Fate(2)
「鳴海なら、大分落ち着いたようだ。受けた傷に加え、恐らくは能力を使用した反動もあるんだろう……。外傷では説明が出来ないからな。鳴海が気を失ったまま目を覚まさないのは」
無事マンションに戻った響たちであったが、鳴海は帰宅の途中で気を失い倒れてしまった。現状、病院に行く事すら安全かどうか判断出来ない以上、鳴海の手当ては自分たちでするしかない。幸い火傷の度合いはそう酷くは無く、治療は可能な範囲であった。
響は傍に居たがったが、居た所で邪魔にしかならないとケイトに追い出されてしまった。それでも心配で、こうして廊下で待っていたのである。部屋を出てきた惣介は一先ず落ち着いた事を話し、響は片手をポケットに突っ込んだまま安堵の息を漏らした。
「能力の反動、か……。ビビったよ。鳴海にあんな力があったなんてな……」
「正直俺も驚いている。君の話が本当なら、鳴海は正に超能力者という事になるな。それに新庄が使っていた力も気になる。つまりそれは、どこかで鳴海機関の研究成果が軍事転用されている可能性を示唆しているわけだからな」
「VS能力は使いすぎると気を失う。慣れてくるとより長い時間、回数をこなせるようになるけどな。慣れない内に無理すれば、ぶっ倒れちまう」
「成る程……。では、同じ系統の能力であると考えて相違ないだろうな。恐らくは同じ研究の成果が派生したものだろう」
「――超能力、か。なあ惣介、VSってのは一体なんだと思う?」
響の問い掛けに惣介は煙草に火をつけながら考え込む。VS――。未知の存在。だが、ヒントは多く提示されている。一般人の目には見えず、ユニフォンにより召喚され、鏡の中より出でる異形……。
正体不明の怪物。だがそれを鳴海は認識し、接触する事が出来る。VSは物体を貫通する事も、任意の対象に接触する事も可能だ。それは物理的に常時そこに存在しているというよりは、大雑把に任意の物に効果を与える存在だと考えた方が容易い。
「例えば、新庄が使っていた発火能力だが――。あれは、火が燃え上がって初めてその効果を認識出来る物だ。かつ、特定にポイントのみを燃やす事が出来る。間に障害物があろうとも、恐らくはそれを無視した発動が可能だろう」
「……それが、任意のものに接触する効果と似てるって言いたいのか?」
「その通り。VSは、世界の法則を書き換えて効果を生み出す力だと聞いた。それは、超能力も同じ仕組みなのかも知れない。つまり、世界に干渉する能力……」
上手く説明する事は難しい。だが、関連性を思えば当然の結論である。超能力も、VSも、それは同じ仕組みに過ぎないのかもしれない。少なくともその結果を生み出すために必要としている事は同じはず。そして恐らくは、鳴海がVSを認識出来るように、VSの所有者たちにも超能力の存在を認識する事が出来るのだろう。
「確かに、どのへんが燃えるのか、力が迫ってるとか……そういうのは判ったな」
「そういうのはどこで感じるものなんだい? 視覚か、聴覚か……」
「――どこでもない、な。以前ベロニカシステムで対岸に渡った時も、自分と同じく“対岸”から来ている連中は直感的に判断出来た。でも見た目からすれば、どっち側にいてもおかしくない人間なんだ。判断基準はあくまでも勘だった」
「勘、か」
鳴海もよくその言葉を使っていた。勘――。第六感、とでも言うのだろうか。五感では到底説明の出来ない感覚で理解する事。そうした意味でも、二つの力は繋がっている。
「俺は学者ではないからね……詳しい事はそれこそ生み出した人間か、神に訊くしかないだろう。同じく鳴海の容態に関しても、出来る事は多くない。俺は医者ではないからね」
「なんだよ、無責任な物言いだな」
「子供に嘘は付きたくないという、大人の保身なのさ。ともあれ、出来る事はしたつもりだ。その点では安心して欲しい」
「どうだかねえ……。アンタ、いまいち胡散臭いんだよな。特に理由があるわけじゃないが、アンタを信用するべきなのかどうかは正直考え物だな」
腕を組んだまま目を細める響。その疑り深い響の視線を受け、惣介は煙を吐き出しながら微笑を浮かべた。
「君が感じるその気持ちを、きっと鳴海も俺に感じていたのだろうね。彼女は俺を、信じてはくれなかったよ」
