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フォールチェイサー(1)


「……んん」


 目が覚めたのは腹が減っていたからだった。ぼんやりとする頭のまま天井を見上げる。リビングのソファで眠っちまった事を思い出し、勢い良く体を起こした。

 起きるにはゆっくり起きようとすると起きられない俺だけに一気に限るぜ。まあ何はともあれ朝だ……。昨日は本当に色々あって、本当に大変だった。

 神埼を家に連れ帰りそうになったり、アンビバレッジと戦う事になったり、なんか思い返すだけでも疲れるな。

 家まで神崎を送り届けて、バイトを代わってくれていた藤原に礼を言い、部屋に戻れば鳴海が居たりして……なんだかもう、一日に色々ありすぎてどうにも。

 で、鳴海は家に泊まって行ったわけだが、どうも朝食の用意をしてくれているらしかった。なにやら朝飯のいいにおいがしてくる。鳴海はダイニングに立ち、朝食を並べている所だった。


「おはよう、響。目が覚めた?」


「……鳴海……。なんか悪いな、飯の支度させちまって」


「これくらいオッケーオッケー! 何しろお姉ちゃんだからね〜。響も相変わらず部屋を綺麗にしているし、いい子いい子」


 俺のエプロンを着用した鳴海が頭を撫でてくる。こいつは人の頭を撫でるのが大好きなんだろーな……。

 ちなみに櫻井夫妻があっちゃこっちゃに飛び回り家に寄り付かなかった所為か、鳴海はがさつなくせに家事全般は完璧にこなせる。まあ勿論、その気になればなのだが。

 今は鳴海は都内で一人暮らしをしていて一度そこにお邪魔した事があるが、部屋の散らかり方はハンパではなかった。まさに突如として都会に出現した魔界である。

 その気になれば、というのはどうにも鳴海としては一人暮らしをしているんだから誰にも迷惑はかけないとめんどくさがってやらないのだ。昔家族で一つ屋根の下で暮らしていた時も、自分の部屋だけはすっちらかってたな。


「それじゃ、アタシは時間がないから先に出るわね」


「え? そんなに早いのか?」


 まだ朝の七時を回ったところだ。学校までは二十分もあれば辿り着けるから、まあ大体八時くらいに家を出れば登校時間には間に合う。俺はまだ結構余裕があるのだが。


「そ。中々お忙しいお仕事なのよ、アタシって。響、寝癖直してちゃんと学校行くのよ」


「判ってるよ……。あんたこそ仕事頑張れよ」


「了解っ! それでは鳴海ちゃんは出勤して参ります! いざさらばっ!」


 敬礼――奴の仕事を考えればある意味正しい――をして笑顔を残し鳴海は部屋を去って行った。自分の朝飯はどうするつもりなんだろうか。彼女が既に食べた痕跡もなく、テーブルには一人分だけしか料理が並んで居ない。

 本当に御節介なやつだ。昨日はあんな時間まで起きていたんだから眠いだろうに、ご丁寧に弁当まで作っておいてある。椅子に腰掛けて納豆を掻き混ぜながら欠伸を一つ。

 ベルサスの画面を覗き込む。ジュブナイルのステータスは通常待機状態を表している。特に以上はなかったらしい。そしてもう一つ、ベロニカと呼ばれたケータイをテーブルに並べた。

 電源の入らない謎のケータイ、ベロニカ。こいつを持っていたのが幼馴染の舞で、舞は何故かこいつを俺に渡した。しかもVSを使うユーザーでもあると来ている。

 俺としては、そんなに深入りをするつもりはなかった。ただちょっと興味があって、そんで神崎がヤバそうだったから関わっただけだ。だが全てが連鎖するようにどんどん事象が引き寄せられているような錯覚を覚える。

 運命……とか言うのだろうか。まあ、詳しい事は舞を問い詰めるしかないのだろうが、それよりも今は神崎だ。アンビバレッジを撃退したんだから、とりあえず身は安全なはずだが……。

 朝食を平らげて制服へ袖を通し準備を済ませる。時間はまだ余裕があったがダラダラしていても仕方が無い。早めに家を出てエレベータで地上へ降りる。

 一階のコンビニ前を横切ると、店内から店長が手を振っていた。何気に毎朝顔をあわせるのでこうして見送ってくれたりする。手を振り返し、少し早足で学校を目指した。

 俺の通う清明学園はメガフロートの北部にある。俺の住んでいるマンションも北部にあるので登下校はかなり楽だ。昨日は遠回りをしてモール街を通過したが、普通に直行する分には徒歩十五分程度だろう。

