まあ、あれだ。バレたら一緒に謝るぐらいはしてやる
「またクビになったの?」
「またってなんだよ」
あれから書類を書いて承認印をもらい、兵士学校を出たエンター。
歩くたび、カチャカチャという聴き慣れた音が響く。
ファイルに借りたままの刀のせいだ。
結局返し忘れてしまった。
校長にそのことを確認すると、問題ないから気にするなという言葉が帰ってきた。
問題ないって、いいのか、それで。
そんなことを気にしながらやっと地元に足を踏み入れた途端、見知った顔が現れた。
俺にこんなことを言うのはマウスだけである。
相変わらず生意気なやつだな。
にしてもこいつが。
「初めまして。お噂はかねがね。エフと申します」
同性と遊ぶと言ってこっそり遊んでいる異性か。
「ご丁寧にどうも。エンターと言います」
どうしよう。
なんとか社交辞令的な挨拶を返したが、正直気まずいんだけど。
なにこの家族が連れてきた仲のいい異性とばったりあったみたいなこの感じ。
いや、現状その通りなんだけど。
ちょっとー、心の準備ができてないよぉ。
あの巨大エネミーと戦ったときとは別種だが、同じぐらいの心臓の鼓動が早くなるエンター。
こういう時、どうしたらいいのだろうか。
流石に二階から飛び降りてこいつの脳天に刀突き刺すわけにはいかないしなぁ。
この刀借り物なのに、証拠品として押収されたら、返せなくなっちゃうだろ。
「で、クビじゃなかったらなんでこんなところにいるの? 今日は平日だよ?」
「メモリーと約束があって、それで帰ってきたんだ。ところで今日は誰と遊ぶって言って出てきたんだ? ああ、メモリーに聞けばいいか」
「脳天にその刀突き刺してあげようか?」
「ごめんなさい」
俺、エネミーじゃないんで、そういうのはやめてください。
本当に嫌そうな表情を一瞬見せてから強気な表情で上書きした後、マウスがそう言った。
そんなに嫌そうな表情をするほどの話題だったんなら、ここらが引き時か。
「あれ、マウス。それにエンター?」
は?
なんで?
落雷のようなスピードでマウスとエンターは声のした方に視線を向けると、先ほど話題にあがっていたメモリーが、こちらを見ている。
どうしよう、開いた顎が塞がらない。
「そちらの方は?」
首をちょこんと傾げながら、エフを見るメモリー。
「俺の友達だ。エフって言う」
「え? そんな友達いた? ああ、兵士学校でできたお友達? 初めまして、メモリーと言います」
「初めまして。エフって言います」
何が起きているか分からないと言った感じだが、とりあえずエンターとマウスの人を殺せる視線に屈して笑顔でそう自己紹介する。
「じゃ、俺は行くから。エフも気をつけて帰れよ。マウスも友達を待たせてるんだろ? 早く戻ってやれ」
そう言って三人の集団を無理やり解散させるように号令をかけ、メモリーの元へと早足で向かった。
メモリーの真正面に立ち、顔を真っ直ぐ見つめる。
「えっと、ただいま。前線から戻りました」
「…はい」
少し、涙を浮かべるようにして、笑顔でそういったメモリー。
「で、あの男の子誰? マウスは今日、フィルムちゃんと遊んでいるはずなんだけど」
それはそうと、と目に浮かべる涙を拭いながらメモリーは言った。
だから、なんでばれているんだよ、嘘って。
にしても、前線から生きて帰ってきた俺とメモリーの感動の再会なはずだろうっ!
なんでこんないたたまれない雰囲気を過ごさないといけないんだ。
大体マウスもマウスだ。
こんな調子でよく今まで隠し通せてたな。
本当、ビックリだわ。
「俺の友達っていうのは本当だぞ…」
あとはどうするかと、それこそあの巨大エネミーにあったときのように必死に頭を働かせながら、絶対譲れない部分だけを最初に言っておく。
まあ、バレる時はそん時で仕方がないだろう。
その時は一緒に頭を下げるぐらいしてやる。
そう思いながら、なんとかエンターは弁明を始めた。
「ほんと、ごめん! でもありがと!」
あの後、なんとかメモリーを納得させたエンター。
いや、違うな。
納得させられたと思ってるのは俺だけかもしれない。
メモリー的には納得していないけれどあまりに必死だからまあそれでいいかと諦めも入った感じだったし。
その後、怪我ないかだったり、今晩何食べたいだったり、いつまでいられるのだったりと比較的穏やかな会話に移り、孤児院まで帰ってきた。
エンター帰ってきてくれてありがとう、どうしたのと子犬のように喜ぶシスターに休みができたからととりあえずの言い訳で返しつつ、部屋に上がる。
正直に前線に行って戻ってきましたとか言ってみろ。
シスターは卒倒するぞ。
その後、今日は友達の家に泊まる予定ではなかったマウスが帰ってきて、エンターの部屋に速攻で来た。
「まあ、気にするな。とりあえず、兵士学校で出会って、地元が同じことが分かりそれ以来仲良くなったお友達という設定にしておいたから、まあ頑張ってくれ」
こんないつバレるか分からない設定でどこまでもつか分からないが、そこで文句を言われても困る。
あとはマウスの運に頼るのみだ。
「ありがと」
「まあ、あれだ。バレたら一緒に謝るぐらいはしてやる」
「うん」
「みんなー、晩ご飯よー。降りていらっしゃい!」
シスターいつもの掛け声が孤児院に響き渡った。
「じゃあ、行くか」
「うん」
エンターとマウスは部屋を出た。
「で、兵士学校最近どうなの?」
先ほどのことを少し気にしているのかいつもより従順なマウスが聞いてきた。
「まあ、ボチボチだ。そういうマウスはどうなんだ?」
「この前、フィルムが十五歳になって薬を飲んだ」
「で、能力が弱かったと?」
一緒に遊ぶ約束をしているのだ。
それはつまり、ここにいるということ。
薬を飲んでここにいられる理由は一つしかない。
能力が弱いことだ。
「能力が発症しなかったんでしょ?」
そばにいるメモリーが口を開いた。
「発症しなかった? 全く?」
「そう。発症なし。そもそもあの水晶玉が光もしなかったってフィルムは言ってたよ」
「そんなことありえるのか? 今までどんなに弱くても必ず発症してただろ?」
軍にいる人間が軍の情報を軍にいない人間に聞くのはおかしな話かもしれないが、躊躇いなく聞く。
「なんでも、最近薬の種類が変わったんだって。それで、発症しない人も出てきたらしい。学校に戻ったら知ってそうな人に聞いてみたら?」
「なんでそんな不良品に変えたんだ?」
まあいいか。
戻ったら校長にでも聞いてみよう。
「そういや、マウスもそろそろか」
一つ年下って言っても、年度を跨いでいるだけで実際には六ヶ月ぐらいしか誕生日は離れてないからな。
「そうだね」
こいつには一体どの能力が開花するのだろうか。
楽しみなような、でも開花して欲しくないような、そんなどっちつかずな感情の中で揺れるエンターだった。
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