「……なんかやらかしたのか?」
「昔の話さ。でも一つだけ言える事がある。俺は少なくとも、鳴海の事に関しては本気さ。そうは見えないだろうけどね」
灰が落ち、煙草の光が僅かに瞬いた。惣介は夜の街を眺めながら手摺に手をかける。響は肩を竦め、それから惣介の横に並んだ。
「だろうな。アンタ、鳴海に惚れてるんだろ」
「そう見えるかい?」
「見えるね。勘だけど」
「――櫻井の人間と言うのは、どうも勘が鋭いらしい」
穏やかに微笑む惣介を横目に響も苦笑を浮かべていた。部屋の中からケイトが呼ぶ声が聞こえ、惣介は部屋に戻って行った。残された響は静かに息をつき、壁に背を預ける。
これ以上、鳴海を巻き込むのはどうかと思う……それが彼の本音だった。鳴海は響にとっては恩人だ。誰よりも自分を支えてくれた、生き方を教えてくれた人だ。その彼女が傷つく所など見たいはずもない。
「いや……。本音は違うのか」
仮に舞や奏と戦う事になった時、鳴海はきっとためらうだろう。鳴海はとても優しい。優しくて強がりで、やっぱりどうしたって姉なのだ。大切な姉が、兄である奏や幼馴染の舞と戦う所など見たいはずもない。
自分でもまだ、ためらっている。躊躇する事は止められないだろう。それでも自分は戦える。そう信じている。知りたいから、戦うのだ。この街で何が起きて、そこに自分がどう関わっているのか。
知らないで済む問題などとっくに過ぎ去ってしまった。こうしてここにいる以上、やる事はやらねばならない。出来れば鳴海が動き出すよりも早く、全てに決着をつけねば――。
そう考えた時だった。ユニフォンに着信があり、手を伸ばす。ディスプレイに表示された電話番号を見て響は眉を潜めた。そこにある番号は――。
「三度目、か」
電話に出る。耳に押し当てた受話器からは聞き覚えのある、しかし決定的に違う声が聞こえてくる。
『久しぶりだな』
「…………おかげさまでな」
そう、聞こえてきた声は自分の声――。“自分コール”。響は最早驚く様子もなかった。これだけ異常事態が勃発している街だ。何があっても不思議ではない。
そんな響の冷めた気持ちを見透かすように、電話の向こうの人物は僅かに微笑んだ。響はそれが気に入らなかった。眉を潜め、周囲を見回す。
周りに自分を見ているような人間の姿は見当たらない。少なくとも監視はされていないように感じる。尤も、VSの能力の一環であれば、それを探知するのは非常に困難だが――。
「今度は何の用だ?」
『勿論、忠告だ』
「――その前に、その他人を真似する態度はもう止めろ。テメエ、何者だ? どうせVS所有者かなんかなんだろ? 何番目だ、テメエ」
響の問い掛けに返答が止まる。響はそれでも待ち続けた。相手は諦めたように息を吸い――“自分の声”で口を開いた。
『俺は俺さ。櫻井響……』
その声を聞いた時、響は何故か非常に奇妙な気味の悪さを覚えた。矛盾している――直感的にそう考える。口調は変わらず、響のものだった。言葉のイントネーションも全く一致している。だが、その声は――子供の声だった。しかも、小さな女の子の声である。響は冷や汗を流し、耳を澄ました。
『まぁそもそも、俺が何者かなんて事は意味のねえ問答だ。俺にも判らないんだからな』
「はあ……?」
『真実が知りたいんだろ? 今から言う場所に向かえ。少しはテメエにも本当の事が判るかもしれないぜ』
「おい、ちょっと待て!! どういう意味だっ!! おいっ!?」
通話は一方的に終了してしまった。続けて直後、メールを受信する。それを見て響は眉を潜めた。メールアドレスは、文字化けしてしまっていて差出人が判断出来なくなっていた。
それは、VSに当選したというメールを送ってきたアドレスと同じ……。慌てて確認すると、二つは完全に一致していた。疑問がふつふつとわきあがってくる。
差出人は、VSアプリケーションを配った人間と同一人物なのだろうか――。それも安直過ぎる考えの気はした。だが、他に可能性もない。自分コールはVS所有者にかかってくるものだった。それは、自分コールをかけてくる何者かと、アプリケーションを送信してきた何者か、その二つが同一人物だからなのではないか――?
