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慟哭(2)

「それでは、ジェネシスの作戦阻止の為の行動を開始する」


 ケイトがそう告げると同時に全員がユニフォンの時計を確認した。ユニフォンの時計は電波搭よりリアルタイムに送られてくる時間情報により統一されている。作戦開始時刻は既に決定済み。深夜零時を回り、日付が変わった夜の中、響たちは街の中心部、中央図書館前に立っていた。

 作戦内容は実にシンプルである。ノブリス・オブリージュを管理、コントロールしているのは五つの電波搭から発せられている情報である。ユニフォンの全ては電波搭に収束し、電波搭から街に放たれている。そこを破壊する事で少なくともノブリス・オブリージュの行動に何らかの制限をつける事が可能なのだと考えた。

 この作戦の目的はジェネシスという組織に探りを入れると同時に不確かな事実を確かめ、そしてノブリス・オブリージュの登場を誘発して神崎エリスを救出する事にある。先ずは目先の電波搭、そこにこの人数により同時攻撃を仕掛ける事にしたのである。


「判っているとは思うが、それぞれの作戦目的は別々になっている。担当エリアを各々再確認してくれ」


 東エリア、第二電波搭襲撃は櫻井響が行う。そのサポートとして行動を共にするのは織上隼人とケイト・フラジールである。

 正反対、西エリア第四電波搭襲撃は皆瀬鶫を主体としたチームで行う。同行メンバーは櫻井鳴海。それとサポート役として西浦志乃が同行する。

 このチーム分けは戦闘能力の高い響と鶫という二つの戦力をサポート出来るように組み合わせられている。アタッカー二名にサポーター一名という構成であり、一名でも特化した戦闘力を持つVS所有者による同時作戦行動としては初の規模であると言えた。


「作戦行動中、お互いの様子は鶫の能力と私の能力、二つを使って立体的にやり取りする」


 鶫の能力の一つに、小さな“虫”を他人に取り付ける事により、その思考と行動を支配する能力がある。かつてモノレール内の人間を操作していた力であり、それを自らに対して発動する事で鶫は運動オンチの性質を克服していた。

 自分の行いを立体的に監視、理解することで無駄のない動きを行い、通常では見極められない物に反応する事が出来る。鶫の“虫”を使えば、別行動中のメンバーの行動も把握する事が出来る。

 ケイトのメッセンジャーもまた、特定の人物にマーカーを設置しほぼ制限距離の存在しない思考の読み取りが出来る。ケイトと鶫、それぞれの能力は基本的に相手から自分への一方通行ではあるが、それを同時に発動する事でなんの機械にも頼る事の無い連絡が可能である。


「いざとなったら、鳴海さんと志乃さんには私が虫をつける事で気を失った状態でも逃がしてあげる事が可能です。それに鳴海さんはまだ、身体の調子が……」


「志乃君のお陰で大分良くなったわ。それでもまた倒れそうになったら、その時はお願いするわね」


 鳴海は両足にまきつけたホルスターの銃を撫で、笑顔を浮かべる。鳴海が戦闘に参加することを響は最後まで反対していたが、彼女の熱意に押し切られて結局こうして一緒に行動することになってしまった。

 傍に居られるのならばまだ良いのだが、志乃と一緒に運用するのが一番彼女の安全に繋がるだろう。それに何より響はある程度無茶をする事を前提でこの場所に立っている。自分と一緒に居ないほうが安全である。

 隼人の能力は信頼出来る。戦闘能力は非常に高いと言えるだろう。いわばこの構成は、鶫の側は囮であると言える。万が一ノブリス・オブリージュと遭遇した場合、勝算は薄く、負傷の可能性も高いだろう。故に志乃が同行している。

 一方、響のチームは対ノブリス・オブリージュに関しては絶対的な勝ち目が存在している。相手の能力と性質を測る事が出来るメッセンジャーに加え、対ノブリス・オブリージュの力を持っている櫻井響が居るのだから。


