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BAD END(2)

『珍しいな、鳴海……。お前が電話をかけてくるとは』


 雨が降り注ぐ街。窓の向こうに見える灰色の景色……。鳴海は病院の廊下に立ち、公衆電話の受話器を耳に当てていた。

 電話の向こうの声は彼女の父親であり、父と会話をするのは数年ぶりの事であった。放任主義の教育方針に加え、自由気ままに生きてきた鳴海だからこその空白であり、それは決して険悪な物ではなかった。

 便りの無い事が無事の証拠……そんな間柄であっただけに、娘から電話がかかってくるという事態に父も悪い予感のようなものを感じていた。同時にそれは決してただの予感などではなく、現実である事を直後に知る事になる。


「――響が、死んだわ」


 その言葉の意味が判らず、父は沈黙していた。鳴海は受話器を握り締める手に力を込めた。雨音だけが響く薄暗いリノリウムの廊下の中、鳴海は眉を潜めていた。その両目からは涙が流れていたが、決して取り乱す事はなかった。


『…………何故だ?』


 それが嘘や冗談ではない事はわかっている。当然の事だ。ずっと昔から、娘の事を見てきたのだから。父の言葉に鳴海は小さな声で、しかし確かに一つ一つ事実を告げて行く――。

 櫻井響の遺体が発見されたのは、倉庫街の壊滅、その翌日の事であった。路地裏にて倒れていた響の死体を発見したのは事件を調査していた末端の警察官であり、その死因は心臓を鋭利かつ巨大な刃物で貫かれた事であると予想された。

 しかしそれも確実ではない。未だにきちんとした検死は行われておらず、確かな事はただ響の死、それだけである。響が先日の倉庫街の事件に関与していたかどうか、その事実関係もまた不明である。

 残ったのはただ、弟が失われたという事実のみ。それに付け加え、事件の捜査は全く進展していなかった。一帯何がどうなってあの現場での大破壊が発生したのか、それを一般人が常識的な捜査で認識するのは非常に困難な事だ。


「何も判らない……今は、まだ。でも必ず全てを解き明かすわ……! そうしなきゃ、アタシがこの世界に生きている意味がなくなってしまうもの」


『……鳴海。お前があの事について負い目を感じる必要はないんだぞ? 僕たちはもう、随分と前から言っている事だが……お前はもう充分苦しんだんだ。これからはもう、自由に生きていい』


「――そうも行かなくなったから電話したのよ。父さん……“鳴海機関”について訊きたい事があるの。鳴海機関はもう……本当に存在しないのよね?」


 父は言葉を失った。まさか再び鳴海の口からその名前が飛び出すとは考えても見なかった事だ。鳴海機関――。その言葉を前に父が息を呑むのが鳴海にもはっきりと感じ取れた。


『馬鹿な……。今更鳴海機関がなんだっていうんだ? 鳴海機関は完全に解体されたはずだ』


「でも、アタシはこの街に居る……。そして鳴海機関最後の生き残りであるアタシにしか見えない何かがこの街で蠢いている……。全くの偶然だとは思えないのよ。この街はハッキリ言って異常だわ」


『……わかった。お前の“感覚”がそう告げている以上は少なからず何かが起きているのだろうな。今どこにいる? 出来るだけ早く日本に帰国しよう』


「大丈夫よ。この件は自力で解決するわ。もう、家族は巻き込まない」


 そう語り鳴海は涙を拭ってしっかりとした眼で顔を上げた。吹っ切れたわけではない。だがここでつぶれてしまえば全てが終わってしまう。どんなに最悪な現状だって動いていれば抜け出せる。もがかなければ、永遠に世界は変わらない。

 失望も絶望も語るには過ぎた代物だろう。鳴海は受話器を握り締める指先に少し強く力を込めた。自分をここまで育ててくれた両親だけは、もう鳴海機関に関わらせたくはなかった。


「母さんに宜しく。それじゃ、忙しいから切るわね」


『おい、鳴海!?』


「ありがとう、お父さん……」


 受話器を置き、通話が終了する。小さく溜息を漏らし、額に手を当てて鳴海は目を細めた。

 自分がこの街で追い掛けてきた物の意味……ここに存在している意味。全てが無関係だとは思えなかった。奏が失踪し、響が死んだこの世界で――最早彼女に出来る事は全てを解き明かす事しかなかった。

 頭を掻き乱し、自分を律する。感情に流される事無く、冷静かつ慎重に……。しかし尻尾を掴むためには大胆さを必要とするだろう。全てを確実にこなし、全ての全貌を暴く為に時間をかけている余裕はない。

 情報は劣化する。世界の記憶も全ては削れて行く物だ。鳴海は響が嘗て使用していた壊れてしまったベルサスの割れたディスプレイを指で撫で、それを両手で包み込んでぎゅっと胸に抱きしめた。


