第39話 防具を買いに行く
手を引いてシャオナを荷台へ乗せる。
それからナナちゃんの待つ馬の背に跨り、出発をした。
「シャオナに抱きつかれてずいぶんと嬉しそうじゃったな」
ちょっと刺々しい声音でナナちゃんは言う。
「そ、そんなことはないよ」
「ナナに嘘を吐かんでもいい。大きい胸に押されて嬉しかったんじゃろ?」
「う……まあ……」
嬉しいかそうでないかと問われれば、前者と答えるのが正しい。
男であればそれはしかたのないこと……だと思う。
「にーには女の大きな胸が好きなんじゃな」
「そ、それは……その」
「ナナの胸はきっと大きくなるのじゃ」
ナナちゃんは両の手を自分の胸へ当ててそう呟いた。
やっぱり女の子は自分の胸を大きくしたいものなのかな?
けどシャオナくらいサイズがあると、日常生活に支障をきたしそうだ。
「それはそうと怪我は無いかの?」
「うん? ああ、怪我はしていないみたいだったけど」
「にーにがじゃ」
前に乗っているナナちゃんは身体を反らして俺を見上げる。
「あ、うん。俺は大丈夫だよ。相手はただのチンピラみたいだったし」
「ならばよい」
安心したのか、ナナちゃんは反らした身体を元に戻して前を向く。
そして小さな手がそっと俺の手に触れた。
「あの女が生きようが死のうがわしはどうだっていい。助けるよう薦めたのはにーにの心に後悔を残したくなかったからじゃ。もしもあの女のせいでナナのにーにが大怪我をするようならば、今からでも遅くはない。あの女とは出会わなかったことにして見捨てるという選択肢も考慮すべきじゃ」
「う、うん……」
ナナちゃんは俺のことを心配してくれている。こんな小さな子に心と身体をここまで気遣われるとはちょっと情けない。
しかし俺は自分のことよりもナナちゃんの安全が一番大切だと思っている。この子に危険が及ぶようならば、シャオナを見捨てるという選択肢を取らざる負えない。その覚悟はしている。かわいそうだが、それはしかたない。
ティアがいればな……。
あいつがいれば魔物の大群が相手でも危険は無い。女を助けるだなんて絶対に嫌がるだろうけど。
「あークソ……」
女の子に頼るなんて本当に情けない。
俺は男だ。女の子を心配させず、頼ってもらえるようにならなきゃダメなのに。
「にーに?」
「あ、いや……なんでもないよ。大丈夫」
こちらを振り向いたナナちゃんに俺は笑顔で答える。
しっかりしないとな。
ティアがいない今、ナナちゃんを守れるのは俺だけだ。魔人の能力に期待し過ぎず、しっかりと状況を見極めて行動しなければいけない。
「あのーこれからどこへ行くんですか?」
背後からシャオナの問いが聞こえた。
「防具を売ってる店ですよ」
「防具、ですか?」
「はい。いつまでも麻袋を被ってるわけにはいかないでしょう。目立ちますしね」
麻袋を被った女を荷台に乗せているのはかなり目立つ。
その証拠に行き交う人間のほとんどがこちらを見ていた。
「やっぱり目立ちますか?」
「目立ちますね。すごく」
注目されて恥ずかしい。
早くなんとかしなければと、先を急いだ。
……
防具を売っている店へとやってくる。
中へ入ってシャオナを試着室へ押し込んだ俺は、飾ってある防具のひとつを持って戻った。
「これを被ってください」
「あ、はい」
渡した防具を手に取ったシャオナが麻袋を脱いでそれを被る。
「おお、これなら顔がわからんな」
となりでナナちゃんがうんと頷く。
首から上を後頭部と口元以外すっぽりと覆ってしまう鉄仮面だ。
違和感なく顔を隠すにはこれがおあつらえ向きだろう。
「あ、これいいですね。重いですけど、うしろの髪の毛も崩れないですし、口の部分が開いているので食事にも困らないですし」
頭のうしろに束ねた金色の髪がぴょんと跳ねた。
「しかし仮面だけでは不格好じゃな」
「そうだね」
麻袋よりはマシだが、これはこれで目立つ。
「全身を甲冑で覆うしかないか」
それしかないだろう。
だが元々、着ていた甲冑は一部が砕けてしまったし、王女の着ていたものでは不都合がある。
首から下に着る甲冑を一式、手に抱えて戻った俺はそれを試着室の床へ置く。
「なんか重そうですね」
「着れますか」
「がんばりますっ」
シャオナは床に置いた甲冑を拾い上げて身に着けていく。
まずは腕。肩から肘、関節を避けて指先までを覆う。
次に腰回り。これはパンツのように履くもの。
次に脚。これは腕と同じく膝の関節を避けて、股下から足首まで覆うものだ。
上半身の甲冑は2つに分かれている。
胴回りを守るものと、胸を守るものだ。
胴を守る部分は難なく着ることができたようなのだが……。
「うーんっ! うーんっ!」
胸の甲冑がどうしても着れないみたいだ。
その理由は言うまでもなく、シャオナのでか過ぎる胸である。
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