「お互い、無理はしないようにな。出来れば電波搭のシャフト部を破壊するだけでいい」


「君が無理とか言うと、どうも説得力に欠けるよ、響」


「そうです! 桜井君はいいとしても、ケイトさんと隼人君は巻き込まないでくださいね!」


 彼等がそうやり取りするのを蓮と惣介は心配げに眺めていた。彼等に出来る事など何も無い。あるとすれば、ただ彼等の無事を祈る事だけだろう。

 最早一般人にはどうにも出来ない問題だ。惣介は戻って資料の解析を行うつもりで居る。だが、それに集中できるかどうかは難しい問題だった。


「……無理はするなよ、鳴海」


「そっちこそ、あんまり部屋から出ないで蓮ちゃんを守りなさいよ。ちゃんとみんなで帰ってくるから」


「約束だよ! 蓮と惣介、朝ごはん作って待ってるから! みんな無事に帰ってきてね!」


「……ちなみに今日の朝ごはん、なんですか?」


 隼人が冗談交じりに問い掛ける。蓮は腕を組み、それからふと思いついたように声を上げた。


「とんかつにしよう!」


「朝からかよっ!?」


「えっと、ゲンを担いで……」


 そう苦笑する蓮を見詰め、仲間達は笑いあった。志乃が頷き、仲間達を見渡す。


「それじゃあ、急いで帰ってこなきゃね」


 夜の闇の中、彼等は背を向けあう。これから向かう場所に真実がある。そして、避けられない戦いがあるだろう。

 VSを巡る戦いはいよいよ二つの勢力による戦闘に突入した。そう、最初から決まっていた事だ。この物語の勝利者は、たった一人しかいないという事。

 誰もが全員生き残る事は出来ないだろう。いつかは仲間を失うのかもしれない。それでも直手を取り合い同じ道を進むのならば。そう、決めたのならば。


「夜明け前にまた会おう」


 響の一言を切欠に全員が走り出していた。別たれた運命がゆっくりと動き出す。遥か彼方、ジェネシス本社ビルの地下深く。巨大な扉の前に立つライダーの姿があった。扉に記された古い文字、それを指先で撫でて少女は笑う。


「……ただいま」


 扉の文字が僅かに輝いて彼女を迎え入れる。ゆっくりと開きだした扉を前に、櫻井京は前を見据えた。



慟哭(2)



 響たちが作戦行動を開始したのとほぼ同時刻。南の第三電波搭地下を走る丞と藤原の姿があった。しかし良く見ると二人は仲良く一緒に走っているというわけではない。藤原の両手には固い手錠が嵌められており、丞に無理矢理走らされているような状態であった。


「しっかし自分、ホンマにジェネシスと戦う気なんかいな?」


「当然だ」


「……まあ、ジェネシスっちゅーか、奏に復讐するつもりなんやろ?」


 かつてジャスティスという組織にまだ正義が残っていた頃。藤原も丞もまた、奏という男の魅力に惹かれていた人物の一人だった。

 奏には圧倒的な人望があった。一種のカリスマとでも言うのだろうか。彼の思慮一つには無数の意味があり、他者への思い遣りと配慮に満ちていた。彼の言葉に従えばなんでも出来る気がしたし、それは現実になっていった。

 だというのに彼自身は己の力に自惚れる事は無く、しかし謙遜するわけでもなく力を力と受け入れていた。そこにいるのに居ないような不思議な男、それが櫻井奏だった。彼はよく自らを“生きながらに死んでいる”と表現していた。その彼が夢見た場所へ、二人もいつか行ってみたかったのだ。

 確かにその時彼等は仲間だった。だが全ては狂ってしまった。奏がムーンドロップという悪質なプログラムをばら撒くようになり、同じ夢を見る事は出来なくなってしまった。丞はそれに反対し、組織を追われ。藤原はそれに賛同し、リーダーとしての役回りを与えられた。


