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第31話 王女様?

 しかしまだ寝惚けているのか、正面を見つめる目は虚ろだ。

 やがて首が横へと回り、視線が俺たちを捉える。


「……誰?」

「あ、えっと……俺は……」


 名前を言おうとした。そのとき、


「あぶなーいっ!」

「は?」


 あいだにティアが割り込み、女性の胸をひっぱたく。

 衝撃で女性は横へ倒れた。


「痛いっ! な、なにをするんですかっ!」

「凶悪な乳がマオ兄さんを誘惑する! 早くここを離れなければっ!」

「む、でかい胸にはそんな危険な効果があるのかの。にーによ、その女近づいてはあぶないのじゃ」


 そう言ってナナちゃんは俺の腹に抱きつく。


「そんなわけないでしょ……」


 ナナちゃんまでまったく……。

 まあ確かに大きな胸は好きだし、大袈裟ではあるけど間違いではないか。


「すいません。あの……怪我は大丈夫ですか?」

「怪我?」


 起き上がって座りつつ、女の人は胸を見下ろす。


「いえそっちではなく、わき腹のほうです」

「わき腹……あ」


 すでに血は止まっているようで、布に滲んでいる赤色は薄かった。


「手当てを……これはあなたが……」

「ちがーうっ!」


 会話を絶つティアの大声が周囲に響く。


「その手当ては平原の妖精さんがしたものだ! 断じてマオ兄さんがしたものではない! 勘違いするな乳牛めがっ!」

「ち、乳牛っ?」

「いや平原の妖精さんて……」


 しかし意外にかわいい表現ではある。


「嘘つくならもっとそれっぽい嘘つけよ。自分がしたとかさ」

「そしたら私に好意を持つかもしんないじゃん。いやだそんなのキモい。あ、そこのガキ女が手当てしたんだよ」

「手当てをしたのはにーにじゃ。ナナではない」

「ちっ! この正直者がっ!」

「ナナちゃんを嘘に巻き込むなよ」


 しょうがない奴だ。


「あの……それで、手当てをしてくれたのはあなたなんですか?」

「あ、はい、そうです」


 別におっぱいでお礼がしてほしいわけではない。

 正直に言っただけである。


 しかし心のどこかに期待した自分がいるような気がして恥ずかしかった。


「そうですか……」

「あ、自己紹介が遅れましたね。俺はマオルドって言います。こっちはティア。この子は……」

「ナウルナーラじゃ。皆はナナと呼ぶ。よろしくの」


 立ったナナちゃんはドレスを両手で摘まんであいさつし、それから俺の脚のあいだに座った。


「えと……あなたは?」


 俺は名を聞く。


「てかてめー礼ぐらい言えよー。手当てしてもらってさー」

「いやまあ、それはいいからさ」

「よくないよ。おい女、てめー乳だけじゃなくて態度もでかいんか? おお?」


 ティアは女の人に剣を向けて威圧する。


「ひ、ひぇ……」

「やめろティア。俺は気にしてないから」

「しかしにーによ。礼儀があるから人じゃ。世話になって礼も言えんでは犬畜生と変わらぬ獣じゃ。こやつがただの乳牛でないなら礼を言うべきとわしは思うぞ」

「そ、そんな大袈裟なもんかな……」


 というかナナちゃんまで乳牛って……。

 ティアの口の悪さがうつったかな。


「わ、私は……その」


 怯えた表情を見せながら女の人は声を発する。


「あん? 聞こえねーぞ」

「あの……私は……はっ!」


 突如、女の人は目を剥いてその場に立つ。


「わ、私の名前はイルーラ! ここサタマイア王国の王女で……なのだー!」

「は?」


 急になにを言い出すんだ?」


「怪我の手当て、大義であった! 褒めてつかわ……あがんっ!」


 ティアの拳が女の人の頭に拳骨を食らわす。


「それは礼じゃない」

「な、なにをするんで……のだ! 私は王女だぞ!」

「知るか」


 こんな反応をされるとは予想していなかったのか、女の人は口をあんぐりと開けて放心している様子だった。


「……な、なるほど。信じていないのだ。無理もない。しかしよく見よこの顔を。間違いなく王女であろう」

「王女の顔なんか知らん。というか興味無い」

「ふぇ? じゃ、じゃあそこの男は!」

「すいません。王女様の顔は見たことありません……」


 確かこの国には王女が2人いると聞いたことはある。

 王子はおらず。いずれどちらかが婿を取って女王になるとかなんとか。田舎住みの庶民である俺には関係ないのであまり知らないが。


「のうのうにーに。オウジョとはなんじゃ? 便所の仲間かの?」

「いや、そんなわけないでしょ……」


 というかナナちゃんも王女みたいなものだったのでは?

 そういう扱いはされなかったのかな。


「王女の顔を知らないなんて……ふ、不敬で罰されるのだ!」


 王女……。

 まあ確かに、高貴な顔立ちはしている。しかしなんだかしゃべりかたは変だし、こんなところに王女がいるのは違和感だ。しかもなぜ武装を? 王女ってのは城にずっといるもんだろう。たぶん。


「あーん? なにが王女だ。くだらねぇこと言ってっと、裸でそこら辺の木に縛りつけて盗賊どもの公衆便所にしちまうぞ」

「ひえ……」

「やっぱり便所の仲間かの?」

「違うから……」


 しかしなぜ急に自分を王女だなんて言い出したんだろう?

 もしかして本当に王女? それともなにか王女を騙る事情が……?

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