舐めないでください。私は炎帝ですよ
「エネミーは基地の四階部分に顔を突っ込んでいて、少しずつ中に入ってきているようです! 皆さん、避難してください!」
外に様子を見に行った人が戻ってきて大きな声でそう報告する。
「待ってください。二階には軽傷者や治療が終わった人たちが休んでいます。彼らを避難させなければなりません!」
救護班に人が報告に対し、即座に声を上げる。
「エンターくん。お願いがあります」
そばにいた炎帝がエンターの服の裾を弱々しく摘んだ。
「なんですか?」
「私を三階へと続く階段まで連れて行ってください」
「そんな傷で戦うつもりですか?」
「基地の中に、それも上層階にいるのなら好都合です。この基地の三階から上を丸ごと焼き払います。ちょうど動けなかったところですので、相手から来てくれてよかったです。それにこの建物はコンクリート。火に強そうですし、耐久性もありそうですから、基地という名の檻の中でこんがり焼けてくれるでしょう。」
いや、それでもこんな傷の人に戦わせるのはどうなんだろうか。
この人なんとかしてくださいよ、と助けを求めるようにエンターは先ほど炎帝を怒鳴りつけた人に視線を送る。
「分かりました」
「ええ⁉︎」
いいんですか? という意味も込めてエンターは驚きの声を上げた。
「二階から負傷者を移動させるのに、とても時間がかかるでしょう。その間にあのエネミーが動かないでくれるなんてことはありません。なので、誰かがあのエネミーと戦い、時間を稼いでくれないといけないのは事実です」
炎帝、お願いしますと救護班の人が折れた。
ニヤリとしたり顔をエンターに向けてきた。
「状況は?」
突破された前線で戦っていた人たちが今やっと基地まで着いたようだ。
いつも落ち着いている水帝が慌てた顔でそう言った。
「エネミーが四階部分に突っ込みました。なのでここから避難する予定ですが、二階には治療が終わった人や軽傷者が、一回にはご覧の通り重傷者がいます。彼らを避難させる時間を稼ぐために、炎帝に三階から上を丸ごと焼き払ってもらいます」
「分かった。じゃあ、僕たちも避難を手伝うよ」
そう言って水帝は壁に向かって能力を発動した。
大きな音が鳴るとともに、壁に大きな穴ができた。
「あんな小さい入り口から逃げてたんじゃ時間がいくらあっても足りないからここからも避難させて」
そういうことか。
「ありがとうございます。では、手の開いている人は負傷者の避難をお願いします! エンターさんは炎帝をお願いします」
「俺もついて行く」
そう言って炎帝をおんぶしているエンターを守るかのように雷帝が前に出た。
その雷帝のあとをエンターは炎帝を背負って歩き出した。
「エンターさん、ごめんなさいね。今考えればあなたは一番最初に逃げるべき人でした」
二階へ向けて階段を上がっていると、背中の炎帝がそう言って謝ってくる。
そんな状態で謝るの、やめてくれませんかね。
なんか、遺言みたいじゃないですか。
縁起でもない。
「二人とも死なせねえから、大した問題じゃねぇよ」
雷帝が炎帝の声を聞いてそう言った。
何この人、めっちゃかっこいいじゃん。
これが吊り橋効果というやつなのでしょうか。
「ふふ、エネミーが近づいてきたら頼みますね」
そう言って炎帝はエンターの背中から降りる。
階段を二階まで上がり、目の前には三階へと続く階段があるからだ。
エンターより一歩前に出て、雷帝に並ぶ。
そして、炎を上へと送り込み始めた。
するとしばらくした後、先ほどとは比べほどにならないほどの悲鳴がエンターたちの耳に届き、上からすごい振動が伝わってくる。
物凄い力で暴れているのだろう。
「避難状況は?」
雷帝が重傷者を背負い、下に逃げている人たちに聞いた。
「一階の避難はあらかた終わりました。二階はまだまだ残っていますが、今まで一階の避難をおこなっていた人たちが今度は二階を手伝い始めたので、今から避難スピードは上がると思います」
「了解。ランプ、どうだ? さっきから随分と能力を使っているが、はまだまだ使えそうか?」
「舐めないでください。私は炎帝ですよ」
芯のある声でそう言い切る炎帝。
「だが、だんだんと声が近づいてきているな」
雷帝が警戒するようにそう言った。
「これで殺しきるはずだったのですが、随分としぶといですね」
そう言って階段を見つめている帝たちだったが、予想外の方向から聞こえた大きな音で一気に視線を逸らした。
「天井を突き破って二階に降りてきました!」
「見たらわかる!」
ちょっと苛立ったように雷帝は答えてエネミーの元へと駆けつけた。
「避難状況は?」
「まだ人が残っています!」
「まずいですね。こんなどこに人がいるのかわからない状況では私は能力が使えません。バッテリー君も使いづらいのではないでしょうか」
息を荒くしながら、炎帝がそう言った。
先ほどは強気なことを言っていたようだが、相当疲れているようだ。
「雷帝! 炎帝を避難させ、水帝を連れてきます!」
エンターはそう叫んで炎帝を抱えた。
悔しいが今のエンターにできることはせいぜいそれぐらいだ。
「頼んだ!」
雷帝の声を背中にエンターは走り出した。
「水帝!」
一階に降りて大きな声で何度かそう叫ぶと、水帝がこちらに気づいたようで返事をしてくる。
「どうした?」
「今、雷帝がエネミーと一人で交戦中です。援護をお願いします」
「わかった!」
水帝はエンターの話を聞くと一目散に二階へと走り出した。
どうやら他のエネミーも現れ始めたようで、そちらの相手をしていたようだ。
エンターも炎帝を救護班に預けて二階へと駆け出した。
階段を登る途中、大きな音がまた鳴り響く。
今までも全力で走ってきたが、もっと全力で走るような気持ちでエンターは二階へと急いだ。
すると、壁に大きな穴が開いていて、そこからエネミーの顔が外に出ていた。
帝二人もその穴から外に出たようだ。
おそらくあのままだと能力が使いにくいため、水帝が穴を開けて戦場を室内から野外にしたのだろう。
「これは」
エネミーの頭が外に出ているので、それに伴い胴体もだんだんと外に移動し始める。
その胴体に当たらないように気をつけながらあいた穴から外を見ると、ちょうど真下にエネミーの頭があった。
大きく口を開けたりして二人の帝を威嚇しているが、どちらを攻撃すべきか悩んであまり動いていないようだ。
エンターは刀を抜いた。
エネミーの殺し方は知っている。
ここを攻撃すれば必ず死ぬという弱点があるわけではないが、攻撃をすればダメージは通るし、ダメージを与え続ければ、いずれ死ぬ。
生物の基本と同じだ。
あれだけ能力を当てても死なないのだから、これぐらいどうってことないのかもしれない。
でも、エンターが少しでもダメージを当てることができたら、その分だけあのエネミーが死へと近づく。
どちらにせよ、これだけ俺を世話してくれた人たちが必死に戦っているのを前に、戦力的に何もできないというのは歯痒かったところだ。
やらない理由はどこにもない。
エンターは刀を忍者のように逆に持ち替えて二階からエネミー目がけて飛びおりた。
エネミーの脳天に刀を突き刺すために。
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