「ワイはなぁ、ジョー……。自分のした事に後悔なんぞしとらへんよ」


 へらへらと笑う藤原ではあったが、丞はそれに腹を立てる様子もなかった。そんな事は、言われなくても判っていた事だ。だからこそ止めたかった。そう願っていたのだ。


「ワイはまだ、奏の事をダチだと思っとる。奏が、自分たちの事をどう思っているのかは関係あらへん。一度信じると決めた男や。最後まで信じよう……そう思っとった」


「馬鹿だな、お前は」


「……せやなぁ〜。そんなんやから、結局やられてしまったんやろなあ。ワイの能力は確かにあの役割にピッタリやった。けど、やっぱどこかで間違ってたんやろな」


 丞は何も答えなかった。藤原の気持ちは痛いほど判る。居場所を探してジャスティスを立ち上げた。藤原はもう、やめるにやめられなかったのだ。あんな組織でもそこでなければ生きられない人間は沢山いた。綺羅もその一人だった。綺羅のためにも、自分たちが今までしてきた事のためにも、既にそのゲームから降りる事は出来なかった。

 こうして組織が壊滅状態に陥ったのも、全てはノブリス・オブリージュの仕業。それはつまり、奏の裏切りを意味している。藤原もそうして使い捨てられる事を考えていた。予想はしていた。だが……。


「俺は……。奏が何をしようとしているのか、判らない」


 走りながら、丞は無表情に言葉を紡ぐ。藤原は顔を上げ、丞と同じ道を見詰めた。


「でも……。もしもあいつが間違った事をしているのなら……。あいつが、本当はやりたくない事をやっているのなら……。それを止めてやらなきゃいけないと思っている」


「友達だから、やろ?」


 丞は答えなかった。藤原はそんな丞の様子に肩を竦め、それから苦笑する。


「そうやなあ。それが普通、ダチってもんなんやろうなあ……」


 二人が辿り着いたのは第三電波搭地下に存在するエネルギーシャフトだった。部屋に入ると同時に銃器で武装した警備員たちが丞と藤原へ銃口を向けた。しかしそれよりも早く藤原が両手から糸を放ち、その場にいた全員が一瞬で黙り込む。


「まあ、しゃあないなあ。気乗りはせえへんけど、手伝ったるわ。やっぱ自分が何をさせられていたのかくらい、知りたいやんか?」


 ウインクする藤原を突き飛ばし、丞はシャフトをコントロールするコンソールに近づいて行く。そこでイクアリティを召喚し、思い切り一撃を放った。シャフトの行動をコントロールしていた機器が破壊され、地下に警報が鳴り響く……。



 突然鳴り響いたアラートに響の足が止まった。続いて隼人が驚いた様子で身体を震わせ、ケイトが眉を潜める。ケイトと隼人、二人の視線は完全に響に向けられていた。


「いやっ、俺じゃねえよ!? 俺なんもしてねーからっ!!」


 まるで痴漢の疑いをかけられた男のように両手を上げて首を横に振る響。そんな事は判っているのだが、二人には他に考えられなかった。となると、ケイトは思考を巡らせる。


「どうやら鶫たちの方でもアラートが鳴っているようだ。向こうも気づかれたわけではないらしいが……」


「じゃあ、ぼくたち以外の侵入者……?」


 侵入には細心の注意を払ってきた。ケイトと惣介が事前に調べ上げた地下のルートを使い、直接施設に乗り込んだのである。地上の警備網には引っかからなかったはずだが……。


「監視カメラの映像には七時間の間ダミーを送り込んである。そうそうバレるはずもないんだがな」


「まあいいんじゃねえの? どっちみちシャフトを破壊したらアラートが鳴るんだろうしよ」


「そうですね。今は足を止めないで、進みましょう」


 隼人が頷き、率先して先を往く。おどおどした様子だった頃を思い出し、響は思わず笑ってしまった。ケイトと並び、響も先を急ぐ。辿り着いたシャフトのあるコントロールルームに飛び込み、内部を占領しようとして――三人は足を止めた。

