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慟哭(3)


 瑠璃の翼から放たれた閃光が重力の壁に拒絶され、あちこちに飛散する。第四電波搭地下施設の中、再び対峙する舞と鶫の姿があった。

 けたたましく鳴り響くアラートの中、二人はそんな物気にも留めずに睨み合う。二人がこうして一対一で戦う状況になっているのには勿論理由があった。

 鶫にしてみれば、残り二人を先に進ませる事で目的を達成できればそれで良し。舞はそれを追わねばならないのだが、間違いなく最強クラスの所有者の一人として数えられるであろう鶫をやり過ごす事が出来ないで居た。


「――今度は本気でやってくれるんですよね? 舞さん」


「……昨日も言ったでしょ? あたしはいつでも本気よ」


「今の舞さんを見ている……イライラします。多分私――舞さんの事、嫌いです」


「それは同感よ。あたしもお嬢さんの事は最初から気に入らなかった」


 舞は思い出していた。おどおどして、びくびくして、世界中の人々の目から逃れるようにして生きていた鶫。自分では何もしようとしないくせに、誰かの所為にばかりして不幸に服従していた鶫……。出会った時から感じていた。そもそも性格的に相容れないものなのだ。

 鶫もまた思い出していた。常に凛々しく、雄雄しかった舞。自分に自信を持ち、輝いていた。可愛くて、かっこよくて、何より響に頼られていた舞……。自分の居場所を奪ってしまうようで、それが恐ろしかった。

 でも二人は確かに感じていたのだ。お互いにお互いの気持ちを。確かに正反対でも、そこには奇妙な絆があった。どんなに目的に相違があっても、居場所に対する想いが違っても、それでも二人は同じ時を過ごしたのだから。

 そう、嫌いになんてなれるわけがない。もしも今、嫌いだと口に出来るのならば。それはきっと嘘か、或いは今の相手に納得出来ないに過ぎない。鶫は今の、迷いを抱えて胸を張れない舞を見たくなかった。そして舞も今の、自分の行動に自信をと責任を持っている鶫を見るのは耐え難い事だった。

 どこかで似ているからこそ、似ていたからこそ、二人は互いを受け入れる事が出来ない。尊敬していた――。可愛らしいと思えた――。でも今は、全てが擦れ違う。

 ディアブロスが突進を開始する。舞もそれに続いて走り出した。ディアブロスが拳を揮い、大地が砕ける。鶫は翼を畳んで跳躍する。空中を回転しながら放たれる閃光の雨をディアブロスが腕を翳して防ぐ。その隙間を縫うように素早く前進した舞がディアブロスと同時に鶫に攻撃を仕掛ける。反撃の光の翼を見切り、舞はバック転で回避する。同時にディアブロスが前進し、重力の波動で鶫を弾き飛ばした。

 ディアブロスそのものの能力だけが舞の力ではない。ネガティブタイプのVS所有者としては異質なまでの所有者の身体能力と精神力、それが舞の最大の武器である。隙の多いディアブロスの動きを舞は制御し、コンビネーションで攻め込んで行く。


「どうして逃げるんですかっ!? 自分で櫻井君を殺そうとしないのは、本当は向き合うのが怖いからでしょうっ!!」


 レーザーの雨を掻い潜る。激しい攻防の中、二人はゆっくりと流れる時間を共有する。飛散する汗も、高鳴る鼓動も、全ては今を懸命に生きている証――。


「あたしは……ッ!! ただ、奏を助けてあげたいだけっ!! 奏はいつも一人だからっ!! あたしが一緒にいてあげなきゃ――!! あたしが傍に居たいのは響じゃない! 奏なのッ!!」


「――――貴方って人はっ!!!!」


「ディアブロスッ!!」


 両腕を広げた鶫が全身から光の矢を放つ。無数に折り重なってあらゆる方向から降り注ぐ光の雨を掻い潜り、舞は踊り出る。巨大な掌の中、ディアブロスが生み出した重力の塊が放たれた。鶫はそれを束ねた閃光で迎え撃つ。地下の空間に、巨大な衝撃が走った――。