「……まあ、それを考えたところでわからねえんだけどな」
ユニフォンを片手に振り返る。自室ではまだ鶫と隼人が待機しているはずだ。二人を連れて行くべきだろうか……。しかし響はその考えを振り払い、一人でエレベータの中に乗り込んだ。地上へと向かう鉄の箱の中、響は目を瞑って頭を壁にそっとぶつけた。
何となく、一緒に行かない方がいいと考えている自分がいる。それはつまり、そう。これから何が起きるのか……何となく感じている自分がいるという事に他ならなかった。
Fate(2)
「よりによってここか……」
響が見渡したのは清明学園の校舎であった。閉じられた門を跳び越え、校庭に降り立つ。学校は余りにも静かだった。日が暮れて暫く経つものの、まだ誰か人が残っていたところでおかしくはない時間のはずだ。
「……そろそろ二十時か」
ユニフォンから視線を戻す。周囲を見渡す。広い学園の校庭に人影はない。まるで人払いでもされているかのようだった。
一人で闇の中、警戒しながら歩いて行く。すると突然背後で物音が聞こえ、ユニフォンを構えて振り返った。しかしそこに立っていたのは予想だにしなかった人物であった。
「あれ? 響?」
「――はあっ!? 志乃!? 何やってんだ、こんな所で……」
「それはこっちの台詞だよ……。まさか、響がここにいるなんてね」
二人はお互いにユニフォンを下げる。西浦志乃――。響と同じ孤児院出身であり、現在は俳優業に従事している少年である。響としては懐かしい顔であったが、対岸に行ったりなんだりで忙しかっただけであり、実際は以前会ってからそれほど日数は経過していない。」
歩み寄り、志乃は柔らかく笑みを浮かべる。響は溜息を漏らし、それから腕を組んで志乃を見詰めた。
「偶然ってわけでもないんだろうな……。志乃、お前どうしてここに?」
「ボクは――。響、自分コールって知ってる? 自分の電話番号から電話がかかってくるんだけど……」
「知ってるよ。つか、俺もそれで呼び出された」
「そうなの!? ボクもなんだよ。何か、意味があるのかな」
「とりあえず一緒に探索してみるか……。そういやこっち色々あってよ、散々だったんだよ」
「散々?」
と、そこまで言った所で響は思い出した。ベロニカシステムの発動により、既に現実の結果は変化してしまっているのだ。従って鶫が失踪したことはおろか、その後の事も志乃が知るはずはないのだ。認識出来るのは、当事者か観測者に限られるのだから。
「……いや、まあ色々な。しかし夜の学校って不気味だな」
「あ、もしかして響、怖いの?」
「こ、怖くねえよ!!」
「あははっ! 響ってさ、結構昔から怖がりだったよね〜。一人でトイレとか行けなくて、ボクよくついてったもん」
「……え? マジ?」
「マジマジ」
「……なんか、昔の事知ってる奴ってやりづらいな」
肩を落として落ち込みながら笑う響の傍ら、志乃は優しく穏やかに微笑んでいた。二人はそうして暫くの間学校内を探索した。しかし特に異常事態と言えるような事は起きてはいなかった。校舎の出入り口は施錠されており、入る事は不可能だ。それは響だけではなく他の人間もそのはずだろう。
結局特に何もないまま校内を一周してしまった。何事も無く、二人は肩透かしを食らった気持ちでお互いに顔を付き合わせた。その次の瞬間、二人は背筋が凍り付くような感触を覚えた。振り返った視線の先、校庭の中心に白い影が見えた。つい先程までは何もいなかったはずのそこに、確かにそれは存在していた。