 そこには人っ子一人存在しなかったのである。警備員くらいおいていてもバチは当たらないと思うのだが、無人な物は無人なのだから仕方がない。三人は周囲を見渡し、それから響はシャフトに近づいた。

 地下最下層から地上まで続く巨大な円柱。ゆっくりと回転する柱は青い光を放っており、時折放電しているようにも見える。発電施設に見えない事もないが、それは列記としたユニフォンの電波を収束し、放出する装置である。


「初めて入ったけどよ、FF7みてーだな」


「鳴海も同じ事を言っていたよ」


「え? FF……って、なんですか?」


 隼人の発言にケイトと響は同時に振り返る。何か拙い事でも言ったのかと怯む隼人の前、響とケイトは腰に手を当て、中空を見上げる。


「カルチャーギャップだな……」


「いや……まあ、プレステ持ってるほうが珍しいだろ、今時」


「ぷれすて?」


「いや、失言だった……忘れてくれ。それよりシャフトの管理コンピュータにハッキングを仕掛ける。響、隼人、少し出入り口を見張っていてくれ」


 ノートパソコンを取り出すと同時に召喚したVSを手元に引き寄せる。小さな小さな数センチしかない光球に羽が生えたような形状をしたメッセンジャーは、複数体存在している珍しいタイプのVSである。それを周囲に展開させながらハッキング作業を開始した。

 響はジュブナイルを腕に纏った状態で待機する。隼人はドッペルゲンガーは長時間能力を発動できないという特性からいつでも発動出来る状態で待機を行っていた。


「それにしても地下にこんな空間があるとはな……」


「あ、元々最下層には海流の動きで発電する装置とかがあって、主にライフラインは地下を通っているらしいです。わざわざ地下鉄じゃなくて空中を行きかうモノレールにしたのも地下のライフラインスペースを多く確保する為だとか」


「へー。よく知ってるな」


「去年、夏休みの自由研究で調べたんです」


 照れくさそうにそう笑う隼人はどう見てもただの中学生だった。そんな少年をこんなわけのわからない空間にまで連れてきてしまっている事実が響としてはあまり好ましくなかった。


「隼人、お前そういえば最近ずっとうちにいるけど、家には戻らなくていいのか? 家族とか心配してるだろ」


「……いえ、ぼくの親は……ぼくが居ても居なくても同じって感じなんです。正直、学校とかでも友達とかあんまり居ないから……だから、いいんです」


「そういうわけにはいかないだろ。鶫だって色々あったが、自分でそれと向き合って頑張ってるんだ。隼人だってちゃんとしなきゃだろ」


「…………お兄さんと戦ってる桜井さんが言うと、説得力ありますね」


 少し落ち込んだ様子で隼人はそう呟いた。だが別に響は焦る必要はないと考える。隼人は自分でこの作戦に志願し、そして戦う道を選んだのだ。

 色々あったとしても、彼は自分を客観的に判断して踏みとどまれる立派な心を持っている。だから鶫のようなことにはならないし、そうはさせない。自分が傍に居る限り。


「――あら? 一体どこの鼠さんが忍び込んだのかと思ったら……。わたくしが会いたかった桜井響でしたのね」


 声に振り返る。出入り口を見張っていた二人をあざ笑うかのように空中にノイズが走り、黒いドレスの少女が姿を現した。既に何度か目撃しているテレポートではあるが、改めて驚いてしまう。

 サマリエルと共に姿を現した氷室美琴に続き、白いうさぎが姿を現す。二つの巨躯、異形の化物に挟まれた小さな美琴はまるで可憐な人形のようだった。


「げっ!? くそうさぎ……。それに……お前はなんだ? 始めてみるが……ちっこいなオイ」


「これから伸びましてよ」


 というものの、響の視線は美琴のハイヒールに向けられている。かなり身長を水増ししてこの様子か……。一人納得するように頷く響目掛けサマリエルが拳を叩き付ける。


「っぶねーな!? 何しやがる!?」


「貴方今、何か失礼な事を考えませんでした?」


「考えてねーよ!! ったく、どうして隼人といいこんなガキがこんな事になって……隼人?」


 サマリエルの攻撃を回避した響の傍ら、隼人は驚いた様子で固まってしまっていた。隼人に駆け寄り、その身体を揺さぶる。そうしてようやく我に返ったのか、隼人は美琴を見詰めて息を呑んだ。


