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自分コール(2)

「……それは兎も角、俺は毎日バイトがあるんだぞ? 神埼と行動を共に出来ないんだが」


「うむ、それは問題ない。藤原がお前の代わりに働くからだ!」


「そうそう、ワイが代わりに――って、何でやねん!?」


「これも一種のチームワークというやつだ。そもそも神埼は響にしか従わんだろう? 響を自由にしてやる事こそ神崎を守る事に繋がるのだ」


「な、なるほど……そういわれると、なんかそんな気がしてきた」


「藤原、アリガトー」


 こうして藤原は一人屋上を去って行った。なんというか、まあ、俺はバイトしなくて済むなら別にいーんだけどね。

 神埼は昔ウチのコンビニでバイトしていた事もあるし、適当にバイト先には連絡しておこう。藤原がタダ働きしてくれるならそれに越した事はない。

 それから俺と氷室、それから神崎の三人で学園を出てモール街を歩く。途中には噴水を囲むようにして休憩スペースがあり、俺たちはそこのベンチに腰掛けた。

 周囲には学校帰りの生徒達も多く、人通りもある。夕飯の買い物に急ぐ主婦や学生たちでごった返しているから、人目には困る事はない。

 神崎は疲れた様子で溜息を漏らして俯いていた。氷室は先ほどからずっと神埼のケータイを自分のケータイ、それを両手に持って操作を続けている。


「氷室、何か判ったか?」


「さっぱりだ。神崎、今日はかかってきたのか?」


 神埼はゆっくりと首を横に振る。そもそも今日は電源を切っていたみたいだし、かかってきていても電話に出る事はなかっただろう。

 俺だって授業中は基本的には電源を切るようにしている。勿論忘れている事も多々あるが。そもそもメールも電話も頻繁にはかかってこないからなあ。


「神崎は自分コールの噂についてどれくらい詳しい?」


 氷室は立ったまま、座っている神崎にケータイを返して問いかける。神崎はケータイを上着に閉まった後、前髪を弄りながら上目遣いに語りだした。


「エリス、あんまり噂とかど〜でもいいっていうか……そんな詳しくはないっていうかぁ……。だって所詮噂は噂だし、だから何ってカンジじゃない?」


「どうでもいい、だと……?」


 複雑な表情を浮かべる氷室。神崎は唇を尖がらせたままブツブツ文句を垂れている。氷室の“噂語りスキル”が暴発する前に俺は横槍を入れた。


「でも、自分コールだって事は知ってたんだろ?」


「うん……。だってぇ、エリスの“お友達”はみ〜んな自分コールを受けたって言ってたから」


 神崎の言うお友達――つまりは神崎の取り巻きたちの事だろう。その取り巻きたちは自殺する前に自分コールを受けていたのか。


「何てコールが入ってるのかは、けっこーみんな違ったみたいだけどぉ……。でも、自分コールがあってから数日後には……」


「…………自分コールは“お告げ”みたいな物だと言うのが一般的だ。だが、お告げにも色々あるだろう。悪意的なニュアンスのあるお告げを受けると、害を及ぼすのか……? 興味深いな」


 流石氷室、神崎の身よりも噂の方が気になっていると見える。まあ実際氷室にとっちゃまだ今回の件は信じるか信じないかギリギリのラインなんだろうな。

 確かに連続自殺事件は実在している。だが自分コールとの関連性は薄い。仮に自殺した女子が全員死ぬ前に自分コールを受けていたとしても、それを証明する方法はない。

 神埼の憔悴具合は現実的だが、人間の心は結構ヤワだ。神崎の思い込み――そういうもので勝手に苦しんでいる可能性だってゼロじゃない。氷室は色々な可能性を考えているのかも知れない。

 だけど俺にしてみれば最早そういう段階はとっくに超えている。実際に俺はあの化物を見たし、人が死ぬところも見てしまったんだ。そうである以上、神崎が全ての中心にいるような気がしてならない。