 清明の制服を着用した生徒たちの肩を追い越して行く。大きな正面門を前に臨む清明学園、そこで神崎が手を振って俺を待っていた。


「響ちゃーん、グッドモ〜ニング!」


「……おはよう、神崎」


 かなり胡散臭い発音だった……。

 何故神埼が門の前で俺を待っていたのか? それはジュブナイルを回収する為――でもあるが、まあ特に何も以上がなかったかどうかを聞く為だ。

 ジュブナイルに異常が無いのだから何かあったはずもないのだが、まあ一応……である。だからそんな嬉しそうにされても、大声で手をブンブン振り回してはしゃがれてもこっちは困るんだが。


「その様子じゃ無事だったみたいだな」


「うん! 響ちんの〜、よくわかんないけど、オマジナイ? みたいなの? 超効いたんだよーっ! マジ、この鏡ハダミハナサズ? 持ち歩くし!」


「そうか……そりゃよかったな。まあ、ちょっといいか?」


 神埼から手鏡を受け取り、その鏡を片手で翳す。鏡面が砕け現れたジュブナイルは俺の前に跪き、ベルサスへと解け消えて行く。


「これでよしと……。とりあえず今日のところは普通に学校だな」


「ねえ響ちん、あのねあのね! 自分コール、かかってこなかったよ!」


「ほー、そりゃよかったな」


「うんっ!」


 昨日はぐっすり眠れたんだろう、神崎の顔色もどこか良くなったような気がする。そしてこの笑顔――。うーん、悪いやつじゃないんだろうか。

 二人してそうして校門を潜ろうとした時だった。何か、違和感を覚えた。何かが視界の端を過ぎったのだ。その正体はわからず、立ち止まって周囲を見渡しても正体はつかめない。


「どしたの?」


「あ、いや――」


 そこでどうして俺は上を向こうと思ってしまったのか。

 真上を見上げる。頭上には小さな点みたいなものがあった。何かが落っこちてくる。その状況の意味が良く判らないまま、神崎の手を掴んで引っ張り寄せていた。

 直後、神崎が立っていた場所の後ろ辺りに何かが落下した。鈍い音、生々しい効果音が響き渡る。そうして何かぬるっとした物が頬に付着し、俺はそれを指でなぞった。

 悲鳴が沸きあがる。俺たち以外にもそれを目撃してしまった人間は大勢いた。そう――“人が空から落ちてきた”のだ。

 神埼は青ざめた表情で震えながら俺の手を握り締めていた。そして俺は自分の頬に付着した血に触れ、全く別のことを考えていた。


「……つめて」


 血ってこんなに冷えてるものなんだろうか? 死体を見やる。どう見てもそれはぐちゃぐちゃになっていた。正面から見据えるとこっちまでどうにかなりそうな気がして視線を反らす。

 これで人が落下死するのを見るのは二度目になる。こんな経験頻繁にあるもんじゃないだろう。喧騒の中、頭上を見上げる。空には輝く蜘蛛の巣のようなものが張り巡らされていた。



フォールチェイサー(1)



「はあ〜……。アタシ、そもそも“ユニフォン”ってな〜んか好きじゃないのよねえ」


 “ユニフォン”――。それは、東京メガフロート内でのみ試験的に発売、運用されている次世代型携帯電話の総称である。

 ユニフォンは通常の携帯電話と同じ機能を持つ他、メガフロートのエリア内でのみ効果を発揮する様々な要素が存在する。逆に、通常の携帯電話を超えた要素を発動するにはメガフロート内でなければならないという事でもある。

 携帯電話としてのユニフォンが登場したのはここ数年。その性能の高さから一気に人気が爆発し、メガフロート内ではユニフォンを持って居ない人間は珍しいほどである。

 メガフロートの外側では使えないユニフォンを、メガフロートの外の住人である鳴海が持っているはずもない。鳴海は新庄のユニフォンを片手に眉を潜めていた。

 そもそも鳴海は響を超える程のアナログ派である。携帯電話は持ち歩いているものの、仕事専用でプライベートではなんの役にも立たない。最早絶滅したのではないかとまで言われている所謂黒電話をどこからか手に入れて部屋においている、そんな人間である。