「――奏っ!!」


 舞と鶫が戦うその先、シャフトコントロールルームに奏と向かい合う鳴海と志乃の姿があった。奏は鎖のVS、“オルタナティブ”を展開する。それに呼応して二人も戦闘状態へと移行した。


「やあ、鳴海……。志乃も一緒か。こういう偶然もあるものだね。全員、あの時一緒だった面子だ」


「奏! 意味の判らない事を言ってないでそこを退きなさい! アンタと戦いたくないわ……ッ!」


「僕が退かなかったら、どうするんだい?」


 直後、鳴海は引き金を引いていた。放たれた弾丸は自動的に動いた鎖によって叩き落される。額目掛けて打ち込まれた弾丸だったが、奏は顔色一つ変える事はなかった。


「こっちも遊びでやってるんじゃないのよ。鳴海機関が関わっているんでしょう?」


「その通り。VSは鳴海機関の研究成果さ。それを持つ人間を“超能力者”にする魔法の道具……。“VSアプリケーション”とは、鳴海機関が出した一つの答えなのさ」


 鳴海は目を見開き、引き金を引く。銃口から連射される弾丸を奏はその場から一歩も動かず鎖で叩き落して行く。鳴海は二丁の拳銃を連射しながら奏に駆け寄り、回し蹴りを放った。鎖で防がれた一撃ではあったが、直後鳴海の瞳が輝き鎖はぐるりと捻れて吹き飛ばされる。


「……不思議な能力だ。“ツイスター”とでも名づけようか?」


「ふざけないで!!」


「奏、君は何をしようとしてるんだ? どうして響と戦う……? 君はあんなにも響を大事にしていたのに……!」


 志乃の言葉に奏は眉を潜めた。鎖の束が鳴海に絡みつき、その身体を放り投げる。頭から落下しそうになる鳴海を志乃がレクレンスで受け止め、再び間合いが大きく開いてしまった。


「志乃……。お前は僕の気持ちを理解出来るはずだ。記憶さえ失っていなければ、ね」


「記憶……?」


「鳴海もそうだ。みんな忘れてしまっている。響さえも……。鳴海は覚えているんだろう……? “京”の事を」


 その名前に鳴海は眉を潜めた。何の事だか判らない志乃は戸惑い、その志乃の表情を見て奏は小さく微笑んだ。


「志乃。お前が友達だと思っているのはあいつじゃない。僕が本当の家族のように思っていたのは――。本物は“京”。鳴海、貴方の実の妹だ」


 奏の指摘に鳴海の中に思い出が蘇る。櫻井鳴海には確かに一人、歳の離れた妹が居た。両親はあろうことか研究の検体として二人の娘を差し出した。そう、二人には非常に高い超能力適正が眠っていたのである。

 特に妹は姉に比べても非常に優秀であり、様々な超能力を持っていた。未来を読み、過去を感じ、五感では得られないものを知った。あらゆる超常現象に通じ、触れる事も無く人を殺す事さえも出来た。

 妹の名は、京。櫻井京――。鳴海はその名前を思い出すだけで気持ちがぐらぐらと不安定になるのを感じていた。理由は簡単だ。櫻井京は――。


「死んだ――と、そう思っているんだろう?」


 奏は笑う。鳴海は眉を潜めた。銃を握り締める指が震えている。自分でも判っていた。鳴海はその事実を認識する事を恐れていたのだ。


「そんな……。まさか、生きていたの……?」


「そもそもどうして死んだと思っていた? 死んだところを見たのか? 確認したのか? 誰がそれを肯定したのか――」


 奏は肩を竦め、額に手を当てる。そうして低く笑いながらゆっくりと顔を挙げ、叫んだ。


「みんな忘れているっ!! 実の姉であるお前さえもだっ!!!! 何故忘れる!? 一番覚えていなければならないのは櫻井鳴海ィッ!! お前だったはずだっ!!!!」


「忘れて、いる……?」


「都合良く改竄された情報を信じ、都合良く忘れて生きて行く……!! お前たちは自分たちがどれだけ罪深い存在であるかも忘れッ!! 京の事を忘れて生きて行くんだッ!!!! 僕は……認めない!! 櫻井鳴海……! あんたも! 響の事もッ!!」


