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第53話 盗賊掃討への参加

 ワークス内にいる傭兵たちの注目が一層にカナリアへ集まる。

 だがヘイカーだけは聞こえていないかの如く、今だキーラキルへ夢中で話し掛け続けていた。


「キキちゃんのためなら俺なんでもしちゃうから」

「じゃあその腰に下げてる剣で自分の胸を刺して死ね」

「君が俺に愛を囁いてくれたらやっちゃうかも」

「死んでも嫌だ」


 なかなか通る声で話すヘイカーに対し、イラついているらしいキーラキルもはばからず声高に言葉を返す。

 カナリアの一声で静まっていた皆は、いつの間にかその2人に注目するようになり、場の主役は明らかに代わっていた。


「ちょっとそこの方たち」


 刺々しいカナリアの声が響く。

 言葉を向けられたのはもちろんヘイカーとキーラキルだ。


「なあキキちゃん、俺と結婚しよう。しあわせにするからさ」

「今すでに不幸なんだが」

「俺と結婚をすればそんな不幸は消えてなくなるさ」

「消えてなくなれよ……」


 もはやイラつきは通り過ぎたのか、うんざりした声音を吐くキーラキルだが、対照的にヘイカーは嬉しそうに声を弾ませていた。


「黙りなさい」


 さっきよりも大きな声をカナリアは上げる。


「黙れってよ」

「君への愛を語る口は誰にも閉じることはできないさ。そして君を愛する俺を止めることは誰にもできない」


 ヘイカーがキーラキルの手を掴む。


「君への愛を誓うよ」

「離せ」

「離さない。君が俺の愛に答えて……いだだだだっ!」


 掴む手を逆に掴まれ、捻り上げられたヘイカーが悲鳴を上げる。


「これが私の答えだ」


 端から見ても痛そうに捻り上げられているが、


「ふふ……」


 なぜかヘイカーは笑っていた。


「君から与えられるこの痛みに深い愛を感じるよ」

「どういう頭をしているんだお前は……」


 呆れ声のキーラキルは手を離すが、すかさずヘイカーは掴みなおす。


「このまま君を連れ去ってしまいたい」

「やれるものならやってみろ」

「君がそうしろと言うのなら……おっと」


 不意に、足元へ飛んできた矢をヘイカーは下がって避ける。

 矢を打ったのは、眉根をひそめたカナリアだ。


「黙れ、と私は言いましたが?」

「えっ? そうなの?」


 どうやら口説くのに夢中で聞こえていなかったようである。


「2度、言いました。みなさまに話があるので静かにしていただけますか?」


 口調は丁寧だが、明らかにカナリアは怒っている様子であった。


「ごめん。静かにするよ。ね、キキちゃん」

「……」


 キーラキルはなにも答えず、ただ顔を背けた。


 場はようやく静まり、皆がカナリアへ注目する形となる。


「では……」


 カナリアは小さく咳払いをして、それから口を開く。


「みなさんもご存じと思われますが、近ごろ国のあちらこちらで人々が盗賊に襲われる被害が頻発しております」


 それを聞いてハシュバントはすくみ上がる。

 存じているどころか、ほんの少し前までは自分がその盗賊であったのだから。


「国の兵たちは隣国との戦争に駆り出されて盗賊退治にまで手が回りません。そこで我ら傭兵団ジャスティスの手により国から盗賊を一掃しようと考えております」


 意志の強い公明正大といった調子でカナリアは語る。


 盗賊であったハシュバントだ。隣国との戦争が始まって以降、盗賊の仕事がやりやすくなっているのは知っている。しかし仕事がやりやすいと知れば盗賊になる人間も増え、獲物の奪い合いになって稼ぎ自体は減っていたように思う。


「なにぶん大仕事です。我ら傭兵団のみでは手が足りません。そこでみなさまに盗賊退治をご協力いただきたいのです」


 その発言に場がざわつく。


「協力ってもなぁ」

「やっぱもらえるものをもらわないと」


 そこかしこで傭兵たちが迷うような言葉を吐く中、ふたたびカナリアが口を開く。


「盗賊一掃にご協力いただいた方には報酬として1万ゴルお支払いいたします」

「い、1万ゴルっ!?」


 1万ゴルと言えばそれなりに贅沢しても1か月は食べるのに困らない金額だ。湖で指輪を見つけてもらえた報酬が1日分の食費くらいだったのを考えれば、この仕事はかなりの高額報酬だとわかる。


「国には数多くの盗賊が存在しています。協力していただく皆様には方々の盗賊らを退治してもらい、我々ジャスティスは国でもっとも大きな盗賊団デーモンアイの討伐へ向かいます」


 デーモンアイ。

 その名を聞いた傭兵たちがどよめく。


「デ、デーモンアイ……」


 盗賊であったハシュバントもその名は聞いたことがある。


 サタマイア王国最大の盗賊団デーモンアイ。所属している盗賊の数は数千にものぼると言われ、国の軍隊でも手を焼いているという盗賊団だ。

 女子供年寄りでも平気で殺戮し、盗れるものは子供の小遣いでも奪っていく。賊の寄せ集めかと思いきや、なかなかの手練れが多く、統率もされており戦力は相当なものらしい。


「なお、我々と共にデーモンアイの討伐に参加していただいた方には、5万ゴルの報酬をお支払いいたします」


 それを聞いてさらに場がどよめく。


「ご、5万ゴルだってよ」

「けどデーモンアイだぜ。国の正規軍だって手を焼いてる連中なんかを傭兵だけでどうにかできるもんかよ」

「命あっての金だもんなぁ」


 5万ゴルの報酬があると聞いても、デーモンアイ討伐の参加に名乗りを上げる者はいない。それほどにデーモンアイという盗賊団は恐れられているのだ。


「――よし、じゃあ俺はそのデーモンアイ討伐に行こうかな」

「えっ?」


 そしてこの場で一番に名乗りを上げたのはヘイカーであった。

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