「なんだありゃ……!?」
「機械……ロボット? いや、戦車……?」
二人はそれをどう表現したらいいのか判らなかった。形は人を保っているが、その全身を覆う装甲と剣の翼は人からはあまりにかけ離れている。故に人型の戦車というのが表現に最も近く、二人はそれをそう認識していた。
「ノブリス・オブリージュ……」
響がその言葉を口にする。ノブリス・オブリージュは二人を遠距離から認識し――次の瞬間一瞬姿を消し、二人の前方5メートルほどの場所に移動していた。
「テレポーテーション!?」
「志乃!」
「判ってる!」
二人は同時にVSを召喚した。響の背後にジュブナイルが姿を現し、志乃は白く長い帯のような武器を出現させる。巻物のような形状をしたそれを片手に構え、ノブリス・オブリージュを見詰めていた。
「なんだこいつ……!? どっから現れて、どうやってここに……!?」
「――彼女はどこにでもいるし、どこにも居ない……。現実の世界の中で確定しない因子なのさ。今はまだ――ね」
声は更に背後から聞こえてきた。二人が振り返る視線の先、いつの間にか姿を現した櫻井奏の姿があった。長く伸びた神を揺らし、響の兄は静かに微笑んでいる。
「奏ッ!?」
「久しぶりだね、響。相変わらず元気そうで何よりだ」
「何腑抜けた事言ってんだ、テメエ!? この状況はどういう事だ!? なんでテメエがノブリス・オブリージュと一緒にいる!?」
「相変わらずせっかちだな、お前は」
「いいからとっとと答えろ!!」
肩を竦め、奏は微笑む。その一挙一動が響の癇に障った。見下されているような、馬鹿にされているような……。特に奏が何をしたわけでもないというのに、そんな気がしてならなかった。
「お前ももう判っているんだろう? 僕は今、ジェネシスとして行動している。ノブリス・オブリージュの教育係になったってだけの事さ。見たままだよ、響」
「それじゃあ訊くが、この化物に人殺しをさせているのもアンタなのか……?」
「――確かに、そういう事になるかな」
それだけで充分だった。響はジュブナイルを動かし、巨体が拳を振り上げて奏へと襲い掛かる。しかし狙われている奏は両手をポケットに突っ込んだまま、身動き一つしようとしない。そんな奏の目の前に突然巨大な影が割り込み、ジュブナイルの攻撃を無力化していた。
「ディアブロス!? 舞なのか!」
奏の背後、ユニフォンを片手に舞が姿を現す。ディアブロスはジュブナイルを押し返すと奏の隣に待機した。まるで最初から舞が助けに来る事をわかっていたかのような奏の態度に響は舌打ちする。
「酷いな。行き成り襲い掛かってくるなんて」
「テメエ……! 舞、なんでそんな奴と一緒に居る!? そいつが何やってんのか判ってるのか!?」
「……判ってるわよ。言われなくたって、判ってるわ」
舞は奏の隣に立ち、それから奏へ一瞬視線を向ける。奏は何も言わずに舞にその場を譲り、後退する。舞は顔を挙げ、鋭い眼差しで響を見据えていた。
「判った上であたしはここに居るの。舞台に立っているわ。自分の意思で――! 響、あんたこそ判ってるの!? この戦いの――辿り着く場所を!!」
ディアブロスが雄叫びを上げ、ジュブナイル目掛けて突進する。二機の大型VSは取っ組み合い、力比べを始めた。背後、ノブリス・オブリージュが奏の隣にテレポートする。響は眉を潜め、舞を見詰めた。
「そんなもん知るかッ!! テメエ、馬鹿じゃねえのか!? なんでそんな奴に味方すんだよ!! やりたくもない人殺しがそんなに楽しいのか!?」
