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第38話 シャオナ、町のチンピラに絡まれる

 どこへ言ったんだろう?


 すでに行き交う人々の中へ紛れてしまったらしく、シャオナの姿は見えない。


 あんな姿だ。そう遠くへは行けないと思うけど。


「人がいっぱいじゃ」

「ナナちゃんは王都へ来たのは初めてなの?」

「父上の元を離れて母上と旅をしていたときはいくつかの町や村へは行ったの。城のある王都という場所は初めてじゃ」

「そっか」


 うちへ来る前は親子2人で旅をしていたのか。

 いや、それもそうだ。魔界から出てきて、そのままうちへ来たわけはないのだから。


 しかしファニーさんとナナちゃんの2人だけの旅で危険はなかったのだろうか?


 そんな疑問を持ちつつ、俺は首を巡らしてシャオナの姿を探し続けた。


「あ、あそこにいたのじゃ」

「えっ? どこ?」

「あそこじゃ」


 ナナちゃんの指差す方向へ目を向ける。

 そこに見えたのは、麻袋を被ったシャオナと、それを囲む数人の男たちの姿だった。


「なにしてるんだろう?」

「絡まれてるんじゃろ。あんな姿をしていれば当然じゃ。それに絡んでいる男らを見よ。いかにもガラが悪そうじゃろ」

「まあ……」


 人を外見で判断するのはいけない。

 そう教えたいところだが、あれは絡まれているのだろう。


 それ以外の状況は考えつかなかった。


「なんだこの女? なんで麻袋なんか被って歩いてるんだ?」

「どこかから逃げて来た奴隷じゃないか?」

「奴隷じゃないですー」


 手探りで先を行こうとするシャオナの歩みを男たちが阻む。


「て言うか誰ですかあなたたちは? 通してくださいー」

「この女、すげー胸だな」

「ああ、これで顔も良ければかなり高級な奴隷だぜ」

「へっへっへ、ねーちゃん顔を見せろよ。美人なら俺たちが遊んでやるぜ」

「結構ですっ。通してくださいっ」


 無理に通ろうとするシャオナは腕を掴まれて拘束される。


 あのままでは男たちになにをされるかわからない。


 そう思った俺はそこへ近づき、馬の背にナナちゃんを残して降り立つ。

 5人いる男らは一斉にこちらを向いて睨んできた。


「なにか用か?」


 リーダーっぽい、身体の大きい男が言う。


「あーえっと……その人、知り合いなんです。迷惑かけたようですいません」

「お前の奴隷か?」

「いえ……あの、その人は奴隷じゃないんですけど」

「お前の奴隷じゃないなら関係ないだろ。向こうへ行け」


 奴隷じゃないと言っているのだが……。


 どうもシャオナを奴隷と決めつけているようであった。


「あの、その人は奴隷じゃなくて友達なんですよ」

「お前の友達は頭に麻袋を被って散歩するのかよ」


 その一言に男たちがドッと笑い出す。

 それに関しては俺も苦笑いするしかなかった。


「いいから向こう行けよ。あんまりしつこいと痛い目に遭わせるぞ」

「痛い目には遭いたくないですけど、はいわかりましたと立ち去るわけにもいかないんですよ。とにかくその人を離してもらえませんか?」

「うるせえな!」


 怒声と共に拳が飛んでくる。

 俺はその拳を左に避けつつ掴み、男の背後へと素早く回った。


「いたたたたっ!」


 肩を掴んで男の腕を捻り上げる。

 その瞬間、男は声を上げて呻いた。


「て、てめえっ!」


 4人の男たちが一斉に襲い掛かってくる。

 拘束している男を突き飛ばして解放し、それから俺は自分の拳を固めた。


 ……


 ……地面に倒れ、呻いてもがく男たちを俺は見下ろす。


 これでも魔王を倒すために旅をしていた身だ。強くはないが、そこらのチンピラに喧嘩で負けるほど弱くもない。


「く、くそ……」


 リーダーっぽい男が腹を抱えつつ起き上がる。


「まだやりますか?」

「くっ……おいお前らっ! いつまで寝てんだ! 行くぞ!」


 仲間を起こし、立ち上がった男たちは背を向けて去って行く。

 ……だいぶ離れたとき、男のひとりがこちらを振り返る。


 なんだろう?


「このハーゲっ!」


 男は大声でそう叫ぶ。


「誰がハゲだっ!」


 追おうとすると、男たちはダッシュで逃げ出す。


「額が広いだけだ! まだハゲじゃない! まだとはなんだこの野郎!」


 男たちのいなくなった道の先を見つめつつ、俺は肩を落とす。


 くそう……親父は額が広くもないのになぁ。

 母親がハゲ……いや、毛量が薄かったのかな……。


 しかしどこの誰とも知らない他人にまで、髪が薄いことを馬鹿にされるとは……。かなりショックだ。


「あ、あの……その声はもしかしてマオルドさんですか?」


 背中を弄られ、俺はうしろを向く。

 そこにいたのは俺の背を掴む、麻袋を被ったシャオナであった。


「あ、はい。そうです。平気でしたか?」

「は、はいっ。助けてくれてありがとうございますっ。でもどうして……」

「やっぱり放っておくわけにもいかないので、住むところと仕事を探すくらいは手伝ってあげようかと思いまして」


 向き直ってシャオナの手を取る。


 か弱い手だ。


 やっぱり放っておくわけにはいかないと改めて思う。


「ほ、ほんとですかっ! ありがとうございますっ!」


 喜びの声を上げてシャオナが抱きついてくる。

 大きくて柔らかい胸に身体を押され、ちょっと緊張した。


 麻袋の中でシャオナはどんな顔をしているのだろう?

 たぶん笑顔かな。麻袋で隠れてわからない。まずはこれをなんとかするか。


 顔を隠す。かつ、前が見えるようにする。

 その方法に俺はひとつ思い当たった。

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