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第30話 女を殺せとティアは言う

 ……やがて日が昇り、朝となる。

 うつらうつらと首を振りながらも、俺はなんとか朝まで起きていることができた。


「……ん、ううん……にーに?」


 むくりと身体を起こしたナナちゃんが目を擦りながら俺を見つめる。


「ああ、おはよう。ナナちゃん。眠れた?」


 草の上とはいえ、下は固い地面だ。

 家のベッドほど良くは眠れなかっただろう。


「うむ。まあまあの」

「そう。ふぁーあ……」

「ずっと起きてたのかの?」

「まあね」


 這って来たナナちゃんを抱き上げ、股のあいだに座らせる。


「誰じゃ? この女は?」

「うん。怪我している人だよ。昨日の夜、ここへふらふら歩いてきてね」

「ほう」


 ナナちゃんは眠っている女の人へ手を伸ばす。


「すごく大きな胸じゃ」


 そして小さな手で胸をペシペシ叩く。


「ダメだよ。そんなことしちゃ」


 抱き寄せてナナちゃんの身体を女の人から離した。


 まあそこに興味を持ちたくなる気持ちはわからなくはない。


「手当てをしてやったのかの?」

「うん。放っておくわけにもいかないからね」

「放っておいたほうがよかったかもしれんぞ」

「そうかな。やっぱり」


 どんな事情を抱えているか知れないのだ。

 昨夜はとりあえず危険などなかったが、今後はわからない。手当てはしたんだし、このまま放って行くほうがいいだろうか。


「うむ。厄介ごとに巻き込まれる可能性もあるしの」

「まあ、そうなんだけど……やっぱり怪我人をそのままにしておくわけにもね」


 ティアが起きたらどうするか相談しよう。

 3人旅だ。俺の独断で面倒事に巻き込むわけにはいかない。


「この女は胸が大きいから助けたのかの?」

「俺はそんなスケベじゃないよ……」


 たぶん。


「スケベという言葉は知らんが、にーには女の胸が好きじゃからの」

「男はみんなそうだよ」

「そうなのかの?」


 そうなのかな? きっとそうだろう。

 ……というか、俺はこんな小さい子になにを言ってるんだ。眠気で冷静さを失っているのかな。


「やっぱり胸は大きいほうがいいのかのう」

「そうだね……」


 ナナちゃんの身体……暖かくて柔らかいな。

 こうして背中から抱いてみると心地よくて眠さが増してくる。


「ナナのはまだちょっとしか膨らんでいないのじゃ」

「うん……」

「でもこんなにおっきくなったら重くて大変そうじゃのう。でもにーにが喜んでくれるなら……」


 ナナちゃんがなにか言っているけど、眠くて聞くことに集中できない。

 寝そう……。いや、寝てはダメだ。ティアが起きて、それからこの人をどうするか相談しなくちゃいけないんだから。


「にーに眠いのかの?」


 首をうしろに倒し、ナナちゃんは俺を見上げて言う。


「眠い……」

「ナナの胸で寝たいかの?」

「大きい胸のほうが柔らかくてよく眠れそう……」

「……」


 ナナちゃんが俺の手から離れて立ち上がる。そして……


「いたぁっ!」


 頬をひっぱたかれた。


「ならば寝かさん」


 反対の頬もひっぱたかれる。

 左右の頬を交互に何度もひっぱたかれ、眠気はどこかへと飛んで行った。


「目は覚めたけど……痛い」


 両頬がヒリヒリと痛む。

 子供の力とはいえ、平手打ちは効く。


「ナナの胸以外で眠ることは許さんのじゃ」

「なにそれ……?」


 なんの話だ?

 眠気でぼーっとした頭でなにか言ったようだけど、覚えていない。


 しかしナナちゃんは不機嫌なようで、俺から離れて焚火の前へ行ってしまった。


 ……しばらくしてティアが起きる。

 事の経緯を話すと、ティアは座ったまま剣を持ち上げ、


「この女は殺そう」


 自然に、そして真顔で言った。


「こ、殺すことないだろうっ」

「いや、殺したほうがいい。絶対に」

「どうして?」


 もしかし野生の勘……じゃなくて女の勘……でもなくて、戦い慣れた剣士の勘かなにかでこの女性が危険だと察知したのか? だとすれば一体どんな危険が……。


「この女はマオ兄さんに手当てを受けて命が助かった」

「う、うん」

「つまりマオ兄さんはこの女を助けた命の恩人になる」

「そう……なるかな」


 だとどうなるのだ?

 予想ができない。


「命の恩人には惚れる」

「は?」

「この……このいやらしい凶悪な胸を使って、この女はマオ兄さんをたぶらかしにかかるはずっ! 絶対にっ!」

「アホか」


 なにを言ってるんだこいつは。


「仮にそうなったとして、それがなんなんだよ?」


 嬉しい? いや、それは俺の感想か。


「この鈍感!」

「ぐはっ!」


 顔面を殴られた。


「このぉ鈍感がーっ! もう一発いくかーっ?」

「ま、待て待てよく考えろ。こんな美人が俺なんかに惚れるものかよ」


 人間はそんな単純じゃない。命を助けられれば感謝はするだろうが、だからと言って惚れるにまで至ると考えるのは安易だ。


「だ、だって……」

「だってもなにもあるか。俺みたいに足が短くて少し天パで胸毛が生えててデコが広くて将来たぶんハゲ……誰がハゲだ畜生。いや、そうじゃなくて、つまり俺が言いたいのは、お前が俺を買い被っているということだ。うん」

「そんなことないよ。マオ兄さんはキュートだし」

「キュキュキュ、キュートっ!?」


 そんなことを言われたのは初めてだ。

 というかティアは俺のことをそういう風に思っていたのか。


「キュートなマオ兄さんをこの女はきっと胸で誘惑してくるよ。このでかいやつで挟んでこねてさ。ま、まあ私だってがんばれば挟んだりできるけど」

「はさ、挟むって、お前なぁ……」


 なんの話だ。

 いや、わからなくはないが……。


「なんじゃ? 挟むって?」


 いつの間にか俺の隣にいたナナちゃんが興味深そうに聞いてくる。


「女の胸でにーにのなにを挟むのじゃ?」

「そらナニよ。まあガキ女のお前には無理だろうけど」

「子供に変なこと言うなよ」

「なんじゃ変なことって? 挟むってなにをなんじゃ?」

「ナナちゃんは知らなくてもいいから……」

「ナナだけ知らないなんて嫌じゃ。教えるのじゃー」

「挟むってのはー……」

「ああもうっ、子供に変なこと教えるのはよせよっ」

「教えるのじゃーっ!」


 知りたがるナナちゃんを言い聞かせようと努め、余計なことを教えようとするティアを止めようとするも収拾がつかない。

 次第に3人とも声が大きくなり、騒がしくなってきた。


「だから挟むってのはマオ兄さんのー……」

「黙れって!」

「教えるのじゃーっ!」

「――うるさい!」

「えっ?」


 自分ら以外の声が割り込み、驚いた俺は声のした方角を向く。他の2人も同様に、俺と同じ方を見ていた。


「あ……」


 さっきまで寝ていた女の人が上体だけ起こしている姿がそこにあった。

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