「守れるものは二つに一つなのよ! 世界か、大切な物か――!! あたしは戦う! それが、奏のためになるならっ!!」
「舞、テメエエエッ!!!!」
ジュブナイルの瞳が輝き、ディアブロスを跳ね除ける。獣は後ずさりながら重量で行動を制御し、直ぐにジュブナイルへと向かい合う。
「響、奏はどうしちゃったんだ!?」
背後、志乃がようやく動き出す。響と奏、兄弟が対立している絵図に完全に混乱している様子だった。しかし響の真剣な目つきに従い、気持ちを切り替える。
帯を舞わせ、レクレンスを起動する。ディアブロスが問答無用に突撃を仕掛けてくる中、志乃は響の隣に立ってそれを待ち構えた。
「良く判らないけど、奏とは敵対している……それでいいんだね?」
「ああ! 志乃、援護してくれ! ディアブロスをシカトして奏をブチのめす!!」
モードをネガティブからポジティブに切り替え、装甲を腕に収束させる。正面きって戦うのでなければ、小回りが効くほうが良い。志乃が頷き、レクレンスを広げ、帯を放つ。それはディアブロスの足に一瞬で纏わりつき、伸縮する生地を引き、獣の動きを制限する。しかし凄まじい力で突進してくるディアブロスの軌道を変えるのが精一杯であった。
「すごいパワーだ……! 響、左から抜けて!」
「あいよっ!!」
僅かにそれたディアブロスの軌道。振り下ろされる嵐のような腕を掻い潜り、低い姿勢から響はすり抜ける。響の行く手を阻むように舞が立ち塞がり、二人は正面から向かい合った。
舞が繰り出した足を受け止め、響はその足を掴んで放り投げる。空中に投げ出された舞が目を白黒させる中、響は真っ直ぐに奏に向かっていた。
奏への攻撃を阻止するかのようにノブリス・オブリージュが間に割って入る。剣の盾を展開し、両腕の機関銃を構えた。しかし響はそれに構わず、片手を伸ばして突撃する。
「邪魔だ――ッ!!」
一瞬で弾丸の放出を掻い潜り、両腕の間に入り込んだ。剣の盾に握り締めた拳を叩き付けた次の瞬間、盾は一撃で圧し折れて破壊されてしまう。ノブリス・オブリージュは瞬間、思考が停止したかのように動かなくなった。絶対不可侵たるはずの装甲が傷ついたという現状に理解が追いつかなくなった。
「ノブリス・オブリージュに傷を……。そうか。やはり響、お前は――!!」
「奏ええええっ!!」
奏がVSを発動する。響が繰り出した拳を受け止めていたのは折り重なった六つの鎖だった。奏の背中から生えた鎖の束はまるで意思を持つかのようにうねり、響の身体を弾き飛ばす。
「当然、アンタも所有者ってわけだ!」
「ならどうする?」
「遠慮なくぶっ飛ばせるってもんだ――ッ!! おらあっ!!」
再び接近し、蹴りを放つ。響が次々に繰り出す連続攻撃を奏は無数の鎖を使って防いでいた。凄まじい高速戦闘が続き、激しい打ち合いの最中火花が飛び散る。
奏は響の攻撃を無力化し続けるだけで反撃する様子はなかった。繰り出す攻撃は威嚇、牽制目的でしかない。それは響にも伝わっていた。後方に跳躍し、へし折れて大地に転がったノブリス・オブリージュの翼を拾い上げ、コンバートする。
紅い稲妻が走り、翼が剣の形を形成していく。巨大な剣を両手で構え、響は再び始動した。その間を邪魔するように割り込んできたディアブロスの懐に入り込み、踏み込むと同時に一閃――。
「――退けッ!!」
「きゃあっ!?」
舞が悲鳴を上げたのも無理はなかった。ディアブロスの両腕は一振りで切断され、獣は悲鳴と血飛沫、両方を上げていたのである。舞が痛みに倒れるのを脇目に響の心の中に一瞬迷いが生まれてしまった。それを奏は見逃さなかった。
