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まるで、窒素が肌に滲みるようだ

 気まずいというか、視線が痛いというか、心が痛いというか。

 本当こいつはなんてことを言ってくれたんだ。

 よくこれで口が硬いですとか言えたもんだよなぁ。

 授業が始まってかれこれ三十分でエンターは何度そんなことを考えただろう。


「なぁ、点数取れたか?」


「一問も分からなかった。こんなの初めてだ」


「俺もだ」


 授業始めの二十分はテストが行われた。

 この授業では毎回始めの二十分を使ってテストを行い、そのテストで九十点以上を取れれば、授業に出た回数と関係なく単位をもらえるし、それ以下しか取れなければ、永遠に授業を受けることになるらしい。

 そういう仕組みなので、テストが終わった瞬間、半分ぐらいの人が教室から出て行った。

 まだ採点はしていないが、点数に自信がある人たちなのだろう。

 テストができなかったことは仕方がないとエンターは思っている。

 昨日兵士学校に来て、初めての授業で行われたテストでいきなり点数が取れる訳がない。

 だからショックは受けていない。

 でも、ずっとこのままではいけない。

 いずれ単位をもらうために、今はしっかり授業を聞き、次回のテストに備えなければならないのに、先生の話が全然入ってこない。

 それはなぜか。


「なんで私たちが能力を開花させ、敵と戦うのかその理由が分かる人ぉ?」


 今一番会いたくない人が目の前にいるからだ。

 一番後ろの席に座っているのなら、まだ良かった。

 しかし、よりにもよって一番前の席である。

 とある帝志望の子が座らせたこの席の前には当然教卓があるし、その向こう側には先生がいるわけで。

 しかし、自分たちの中にある負い目から、ちょっとした一喜一憂をどんどん悪い方に捉えてしまう。


「エスケープくん、答えはわかりますか?」


「分かりません」


「エンターくんは?」


「同じく分かりません」


「そぉ」


 多分そんなことはないけれど、もしかしたら、俺たちのことについて何も思っていないかもしれない。

 そして、今の一言だって、本来そんなに深い意味はないのかもしれない。

 しかし、今のエンターは、お前たちエスケープ、エンター、エネミーでなんか似ているね、殺しちゃうぞぉ、みたいなニュアンスを感じ取ってしまうのである。


「まるで、窒素が肌に滲みるようだ」


 エンターは今の心境をボソリと呟いた。


「要するに、全てお金の問題なのですよぉ」


 分かりますか、と俺たちの方をむいて先生は言う。


「突如現れた謎の敵、エネミーに対し、人類はその当時の持っていた同じ人類から身を守るための最新鋭の軍事兵器を使って対抗しましたぁ。しかし、それらは一切効かなかった、なんてことはなく、めちゃくちゃ効きましたぁ。むしろ人類よりも痛みを感じていそうな断末魔をあげて倒れてくれますよぉ。人類に共通の敵が現れて今まで人類同士でいがみ合っていた我々は団結したりしなかったりしながら、エネミーと戦いましたぁ。しかし、最新兵器って、本当に高いんですよねぇ。なので、戦いは楽勝でも、だんだん財政の方がガタガタになっていったわけですぅ。長引く戦いによって私たち人類はエネミーをただ倒すだけではなく、いかにして低コストで倒すかということを考えなければならなくなりましたぁ。なので、今までとりあえずお約束で撃ちまくっていた銃をより安くで作れる剣に持ち換え、ミサイルを作る費用を浮かせるために、たくさんいる人類を戦わせる方向へとシフトしていきましたぁ。今もこういう最新鋭兵器は存在していますが、滅多なことでは使わないですぅ。もうほぼ人類が能力で戦うスタイルが定着していますねぇ」