「今までの自殺事件と自分コール……神崎は関連性があるって思ってるんだろ?」


 神埼は小さく頷く。得体の知れないモノが相手だからこそ神崎はビビっているんだろう。相手がマトモならやりようはある。だが、マトモじゃなければどうしようもない。


「自殺した連中が何で死のうと思ったのか心当たりはないのか?」


「ないよ……。別に、みんなフツーだったし……」


「本当にか? 神埼、隠し事は無しだ。こっちも判る事が判らなきゃ、どうにも出来ないぜ」


「隠し事なんか……!」


 そう口にする神崎の様子はどこかおかしいようにも見える。どうにも神埼には心当たりがあるような気がするんだが……。


「響、一先ず状況を整理してみよう」


 氷室はケータイをポケットにしまってベンチに腰掛ける。俺と氷室は神崎を挟んで反対側に座る形になる。


「自殺した女子たちの共通点は“自分コール”を受けた事。そして“神崎の関係者”である事だ。この二点からして、次の被害者として神崎が対象となる可能性は極めて高い。両方の条件を満たしているからな。が、“被害者”という解釈には難点がある」


 そう、これはあくまで現在は“連続自殺事件”なのだ。自分コールとの直接的な関係はなく、関係性を憶測しているだけに過ぎない。

 だがもしもこれらが“第三者の手による殺人”なのだとすれば話は変わってくる。そう仮定するだけで全ての辻褄が合ってくる。だが、どちらにせよ自分コールと奇妙な自殺の接点は見えず、その手口も不明だ。


「……神崎、今日のところは響の部屋に泊まれ」


「はあっ!? なんでだよ!?」


「いいか? 今回の事件が何故連続自殺と銘打たれているのかを考えてみろ。死んだ女子は全員ビルの屋上からの飛び降り、だ。全員だぞ? おかしいだろう」


 例えば、一人の生徒が屋上から飛び降りたとする。それが自殺だったのならば不自然はない。しかし、そんな事があってまた同じく屋上からの自殺が起きた。

 他の生徒はどうする? 屋上に近づきたがるだろうか? 不気味な死の連続、そしてその兆候が自分にも現れている。結果的に死んだ五人のうち何人が“死にたい”と思っていたのか。仮に死にたくなかったのならば――自ら屋上などに出向くだろうか?


「こんな仮説はどうだ。自殺者たちは、自らの足でビルの階段を上って行った。実際そういう目撃情報もある。そしてビルの屋上から自分で飛び降りた。これは明らかな自殺だ。だが、これが“自分の意思で行われていなかった”としたら?」


「……それは」


 まさに怪奇現象だ。

 無意識のうちに徘徊するなんて事は確かに全くありえないわけじゃない。だが、全員揃ってビルにふらりと上って、ふらりと飛び降りて行くんだ。そんな事あるかよ。


「そう、まさに怪奇現象だ。だがここで怪奇現象――自分コールが関わってくるとしたら?」


「や、やめてよ! 何それ……!? サイアクじゃん……っ」


「神崎を一人にしておくのは危険だという事だ。いつ如何なる時も……神崎、お前がお前で居られる保障などないんだからな。誰かが傍に居れば、少なくとも自分の足で死にに行く事はなくなるだろう?」


 原因は兎も角、確かに氷室の言うとおりだ。誰かが常に傍に居る――それだけで少なくとも“連続自殺事件”はここでストップさせる事が出来るだろう。

 しかしだからって俺の家にコイツを連れて帰るのか……? 一晩泊めろって、だって解決するのがいつになるのかもわかんねえじゃねえかよ。


「誰か家族と一緒にいたりは出来ないのか?」


 苦し紛れに質問するが、神崎は唇を噛み締めて首を横に振るだけだった。何だか余計な所に足を踏み入れてしまったんだろうか。どこか不機嫌そうだ。


「俺はこのままもう少し今回の件を調べてみる。響は神崎を頼む。腕っ節なら俺よりもお前の方が強いだろう。神崎がどんなに死にたがろうが、腕力的に響は振りほどけん」


「まあ、そりゃそうだろうけどよ……。マジか? マジでなのか?」


「……響ちん……」


 神埼は今にも泣きそうな顔でこっちを見ている。確かに氷室の言うとおりだ。とりあえずこれで……これで事件を停止させる事が出来るんだけど!

