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第59話 シャオナの仕事を探しに行く途中で聞こえた女性の叫び

 ――朝になり目を覚ました俺は、服を着たナナちゃんを連れて部屋を出る。


「よく眠れたのじゃ」

「よかったね」

「でもにーにの夢は見なかったのじゃ」

「俺も見なかったなぁ。熟睡すると夢を見ないって聞いたことあるからそのせいかな。それとも忘れているだけかもね」

「まあどちらでもよい」


 ナナちゃんは俺の手をぎゅっと握る。


「夢で会わんでも、ナナはにーにとずっと一緒じゃ」

「うん。そうだね」


 緩く手を握り返してあげると、どことなく嬉しそうな無表情がこちらを見上げた。


「昨日、ハシュバントさんに聞いた話なんだけど……」

「んー?」

「親父が酒を飲んで記憶を失うってところが気になってね」

「うむ。ナナもそれは気になっておった。ヘイカーパパはたまに酒を飲んでおるが、記憶を失うということは無いからのぉ」

「うん。ああいう……酒癖ってものは治るものなのかな?」

「どうかの? 聞いたことは無いのう」

「そっか」


 ナナちゃんでもわからないのでは、俺が考えても答えは出ないはずだ。


「しかし記憶を失うとは……まるで能力を使った状態のにーにじゃな」

「あ、うん。もしかしてなにか関係あるのかな?」

「うーん……はっきり言えばわからん。しかしにーにの能力になにか関係している可能性は否定できんの。にーにの能力についてはほとんど未知じゃし」


 ……俺の能力。

 それと親父の酒癖に繋がりがあるとは思えないけど。


 居間へ入る扉を開く。

 真っ先に見えたのはジャガイモをかじる鉄仮面の女であった。


「あ、マオルドさんにナナちゃん、おはようございますー」


 柔らかな声でシャオナがあいさつを口にする。

 たぶん笑顔なのだろうが、仮面に隠されていて表情は見えない。


「おはようございますシャオナさん。早いですね」

「一番先に寝てしまったのでー」


 まあそれもそうである。


「マオルドさん、ナナちゃん、おはようございまっす」


 厨房からハシュバントさんが顔を出す。


 どうやら朝食を作っているようだ。


「おはようございますハシュバントさん」

「おはようなのじゃ」

「ミルバーシュさんは?」

「ああ、あの子なら俺が起きたときにはもう出掛けていたっすよ」

「そうですか」


 なにか難しい仕事を請け負っているんだったか。どんな仕事かはわからないが、うまくいけばいいと思う。


「ミルバーシュさんってどなたですか?」

「ハシュバントさんの娘さんですよ」


 シャオナに問われて答える。


「そうなんですかー。私はあいさつしそびれちゃいましたねー」

「また夜に帰ってきますよ」

「あ、いや、それはちょっとわかんないっすね」

「そうなんですか?」

「はい。帰ってきたり来なかったりなんすよ。昨夜はたまたま帰って来ましたけど、ひどいときはひと月ほど帰って来ないこともあるっすから」

「はーずいぶん忙しいんですね」

「どうっすかねぇ……。あれは戦いが好きですから、猛者を求めてただどこかを彷徨っていたりもするっすから」


 そんなに好戦的な人なのか。

 昨夜に話をしたときは温和そうな印象だったけど。


 やがて朝食を終えた俺とナナちゃんは、すでに眠そうにしていたシャオナを連れて外へと出掛ける。目的はもちろんシャオナの仕事探しだ。


「どこへ行くんですかぁ?」

「あなたの仕事を探しに行くんですよ」


 隣でガシャガシャ歩くシャオナに言う。


「あ、そうでした。忘れてましたー」

「忘れないでくださいよ。あなたのことなんですから……」

「えへへー。ごめんなさいー」


 こんな調子で今後ひとりになって平気なのだろうか? とはいえずっと一緒にいてやるわけにもいかないし、ハシュバントさんに頼んでは迷惑がかかる。

 なんとかひとりでがんばってもらうしかないだろう。


「でも私って戦いくらいしかできないですよー?」

「本当に戦えるんかのう」


 疑いの言葉を呟くナナちゃんの声に俺は心の中で同意する。


 戦いしかできないと言うが、昨日に魔物と遭遇したときやチンピラに絡まれていたときのことを考えると、どうも戦いが得意という気がしない。とは言え、この格好でできる仕事など傭兵くらいしかないだろう。


「まあ……とりあえずワークスってところに行ってみましょうか」


 ハシュバントさんの話にでてきた傭兵に仕事を斡旋する施設だ。20年も前の話だが、ミルバーシュさんのように傭兵がいるならば、現在でもワークスは健在であろう。


「ワークスで傭兵の仕事をもらえば生活には困らないでしょう」

「は、はい。でも……」

「どうしました? あ、別に危険な仕事ばかりでは無いと思いますよ。今は戦争中でも無いですしね。心配でしたらなにか他に探してみますし」

「あ、いえ、そうではなくて、あの……やっぱり不安で。知らない場所でひとりになって生きていくって……。マオルドさんがずっと側にいてくれればいいのですけど」

「そういうわけにもいきませんよ。俺は村へ帰らなくちゃいけないですし」

「そうですよねぇ……」


 しょんぼりとシャオナは俯く。


 不安という気持ちがわからないでもない。知らない場所というより、頼れる人間のいない土地で暮らすというのが不安なのだろう。俺が旅をしていたときはティアが側にいたから平気だったが、知らない人間ばかりであったら不安で心細い思いをしていたかもしれない。


「マオルドさんの村へ一緒に行こうかな……」

「えっ?」

「あ、いえ……ごめんなさい。迷惑ですよね。私、面倒な事情を抱えてますし」

「あっと……その」

「迷惑じゃ」


 俺が答える前にナナちゃんがきっぱりと言い放つ。


「己の立場を考えよ。面倒な事情を抱えているという自覚があるのならば、にーにとナナに深く関わろうとするでない。外見をなんとかしてやったり、仕事を共に探してもらえるだけありがたいと感謝をするのじゃ」

「ナ、ナナちゃん、そんな冷たい言い方しなくても……。シャオナさんは被害に遭った不幸な人なんだから」

「やさしく言って期待を持たせるほうが残酷じゃ。それともシャオナを村へ連れ帰るつもりだったのかの?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」


 俺だけならともかく、村のみんなに迷惑がかかってはいけない。しかし辛い境遇のシャオナの願いを無下にダメとは言い難かった。


「ナナが代わりに言っただけじゃ。にーにでは厳しく言えんからの」

「う、うん……。すいませんシャオナさん」

「あ、いえっ。私が悪いんですから、マオルドさんが謝ることなんてなにも無いですよっ。ナナちゃんにはっきり言ってもらって、良かったと思いますし」

「あ、はい。でも……すいません」


 女の子ひとり救えない情けない男で申し訳ない。

 この謝罪にはそんな意味が込められていた。


 しかしナナちゃんには嫌なことを言わせちゃったな。

 本当は俺がちゃんと言わなきゃいけなかったのに……。


「はあ……俺ってほんとダメ……」

「――きゃーっ!」

「えっ?」


 どこからか女性の叫び声が聞こえた。


 悲鳴……?


「きゃーっ!」


 今度は違う女性の声で叫びが聞こえる。

 悲鳴にしてはどこか楽しげな声で。

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