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第29話 謎の女は巨乳

 かなり若い。たぶん俺やティアと同じくらいだろう。金色の長い髪をうしろに束ねて垂らしたその女は、すでに表情がわかるほど近づいてきていた。


 すごく疲れた顔だ。息もすごく荒い。今にも倒れそうだった。


 右手には剣を持っている。血に濡れた剣を。


 ティアを起こそう。


 そう思ったとき、女がふらりと前のめりになる。

 咄嗟に俺は前へと駆け、女を抱きとめてしまった。


「あ、あの……」

「う、うう……」


 苦しそうな声だ。

 どこか怪我をしているのかもしれない。


「大丈夫ですか?」

「う……はあ」


 女性は気を失ったのか、荒い呼吸を繰り返すばかりで言葉に反応をしない。


「大丈夫かな」


 そう心配しつつも、俺は不安を感じていた。


 こうして助ける形になってしまったが、これは面倒事かもしれない。

 ティアとナナちゃんも一緒なのだ。俺ひとりの判断でこの人に関わり過ぎるのはきっとよくないことだと思う。……とはいえ、こんな状態の人を放っておくわけにもいくまい。


 ともかく地面へと寝かせ、怪我の箇所を確認する。


「えらい美人だなぁ。厳しそうな目はしてるけど」


 明るいところで見て初めて気付く。

 すごく綺麗な顔をしている。なんというか、品のある美しさだ。たぶんいいところのお嬢さんなのだろう。そんな人がなぜ武装してこんなところをうろついているのかは知らないが。


「右わき腹部分の鎧が砕けて……斬られている」


 こんな頑丈そうな鎧を砕いて、腹部を切り裂くなんてたいした手練れだ。この人が先ほどに聞こえた争いの当事者だとしたら、相手は単なる盗賊ではないかもしれない。


「傷薬はあるけど、それで大丈夫かな? 傷はそんなに深く見えないけど」


 小瓶に入った薬草のしぼり汁と傷口を縛る布を荷台から持ってくる。


「まずは鎧を脱がせないと」


 銀色の鎧をはずしていく。

 脱げた鎧を傍らへ置き、改めて女性の身体を見たとき、俺は少し驚いた。


「うわ……でか」


 胸がすごく大きいのだ。

 押さえつけられていたのか、鎧を着ていたときにはわからなかった。纏っているのが服だけになってみて、初めてその大きさに気付けたのだ。


「女の子の胸ってここまで大きくなるんだなぁ……」


 背はティアより低いのに胸は倍くらいはあるような気がする。

 ナナちゃんは……まだ子供だから胸はくらべられないか。


「って、そんなことを考えている場合じゃないな。早く手当てをしないと」


 傷はそんなに深くない。しかし出血の量が多く、血が流れ続けている。この程度の傷ならばそろそろ血が止まってきてもいいころだと思うのだが。


「毒か」


 たぶん出血毒だろう。魔物が持っている毒で、暗殺者や盗賊が武器に塗って使うことのある毒だ。

 珍しい毒ではない。手持ちの毒消し薬でなんとかなる。


「運の良い人だ」


 荷台から毒消し薬を持ってきて、傷口へと塗り込む。


「う……っ」

「染みますけど我慢してください」


 珍しくはないが、薬を使わなければ血が流れ続けて死に至る危険な毒だ。ここに来なければたぶんこの人は死んでいただろう。


 毒消し薬が効いたのか、出血が減ってきたような気がする。


「あとはこの傷薬を塗って……」


 傷口のある箇所に布を当て、腹全体を長い布でぐるりと覆って縛り、手当ては完了だ。


「これで大丈夫かな? ダメでもこれ以上のことはできないけど」


 ファニーさんがいればあっという間に治してもらえるんだけど、今から村に戻っては間に合わないだろう。


 手当てのかいあってか、女性の呼吸はだいぶ落ち着いてきた。今はぐっすりと眠っているが、いずれ目覚めるだろう。


「俺も眠いな」


 ティアに見張りを代わってもらうか。

 しかし見張りに加えて、この人の容体を気にしてもいなければいけない。


 俺の独断で助けて、面倒をティアに任せるのも悪いか。


「それにこいつ女嫌いだからなぁ」


 嫌がるかも。

 かと言って子供のナナちゃんに任せるわけにもいくまい。


「がんばって俺が起きてるしかないか」


 でももし、この人を探して盗賊とか来たらまずいな。

 関係ないんだし、この人はここに置いておき、2人を起こして別の場所へ移動するのが安全なのだろう。しかし人間とはそこまで冷徹になれない難儀な生き物だ。ロクナーゼの言っていた人間の弱さとはこういう部分だろうか? 確かにドラゴドーラのような魔人だったら、見ず知らずの他人などあっさり見捨てるかもしれない。


「まあ俺は半魔人だけど」


 盗賊が来たらティアを起こすか。


「……情けないな」


 俺は男なのに、女の子に守ってもらうなんて。

 ティアより強い男なんてそうそういないことを考慮しても、やっぱり女の子に戦いを任せっきりなのはひどくみっともないと思う。


「盗賊くらいなら俺だって……」


 あれだけ強かったドラゴドーラを俺は倒したんだ。

 弱いはずがない。俺だって強いんだ。能力に頼らなくたって強いはず。きっと……。


 焚火に小枝を投げ入れつつ、俺はそんなことを考えていた。

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