 新庄のユニフォンを手にしたとしても全く欲しいとかいじってみたいとかそんな気持ちにはならない。ケータイを新庄に手渡し、鳴海は溜息を漏らした。


「でも、メガフロート内での捜査にユニフォンは必須ッスよ? 本部から鳴海さんの分も支給されてるはずじゃないスか」


「あれ、持ってるけどまだ箱開けてないっていうか……」


「ええ!? その段階なんスか!?」


「だって、ユニフォンってなんか……オープン過ぎるのよ。美人のお姉さんには秘密が多いの! 新庄君みたいな若い男子に個人情報ダダ漏れってなーんかヤじゃない」


 ユニフォンの機能の一つに“シンクロニティウェブ”という物がある。これはユニフォンの代名詞とも言えるほど有名な機能であり、それくらいは鳴海でも知っていた。

 シンクロニティウェブ――“SW”や“真ウェブ”等と略されるそのシステムは、ユニフォンでのみ、かつこのメガフロート内でのみ機能を発揮する。

 ユニフォンとユニフォン、ある一定エリア内にある端末同士が自動的に情報をやり取りさせるというシステムで、これが様々な分野で活躍する。シンプルな使用法としては、データのやり取りの効率化、更に処理も他のユニフォンの作業領域を一部分一時的に借りる事により高速化する事が出来る。更にこのシンクロニティウェブは若者ならではの使われ方をしている。

 携帯電話である以上、ユニフォンには様々な個人情報が登録されている。街中でもユニフォンを使えばインターネットにも簡単に、高速で接続する事が出来る上、このユニフォン機能を使う事で大人数がリンクする内容のゲーム機としても扱う事が出来る。

 ゲームだけではない。所謂SNS――ソーシャル・ネットワークサービス、つまり巨大なコミュニケーション装置としてユニフォンは作用しているのだ。

 末端同士であるユニフォンは情報を共有し、シンクロし、拡大していく。鳴海の言う“個人情報ダダ漏れ”というのには弊害があるものの、それはある一面としては的を射ている。

 若者の間ではSNSが流行し、様々なネットワーク・コミュニティが構築されつつある。しかもそれはメガフロート内のみという範囲限定、かつ対象が今どこで何をしているのかさえ判ってしまうようなリアルと肉薄した物である。流行と同時に“メガフロートの裏側”として機能するのにさほど時間は必要なかった。

 人に寄っては自分自身の個人情報をオープン状態にし、範囲内にあるユニフォンからならば勝手にデータを閲覧する事が出来たりもする。これにより初対面の相手でも性格、経歴、趣向などが全て理解出来てしまう。それが若者同士の新しいコミュニケーションとして流行しているのだが、鳴海はそれを毛嫌いしているのである。

 実際個人情報の流出は問題になり犯罪に繋がるケースも少なくはない。それでもユニフォンのシンクロニティ機能は絶大な支持を受けている。新庄ら警察としてもユニフォンの機能は非常に便利なものであり、それがまた犯罪を抑制、早期解決に導く事にも繋がっている。

 様々な面から新しい人間の付き合い方にアプローチを仕掛けているユニフォン。“持っていなければ仲間はずれ”なのだから、持って居ない人間の方が数えるほどしかいない。


「そもそも、データとして他人の事を知れてもねえ……。人間、どうしたってリアルが欲しいじゃない。男女間なら手を繋いだりキスしたり、抱き合ったりしなきゃ実感沸かないし……」


「それがそうでもなくなってるんスよ、最近は。まあ別にそれは時代の流れかもしれないし、いいんスけどね」


「何、アタシは時代遅れって言いたいワケ?」


「そ、そんなワケじゃ!! ただ――だからって今回みたいなケースが出てくるのは困りもんッスよね」


 ユニフォンの機能は新たな問題と犯罪の形を広げて行く。鳴海が――公安警部が態々ここまで出張ってきたのもその為である。

 ある意味鳴海はその先駆けであり、新たなアプローチを計る組織の尖兵でもある。しかし本人にしてみればこんな状況は出来れば御免被りたかった。


「電子ドラッグねえ……。それとここ、何の関係があるわけ?」


 二人の前には所謂ネットカフェと呼ばれている店が聳え立っている。大型のビルの一階を占有するその施設に用があってやってきたのだが、鳴海はまだ状況を詳しく把握していない。

