第62話 ワークスで出会った意外な人物
それからしばらく歩き、やがて目的地であるワークスへと着く。
3階建ての大きな建物だ。かつて親父や母さんもここへ来ていたと思うと、なんだか感慨深くある。
「なんだか怖そうな人がいっぱい出入りしてますねー」
「傭兵だからね」
みんな戦いを生業にしているのだ。普通の人より厳つくもなるだろう。
「入ろうか」
「は、はい」
緊張した様子のシャオナを連れて中へと入る。
中もやっぱり怖そうな人らでいっぱいだった。
「怖そうな人がいっぱいですっ」
「それはさっきも聞いたのじゃ」
首の上でナナちゃんが呆れた声で言う。
「とりあえずなにか仕事を探してみようか。えーっと、どうやって探すのかな?」
「あれじゃ」
ナナちゃんは俺の頭を掴み、その方角へと首を向けさす。
そこに見えたのは掲示板だ。文字の書かれた紙がたくさん貼ってある。
「周囲の様子からして、あそこに依頼が貼り出してあるようじゃ。あそこから依頼書の紙を持って受付で手続きをすれば仕事を請けられるということじゃろう」
「なるほど」
人の群がる掲示板のほうへ俺たちは歩いて行く。
「へーたくさん依頼があるね」
「それだけ困りごとがあるということじゃろう」
「そうだね。どんな仕事があるんだろう?」
ざっと見渡す。
やはり傭兵に依頼するだけあって、魔物退治や盗賊退治などの荒い仕事が多い。中には飼い猫を探してほしいなどもあるが。
「猫を探すのはいいですねー。あぶなくなさそうです」
「どうかの? 猫が王都にいるとは限らん。魔物の腹の中かもしれんぞ」
「怖いこと言わないでくださいよぉ」
「はははっ。でもそういう可能性も無くはないからね。危険は無さそうに見えても、必ず安全とは限らないよ」
「そ、そうですね。慎重に選ばないと……」
とはいえ、傭兵に依頼をしてくるのだ。どんな依頼でもそれなりに危険はあるような気がする。
「ん? それなどいいのではないかの?」
「どれ?」
「それじゃ?」
ナナちゃんが1枚の依頼書を指差す。
「服屋の店番?」
貼られている依頼書にはそう書かれていた。
「こんな仕事まであるんだ。てかこれ、傭兵に頼むもんじゃないと思うけど」
「でも安全そうでいいですね」
「まあそうだけど……その見た目で店番は無理じゃないかなぁ」
頭の天辺からつま先まで重武装。おまけに鉄仮面である。これじゃ店番というより、用心棒か門番だ。
「まあ傭兵に依頼するくらいじゃ。よほど人手に困っているのじゃろうし、こんな外見でも平気じゃないかの」
「そうかな? そうかも」
ナナちゃんが言うなら大丈夫な気がする。
「じゃあこれちょっとやってみる? シャオナ?」
「はいっ」
承諾を得て俺は依頼書に手を伸ばす。
……と、ほぼ同時にそこへ誰かの左手が伸びてきた。
「えっ?」
「あ……」
その誰かと顔を合わせる。
目が隠れるほど鉄の兜を深く被った男だ。長い黒髪が兜からあふれ出ていた。
「あ、どうぞ」
「あ、どうぞ」
俺が譲ると、彼も声を合わせて譲ってくる。
「いいえどうぞ」
「いいえどうぞ」
「……」
「……」
お互い苦笑う。
どうしよう? 譲ってもらってもいいが、一度、譲った以上、じゃあ遠慮無くとも言い出し難い。
「なにをしておるんじゃ。譲ると相手が言っておるんじゃからもらえばよい」
「あっ」
俺の頭の上から短い手をいっぱいに伸ばしたナナちゃんが依頼書を引っぺがす。
「す、すいません」
「はははっ、いいんですよ。お譲りしたんですから」
口元を綻ばせてその人は朗らかに笑う。
善悪はともかく傭兵なんてほとんどが荒くれ者の印象だったが、この人は物静かでやさしい人のようだ。
「うん?」
なんかこの人どこかで会った……いや、見たことあるような気がする。
「あれ? あなたもしかしてルナ……」
「あーっ!
「えっ?」
「いえあの……ちょ、ちょっとこっちに来てください!」
腕を引かれ、人気の無い建物の隅へと連れて行かれる。
「あの……」
「すいません急に」
深く被っていた兜から目を覗かせる。と、そこに見えたはやはり見知った人物であった。
「やはりあなたは……」
「はい。お察しの通りです」
微笑む彼は、先ほどまで白馬に跨って高貴な女性たちから黄色い声を浴びていたルナリオ様その人であった。
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