 

「……判ったよ。連れて帰りゃいいんだろ!」


「ほ、ほんと……!? やったぁ、ありがとー響ちゃん!!」


 飛びついてくる神崎にうんざりしながら氷室を見やる。氷室の思考はすでにここにあらず。この様子なら、名案を引っ提げて来てくれるだろうか? 淡い期待を寄せるしか今の俺に出来る事はないわけだが――。



自分コール(2)



「こうして二人で歩いてるとぉ〜、デートしてるみたいだね〜」


 そんな神崎の発言にうんざりしながら俺たちはモール街を移動する。

 神埼エリス……。確かに俺は先週こいつとデートのようなものをしたわけだが、確か俺たちその時喧嘩別れっぽい形にならなかったっけ? なんでこいつもうケロっとしてるんだろうか。まあ別にこっちも気にしちゃいないんだけどよ。

 確かに神崎が面だけはいい。金も持っているし、彼女にするには都合がいい。実際神崎狙いの奴は山ほど居る。だが同時に神崎嫌いもそれ以上に多いのだ。

 実際神崎の態度は目に余る部分が多い。“自分が正しくて最高”だと、心の底から思っているらしい。良くも悪くも天然で、本人に悪い事をしているという意識は存在しない。

 だから何をやっても罪悪感を感じないし、悪いとは思わないらしい。怒られればふてくされ、自分は悪くないと捻くれた答えを返す。神崎はそういう子供みたいな人間だ。

 その神崎は何故俺にこうやってひっついているのだろうか。何人の男に言い寄られても速攻フってしまう神崎が俺の腕を取って楽しそうに歩いている。これは孔明の罠だ。


「……なあ神崎、もうちょっと離れないか?」


「どうして?」


「どうしてっつーか、なんつーか……近いだろこれ」


「そーお?」


「そうなんだよ。ていうかアレだ。俺あんまお前の事が好きじゃねえから」


「えー、なんで?」


「何でって……」


「エリス、こんなに可愛いしお金も持ってるし〜、嫌いになる要素がないと思うんだけどなぁ」


 うーん、“性格”ってのも考慮してほしい。

 俺と二人きりになってからエリスは少し気持ちを持ち直したように見える。しかし俺としてはあのまま塞ぎこんでくれていた方が都合は良かった。

 それにしても妙な事になった。結局VSの事を知る人間はいなかったが、氷室に神崎に藤原、俺も含めれば全員自分コールを受けた人間での組み合わせになる。俺だけがVSを知り、例の化物を知っている。だけど結局なるべくしてこうして神崎と接触したような気もする。

 妙な話になるが、運命みたいなものを感じている。そういうのはあんまり信じて居ないが、氷室もそう感じているんじゃないだろうか。勿論、神崎も。

 だからこそこんなウキウキしているのだ。俺という人間が関わってきた事で神崎は怯える子羊から守られるお姫様へと役を変えた。俺はいつの間にかお姫様を守るナイト役だ。

 だが何度も言うが神崎は好きじゃない。性格が好きじゃないのだ。ワガママで自分勝手で、イジメだって平然とやる。メガネちゃんだってコイツに閉じ込められたはずだ。だというのにこう、自分がヤバくなるとこの騒ぎだもんなあ……。