 それもこれもすべては新庄のエスコートに身を任せたからである。訝しげな視線を向けてくる鳴海に新庄は苦笑を返す。


「関係なかったらこんな所につれてこないッスよ……。さあ、とにかく仕事なんだから急ぎまスよ!」


「えぇ〜……? まあ、エアコン効いてるから別にいいけど……」


 この真夏の暑さから逃れられるのならば最早なんでもよかった。確かに考えてみれば店の前でこうして話していても何も始まらない。鳴海は先を行く新庄に続き、ネットカフェの自動ドアを潜った。



 校門での朝の事件は、物凄い騒ぎに発展した。それもまあ当然か……。空から行き成り、生徒が落ちてきて死んだんだから。

 辺りは騒然となった。死を目前で垣間見てしまった生徒達は精神的に不安定になり、病院に運ばれた子も居た。当然のように学園は今日のところは休みとなり、残りの情報は追って連絡が伝わる事になった。

 神埼は目の前で死を見てからぱったりと口数が少なくなってしまった。俺も何をどう発言すればいいのか判らず、口を閉ざしている。


「しかし、とんでもない事になったな……」


 というのは氷室の発言だ。神崎に氷室、それから藤原……。昨日集まったのと同じ顔ぶれで俺たちは学園傍のファストフード店に入っていた。

 店内は明るい雰囲気のヒップホップが流れているが、俺たちの空気は暗い。学校であんな事があったのだから、暗くて当然なのだが。


「……今回の件、また“落下死”……。神崎と関係は……」


 氷室の言うとおり。何に暗くなっているって、それが他人事じゃないからなのだ。この落下死が“続き”なのかもしれない――その可能性が俺たちに影を落としている。

 実際俺は空に張り巡らされた糸を見ている。あれがアンビバレッジの糸であるのならば、ビルに囲まれたこの清明学園の上空に巨大な網を張る事は不可能ではないのかも知れない。だが、今回の件……色々と納得の行かない事が多すぎる。


「今回死んだ生徒は“男子”だったそうだ。誰だったのかまではまだわからないが……神崎とは無関係な人間かも知れない」


「氷室、それは……。そりゃ、どういう事なんだ?」


 条件付けの該当から外れている。神崎の関係者――いや、狙われているのは神崎だったはずだ。だからアンビバレッジは神崎を襲いに現れたじゃないか。

 それがどうして全く関係のない人間を殺す……? 神埼はここにいるのに、どうして神崎を襲わない!?


「ターゲットが神埼ではなくなったのかも知れん。それに今回は上空から落ちてきた……。“飛び降り”というレベルの問題じゃない。まさに空中にふわりと現れて落ちてきたんだ。怪奇現象だろう、文字通りの」


 そう見えるだろう。氷室にも藤原にも――神崎にも。見えているのは俺だけだ。だから俺だけが誰が殺したのかをわかっている。どうしてそうなったのかも――察しはつく。


「リアル怪奇現象キターって言うところやけど、マジに怖いわあ……。狙われとんのが神崎やないなら、ワイらじゃどうしようもあらへんがなー」


 藤原の言うとおりだ。俺たちの護衛は対象が神埼一人であって始めて成立する。神崎以外が狙われるようなら――しかもそれが無差別なら、俺たちにはどうしようもない。

 そしてその責任の一部は俺にもきっとあるのだ。それが判っているだけに歯がゆい……。神崎は心底落ちこんだ様子で、せっかく奢ってやったハンバーガーに手をつける気配もない。


「実は昨日、俺なりに一連の自殺を調べてみたんだが……」


「何か、判ったのか!?」


「ああ。今回の連続自殺事件――五件ではなく、“四件”だったのかも知れない……そういう見解があるのは知っているな? 理由は一件目の自殺の時期が二ヶ月前の五月という事もあり、その死に方からしても別件であるという可能性があるからだ。尤も、噂としては五件になってくれたほうが盛り上がるから、俺は五連続派なんだが……」


