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「お兄ちゃん食べないの?」
「え?あぁ…」
そう言えば人間の料理なんて食べたこと無かったな。
ワンプレートの上には緑色の葉っぱとトマトのサラダ。グチャグチャになった黄色の何か。そして薄い肉とパン。別のお椀に黄色いスープ。
朝食だから軽く済む量になっている。
色鮮やかだな。魔族は基本魔物の肉をメインに食べる。しかも丸焼き。味付けは塩をかけるぐらいだ。
そもそも育てるという工程は人間のする事だ。だから野菜と分類される植物は野生に生えているのを発見するしかない。それを考えるとそこら辺にいる魔物を食べた方が早い。
フォークで知っている野菜のトマトを刺す。昔野生で生えていた物を食べた時、酸っぱくて吹き出した。
だから恐る恐る口に運び噛み締める。
「んまっ」
酸味はあるのに程よく、あの時食べたトマトには無い甘味がある。
トマトでこんなに美味しいならと一緒に添えてある葉っぱを食べる。似たような葉っぱを食べた時物凄く苦くて吐き出した思い出がある。
口を動かすとシャキシャキと新鮮であの苦さは無い。けどやっぱり葉っぱの味。だけど、これにかかっている調味料とマッチして美味しい。
黄色いグチャグチャにしたのは卵だ。卵なんて生かガツガツに焼いた物しか食べた事無かった。見た目の割に食感はフワフワで驚いた。
肉も時間をかけて熟成させたのか味に深みを出し、それが焼くことにより更に引き出されている。ちょっと濃い味付けだと思ったが、パンと一緒に食べることにより丁度よくなり美味い。
そしてホッとつける温かいスープ。中からスープと同じ黄色い粒々した実が入っている。
つい美味しくてガツガツと食べ切ると視線に気付く。見渡すと三人が俺をポカンと見ている。
「な、何…」
「お前…いつからトマト食べれるようになったんだ?」
「へ」
「お兄ちゃん、私より早く食べた事なかったのに…」
「え」
「いつも何かしら残していたサミュエルが食べ切るなんて」
「…」
や、やってしまった!
興味本位の所為だ!人間の料理なんて初めてで美味しくて!と言い訳しても遅い。
ダラダラと嫌な汗が流れる中、母によって沈黙が破られる。
「そうよ!サミュエルでも食べれる美味しい料理が作れたんだわ!私凄い!」
ありがとう母。きっと何時も通りの美味しい料理だったのだろうが兄妹が母を唖然として見ている。
多分誤魔化せた…かも。