「響ちゃん、イヤーンな顔してる〜」


「そりゃするさ。俺はお前が好きじゃないんだ」


「なんで? ねえねえ、なんでなんで? エリスずーっと気になってたんだけど、どうして響ちんはエリスが嫌いなの?」


「何でって言われてもな……」


「響ちん、この間のデートの時もエリスの話ぜーんぜん聞いてなかったし! エリスが怒って帰ろうとしても、追い掛けて来る気すらないしっ!」


 腕を引っ張りながら小さいツインテールがぴょこぴょこ視界の中に飛び込んでは消えている。なんともいえない気分になる。


「なんで? なんでなんでなんでー!?」


「ああもう、ウッザイなあ!! いいか、お前は命を狙われてるかもしれないんだぞ!? こんな時に何くだらない事言ってんだ! 死にたいのか!?」


 人差し指を神崎の額に突き、一息に捲くし立てる。神崎はキョトンと目を丸くし、それから嬉しそうに頷いた。


「響ちん、エリスの心配してくれてる〜!」


「…………いや、そうじゃな……もういいよなんでも」


 額に手を当てる。全く、本当にどうしようもない……。さっさと帰って藤原の様子でも見てやろう……。全く、どうしようもない厄日だ――そう考えた時だった。

 突然鳴り出したメロディに俺たちの足は完全に停止した。振り返って神埼を見ると、彼女は完全に固まっていた。鳴っているのは――神崎のケータイ。


「きょ……響ちゃん……っ」


 神埼の上着に手を突っ込みケータイを引っ張り出す。神崎は先ほどまでとは打って変わって恐怖に怯えた表情を浮かべている。肩は小刻みに震え、両手で耳を塞いでいる。ケータイのディスプレイには……神崎の番号。

 俺は息を呑み、それから思い切ってケータイに出る事にした。震える神埼が縋りつく腕とは反対側にケータイを構え、通話ボタンを押す。


「……もしもし?」


 電話口の向こうでは小さな物音がしていた。何だかは良く判らないが……鉄? 金属を叩くような音だった。

 ノイズが混じっている所為か、余計に何が起きているのかは判らない。耳を凝らす。金属を叩く音……それに混じり、消え入りそうな声で確かに聞こえてきた。


『たすけて…………』


「――――ッ! おい、お前は誰だ!? 神埼なのか!?」


『いや……いやあああああっ!! 死にたくないよぉっ!! 助けて……助けてええええっ!!!!』


 耳を劈くような轟音――。直後、物凄い音が聞こえてきた。何かが崩れるような、そんな音だった。鼓膜が破れそうなくらい巨大な音量で響き渡る音に思わずケータイを遠ざける。

 音は俺だけではなく神崎にも聞こえていたのだろう。神埼は泣きながら頭を抱えている。通話を終了する。しかし直後、再び着信が――。

 氷室の奴、電源つけて渡しやがったな――! すぐさま電源を落そうとし――しかし思いとどまってケータイを耳に当てる。

 やはり聞こえてくるのは何か金属を打つような音……。何の音だ、これ……? 神崎が泣いている声が聞こえる。確かにこれは神崎の声だ。待て――。エリス以外にも、誰かの声が混じって――?


「もうやだ……! こんなケータイ……っ!!」


「あ、おいっ!」


 神埼は俺の手からケータイを引ったくり電源をオフにする。そうしてケータイを壁に投げつけてしまった。道端にイエローのケータイが転がる。もう少しで何かが判りそうだったような――そんな気がしたんだが。


「神崎……あのなあ……!?」


 その時俺は気付いたのだ。何かが――神崎の体の周りにまとわりついている事に。

 それがなんであるのか直ぐに気付けなかった。しかし目を凝らせば見えてくる。ノイズが混じり、グラフィックがブレている。神崎の周りにあるもの、それは――蜘蛛の糸だった。

 糸は見れば神崎の手足、体中にぺたぺたと張り付いている。何かこんなものをどこかで見たような気がする。なんだっけこれ。ああ――。

 頭上を見上げる。モール街の天蓋、そこに例の蜘蛛の化物が張り付いていた。糸はそこから降りており、神崎の体にまとわりついている。そうだ、これは――糸で吊られた“操り人形”――!


「え? え、えっ? えええっ!?」


 さっきまで泣いていた神崎の身体が勝手に動き出す。神崎は目をぱちくりさせながら早足で歩いて行く。頭上では蜘蛛が一緒になって動いている。文字通り、吊るされているんだ。


「神崎ッ!!」


「や、やだ……足が勝手に……!? 響ちゃん、助けてぇっ!!」


 背後から神崎に組み付く。神崎の体格は小柄だ。どう考えても俺の方が腕力では勝っている。羽交い絞めにすると神崎の足は停止した。しかし拘束された状態でも懸命に歩こうとしている。


「響ちゃん、響ちゃん止まんないよおっ!」


「ンなこと言われても――って、うおおおっ!?」


 蜘蛛を睨みつけ空を見上げる。次の瞬間俺は神崎を抱えて横に飛んでいた。頭上から落下してきた蜘蛛はレンガ敷きの大地の上にふわりと舞い降りる。糸は相変わらず神埼に絡みついたままだ。