「忘れているって、何を!? アタシは……っ!? 何を忘れてるの!?」


「世界の思い出の中でまた会えるさ……。さあ、鳴海――!! お前もシステムの一部に変わってしまえ!! 全てを思い出に委ねてッ!!」


 奏の周囲に渦巻く無数の鎖が音を立てて動き出す。鳴海はそこに銃を連射するが、効果は全く見られなかった。

 最早あのVSに対してVS用の試作銃では意味がない事は明確だった。鳴海は自前の実銃を手にする。安全装置を外し、構えた。もう迷っている場合でない。覚悟を決めなければならないだろう。


「志乃君、行くわよ……!」


「そんな……。戦うしか、ないんですか……?」


「……大丈夫よ。罪ならばアタシが背負う。だから今は――奏ッ!!!!」


 奏が片手を差し伸べる。それに操られるように鎖の蛇が動き出した。猛スピードで突っ込んでくる鎖の雨の中、鳴海は銃を片手に飛び込んで行く……。



慟哭(3)



「――いいのか? それを壊してしまって」


 ジェネシス本社ビル地下。電波搭と同じくユニフォンを管理する設備がそこには存在している。全てのユニフォンのデータが収束する、マザーシステムコンピュータ。通常、“ダークマター”がそこには眠っていた。

 広大な部屋の中心、まるで樹木の根のように部屋中を浸食し飲み込むケーブルの中、ダークマターは眠っている。その前に立ち、剣を携えたライダーに声を投げかけたのは氷室真琴であった。


「奏は少なくともこの世界を良くするために動いている。君を助けるために、ね。それを壊す事は彼の願いに釘を打つ事だ。全ての想い出を断ち切って」


 振り返り、ライダーは悲しげに真琴を見詰める。真琴はライダーの隣まで歩み寄り、ダークマターの冷たい鉄の箱に触れた。


「君はその気になれば、いつだってここに来る事が出来た。終止符を打ってしまうのは簡単な事だったはずだ。それでもここに来ないで響と一緒に居たのは……もしかしたら未来を変えられるかもしれないと考えたからなんだろう? “対岸の来訪者イレギュラーセイヴァー”」


 ライダーは俯く。そう、彼女は“この世界の人間”ではない。手にしたベロニカシステムで、今までこの世界に渡っていたに過ぎないのだ。櫻井響が対岸へ向かい過去を改竄したように――。ライダーもまた、決まってしまった未来を嘆き、それを正そうとこの世界にやってきた。

 すべてを終わらせてしまうのは確かに簡単な事だった。ベロニカシステムを手足のように自由自在に操れるライダーは、己の存在さえも一瞬で改竄出来てしまうのだから。場所の情報を書き換えて、ここまで全ての警備を掻い潜って一発でやってくる事が出来た。だが、それは本当に最後の手段であるべき事なのだ。

 響がそうしたように、一つ一つ。一生懸命に言葉を重ね、思いを交わし、未来は変わって行く事だから。それが間違ったことだと知っていても、ライダーは響を手伝ってあげたかった。自分もまた、彼と同じ気持ちでここにいるから。


「響と一緒にいて、響を守って……。出来れば彼を運命から救ってあげたかったんだろう?」


「どうして、それを……?」


「簡単な推理さ。だが君はいよいよ奏と響が戦う事になってそれが恐ろしくなった。自分には変えられないんじゃないか……そう不安になった。だから全部台無しにするためにここに来た……違うか?」