『……こちらでも確認した。6thと13thは相打ち……そう考えるのが妥当だろうな。兎に角これで、参加者は二名減った事になる』


 鳴海が廊下で膝を着き、響のユニフォンを抱きしめる様子を丞は病院の出入り口から眺めていた。屋根は付いている物の屋外であり、丞の耳には3rdの声と同時に激しい雨音が入り込んでいる。

 丞の服は雨で濡れていた。ここまで色々と忙しかっただけにそれも仕方が無い事である。駆けつけてみれば、鳴海はあの様子であり、声をかける事も憚られた。


『どうやら現場に7thが居合わせたらしい。巻き込まれたのか意識不明の重傷で中央総合病院に搬送されているそうだ。意識が戻り次第、コンタクトを取るべきだろう』


「…………7thの目的は何だったんだ? 何故現場に居合わせた? 奴の独断行動と何か関係があるのか……?」


『そう考えるのが妥当だろう。7thはどうやら現場に居た6thと何らかの関係があったらしい。個人的な目的で6thを探していたようだが……それも7thの意識が回復すれば聞けるだろう。まあ、あの様子では既にこの戦いを勝ち抜けるだけの余力を残しているとは思えんがな』


 雨が降りしきる薄暗い世界を丞は睨んだ。6th、7th、更に13thが戦線離脱し、一気に所有者の数は三人減ってしまった事になる。そのうち二人が手を組んだジャスティスと敵対し、未確認のユーザーを含めても参加者の数は半分にまで減ってしまった。

 その中でも3rdの目的は不明であり、彼、あるいは彼女は戦闘に参加する意思を見せていない。更に言えば完全に他の所有者とは独立した行動を行い、中立を謳う1stの存在もあり、実質残る戦いは限られている。


『目的を果たした暁には君が勝者となる事もそう難しい話ではないな。ある意味では幸運……とも、言えるかもしれない』


「…………こちらも仕事に戻る。切るぞ」


 一方的にそう言い捨てて通話を終了する丞。振り返り、ポケットに片手を突っ込んだまま鳴海を見詰める。この戦いに勝者など存在するのか……今はただ、そんな疑問だけが彼の心を支配していた。



BAD END(2)



「ねえ、響ちゃん! きょーちゃんったらーっ! ねえ聞いてる? エリスの話、ちゃんと聞いてる!?」


「あぁ……? 聞いてるよ、聞いてる。ちゃあんと聞いてるって」


 テーブル越しに身を乗り出し、神崎はほっぺたを膨らませて俺を睨んでくる。ぼけーっと窓の外を眺めていたのが悪かったらしい。ま、流石に聞いてないのがバレバレか……。

 しかしまあ、なんでまた折角の休日に神崎なんかと一緒に出かけなければならないんだろうか。そもそも俺と神崎の間には直接的な面識は無かったはずだ。まあ確かに、何度か学校で擦れ違うとかそういう事はあったかもしれないが、行き成りデートに誘われるような間柄ではないことだけは確かだ。

 わざわざ休日を使って繁華街まで出てきたのは、勿論神埼のセッティングである。正直に言って俺はかなり退屈だった。神崎はあまりいい噂を聞かない人間だったし、だから何だって言うわけでもないがまあ兎に角性格的にめんどくさいやつだった。

 二人で何を買うわけでもないのに色々な店に入り――否、殆ど強制的につれまわされ、漸く喫茶店に入って一息つけると思ったのだが、神崎はそれでも喋りまくった。喋る事嵐の如し……。正に襲来した台風を前に俺に成す術など無く。ただ只管神崎の話にテキトーに合わせて返事を繰り返していた。

 それにしても、何でまた俺もこんなデートなんかを引き受けたんだろうか。冷静に考えてみるとそれが既にもうおかしいよな。神崎は確かに金持ちだし、面もいい。ちょこまかしているのを気にしなければ上玉の女子だ。事実、人気も高い。その美少女神崎さんが俺をデートに誘った……別にそれが嬉しかったわけではない。ただ、暇だったから……多分そう、そんな理由だったのだと思う。

 というか、他に思いつかない。色々考えてみたが、俺が神崎とのデートを引き受ける意味も理由も無い。なんでここにいるんだ、俺? よくわかんねえな。


「響ちゃんっ!!」


「おう?」


「おう? じゃないよっ! なんでエリスの事ガン無視してんの!?」


「いや、ちょっと考え事をしてただけだろ……。そんなに怒るなよ、神崎」


「……響ちゃん、女の子と話している最中に考え事ってどんだけ空気読めない子なの!? もういい! エリス、帰るっ!!」


 そう言って神崎はサマーブーツを鳴らしてずかずか歩いてさっていく。俺は目をぱちくりさせていた。いやいや……ホント、わけわかんねーなあいつ。

 まあ落ち着いたので烏龍茶を口にする。ふう、やっと人心地付いたぜ……そう考えていた時だった。何故だか判らないが猛然とした勢いで神崎が戻ってくるではないか。空いた口が塞がらない俺の前に止まり、エリスは涙目で叫んだ。


「追い掛けて来てよっ!! この――ばかあああああああっ!!!!」


 多分そんな感じで、俺の初デートは完全にグダグダに終了したのであった。むしろ敗北……?