 神崎を抱えたまま倒れていると、蜘蛛は神崎を引き摺るようにして糸を引く。神崎は吸い込まれるように、何もない空間を滑るように移動して行く。そう、VSが――こいつが見えて居ない人間たちにしてみれば、何が起きているのか全く判らないだろう。

 こちらを向いたまま、後方に引っ張られて行く。神崎はもう完全にパニック状態で、ぐんぐんモール街を抜けて行く。


「くそっ!」


 道往く人々はさぞかし驚いた事だろう。女の子が後ろ向きに、倒れたまま移動して行くのだ。しかもその速さはかなりのもので俺が走っても見失わないようにするので精一杯だ。

 モールを抜け、神崎はぐんぐん引かれて行く。その状態に俺は自分の血の気が引くのをハッキリと感じた。神崎は車と歩行者が行き交うスクランブル交差点をぶった切るように斜めに横断していくではないか。


「おい……おいおい、おいいいいいっ!?」


 屋上から飛び降りる前にあれじゃあ神崎が死んじまう! 神埼は悲鳴を上げながらじたばたしているが、悲鳴を上げたいのは歩行者様とドライバー様のほうだろう。急停車の連続で混乱する車たちの前を神崎に続いて横断する。

 向かっているのは開発途中の区域らしい。メガフロートの完成度はまだ60%程度といわれていて、完全に完成するのは八年後だといわれている。故にあちこちでまだ工事中のエリアがあり、神崎が引かれていくのもその一画であった。

 そこは、超高層ビルへと成る事が予定されている場所。骨組みのビルでは断続的に工事の音が響いている。神崎は鉄骨に意図をかけてぶら下げられ気を失っている様だった。

 まあ、あんな数分間に何回も死に掛ければ気くらい失うか……。神崎は本来ならばビルの三階くらいの場所に吊るされている。骨組みだけとは言え上る事は出来るようで、作業用の階段を上って神崎のいる場所へと走っていく。

 工事の音は聞こえてくるが、かなり上層なのだろう。人気のない場所を一気に駆け上がり、神崎のいるフロアにまで到達する。風通しの良すぎる三階で振り返ると、背後では強く風が吹き抜けて行く街を見下ろす事が出来た。

 蜘蛛の化物――アンビバレッジは神崎の前に立ち塞がるようにして俺を見ていた。なんでこういう構図になっているのかはわからんが――嫌な予感がする。


「お前……誰の命令でこんな事をしてんだ!? 今までの五人もお前が殺したのか!?」


 アンビバレッジは答えない。まあ、当然か。こいつらが口を利けるのかどうかも謎な所だ。だが兎に角――こいつが事件に関わっているのは間違いない。

 紅い“ベルサス”を開く。良く判らないが、一度は撃退出来た相手だ。VSアプリケーションを起動する。ケータイが紅い稲妻を放ち、ベルサスをアンビバレッジに向ける――!


「来い! ジュブナイルッ!!」


 アンビバレッジは稲妻を警戒してか一歩身を引いた。電撃が迸り……ジュブナイルが出てくる、はずだった。

 しかしいつまでたってもジュブナイルは出てこない。俺もカッコイイポーズのまま停止している。アンビバレッジが首を傾げ、こちらへと歩き出す。


「お、おいおい……? マジか? ウソだろっ!? 出とけよ、そこはっ!!!!」


 ケータイを見やる。アプリケーションは起動していない。なんで? どうして!? 意味不明!!


「うそだろ……!? うそだろおおおおおおっ!?」


 蜘蛛が口を開けて突っ込んでくる。変な笑いが込み上げてくる。冷や汗が止まらない。俺はケータイを掴んだまま、横へと跳躍していた。

 アンビバレッジが鉄骨に激突する激しい音が聞こえる。何とか突撃を回避したが、全く手の打ちようがない。何度ボタンを連打しても例のロボットは出てこない。

 神埼は目を覚まさない。誰も助けにやってこない。汗がケータイのディスプレイに零れ落ちる。アンビバレッジが口を開き、輝く瞳で俺を見詰めていた――。


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