 ゆっくりと剣を降ろし、ライダーは肩を震わせた。小さな身体が崩れ落ち、コードの海に膝を着く。そんなライダーを見下ろし、真琴は目を瞑った。


「響は……どうなったんだ?」


「…………。死んじゃった。わたしの、所為で……」


「この戦いの結末はどうなる?」


「全員、死ぬ……。わたしの……“ダークマター”の所為で……っ」


 ライダーは泣いていた。ずっと押し殺していた寂しさと苦しさ、罪の意識にもう耐えられそうもなかった。このままでは同じ未来が繰り返されてしまう。自分の所為で大勢の人が死ぬ事になる。そんな事だけは、もう絶対に嫌だった。


「わたしは、響の事が好き……。響に死んで欲しくない……」


「だからこうするしかない……か?」


 真琴は屈み、ライダーの肩を叩く。涙を流しながら顔を上げたライダーに、真琴は優しく微笑みかけた。


「まだ決まったわけじゃない。諦めるのはまだ早いと、そう思うぞ。今出来る事を精一杯やるんだ。響はいつだってそうやって生きてきた。あいつと向き合うなら……君もその義務を果たせ。“ノブリス・オブリージュ”」


「…………」


 ライダーはゆっくりと立ち上がり、涙を拭った。それから上目遣いに真琴を見詰め、ぺこりと頭を下げた。そうして一瞬で姿を消し――そこに少女が居たという痕跡は全てなくなってしまっていた。


「…………可愛らしいな。あんな子を泣かせているようでは、この世界も間違っていると言えるのかもしれないな――」



 美琴と隼人の戦闘は明らかに美琴優勢で続いていた。片腕を奪われ、隼人は時間の経過と共に体中の骨が砕けて行く呪いを受けている。サマリエルはそもそもダメージを与えられる箇所が圧倒的に少なく、倒すにはそれこそ凄まじい力で粉々にでもする必要があるだろう。

 だが、隼人にはその手段が存在しない。ドッペルゲンガーは隼人が実際に目にしたVSと所有者の能力をそのまま再現する力を持っているが、見たことのないVSに関してはまったく再現のしようがないのである。

 パワータイプのVSといえば真っ先に思い当たるのが響のジュブナイルであったが、ジュブナイルは何故かどんなに真似しようとしても再現する事が出来なかった。結局隼人に出来る事はそう多く残されては居ない。


「まだ諦めずに向かってくるその勇気は賞賛に値しますわ。でもそれは勇気ではなく、無謀と言うのでしょう?」


 勝敗は最早決したと言えた。必死で考え込む隼人であったが、次の瞬間左足がごきりと音を立ててねじれた。膝が滅茶苦茶な方向にねじれ曲がり、骨が肉を突き破る。

 立っている事も出来ずに倒れこむ隼人にドッペルゲンガーの変身能力も消滅してしまう。隼人はあまりの痛みに目尻に涙を浮かべながら美琴を見上げていた。


「……良く見たら貴方、同じ学校の生徒でしたのね」


「氷室さん……! もうこんな事止めてよ……っ! 何をしているのか判っているの!?」


「勿論ですわ。それでもわたくしにとって退屈に対する恐怖に勝る感情はありえませんの。さあ、大人しく止めを受け入れなさい……!」


「そういうわけには、いかない……っ!! ぼくはっ!!」


 最後の力を振り絞り、ドッペルゲンガーを発動する。鶫の姿に変身したのは当然、ネガティブタイプのVSでなければ動く事さえままならないからである。光の翼を背負った蝶、アンビバレッジの姿に変身したドッペルゲンガーは光の矢を放つ。サマリエルに防がれる事は計算済だった。本当の目的は――氷室美琴本人にあったのだから。

 アンビバレッジが美琴を背後から羽交い絞めにするのと隼人の肋骨が折れたのはほぼ同時だった。アンビバレッジを自力で振りほどく事の出来ない非力な美琴の表情に焦りが浮かぶ。アンビバレッジは翼の粒子から生み出される蛍のような光を放つ虫を美琴の肩に付着させた。


