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グチャグチャになった部屋からなんとか服を取り出し、着替えて部屋から出るとアネットが待っていた。俺に気付くと心配そうに駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「あぁ、サルーンの魔法で治った」
「あれ?お兄ちゃんってサルーンお兄ちゃんのこと名前で呼んでたっけ?」
しまった!サミュエルはサルーンを「お兄ちゃん」と呼んでいたんだった。
この魔王レイヴァンが「お兄ちゃん」って…くそっ!
「た、たまーに…な?いつもはお、おおお…兄ちゃん、って」
ちょっ、恥ずかしいんだが⁉︎
絶対赤くなっている顔を見られたく無くて軽く下を向いている俺を不思議そうに見てたアネットは腕を掴んで引っ張る。
「早く行こうお兄ちゃん」
「…あぁ」
はぁ、この身体は不便だな。サミュエルは感情が表に出てき易いから『俺』まで直ぐ表情に出てしまう。
リビングに入ると机に朝ご飯が並んでいる。母とサルーンが入ってきた俺達を見る。
「丁度朝ごはん出来たところよ。サミュエル、アネット。早く座って座って」
「はーい」
俺達が席に着くと皆は祈る為に両手を組む。
「我が神よ。今日も生き抜く糧をお恵みくださり感謝致します。じゃあ、食べましょう。」
人間の食前は食の神である『グラットニー』に祈りを捧げてから食べる。食べられる事は神のおかげと信じているからだ。
何が神のおかげだ。神は自分勝手に気分次第で此方に干渉する。しかも魔族を悪と決め付けて人間達にいい様にする事が多々ある。だから魔族は神に祈りなんか捧げようと思った事は無い。