ああ、それは大変でしたね
「は? エンター⁉︎」
いきなり真上から降ってきたかと思うと、エネミーに刀を突き刺してそのまま頭の上に着地したエンターを見て水帝は驚きの声を上げた。
エネミーは突然のダメージに訳がわからないぐらいの叫び声を上げて暴れだす。
そりゃ痛いだろうな。
刃渡り八十センチぐらいの刀が半分程度突き刺さっているんだから。
もうちょっと深くまで突き刺したいと思ったのだが、これ以上刀に捕まっていると、俺が振り落とされるのと同時に刀も抜けてしまいそうだ。
「だが、ナイスだ。エンターそこから飛び降りろ。その刀に電気を流す」
どうするもんかと考えていると、雷帝から避難命令が出される。
あとは雷帝が引き継いでくれるようだ。
とりあえず、刀を離してエネミーの頭から飛び降りる。
そしてエンターが飛び降りたのを確認すると、雷帝は避雷針のように上に伸びている刀に向かって電気を流し始めた。
「あっぶない」
無茶苦茶に暴れ回るエネミーの攻撃を辛うじて避けながら退散するエンター。
「水帝、あちらのエネミーたちを撃退しました。今から援護に入ります!」
ファイルや校長たちが現れてそう言った。
できるだけエネミーを囲んで様々な方向から火、水、電気の攻撃を仕掛ける。
「やったか!」
あの満身創痍な状態からの総攻撃には耐えられなかったのか、やっとエネミーが基地側に倒れて動かなくなった。
若干フラグっぽいことを言った奴がいるようだが、流石にこれだけやれば大丈夫だったようだ。
フラグもへし折るほど最後の総攻撃が効いたのだろう。
「エンターを助けるはずが、助けられたようだな」
流石に疲れたようで、雷帝がその場に倒れ込みながらそういった。
「あの刀、そんなに効いてましたかね」
俺が活躍したとしたらそこら辺しか思い浮かばないが、あれがなくてもどの道この人たちなら倒していた気がする。
実際時間の問題だっただろう。
「それだけじゃないよ。負傷兵たちをたくさん運んでくれてたんでしょ? 本当に助かった。ありがとう」
お言葉はありがたいけど、そんなうつ伏せに突っ伏した状態で言われても心が動かないのだが。
いや、これは俺も運べと言う遠回しのサインなのだろうか。
普通にありそうだが、水帝に限ってそれはないだろう。
「炎帝は大丈夫でしょうか」
負傷兵を運ぶという言葉で思い出したが、あの人は随分と深傷を負った上に、無茶していたはずだ。
「ご心配ありがとうございます。でも、お陰様で大丈夫です」
声のする方を振り返ると患者衣を着て、その上から一枚羽織った炎帝が歩いてこちらに向かってくる。
首元から見える包帯が痛々しい。
でも、明らかに一番重傷を負っているのに三人の帝の中で一番足取りがしっかりしているのはなぜだろうか。
あなたが一番突っ伏さないといけないのでは?
「とりあえず、本部に連絡しましょうか。基地がこんな状態では戦線は維持できません。一旦防衛ラインを一段階下げましょう」
スッと明後日の方向に手をだした炎帝に近くの身長の高い女性が携帯電話を乗せる。
何そのコンビネーション。
戦ってる姿よりかっこいいんですけど。
「そうだね、一旦防衛ラインを下げて、しばらくは基地の修復に専念だね」
ファイルに肩を貸してもらいってなんとか起き上がる水帝。
「その前に、増援を頼む」
水帝と同じように大きな男の人に肩を貸してもらいながら起き上がる雷帝。
なんか、この人の口から増援を頼むとかいうセリフが出てきたことに少し驚いてしまう。
いまだに一匹狼でなんでも一人でこなします、的などこで付いたのか分からないイメージに引きずられているようだ。
この前線基地に来ておそらく一番イメージが崩れたのがこの人だな。
一息ついている最中だからなのか、先ほどから失礼な言葉ばかりが浮かぶエンター。
そんなことより。
「そんな簡単に前線を下げていいんですか?」
エンターは近くにいる校長に視線を向けた。
そこのところ、どうなんでしょう。
「来るときにこの基地に似たような建物をいくつか見ただろう。ここが第一防衛基地だから第一防衛ラインって呼ばれていて、その次にここから近いのが第二防衛基地の第二防衛ラインって続いていくんだが、一つ下げるのはそんなに大した問題じゃない」
流石に第四防衛ラインまで下げるとかなったら問題だけどな、と付け加える。
見ただろと言われれば、見た気がするな。
あんまり外の景色とか見てなかったから、覚えてないけど。
「防衛ラインを一つ下げる許可がおりました。増援も直ちに送ってくれるそうです。とりあえず、部屋の荷物が無事な人は荷物を回収してください。その後、負傷兵を中心にして、まだ戦える兵士で取り囲み、周りに注意しながら第二防衛基地に移動しましょう。重症過ぎて歩けないものは馬に乗せてください」
炎帝の掛け声のもと、各々動き出した。
「うわ、酷いな」
倒れたエネミーの死体に近づいたエンターは思わずそういった。
あの時刺した刀を回収しに来たのだが、雷帝が電気を流したせいか、かなり溶けている。
これはもう使えないだろう。
「どうしました?」
水帝から護衛を頼まれたファイルがエンターの言葉に反応する。
「ああ、刀がもう使えなくなっちゃって」
そう言ってエネミーに突き刺さっている刀を指差した。
「あれ、エンターさんの刀なんですか?」
溶けた刀よりも、あんなところに刺さっていることに驚いているファイル。
「まあ、カクカクシカジカホゲホゲモグモグがありまして、こうなりました」
「ああ、それは大変でしたね」
なんで伝わった?
とりあえず現状を見るに大変だったんだろうなってことで納得したのだろうか。
「あんなところに刀を刺すなんて、エンター、お前やるじゃないか。どうだ、お前も刀の魅力に取り憑かれたんじゃないのか?」
どこからか現れた校長が肩を組んでくる。
「まあ、大事ですよね。刀って」
そこは素直に認めよう。
刀があったから俺は戦いに加勢できた。
「とりあえず、私の刀を持っていてください」
ファイルが腰から外して差し出してくる刀を受け取るエンター。
「校長は部屋三階でしたっけ?」
ファイルが校長の方を見た。
「ああ、そうだよ。今部屋に荷物見に行ったら案の定消し炭になってた」
エンターはまだ部屋に行っていないが、二階なので大丈夫なはずだ。
「私も三階だったので、アウトでしょうね。まあ、燃えて困るものは持ってきていないのでいいですが」
どうしよう、この雰囲気荷物取りに行きますって言いにくいんだけど。
失敗したなぁ。
刀より先に荷物取っておけばよかったかなぁ。
にしてもなんだ。
炎帝は仕方がないとはいえ人の荷物を燃やした分際であんなセリフを吐いたのか。
今考えれば誰か何か言ってもよかったのではないだろうか。
「エンターさんは二階でしたよね。荷物、取りに行きましょうか」
ファイルさんほんと天使。
「はい、お願いします」
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