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私が校長だ。まあ、適当なところに座ってくれ

「おそらく、力が強すぎることが原因だろうねぇ」


 そんな声が聞こえた。

 なんだろうと思い、エンターは目を開ける。


「先生!エンターが起きました」


 ベッドのそばにある椅子に座っているエスケープがどこかを向いてそう言った。


「ああ、よかった。このまま目を覚さなかったら、そうしようかと思った」


「大袈裟すぎですよ。なあ、俺はどのくらい倒れてた?」


「何が大袈裟ですよ、だ。丸一日寝てたんだぞ、エンター」


「は?」


 俺が全部って言った時、エスケープはこんな気持ちだったのだろうか。

 言われていることが想像の上を行き過ぎて、理解が追いつかない。


「で、体の調子は?どっか痛いとか、ここが変な感じします、とかある?」


「エスケープが優しすぎて心が変な感じです」


「先生、もうこいつ退院でいいと思います!倒れる前より元気です」


「とりあえず、調べてみるから」


 白衣を着た人が、聴診器を持ってこちらに近づいてきた。

 エスケープが自分の座っている椅子を譲る。


「俺が倒れた原因はなんですか?」


 原因に心当たりがないエンターは先生に聞いた。


「能力が強すぎることが原因だろうねぇ。君、三つも能力を持っているんでしょ?つまり、普通の人の三倍体への負荷が大きいってことだ。倒れた時も、全部の能力を発動していたって聞くし。その負荷に、まだ体が耐えきれなかったんだと思うよ。君はまだ、十五歳で体が完成しているわけじゃないし。一つの能力なら、十五歳のまだ出来上がっていない体でも耐えられるけど」


 よし、体調は大丈夫そうだね、と聴診器を外して先生が言った。


「退院だ。ああ、そうだった。君宛にファイルちゃんから伝言があったんだった。起きたら受付に来てください、だって」


「はぁ」


 何倒れてくれちゃってるんですかとか言われるんだろうか。


「さすがに、ないよなぁ」


 ベッドから抜け出しながら、エンターは呟く。

 おそらく、このタイミングってことは倒れた事に関する何かだと思うのだが、何を言われるかとんと見当がつかない。





「すみません。ファイルさんに呼ばれているのですが」

 受付についたエンターはそう言ってファイルを読んでもらう。


「ああ、エンターさん。気がついてよかったです。お体はもう大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です」


「そうですか。本当によかったです」


 心底ほっとしたようにそう言ってくれるファイルを見て、お騒がせしましたと謝るエンター。


「で、何の用でしょうか」


「はい。起きたばっかりのところすみません。校長先生と教頭先生がお呼びです。ついて来ていただけますか。案内します」


「校長先生と教頭先生ですか」


 うわ、兵士学校の校長先生と教頭先生とか、どんな人が出てくるんだろうか。

 というか、先生に呼び出されるとか初めての経験で、すごい緊張するんだけど。


「どんな話をされるんでしょうか」


 もしかしたら何か知っているかもしれないと思い、エスケープはファイルに聞いた。


 少しでも情報があるのなら、教えて欲しいから。


「多分、今後の話をするんだと思います」


「今後?」


「はい。エンターさんは昨日能力を使った瞬間に倒れました。おそらく、あなたの中にある能力が強すぎて、その負荷に耐えられなかったから倒れた。これは、聞きましたか?」


「はい。倒れた原因については聞きました」


「つまり、エンターさんは現状、能力を使って戦闘をすることができないということになります。使うと反動で倒れてしまいますから」


 意外と容赦がないというか、ドストレートに言うんですね。


「まあ、そういうことになりますね」


「ですが、能力なしではエネミーと戦うことはできません。腰に刀を下げていますが、あんなものはほとんど使いませんし。というか、そもそも能力が使えなければ、この学校を卒業することすらできません」


「え?使わないんですか?」


 学校、卒業できないんですかよりも先にあの刀って使わないんですかが出てきてしまうあたり、エンターの兵士学校きついから嫌だという心が透けている。


「私は戦場で使ったことがないです。授業では何度も使いましたけど」


「じゃあ、なんで下げているんですか」


「最後の命綱、っていうところでしょうか。戦場は何があるかわかりませんからね。私はそんな状況に陥ったことはありませんが、実際にこの刀があったからこそ助かったという人はかなりたくさんいます。備えあれば憂いなしと言うことです。と、つきました」


 やっぱ大変なんだなぁなんて思っていると、校長先生がいる場所についたようだ。

 すみません心の準備が、なんていう前にファイルはノックをする。


「では、私はこれで」


 校長室の扉を空けて、エンターを中に通してくれたファイルは扉を閉めながらそう言った。


「お前がエンターか」


 机に座って何かを読んでいる女の人が、ちらりとこちらを見ていった。

 …あの、差し出がましいようですが、机に足をあげるのは御行儀が悪いと思いますよ。






「私が校長だ。まあ、適当なところに座ってくれ」


「初めまして。エンターです」


 一番下座にあるソファに腰掛けるエンター。


「ところで、エンターはうちの雷部隊に入るんだよなぁ?」


 ペットボトルの中に入っているものを一気に飲み干して、校長は言った。


「いや、エンターは炎部隊に入る予定だから。諦めてくれない?」


 いきなり扉が開いて、男の人が入ってくる。


「教頭…。どこ行ってた」


「人を呼びつけるのにお茶もないんじゃダメでしょ」


 わざわざ悪いね、といいながら今買ってきたらしいお茶を出してくれる教頭先生。


「私も今飲み物切れたところなんだけど、なんかある?」


「校長の飲めない炭酸飲料しかない」


「テメェ」


「振ったらいい具合に抜けると思うけど、どうする?」


「馬鹿にしてんのか?」


 心底楽しそうに笑いながら校長をからかう教頭。


「ほら、エンターが一人ぽかんとしてるよ?」


 舌打ちをしながら、こっちに向かってくる校長先生。


「来て貰った理由なんだが、今後のお前のことについてなんだ」


 ファイルさんの言っていた通りか。


「お前は現状、能力を使うことができない。つまり、戦場に出られないということだ。さすがに一回能力を使うだけで、戦闘不能になるやつはいらないからな。そもそもこの学校を卒業することすらできない」


「つまり、退学ですか」


 ですよねーと俺もそう思いますと言いながらエンターは頷いた。


「いや、それはないでしょ」


 教頭がプシュッっとペットボトルの蓋を開ける。


「ああ。本来ならば、一年で卒業できないお前は退学なんだが、能力が使えない原因はお前の体が成長していないせいだ。別に一年間でやらないといけないことをサボったわけでも、人間として一発アウトな問題を起こしたわけでもない。つまり、兵士としての適性がないわけではないんだ。むしろ、能力を考えれば、お前ほど兵士に向いている人材はいない」


「つまり?」


「本来一年という期間内に単位取得を終わらせないといけないことになっているが、お前に限っては特例で期間を無制限とする。まずは体を作れ。細かいことはファイルに任せるからこれをあいつに渡してくれ。ファイルはそういうのが好きだろう」


「それは、間違いない」


「じゃ、エンター。もう用事は終わったから帰っていい。よし、教頭。表でろや」

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