「さ、櫻井さん……。あの子はぼくが相手をしますっ!!」


「は? べ、別にいいけど……何そのやる気……」


「理由なんていいじゃないですか! 理由や意味を求めるな……! 櫻井さんの教えですっ!!」


「そりゃそうだけど、お前大丈夫か? 顔真っ赤だぞ?」


「いきますっ!!!! うおおおおおおおっ!!」


 響の質問をはぐらかすように叫びながら走り出す。途中でドッペルゲンガーを発動し、イクアリティを片手にサマリエルへと襲い掛かった。二つの影が交わると同時に響も走り出し、うさぎの脇を抜けてケイトの背後を守るように立ち塞がった。


「何分稼げばいい!?」


「十分……いや、五分で済ませる。それまで頼む」


「五分ね……! おいこらうさぎ野郎っ!! テメーいい加減くたばりやがれっ!!」


 響が叫びながら走り出す。軽く跳躍し、蹴りを放った。しかし靴先がぐにゃりとうさぎの腹に減り込み、反動で足が弾かれてしまう。そこに繰り出されたうさぎのパンチで響の身体は吹き飛ばされ、危うくシャフトの縦穴に落下しそうになってしまった。


「くそ、相変わらずやりづれえ……!」


『無駄ダヨ、響! オトナシク言ウ事ヲキクンダ!』


「うっせえ! キモいんだよ、テメエッ!!」


 響がモードをネガティブに切り替え、紅い巨人を召喚した頃。サマリエルと交戦する隼人は丞の姿に変身し、槍を振り回して攻防を続けていた。


「その姿……木戸丞? 貴方、面白い能力なのね」


「君は……どうしてここにいる?」


「氷室の娘として……。氷室美琴として。この世界を楽しむ為に――」


 サマリエルが吼える。長い骨の腕を振り回し、隼人にラッシュを仕掛ける。しかし隼人は冷静にイクアリティでその攻撃を防いで行く。二つの影の力は互角――。パワーで圧倒するサマリエルとスピードとテクニックでそれをいなす隼人。攻防は一進一退を繰り返した。


「貴方達こそ、どうしてわたくしたちの邪魔をするの……? それはこのゲームの参加者として? それとも、一個人として……?」


「君を戦わせたくないから――。俺も、戦うんだ」


 隼人が前進し、連続突きを繰り出す。その攻撃には――信念とも呼べる物が篭っているように見えた。パワーでは負けるはずのサマリエルを押し返し、その骨だらけの肉の無い身体に槍を突き立てて行く。

 サマリエルは外見通り、肉を持たないVSである。骨だけにドレスを纏ったその形状は他のVSとは一線を画している。美琴は眉を潜め、背後に跳躍した。サマリエルもまた後方に移動し、翼を広げる。


「――仕方ありませんわね。サマリエル――!“呪歌レクイエム”用意……!」


 翼を広げたサマリエルが口を開く。何も存在しない暗闇の中、無数の骨の腕が飛び出した。全身から湧き出る腕が伸び、隼人の体中につかみかかる。


「これを使ってしまうと面白味が無くて嫌いなんだけど……仕方ありませんわね。面倒だもの、消してしまいなさい。サマリエル――! 呪歌レクイエム、発動!」


 腕でつかまれた隼人の足元に血のように赤い光が浮かび上がる。それはまるで魔法の儀式を行う為に必要とするような紅い魔方陣へと姿を変え、光が真上に広がって行く。光に飲み込まれた隼人の中、何か決定的な異常が起ころうとしていた。


