写真立てぐらい買おうかな
「二人に絡まれて大変だったでしょう?」
炎帝が部屋から出て行った後、コバルトに連れられて応接室にきた。
ファイルが気を利かせてお茶を出してくれる。
本当、雷帝に絡まれたり、炎帝に呼び戻されたりといろいろあった。
「そんなことはないですよ?」
本音を言えば超大変だったけど、そこはしっかりお茶を濁しておく。
「まあ、あの二人をあんまり悪く思わないでくれないか。あの二人はあの二人でかなり大変なんだ。部隊を守るためにね」
お茶を濁したが、きっちりばれているようだ。
顔には出ていないはずだけど、どこでばれたのだろうか。
いただきます、と言ってエンターは出されたお茶を啜った。
「部隊を守るため、ですか?」
「ああ。僕たちは遊びをやっているわけじゃないからね。敵と戦っているんだ。そして、あの二人はそれぞれ部隊の長。それはもうたくさんの部下を抱えている。自分の部隊にいる部下たちを守るためには、戦力強化は必須中の必須なんだ」
だから、君みたいな子は何がなんでも欲しいわけだよ、とコバルトは真っ直ぐにエンターを見つめる。
守るために、戦力強化は必須か。
「まあ、僕もそのために君を呼び出したんだけどね」
照れ臭そうに、コバルトは目を逸らした。
そんなコバルトを見て、ファイルも微笑んでいる。
「なあ、エンター。是非うちの部隊に入ってくれないか」
先ほどの照れ臭そうな顔は面影もなく吹き飛ばし、真剣な顔でこちらを向いた。
あの金髪ヤンキーのもとでパラリラ言わすか。
はたまた、あの赤髪ロリのもとでみんなに恨まれるか。
それかこの人の元に行くか。
「その答えを、来週までに欲しいんだ」
エンターの思考を遮るようにコバルトが言った。
「まだ兵士学校に来て、訓練も受けていない子にこんな選択を投げかけるのは酷だ。だから今じゃなくて来週までには答えを欲しい」
お茶を飲み干したコバルトはそう言って微笑み、応接室を出て行った。
また後でこの応接室には来るらしい。
でも、それまでは時間があるため、一度部屋に戻ることになった。
「コバルトさんってどんな人ですか?」
ファイルに連れて帰ってもらう道中、エンターは聞いた。
「規則正しくて、優秀な方です」
ファイルは嬉しそうにそう答えた。
しかし、すぐに表情が暗くなる。
「どうかしました?」
「いえ、ただ場外乱闘が大好きなあの二人の帝に振り回されっぱなしで…」
おいたわしや、といった心境か。
「俺の訓練はいつから始まるんですか?」
頑張ってくださいというのも違うし、お疲れ様ですと言うのも違うなと思い、いっそ話題を変えてしまおうとエンターは思った。
「明日から始まります。その辺の説明は本日もう一人入ってくる方がいらっしゃるので、その方と一緒に説明したいと思います。その方がいらしたら、寮まで呼びに行きますので、もうしばらく待っていてください」
ちょうど、寮の部屋の前まできたエンターはかしこまりましたと言って、部屋に入った。
「ふぅ…」
部屋の扉を閉めて鍵をかけた。
なんかただ人に会うだけだったはずなのに、本当に疲れた。
机にしまってある椅子に座り、近くの窓を開ける。
風が入ってきて写真二枚を揺らした。
一枚は孤児院のみんなと撮ったものだ。
写真を見て表情が緩む。
「写真立てぐらい買おうかな」
窓を閉めたエンターはそう呟いた。
コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
ファイルだろうか。
「はい」
扉を開けると予想通りファイルがいた。
その隣にはもう一人、知らない男の子がいた。
「こちらが、もう一人今日来る方です」
「初めまして、エンターです」
「こちらこそ初めまして。エスケープです」
「お二人は同い年の誕生日まで同じですからね。すごい偶然ですよね」
「なるほど、よろしく」
いきなり砕けた言葉遣いをしてくるエスケープ。
「ああ」
まあ、気にしないけど。
「では、こちらへ」
なるほど、この流れで応接室に行くのか。
なんでまた来るんだと思っていたが、一人納得した。
「では改めまして、二人とも、兵士学校へようこそ。私たちはあなた方を心から歓迎いたします」
ファイルは資料を配りながら言った。
「この兵士学校で、あなたたちは兵士に必要なすべてのことを学んでいただきます。では、一枚めくって時間割を見てください」
ずらりといろいろな授業の名前が書いてあるが、何がなんだかよく分からない。
というか、同じ時間にいくつもの授業が並行して行われているんですが?
「兵士学校はこの時間割で動いています。どの授業に出るかは自由です。ですが、一年ですべての基礎単位を取ってもらいます。単位の種類は二種類、基礎単位と応用単位です。基礎単位は必ず取らないと卒業できません。応用単位ですが、これは取っても取らなくてもいい単位です。しかし、取っておくと部隊に入った時に必ず役に立つものです。よって階級が上がるのも早くなります」
なんだ、その学歴社会は。
「単位はどうやったら取れるんですか?」
隣のエスケープが手を上げた。
「それぞれの授業には担当の先生がついています。その担当先生がこの子は大丈夫だと判断したら単位取得書に判子をくれます。それを受付に提出していただければ、無事単位取得です。もしも、すべての単位を一年以内に取れたら、その時点で卒業になります」
結構個人に合わせた教育をしてるのね。
「そんなすごい人、いるのか?」
結構な量の授業があるぞ、と驚きの声を上げるエスケープ。
「今の帝、それぞれの部隊の長はみなさん一年以内に全ての単位を取っておりますよ?」
「つまり、一年以内にすべての単位を取れば、その帝になれるんですか?」
エスケープは目を輝かせて聞いた。
お前は帝になりたいのか。
「いえ、そういうわけではありません。全部取った方でも帝になれていない人はいます。ただ、帝となった人はほぼほぼ全員が一年以内に全ての単位を取っていらっしゃいます」
「どうやって、帝は決まるんですか?」
なんか帝になりたそうな顔でエスケープは聞いた。
「一割の戦果と九割の運で帝は決まると言われています」
「なんか、はっきりしないですね」
エンターは腕を組んでそういった。
「帝を決めるのは、帝の上にいる人たちなので」
ああ、なるほど。
きっと言えないようなことがいろいろあるのね。
「だいたい説明としてはこんなものなのですが、何か質問はありますか?」
特にはないなぁ。
隣のエスケープもそんな顔をしている。
「それでは説明は終了とさせていただきます。明日から訓練頑張ってくださいね。何かありましたら、お気軽に受付までいらしてください」
では、とファイルは応接室を出た。
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