。しかしそれは少し待ったほうがいいのう」

「えっ? どうして?」


 冷静な表情のナナちゃんを俺は見つめた。


「事はできるだけ内密に解決せねばならん。つまりあの男に頼むときも、あの男がひとりのときでなくてはならんわけじゃ」

「うん。だからワークスで会ったら、どこか人のいないところまで来てもらって……」

「はたしてあの男がひとりになることがあるかの」

「どういうこと?」

「うむ。どうも妙に思うことがあっての」

「妙に思うこと?」


 とはなんだろう?

 今のところ見当もつかない。


「ナナがあの男と店の外を見に行ったじゃろ?」

「うん。向かいの店の様子をね」

「誰もいなかったのじゃ」

「誰もいなかったって?」

「店の前の通りに人の姿がまったくなかったのじゃ」

「そうなの?」

「うむ。妙ではないか? あの通りには服を売っている店以外にも店舗がいくつかあったのじゃ。店の閉まっている夜中ならともかく、日中のそんな通りに人の姿が見えないなど」

「まあ……。けどそれとルナリオ様がひとりになるのかって話になんの関係があるの?」


 確かに妙だが、先ほどの話との繋がりが見えない。


「あの男が仕事をしやすいようにサポートしている者がどこかにいるということじゃ」

「えっ? で、でもそんな人どこにもいなかったけど……」

「うむ。ナナも姿は見ておらん。しかしそれなりの立場の人間が身分を隠してひとりで行動などはたしてできるじゃろうか? 短い時間ならともかく長い時間じゃ。普段、側にいる護衛や召使いなどが気付かぬとも思えん」

「言われてみれば……」


 ルナリオとワークスで会ったときは特に疑問は持たなかったが、あらためて考えてみるとナナちゃんの言う通りだ。高い身分の彼が長い時間ひとりとなれる状況には違和感がある。


「誰かルナリオの側にいて、あの通りから無関係の者を人払いしたのじゃ。そうすればあの男が戦って無関係の者を巻き込むこともないし、正体を晒しても野次馬が集まって騒ぎになることもない」

「う、うん」


 考えてみれば外であれだけ騒いで誰も野次馬がいなかったのはおかしい。争いごとが起きれば普通は人が集まってくるだろうに。


「けどルナリオ様は誰かと一緒だなんて言ってなかったけど」

「言う必要も無いことじゃろ」

「まあうん。それもそうか」

「もしくは秘密裏について回っているのか。しかしだとしたら聡いあの男がそれに気付いていないとも考えにくい。知っていて都合良く利用しているのかもしれんのう」

「うん。けどいずれにしたって、その人はルナリオ様の味方なんでしょ? だったら話を聞かれても大丈夫じゃないかな?」

「ルナリオの味方じゃ。ナナ達の味方ではない」


 ナナちゃんはきっぱりとそう言い放つ。


「それってどういうこと? ルナリオ様の味方なら俺たちにも味方してくれるんじゃないかな?」

「その考えは安易じゃ。あの男の味方はあの男を守るためならば協力するじゃろうが、逆に関わらせたら危険と知ればナナ達を排除しようと動くかもしれん。ルナリオを味方と考えても、その近しい人間までナナ達の味方とは思わぬほうがよい」

「なるほど……」

「とはいえ、これはすべてナナの推測じゃ。確証があるわけではない。通りに誰もいなかったのは偶然かもしれんし、あの男の強さを信頼して護衛も誰もついておらんかもしれん。だがこういう可能性もあることは頭に置いておくべきじゃ。面倒を起こしたくないならの」

「うん……」


 本当にそうだ。時間に制限があるわけじゃないんだし、もっと慎重に考えて行動を起こしたほうがいい。


「ルナリオ様に会う方法はもう少し考えてみよう」

「あ、はい。そうですね。ナナちゃんの言った可能性もありますし」

「うん。とりあえず今日はどうしようかな? することないし自由行動? けど、シャオナは目立たないほうがいいから出歩かないでね」

「わかりましたっ。お昼寝しますっ」

「まあ……そうだね。そうしてるのがいいかも」

「はいっ。ではおやすみなさいっ」


 脱いだ鎧を抱えてシャオナは寝室へ向かう。


「食べてすぐ寝ると身体に悪いからしばらく本でも読んでたほうがいいよ」

「はーい」


 シャオナが部屋を出て行き、俺とナナちゃんだけになる。


「ナナちゃんもお昼寝する?」

「にーにがするならするのじゃ」

「俺は別に眠くないかなぁ」

「ならばナナも起きてるのじゃ」

「うん。じゃあ俺は食器を片付けてからハシュバントさんの手伝いをしようかな」


 いろいろと世話になっているし、店の手伝いくらいはさせてもらおう。


「それならナナも手伝うのじゃ」

「ナナちゃんも? うん。じゃあ一緒にやろうか」


 俺は食器を片付けたのち、ナナちゃんを連れて店頭へと向かった。

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