踊るように奏が前に出る。背中から伸びる無数の鎖で連続で攻撃を仕掛けて行く。響は剣を振り回しそれを防ぐが、やがて一つの鎖が足に絡みつくと響の身体は持ち上げられ、大地に激しくたたきつけられてしまう。
「っつう!?」
「そんなものかい? 響――」
「舐めてんじゃねえっ!!」
鎖を剣で切り裂き、着地する。正面から剣を構えなおし、響は走り出した。次々に飛んで来る鎖の刃をかわし、剣を振り上げる。至近距離まで近づいた瞬間、響の腕を鎖が貫いていた。鎖の先端部に装着された鋭い刃は響の左腕を切断する。しかし次の瞬間響は奏を押し倒し、馬乗りの姿勢になって刃を首筋に突きつけていた。
「腕の一本、くれてやる……。その代わり、アンタの首を貰うぜ……! くそ、兄貴――ッ!!!!」
剣を振り下ろそうと力を込める。次の瞬間、衝撃が響の身体を貫いていた。振り返るとそこには両腕を失い、しかし頭から生えた角で背後から響を串刺しにするディアブロスの姿があった。
獣は頭を思い切り振り上げ、響の身体はまるで重量を感じさせない勢いで放り投げ出される。空中から落下してくる響を布束で捕らえ、志乃がなんとか受け止めた。しかし腹を貫いた角の一撃は鋭く、響は動けないほどの傷を負っていた。
「奏、大丈夫!?」
そう叫びながら舞が奏に駆け寄って行く。響は血を吐きながら――舞が自分ではなく奏に駆け寄って行く姿を見ていた。いつだったか、ライダーが言っていた言葉を思い出す。彼女は自分の味方ではないと。彼女は、奏の味方なのだ――と。
思い出すと同時に悲しくなった。身体は動かず、志乃に支えられて何とか意識を保っている。止めを刺しに来るかと思いきや、奏は起き上がると同時に姿を消してしまった。舞いも続き、響を一瞥して消えてしまう。所謂テレポーテーションと呼ばれる現象だった。
残されたのはノブリス・オブリージュと二人だけ。しかしノブリス・オブリージュもまた何もしようとはせず、ぼんやりしたまま二人を見詰めていた、やがて、機械的な声が一言聞こえ、ノブリス・オブリージュもまた姿を消してしまった。
最後に聞こえた言葉はハッキリとはしていなかった。だが響は薄れ行く意識の中でその言葉の意味を考えていた。やがて目を開けていられなくなり――響は完全に意識を失った。
ノブリス・オブリージュが最後口にした言葉――。“響ちゃん”。その言葉の意味は、今の響には何も判らなかった。
〜とびだせ! ベロニカ劇場〜
*ノリのいい読者様が多すぎる*
響「誰だ!! 貴志真夕に投票したのはっ!?」
鶫「急にどうしたんですか?」
響「そもそも貴志真夕って誰なのか判ってんだろうか――」
鳴海「貴志真夕に関しては――検索してね♪」
鶫「作者さんがしょっちゅうくだらない話を夜中に聞かせてる人じゃないですか」
響「そういう事いうな。いいだろ、別に鎧のお姉さん萌えについて熱く語ってもよ」
鳴海「それにしても、二票入ってるのがまた面白いわよね」
響「そこにいれるなら俺に入れろといいたい」
鶫「普通だから入らないんじゃないですか?」
響「普通っていうな! 決していい意味では使われない普通……」
鳴海「この料理おいしい?」
鶫「普通」
鳴海「アタシの事好き?」
鶫「普通」
鳴海「この小説面白い?」
鶫「普通」
響「ああああああああああああああああっ!!!! 普通普通ってうるせええええんだよおおおおっ!!!!」