 なるほど、さっきのテストにこの問題が自由記述形式であったが、こういうことを書けばいいのか。

 次回、同じ問題が出たらこれで答えられるな。

 今日この時間で自分のメンタルを立て直すのは無理だろうから、せめて今の知識だけは持って帰ろう。

 どちらにせよ次回は絶対に一番後ろの席を取ろうと決心したエンターだった。



 次の能力実技の授業は外で行われるらしいので、エンターたちは外に出る。


「そういえば、エンターってどの能力が開花したんだ?」


「全部」


「は?」


「だから、全部だよ」


「からの?」


「本当に全部なんだってば」


「なぁ、そのギャグいつまで続けるんだ?ここらへんが引き時だと思うんだが?」


「そうだなぁ。じゃあ、水ってことでいいか」


 投げやりな感じでエンターは流した。


「俺は電気だった」


 ああ、なるほど。

 こいつはあの雷帝のもとでパラリラ言わすのか。

 

「似合ってると思うぞ?」


「どういう意味だ?」


 エスケープは首を傾げているが、そのうち分かるだろう。


「なぁ。昨日あんなクレーターみたいなのたくさんあったか?」


「いや、こっちの方来てないから分からない」


 確かにそうか。

 昨日入り口からこの兵士学校に入り、目の前の建物にそのまま入って後はずっと室内移動だったから、こっちに来るのは初めてか。


「ここか」


 目的地近くに人がたくさん集まっている場所を見つけたので、そこに合流するエンター。

 

「はい、みなさん。ここは基礎単位科目の能力実技の授業です。間違いないですか?」


 今度は普通の先生なようだ


「はい、では授業を始めますが、その前にエンターくんって子はいますか?」


 なんだろうと思いながら手をあげるエンター。

 その瞬間、みんなが一斉にこっちを見た。


「あなたがあのエンターくんですか」


「おいエンター。あのってなんだ?」


 名指しで呼ばれたお隣さんを見て、エスケープはなのが起こっているのかわからないと言うようにこっちを向く。


「あれ、お友達にまだ言っていないんですか?人類初の能力を全て同時に開花させたって」


「はぁ⁉︎」


「いや、言いましたけど信じてもらえませんでした」


「あれ本当だったの?」


「何度もそう言ったじゃん」


「いや、今日の晩ご飯を伝えるぐらいの軽さで言い放つから、絶対嘘だと思ってた」


「まぁ、それもそうか」


 今夜の晩ご飯何か聞かれてうどんって答えるぐらいの感じで全部って答えたしな。


「で、どの部隊に入るか決めたんですか?」


「いえ、まだです。とりあえず一週間以内に返事が欲しいと言われてます」


 正確には水帝から。

 他の二人から期限の指定はなかった。

 というか、入れとしか言われなかった。


「そうですか。どこに入るか楽しみです。では、授業を再開しましょう。皆さん、昨日はエンターくんのおかげで帝が全員集合していました。いや、凄かったですね。三人集まっているところを見られるなんて、本当に珍しいです。そして、訓練に協力してくれた水帝の能力、本当に強力でしたね。おかげで訓練場がボロボロです」


 このクレーターたち、あの人の仕業だったのか。

 …あの時、室内で戦っていたら、本当にエンターは死んでいたかもしれないな。


「では、みなさん。適度な間隔を開けてから、目は閉じて。自分の中にある能力を感じてください。まずは、発動してみましょう。1、2、3、はい」


 ちょっと待っていきなり言われても、と思いながら周りを見ると、みんな能力を発動していた。

 …隣にいるエスケープまでいとも簡単に能力を発動させているんだが。

 ええい、こうか。


「あ、できた」


 よかった。

 一瞬できないかもって焦ったけれど、無事能力が発動した。


「素晴らしい。本当に全部の能力を使えるんですね」


 三つの能力を同時に発動しているエンターを見て先生は感動の声をあげる。

 任せてくださいよ。

 エンターはドヤ顔を決めてやろうと思ったが、だんだん体が重くなってく。


「エンター?おいエンター⁉︎」


 エスケープのそんな声を最後に聞いてエンターは意識を失った。

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