「判ったから要点を話せよ!」


「この一件目で自殺した女子は、神崎の“取り巻き”ではなかったらしい。自殺したのは“榛原陽子”……神崎、お前と同じクラスの女子だ」


 その名前を聞いて神崎はゆっくりと顔を上げた。どうやら聞き覚えがあるらしい。氷室はそのまま言葉を続ける。


「榛原は間違いなく自殺だった。理由はクラスメイトからのイジメだったらしいが、結局それは公にならなかった。榛原は校舎の屋上、フェンスを飛び越えて自殺したらしい。それから二ヶ月経って、不審な連続自殺事件……しかも今回のは学園の上空から人が振ってきたと来ている」


「…………まじ? それ……幽霊、やんか……」


 藤原の血の気の引いた苦笑と共に放たれた一言で場が凍り付く。そうだよな。まあ、そう考えるのが妥当だよな。

 イジメを苦に自殺した女子生徒が二ヶ月たってバケて現れ、自分を虐めていた連中を次々に落として殺して行く。自分と同じ死に方をさせようとしているあたり堂に入っている。

 噂としてはこれ以上ないくらいに良く出来ているだろう。氷室としてもその結論に辿り着いたらしく、真面目な表情で神崎に言う。


「お祓いでも受けてみたらどうだ?」


「ちょ、ちょっと待ってよ! エリス、マジイジメとかしたことないし! そーいうのカンケーないし!」


「本当に関係ないのか? お前とお前の取り巻き、そういう評判なんだぞ」


「なにそれ!? ぜんっぜん意味わかんないし! なにそれなにそれっ! エリス悪くないもん! 何もしてないもんっ!!」


 そういわれたところである意味自業自得……そんな空気が俺たちの間には流れ始めていた。エリスもそれを感じ取ってか、悲しそうな表情で視線を反らす。


「ちゅーか、ヒム? だったらなんでやねん? 余計にわからへんがな。なんで神埼を狙わへんのや。神崎落すんが目的なら、さっさとそうすりゃええのに」


「――俺たちが神崎を護衛しているからだよ」


 そう告げ、俺はコーラを一気に飲み干した。そうだ。そうに決まっている。あの野郎――神崎が殺せないから、神崎じゃなくてもいい。兎に角殺しまくるつもりなんだ。

 結局それが一番神崎を苦しめる事になる。神崎は既にそれで苦しめるくらいに状況を把握しつつある。それは俺たちが神崎にこんな話をしているからだ。

 俺たちの存在――特に俺が神埼を余計に苦しめこの事件を拡大させている原因を生んでしまっている。ジュブナイルが護衛についていたから手出しはしてこなかった。だから暇な一晩を使って別の人間を殺した……。

 校門の上に吊るしたのも、そこで俺たちが死を目撃したのも偶然なんかじゃない。神崎と俺が来るのを待っていやがったんだ――!


「おい響! どこに行くんだ!」


 立ち上がり、店を出ようとする俺の腕を氷室が掴む。振り返り、俺は三人を見渡して言った。


「この連続“殺人”が幽霊の仕業だっていうなら、その幽霊を俺が止める」


「キョウ、何いっとんねん……お前あれか? 霊能力者か!? そんなん出来るわけないやろ!」


「藤原の言う通りだ。相手が幽霊では、探すのならばそれ相応の装備が必要であってだな……」


 いやいや、お前も探すつもりだったんじゃねえか。つーかお前の装備は胡散臭すぎて信用ならねえんだよ。


「お前らは神崎を頼む。俺は何とかしてその死んだ榛原を見つけ出してみせるさ」


「おい、響!」


 三人を残して家を出る。兎に角走り出したが後の事は考えて居なかった。

 榛原陽子……。まずはその家に行って見るか。とは言え榛原の家がどこにあるのかは全く判らない。ので、榛原の住所を調べる事にした。

 ベルサスを取り出してシンクロニティウェブにアクセスする。榛原陽子という名前の人間をサーチすれば、どこかに存在の痕跡が残っているはずだ。

 真ウェブは滅多に使わないが、その情報調査能力は絶大だ。人から人へ、出来るだけ大勢人間が居る所で使うほど効果を発揮する。どうせみんな情報はオープンにしてるんだ。そういう風潮があるからな。

 人通りの多い場所に向かって走りながら真ウェブで榛原の情報を検索し続ける。これ以上なんかあったら俺の所為って事にもなる。もうこれ以上、好き勝手にはさせない。


「アンビバレッジをぶっ倒す……!」


 それでこのワケのわからん事件も全て終わる。人の行き交う雑踏へと、俺は真っ直ぐに駆け込んで行った。


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