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第40話 顔は隠したけど一部が目立つシャオナ

 がんばって胸当ての甲冑を身に着けようとしているようだが、端から見ていてあの胸が収まるような気がしない。


「はあ……はあ……」


 諦めたのか、シャオナは胸当てを床へ置いて荒く呼吸を繰り返す。

 まるで激しい運動をしたあとのようである。


「無理そうですか?」

「いえ……あの、ちょっと休んだらもう一度、がんばってみますので」


 しかし仮に着ることできたとしても、つけ外しのたびにこれでは大変だろうし、第一、着ていて苦しいだろう。


「前の甲冑は難なく着れたんですか?」

「あれは兵士さんたちに押さえつけられて、力任せに無理やり着せられたんです。着ているあいだは苦しくて死にそうでしたよ」


 確かに王女の甲冑と、今現在、着ようとしている甲冑の胸部分にサイズの違いは見られない。


「もっと大きいのがないか探して来ますよ」

「すいません……。お願いします」


 ……そして探しに行くも、シャオナの胸に合うサイズの胸当ては見つからない。

 しかたなく俺は手ぶらで戻る。


「ちょっと無さそうですね。店主に聞いてみたんですけど、それくらい大きなものだとオーダーメイドになって時間がかかるそうです」

「そうですか……」


 シャオナはしゅんとうな垂れる。


「やっぱりこれを無理に着るしかないということですね」


 疲れ切った表情でシャオナは胸当てを拾い上げた。


「いや、その必要は無いじゃろ」

「うん? どういうこと? ナナちゃん」」

「ちょっと耳を貸すのじゃ」


 近づくよう手振りしたナナちゃんに従い、俺とシャオナは屈んで耳を傾ける。


「王女の着ていた甲冑がシャオナに小さかったということは、王女の胸がシャオナよりも小さかったということじゃ。そうじゃな?」

「あ、うん。そうです」

「つまり世間の認識として、王女の胸が大きいという考えは無い。胸当てを付けずにその大きな胸を晒して置けば、暗殺者に王女と思われる可能性も低くなるじゃろ」

「なるほど」


 その発想はなかった。

 胸が布だけになることで防御は心許なくなるが、暗殺者の目から逃れるには良い方法だと思う。


「良いですね。胸も苦しくないですし」


 シャオナは嬉しそうに言う。


 しかし頭から足までが甲冑で覆われているのに、胸だけが布地で露出しているというのは不格好だ。というか強調されてしまって……なんというか性的である。


 ……とはいえ、麻袋を被っている状態とくらべれば圧倒的にマシだ。


「じゃあこれでいいですね。代金を払うんですけど……」


 シャオナはニコニコ笑顔で小首を傾げる。


「お金あります?」

「あ、無いです。村を出るとき自分の物はなにも持ってこれなかったので……」

「……わかりました」


 自分の財布から代金を払って店を出る。

 村を出発したときには想像もしなかった出費だ。


「あー視界は狭いですけど、前は見えます。見えるって素晴らしいですね」


 喜びの声が鉄仮面の奥から聞こえる。


 全身を鋼鉄の鎧で覆っているのに、胸部だけは布地で大きく飛び出す。その姿は、何度見ても異様であった。


「重くて動きづらいとかないですか?」

「だいじょーぶです。私、細く見えても力持ちなんでー」


 確かに細い。胸以外は。


「こんなにしてもらって……本当にありがとうございますっ。マオルドさんっ」

「おわっと」


 硬い甲冑に覆われたシャオナの両腕が俺の身体へと抱きつく。


 ……硬い。

 なのに柔らかいという感想が的確な抱擁だった。


「あ……っと、シャオナさ……いたぁ!?」


 不意につま先が痛む。

 見下ろすと、ナナちゃんがかかとで俺の足を踏んでいた。


「ナ、ナナちゃん……」


 相変わらず表情は無いが、どうやらナナちゃんは怒っているようである。そうでなければ足を踏んだりしないだろう。


「今さら言うことでもないがの。荷物をそのまま荷車に置いてきてよかったのかの? 人が多い場所じゃ。盗まれてるかもしれんぞ」

「あっ!」


 うっかりしていた。

 ここは人の多い場所だ。荷物を放置などすれば、盗まれてもおかしくはない。

 パーティにいたころは荷物の番ばかりさせられていた俺がこんなミスをするとは。荷物番のプロとして恥ずかしい。……いや、恥ずかしいのは荷物の番ばかりさせられていたみっともない俺の立場か。

 そんなことより早く戻らなければ。


「うん?」


 荷台の側に人が何人か倒れている。

 よく見るとそれはさっきのチンピラどもだった。


「なにしてるんだこんなところで?」


 殴られたのか、誰もが顔をボコボコに腫らして気絶している。


 俺もさっき殴ったが、ここまでやっていない。

 他のチンピラ集団とでもここで喧嘩したんだろうか。


「うっ……」

「お」


 リーダーっぽい奴が薄っすらと目を開く。


「……あ、さっきのハゲ……」

「誰がハゲだっ!」

「はがっ!」


 振り下ろした拳を顔面に叩きつける。


「あ、しまった」


 ハゲと言われた怒りの勢いで殴ってしまった。……まあいいか。


 荷台を探って荷物を調べるが、なにも盗られてはいないようでホッとする。


「荷物は平気だったかの?」

「あ、うん。大丈夫みたい」


 ナナちゃんを馬の背に乗せ、そのうしろへ跨る。荷台へシャオナが乗ったのを確認してから、馬を出発させた。


「これからどこへ行くんですか?」

「シャオナさんの仕事を探しにといきたいところですが、先に用事を済ませます」


 ジャガイモを商店に納品してしまおう。

 これさえ無くなれば、あとは手荷物として所持できる。どこかに寄るたびに荷物の心配をする必要が無くなるので安心だ。


 野菜を売る商店へ向けて馬を進ませる。


 俺が野菜の納品に行くのは初めてだ。

 親父に恥をかかせないよう、しっかりと代わりを務められるか少し不安だった。

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