「その虫には、相手を操作する能力がある……。同時に……相手に自分の気持ちを伝える能力もあるんだ……」


「くっ! わたくしを操るつもり!?」


「違うよ……。言ったでしょ? 君を戦わせたくないから、ぼくはここに居るんだ。何故なら、ぼくは……っ」


 それは一か八か、一発逆転の切り札だった。というよりは、隼人らしくない部の悪い賭けである。響ならばもしかしたらそんな手を使ったかも知れない。それは、自分には考え付かないような突拍子もない事で活路を見出そうとする隼人の、一発逆転の攻撃だった。


「ぼくは、君の事が好きだっ!!」


「――――ッ!?」


 その言葉と同時に想いがアンビバレッジの虫を通じて美琴に流れ込む。それがどれだけ本気であるかという事、人を好きになるという気持ち、ここまで美琴を助けたくてやってきたのだという強い想い――。純粋な好意の洪水に美琴の顔が見る見る真っ赤に染まって行く。

 突然の出来事に美琴は完全にフリーズしていた。当然、サマリエルも棒立ちになる。その瞬間美琴の手からアンビバレッジがユニフォンを奪い、電源を落としてしまった。


「あっ!?」


 当然、サマリエルは消えてしまう。となれば当たり前のように呪いの効果も消失する――。アンビバレッジからユニフォンを受け取り、隼人は苦笑しながら溜息を漏らした。


「これでもう、君は悪さが出来ないね……」


「な、な、なあっ!?」


「――櫻井さんっ!! こっちは終わりました!!」


 うさぎと響は戦闘中のポーズのまま停止し、隼人の方に聞き耳を立てていた。まさかそうくるとは思っても見なかったので、二人とも思わず固まってしまったのである。

 停止していた時間が動き出すと同時にジュブナイルの拳がうさぎの顔面に減り込んだ。吹っ飛んで行くうさぎを見送り、響は振り返る。


「ケイト、終わったか!?」


「完了した! 隼人君の告白劇のお陰で時間が稼げたからな……!」


「だったらずらかるぞ!! あのうさぎ不死身なんだよっ!! あとはこの――ッ!!」


 機械類目掛け、容赦なくジュブナイルが拳を叩き込む。一気に爆発した計器類を背に響とケイトはその場を離れて行く。

 逃げながら隼人を背負い、響とケイトは部屋から脱出して行く。ユニフォンを奪われたままの美琴は何も出来ず、そのまま三人を見送る事しか出来なかった。


『イタタタ……。ヒドイナア、モウ』


「……何してますの? 早く追いかけなさいっ!! これは命令よ!! この、不細工――ッ!!!!」


 美琴の絶叫にうさぎが慌てて走り出す。背後から追跡してくるうさぎに気づいた響が曲がり角を曲がり、同時に大地に手を着いた。情報を変換し、曲がり角に壁を作る。ダッシュで曲がってきたうさぎが壁に正面衝突し、吹っ飛ばされる音に響はニヤリと笑みを浮かべた。


「このまま逃げ切れそうだな」


「エレベータだ!」


 ケイトの声に響はケイトの手を掴んで一気に加速する。ケイトは殆ど引き摺られるような、引っ張りこまれるような形でエレベータまで連れて行かれてしまった。二人を抱えた響は地上へのボタンを押し、エレベータが見る見る上がって行く。

 地上に着き、響たち三人は電波搭の麓に出た。直ぐ目と鼻の先に夜の海が広がる中、響たちはようやく足を止めて一呼吸。


「ふう……。なんとか逃げ切れたか――!?」


 と、呟いた次の瞬間電波搭からの照明で周囲が明るく照らし出された。待ち構えていたのは白い騎士、ノブリス・オブリージュだった。しかしそれは願ったり叶ったり。響は隼人をケイトに任せ、武装して前に出る。


「――エリスを返してもらうぜ、ノブリス・オブリージュッ!!」


 白い騎士は無言で移動を開始する。騎士が剣を展開し、響を迎え撃つ。二つのシルエットは長く伸びる影の下、夜の闇に衝突した――。

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