第57話 それは大人がすることだから
――話を止め、ハシュバントさんは一呼吸置く。
夕食はだいぶ前に終わり、俺とナナちゃんは話を聞くことに集中していた。
「キリがいいので、今日はこの辺にしましょうか」
ハシュバントさんが微笑みながら言う。
隣を見ると、ナナちゃんが眠そうに俯いていた。
「ナナちゃん、もう寝る?」
「うん……」
半分だけ開いたは瞼は今にも閉じてしまいそうだ。
「続きは明日にしたほうがいいみたいっすね」
「そうですね」
野菜の納品をしたらすぐに帰るつもりだったが、明日はシャオナの仕事を探してやらなければならないため、いずれにしろまだ王都を離れるつもりはなかった。
「明日もこちらに宿泊させてもらってもいいですか?」
「もちろんっすよ」
「ありがとうございます」
俺の知らない親父の過去。そして顔も知らない母の話。
興味深い。ぜひ最後まで聞きたかった。
しかし話を聞いていてひとつだけ不可解なことがあった。それは酒を飲むと親父が記憶を失うというところだ。
親父はたまに酒を飲むが、記憶を失ったりはしたことがない。こういう癖が治るということはありえるのだろうか? 考えてもわからないことだが……。
「さ、寝室へ案内するっす」
イスから立ち上がったハシュバントさんと共に俺も席を立ち、ほとんど眠っているナナちゃんを抱き上げた。
……部屋へ案内された俺はナナちゃんをベッドへ寝かす。
「ハシュバントさんのお宅、なんかすごく大きくて広いですね。部屋もたくさんあって」
2人暮らしの家にしては家屋が大きく部屋が多い。
以前は複数の誰かと共に暮らしていたことがあるのだろうか。
「はは、ええまあ。昔はここが傭兵団ガーディアンの拠点だったんすよ」
「えっ? そうなんですか?」
「はい。ガーディアンの解散後は空いた拠点の管理を任されましてね。まあ管理と言ってもただ住んでるだけなんすけど」
そう言ってハシュバントさんは笑う。
「でもこれだけ部屋が多いのに2人暮らしじゃ寂しく感じそうですね」
「ええ。ミルバーシュは家にいないことも多いんで、実際はほとんど1人っすね。部屋を誰かに貸すことも考えたんすけど、年頃の娘がいるのにそれはちょっとどうかと思いまして……」
「ああ、確かにそうですね」
ミルバーシュさんは綺麗な人だし、父親として心配なのは当然だろう。
「じゃあ俺は食器を片付けて寝ますから、ごゆっくりおやすみくださいっす」
「あ、手伝いますよ」
「いいえ。お客さんを手伝わせるわけにはいかないっすから。大丈夫っす」
朗らかな笑顔で断り、ハシュバントさんは部屋を出て行く。
いろいろと親切にしてもらってなんだか申し訳ない。
帰るときにはちゃんとお礼を言おう。
「にーに……?」
「あ、ナナちゃん」
起き上がったナナちゃんが目を擦りながら俺を見ていた。
「どうしたの? トイレ?」
「んーん。にーにと一緒に寝るのじゃ」
「あ、うん。そうだね。俺も寝ようかな」
起きていてもすることは無い。
ベッドのシーツを捲って隣へと寝転ぶ。
と、横でナナちゃんはドレスを脱いでいた。
「や、やっぱり裸で寝るの?」
「うむ。服を着ているとよく眠れぬからの」
背中の紐を解いてドレスを頭から脱いで綺麗に畳む。
俺は目を逸らし、シーツに潜った。
そんな自分の行動を鑑み、やっぱり過剰に意識し過ぎではないかと思う。
ナナちゃんは女の子だがまだ子供だ。裸になったからと言って、そこまで気にすることもない……。
「にーに」
「えっ? うわ、たっ!?」
呼ばれてシーツから顔を出すと、全裸で俺の腹を跨いで立つナナちゃんの姿が目に飛び込んできた。
「ちょ、ちょっ! ナナちゃんっ!」
俺はふたたびシーツを被る。
男の子と大差の無いような身体ならば意識せずに済んだろう。しかしナナちゃんの胸は少しだが膨らんでおり、股はもちろん女の子だ。
まだ幼いのに身体が女の子過ぎる。その上、ナナちゃんは性格も大人っぽいところがあって、異性として意識しないのは難しい。
「も、もう寝るよナナちゃん。ロウソクの火、消すからね」
「待つのじゃ」
グッと掴まれたシーツがずり下げられる。
目に映ったのは脚を開いて屈むナナちゃんの……。
「ダ、ダメダメっ! はしたないよそんな格好っ!」
「構わん」
「いや構わんって……」
「ここに口付けてしゃべってほしいのじゃ」
と、ナナちゃんは自分の股を指差す。
「朝ににーにの肩に乗ったじゃろ。あのときお股がムズムズ気持ち良かったのじゃ」
ティアに投げ飛ばされたときのことか。
あのときはナナちゃんが俺の頭に前からしがみつく形になって、パンツを穿いてない股が口に当たってたんだけど……。
「あれはもうダメって言ったでしょ」
「なんでじゃ? ムズムズして気持ち良いのじゃ」
「ああいうのはその……エッチなことだから」
「エッチってなんじゃ?」
「ええと……エッチなことっていうのはね……その、なんて言ったらいいのかな。愛し合ってる大人同士がすること、かな」
「ナナの身体はまだ子供じゃが、中身は大人と変わらんぞ」
「いや、それでも子供には違いないでしょ」
「むーっ! つべこべ言わずにすればいいのじゃー!」
「えっ? ちょ、ま……待ってっ! ナナちゃんダメーっ!」
顔に迫るナナちゃんの股。俺はそれを避けることができなかった……。
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