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朝食後は自室を片付けて外に出る。
片付けている間にサルーンは学園に登校し、母とアネットは自宅の庭いじりをしていた。外出する際、ついて来ようとしたアネットをどうにか言いくるめ一人で散策する。
辺りを見渡しながら記憶の修正していく。家族や関わりが深い相手は覚えているのに他人の事がどうも曖昧だ。いくら俺が他人と接しなかったとしても魂は『俺』だ。少しの油断が命取りになる魔族は見聞きした事は大抵覚えておく。
転生魔法が上手く発動しなかったのか、それともこの体が平和ボケしてどうでもいいと思ったのか。困ったものだ。
「おい、サミュエル!」
陽が傾く頃まで探索して帰ろうとしていた最中、突然後ろから声をかけられる。振り向くと三人組の子供がこっちを見ていた。
左から兄のヴァン、次男マッハ、末のモガン。俺の家の数件隣に住む子供。小さい頃から一緒で所謂幼馴染みという奴だ。
「お前一人かよ」
「大好きな兄ちゃんはどうしたんでちゅか〜?」
「か〜?」
イラっとするな。コイツらは俺に嫌がらせするのが楽しいらしい所詮いじめっ子という奴だ。
そりゃ兄のヴァンと俺は同い年なのに方や兄弟の良き兄貴分、方や兄の後ろに隠れている。舐められるのは当然だな。
反応しない俺に苛立ったのかヴァンが怒り気味に俺に近寄ってくる。
「おい!サミュエルのくせに無視すんな!」
ガッと俺の襟を掴み上げる。
俺だったら泣き出したくなるくらい怖い思いをするんだろう。だが今は『俺』だ。
「手を離せ」
「あぁ?」
「手を、離せと言った」
襟を掴むヴァンの腕を掴む。
お前は魔王レヴィアンに喧嘩を売った。
ギリギリと力を込めていく。
「離せだ?何言っ…っいたたた⁉︎」
「早く離さないと手を折るぞ?」
慌てて手を離したのでこちらも手を離す。赤くなった腕を涙目になりながら庇う。ヴァンの兄弟が心配そうに駆け寄る。
「いってぇ」
「兄ちゃんになにすんだ!」
「だ!」
睨みつける三人に俺の力を示してやろう。
威厳たっぷりと言われた『俺』。相手を煽るように、見下し、俺が上であるように。
ニヤリと笑う。
「「「ひっ…!」」」
怯えて三人で固まる。もう二度と俺に嫌がらせしないよう最後に『俺』の適正の氷魔法で脅かしてやろう。
「俺を侮った事後悔するがいい!」
転生魔法の所為で魔力量は減っているが、こんな子供相手には丁度良いだろう。
右手を頭上に翳し、魔力を込める。
「見よ!これが俺の力だ!氷魔法氷柱の墜落!」
尖った氷の柱を形成し相手の目の前に落とす…筈だった。
右手に込めた魔力がボフンと大きな音を出して発動がキャンセルされた。驚きで固まっている俺を他所にそれまでの威圧に怯えていた所に大きな音でビックリしたのか慌てて逃げて行く。
サミュエルの魔法書
2.氷魔法 氷柱の墜落/アイシクルクラッシュ
サミュエル「これは俺がよく使っていた氷魔法だ。発動は手を頭上に翳して魔力を込めると同時に俺の視覚にある相手の頭上に魔法陣が現れ、手を振り下ろすと魔法陣から尖った氷の柱を落とす魔法だ。魔力が込める量によって大きくなるな。ただ、素早い敵には向かない魔法だな」