「く――っ!?」


 光が収まると同時にサマリエルの全身から湧き出ていた腕が収納される。自由になった隼人はふらつきながら立ち上がり――自分の頭上に浮かんだ謎の図形に目を奪われた。紅い光で構築された図が頭の上で揺らめいている。


「なんだ、これは――!?」


「呪いの紋章ですわ。それがサマリエルの能力、呪歌……。貴方にかけたのは死の呪い……。徐々に全身の骨が砕けて苦しみながら死ぬ呪いよ。ふふふっ」


 口元を押えて笑いながら滑稽そうに美琴が語る。次の瞬間紋章が形を変え――隼人の左手首が奇妙な音を立てた。肉を突き破って滅茶苦茶に変形した骨が露出する。凄まじい痛みを噛み殺し、片手でイクアリティを構えなおした。


「どこが砕けるのかはわたくしにもわからなくってよ? さあ、次はどこが砕けるのかしら……?」


 しかし隼人は冷静だった。戦う理由が鮮明である今、彼が迷う理由など何処にもなかった。そもそも彼はそのためにVS所有者として立ち上がったのだから。

 彼女が自分を覚えていなくとも、自分は彼女を覚えている。彼女が自分にしてくれたことを忘れない。だから――彼女を好きだと感じている以上、もう彼女を戦わせてはならないのだと考える。

 どうにもならないなんて諦める事はしない。諦めないで立ち向かい続ける人たちを知っているから。だから隼人は真っ直ぐにサマリエルを見据えた。堕天使は骨の腕を伸ばし、隼人を迎え入れるように羽を広げていた――。


〜とびだせ! ベロニカ劇場〜


*終わってなかった*


蓮「あ、終わってなかった……」


鶫「ですねー」


響「流石に打ち切りはよくないだろう、打ち切りは」


鶫「たとえたった一人でも待ってくれている人が居る限り、頑張るのですよ」


響「たとえたった一人だろうと、二人だろうと……な」


蓮「そんな事ないよ!! 毎日四千人くらい待ってるかもしれないでしょ!?」


響「はは、そうだな! アクセス数が判らない間は夢見放題だぜ! FOOOO!!!!」


鶫「桜井君って普通の主人公っていうか普通に変な人ですよね」


蓮「ねーね、そういえば凄い事に気づいたんだよ、蓮」


鶫「なんですか?」


蓮「この小説――カテゴリにメイドって入ってる」


二人「ッ――!?」


蓮「そんなア〇ラっぽい驚き方しなくていいから」


響「ほ、ほんとだ……。あれ、なんでだ……?」


鶫「連載初期ではメイドの所有者が出てくる予定だったんじゃないですかね……」


響「なんでメイド……?」


蓮「じゃじゃーん! そんな読者の疑問を解決する為に、蓮が探偵の能力を使って初期資料を漁ってきたんだよ!」


響「おぉ!」


蓮「なんでもこの資料によると、ライダーがメイド服で出てくる予定だったみたいだね」


鶫「なんで――」


響「もしそうだったらライダーじゃなくてメイドーになってたな……」


鶫「でも、メイドが出てこないとウソになるじゃないですか。よくないですよ、これは」


蓮「じゃあ、みんなでメイド服を着ればいいんじゃないかな!?」


響「あー、そうすれば? はいはい、メイドメイド(笑)」


鶫「勿論、櫻井君もですよね――?」


響「え――?」



(なんかドタバタする画面効果)



蓮「わー! 響、メイド服似合ってるね〜!」


鶫「体格いいけど細いもんね、櫻井君」


響「なんで俺がこんな目に……」


蓮「あまりにもよく似合っていて読者様にお見せできないのが残念極まりないねっ」


鶫「そうですね〜。是非読者様に見せてあげたいけど、それは不可能なんですよね〜」


響「…………なあ、何これ?」


蓮「そんなわけで、ベロニカにメイドは出てきませんっ!!!! 残念でしたーっ!!」


響「だからさ、なにこれ――」


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