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こいつはいったい誰なんだ?

「なあ、エンターはどの授業取るんだ?」


 応接室から寮に帰っている途中、エスケープが聞いてきた。

 そうだなぁ、と手に持っている資料の時間割りのページを開く。


「まずは、エネミー入門、能力実技、基礎訓練だな」


 どれも基礎単位だ。

 流石に卒業できないのはまずいから。

 だから、まずは必要な単位を取り切って、その後で応用単位に手を出すつもりだ。


「俺もそうしよう。明日からも頼むな」


「帝になるためにもっと頑張らなくていいのか?」


「もちろん頑張るさ。基礎訓練の後に戦闘訓練入門もやる。ただ、前半三つはエンターに合わせる」


 初日から飛ばすなぁ。


「そうか。頑張れよ」


 俺が能力を三つ同時に開花させるなんてことがあるぐらいに、世の中何が起こるか分からない。

 だから本当にこいつが、帝になってしまうかもしれない。

 少なくとも、能力を三つ同時に開花させるよりは可能性があるだろう。

 だから、とりあえずがんばれよと言っておく。


「じゃ、俺の部屋はここだから」


「知ってる」


「だろうな」


 最初会ったのはこの部屋の前だったし。

 そりゃ知ってるな。


「ちなみに俺の部屋は隣だから」


「知らなかった」


「だろうな」


 エスケープはそう言ってエンターの隣の部屋の扉を開けた。


「鍵かけてないのか?」


「誰が入ってくるんだよ。それに、入られて困るようなものは置いていない」


 エスケープがそう言い切るので、部屋の中を覗いてみる。


「いろいろ持ってきてるじゃん」


 しかも、何やら趣味嗜好の類のものもちらほら目に付く。

 これで隠すものはないとかオープンスカイすぎるだろ。

 

「そういうエンターの部屋はどうなってるんだ?」


「いや、俺の部屋はちょっと」


「何、なんかあるの?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべたエスケープがひょいと首を傾けて部屋を隠すエンターの体の隙間から中を覗く。


「何もないじゃん。嫌がるから、どんな物が出てくるか期待したのに」


「すごいものが出てくるだろうと予想した上で、覗いたのかよ」


「大丈夫だ。俺、口硬いから。ということでお邪魔します」


 ほんとに邪魔だから帰りなさいよ。


「あれ、この写真は?」


 早速二枚の写真を見つけたエスケープはワントーン声の高さを上げて聞いてきた。

 これを見られたくなかったから入れるのを躊躇ったのに、早速見つけやがった。


「孤児院の写真と、女の子とツーショットか。この女の子、誰?というか、この背景に写ってる店って、あの店だよな?」


「俺は、孤児院出身なんだよ」


「そんなことはこの写真見れば分かるし、どうでもいいよ。それよりこの女の子との関係は?そして何よりなんで背景がこの店?どんなにお金があっても招待状がないと食事ができない位、敷居の高い店だろ?」


 どうでもいいってなんだ、どうでもいいって。


「…その女の子はメモリーって言って、同じ孤児院にいる子だ」


「なるほど、それで」


 聞きたいのは次なんだよと全身で圧力をかけてくる。

 少し長くなる、と前置きを挟み、エンターは口を開いた。


「メモリーと初めて出会った場所は孤児院じゃない。孤児院に拾われる前、路上生活している時から一緒だった。路上生活じゃ当たり前だが、決まった時間にご飯が出てきたりしない。自分で調達しないといけなかった。ただ、まだ小さい俺たちにご飯を調達する術はなくてな。ずっとお腹が減っていた。毎日フラフラでいつ倒れてもおかしくないような毎日だった。そんな時、たまたま俺たちのそばを通りかかった一人の女性がパンを恵んでくれたんだ。その人がこの店の見習いだった。俺たちが孤児院に入れたのも、その人が連絡してくれたからなんだ。それで、孤児院に入って少しした時に、店に合わせてくださいって連絡してお礼に行ったんだよ。その人についての情報はその店にいるってことしか知らなかったから。その時に命の恩人の女性が俺たちを撮った写真がそれ」


 俺は今日会ったばかりの人に何を話しているんだ。

 エンターはよくわからない感情を抱きながらそんなことを思った。

 

「この店に見習に入れるなんて、さぞ優秀な料理人だったんだろうな。未来の料理長候補じゃん。その人の名前とか、分かる?写真は?」


 エンターがそんなことを思っているなんて露程も知らないエスケープが、写真を見ながら興奮した様子で言う。


「メニューさん。シスターが撮ったこの写真のスリーショットバージョンが孤児院にあるけど、持ってきてない。というか、見習いに入れたら料理長候補なのか?」


「この店にはたくさんの優秀な料理人が働いているけれど、次の料理長は現料理長が見習いとして若いうちから雇って育てる風習があるんだよ。もちろん、思ったように育たなくて、別の優秀な料理人が料理長になった事例もあるけど、大体は直々に見習いから育てた子が料理長を継ぐんだ」


「よくそんなことを知ってるな」


「うちの実家は料理屋なんだけどさ。父親がこの店の見習いになりたくて頑張ったけど、ダメだったらしい。見習いじゃないルートでもいいから働きたいってお願いしたらしいけど、それもダメだったって」


「…そうか。なんか悪いこと聞いたな」


 こいつもこいつで初対面の人間になんてこと話しているんだ。

 俺も俺で反応に困る話をしたと思うが、こいつもこいつでそこそこ反応に困る話をぶち込んでいる。

 改めて言うが、俺たちは出会って二時間ぐらいしか経ってない。

 流石、ミスターオープンスカイ。

 いつの間にかペースを掴まれていたようだ。

 そしておそらく、この話具合から見るに、こいつの口が硬いなんてことはないだろう。

 明らかに思っている事を全部言ってしまうタイプの人間じゃないか。


「じゃ、もう面白そうなものはないし、帰るわ。また明日」


 そう言ってエスケープは部屋を出て行った。


「とんでもない奴が隣になってしまった」


 鍵を閉めながら、エンターはそう言った。






「こいつはいったい誰なんだ?」


 隣の席に座る背筋をピンと伸ばして授業開始を待つエスケープを見ながら、エンターは首を傾げる。

 朝早い時間に扉のノックで起こされたエンター。

 その後朝食を一緒にとり、時間に余裕を持ちながら、エネミー入門の授業がある教室へと来た。

 ガラガラの教室に入り、座る席はもちろん一番前。

 だって帝を目指しているのだから。

 ということで、エンターも一番前の席に座ることとなった。

 本当、昨日のミスターオープンスカイと同一人物とは思えない。


「じゃ、始めますよぉ」


 その後、ある程度教室がいっぱいになった頃に先生が入ってきた。


「ンフッ」


 エスケープが茶を吹き出すような挙動をしてそっぽを向く。

 おいバカやめろ、口硬いんだろ。

 幾ら口が硬くても、そこまで表情が分かりやすかったらダメじゃないだろうか。

 エンターは隣の人とは完全に別人であったことはありませんオーラを出しながら、心の中で思った。

 エスケープがそうなった理由はわかる。

 先生が少しだけおかしい人だったからだ。

 その、生物学上の性別と今着ている服の性別がどうやら合っていないらしい。


「どうかしましたぁ?」


 男が無理やり女性の声を真似しているような感じの声でエスケープの元へとやってくる先生。

 これは、決まりだな。

 触れてはいけない部分なので触れないが、いわゆる、


「すみません、両性類でいらっしゃいますか?」


「エスケーーーーープ‼︎」

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