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第64話 店を荒しに来たのは昨日のチンピラ集団

 もしかしてあれが嫌がらせしてくる連中かな?

 なんとなくそう思う。


「店の前にいた集団ですね」

「あ、じゃあやっぱり……」

「まだわかりませんね」


 俺とルナリオ様はその集団を注視する。


「ろくでもなさそうな連中じゃ。あれじゃろ。嫌がらせをしてくるというのは」

「ナナちゃん、人を見た目で判断しちゃダメだよ」


 まあ俺も同じことを思ってしまったのだが。


「人などだいたいは見た目通りじゃ。ろくでもない人間はいかにもな格好をしておる」

「いやまあ、そうかもしれないけど……」

「しかしナナさん、見た目だけで人を判断するのは危険ですよ」


 割って入ったルナリオの言葉を聞き、ナナちゃんはそちらを向く。


「立派で綺麗な外見をしていても悪い人はいます。人を見た目で判断して近付くのは危険ですよ」

「なるほどのう。確かにそうじゃ」


 うんうんと頷き、ナナちゃんは納得を口にする。


 俺にはナナちゃんの考えを否定するなどそうそうはできないが、ルナリオは自然にそれをやってのけた。頭の回転も俺より良いようだ。


「負けてるところばかりだな……」

「なにがじゃ?」

「あ、いや、なんでもないよ。はは……」

「うん? そうかの。お、それよりもにーに。気を付けたほうがよいぞ」

「えっ?」


 首を店内に向けたナナちゃんの視線を追う。


「さっきの人たちがどうかしたの?」

「よく見るのじゃ。あれは昨日、シャオナに絡んだ悪たれどもじゃ」

「あ……」


 女性が混じっているので気付かなかった。確かによく見れば、あれは昨日シャオナに絡んでいた連中だ。

 連中は店内をうろつき、流すように服を見ている。


「なんかダサい服ばっかりー。こんなのいらなーい」

「そうだなー。向かいの店のほうが安くてセンスがいいのそろってるよなー」

「ああ。俺ならここで買わないぜー」


 そんな会話を大声でする男女たち。

 露骨な嫌がらせではあるが……。


「やっぱり嫌がらせはあいつらじゃ。追い出すかの?」

「いやでも、あれくらいなら追い出さなくてもいいんじゃないかな。暴れているとかじゃなくて話をしてるだけだし、そもそも他にお客さんいないし」


 他に客がいないなら悪く言われても嫌がらせの効果は無いだろう。


「って、ほかに客いないじゃん。悪口言っても意味なーい」

「あ、ほんとだ。客いねーじゃん。これじゃ嫌がらせにならねーし、金もらえねーよ。どうすっかなぁ……。客が入ってくるまで待つかぁ?」

「面倒だし店ん中ぶっ壊して営業できなくしてやろーぜ」

「お、そうすっかー」

「いえーい」


 ……どうやら仕事をするときがきたようである。


 連中を止めようとイスから立ち上がった俺だが、その手をナナちゃんが掴む。


「ナナちゃん?」

「待つのじゃ。向かう前にもしものときを考えて相手をよく見よ。女のほかに、昨日はいなかった男がいるじゃろう」

「男……?」


 言われて見ると、その通り。昨日はいなかった身体の大きな男がいる。体躯は俺の倍はあるんじゃないか? 腕の筋肉は盛り上がっており、どう考えても喧嘩は強そうだった。


「あれは相当に強いじゃろう。争いとなればにーにでは勝てぬかもしれん」

「う、うん。でも……」

「わかっておる。止めても無駄じゃろうからそれはせん。けど約束じゃ。あぶなくなったら絶対に逃げるんじゃぞ。絶対じゃ」

「わかったよナナちゃん」


 とはいえ、みんなを置いて俺が先に逃げるわけにはいかない。逃げることになったとしても、それは他の全員が逃げてからになるだろう。


「あの身体の大きな男性、腰に剣を差してますね。あれは気を付けてあたらないとこっちが怪我をしますよ。私が彼らと話しますので、3人はここにいてください」

「あ、ちょ、俺も行きますよ」


 向かおうとするルナリオに声をかける。


 彼に怪我でもされたら大変だ。それに、男の俺が女の子らと一緒におとなしく待っているだなんて格好悪い。


「でもあぶないですよ」

「平気です。こういうことは素人じゃないですから」

「そうですか……。けどもしもあぶなくなったら逃げてください。私がフォローしますから」

「は、はい」


 たいした自信だ。世間知らずのお坊ちゃんなどと言っては失礼だが、戦いというものを甘く考えているのかもしれない。

 鍛錬もそれなりに積んでいるのだと思う。しかし腕の良い剣の先生かなにかに習っているとしても、実際の戦いはそんなに経験していないはずだ。彼が無茶をしないように注意をし、もしものときは俺が盾になって守らなければならないだろう。


「私も行きますっ!」

「シャオナ?」

「本来なら私がひとりでやらなければならない仕事ですし、黙って見てなんていられませんよっ!」

「う、うん……そうだね」


 少し心配だが、彼女の言う通りこれは本来ならシャオナひとりでやらなければならない仕事だ。脇役の俺たちだけで片付けるわけにはいかない。


「よし行こう」


 俺は先頭を歩き、いよいよ暴れだそうかという雰囲気のチンピラどもに近付く。


「ん? なんだ? あ、てめえ昨日のハゲ野郎っ!」

「誰がハゲだっ!」


 会うたびハゲハゲ言って腹立つ。


「なんだ知ってる奴か?」


 身体の大きな男が低い声で仲間に問う。


「昨日、俺らをボコったハゲ野郎ですよ!」

「てめえ、よくも俺らの前に出てこれやがったなぁ!」

「いや、そっちから来たんでしょ」

「うるせえ! 兄貴! 俺らの仇を取ってくださいよ!」

「しかたねぇな」


 男がズイと前に出て来る。


「よくも子分どもを痛めつけてくれたな。少し痛い目を見てもらうぜ」


 やっぱりこういうことになったか。


 昨日、モメた連中ということで少し話はややこしくなったが、そもそも話し合いなど通じはしなかったろう。


「わかりました。じゃあ表へ出てください。ここじゃ店の中が荒れますので」

「丁度良い。店も荒せて一石二鳥だ」


 腕を振り上げる大男。


 なんとかこいつらを外に出さなければっ。


「ダメです! ここで暴れちゃダメでーすっ!」

「シャオナっ!」


 俺の前にシャオナが飛び出す。


「邪魔だ女! てめえからぶっとぱすぞ!」


 構わず男は拳を振り下ろす。

 俺は慌てて、シャオナの前に出てその拳を受け止めようとしたが……。


「ぐあっ!?」


 受け止めきれず、そのまま顔面を強打される。

 勢いで仰向けに倒れた俺の目は軽く眩む。


 なんて力だ。

 見た目からわかっていたことだが、他の連中などくらべものにならないほどこいつは強い。


「マオルドさんっ!」

「うう……」


 シャオナに助け起こされ俺は呻く。


「ひゃっはー! さすが兄貴だぜ!」

「きゃーっ! 兄貴強くてかっこいーっ!」


 取り巻きたちが喜びに騒ぐ。


 これはまずい。たぶんこの男は俺より強い。けど、連中の目的は俺への復讐だ。俺が外に出れば店は荒されずに済むし、他のみんなを守ることはできる。


「くっ……」


 立ち上がろうとする俺の目に映ったのは、堂々と立つ男の背中であった。

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