 

「んまあ、別にいいか……」


 身体を伸ばし、晴れた空を見上げる。今日も世界は平和というやつだろうか。生ぬるい風が吹きぬけ、冷房天国から脱出したばかりの身体を舐めて行く。

 ポケットに仕舞っていたユニフォンを取り出し、時刻を確認した。時間は午後の三時過ぎ……。午前中からずっと神崎に引っ張りまわされていたが、漸く開放ってわけだ。

 首を捻る。こきこき音が鳴った。しかしまあ……なんでまた俺は神崎とデートなんかする気になったんだろうか。我ながら正気ではないな。いくら暇だったからって、何も自ら面倒に首を突っ込む必要もないだろうに。


「…………?」


 ふと。何かが引っかかった。何に引っかかったのか判らない。ほんの僅か、小さな違和感――。

 ベルサスを見詰める。なんだ? 何が引っかかっている? おかしい……。何かが妙だった。時間? 午後三時過ぎ……。時間? “時間”――?


「な――ッ!?」


 七月十二日、午後三時……。七月、十二日……?

 何かが引っかかる。いや、十二日であっているはずだ。期末テストが二日前に終わったばかりだし、覚えてる。そう、テストは十日までだったんだ。二十二日からは夏休み……。それで間違っていないはずだ。

 ベルサスのカレンダーを確認する。間違いない。合っているはずだ。だがしかし、何かがおかしい。


「神崎……?」


 そうだ、神崎だ。神崎? いや違う、俺は神崎をエリスと呼んでいた……確かそうであったはずだ。神崎、エリス……。どうしてエリスをエリスと呼ぶようになった?


 ――何でつぐみんは鶫って呼ぶのに、エリスは神崎なのーっ! 不公平だよーっ!!


「…………!? ……はっ? なん……だ?」


 何か……異常な事が起きていた。頭の中に、見た事も聞いた事もないような情報が流れて来た。しかもまるで自分が体験したかのような……そんな奇妙な感触。

 天地が逆転するような衝撃が頭の中に走る。思わず悲鳴を上げそうになったが、歯を食いしばってそれに耐えた。何がなんだか判らないままにその場に膝を着き、頭を抑える。


「なにが、おきて――ッ!?」


 視界がチカチカする。何もかもがドロドロに溶けて行くようだ。バリバリと縦に引き裂かれて、その隙間からゾロゾロと這い出てくる。それは記憶、残滓、悪夢――。瞳の中に吸い込まれた全てのイメージがフラッシュバックし、俺はいつの間にか止まっていた呼吸を再開した。


「――はっ! はあっ! はあ……っ!?」


 慌ててベルサスを取り出す。そうして――“俺はベルトのチェーンから繋がったもう一つのポケットにしまってあったベロニカを取り出した”。


「ぐうっ!!!!」


 頭が割れるようだった。なんだ? 何を取り出した? ベロニカ……? ベロニカ。そうだ、この名前を考えると――頭が割れるように痛い――。


「ぐ……っ!! あ……っ!!!!」


 変な音が聞こえた。甲高い、超音波みたいな音だ。それらが一斉にピタリと鳴り止み、頭痛は消え去っていた。代わりに今まで全くピクリとも動かなかったベロニカのディスプレイに文字が写りこんでいた。


 ――“変動因子癒着固定完了。改変現実再開。ベロニカシステム、正常に作動”――。


「ベロニカ……シス、テム……?」


 ベロニカシステム……。そうだ。なんだっけ。ああ。そうだ。そうだよ。奏が残した資料の中にあった名前……。ベロニカシステム……そのメモリーカード。

 封筒は手元にはなかった。そうだ、確か家においてきてしまったんだ。戻って中身を確認しなければ。いや、待てよ……。確かあの時、ライダーと一緒に居て――。


「くそっ!! またか!!!!」


 頭が痛い。なんだ。ライダーってなんだ。ライダー……。剣のVSの。そうだ。奏の関係者? 腕が無い少女。額に傷があった。よく食うホームレス……。ライダースーツにヘルメット……だから、ライダー。

 思い返すと頭痛は鳴り止んだ。やばい。少し思考を停止しなければ。これ以上考えたら本気で死にかねない。道端でもがいていたもんだから周囲からの目も大分やばい事になってるし。

 何も考えなければ頭痛は大分軽くなるようだった。そのまま急いで家まで戻り、部屋の中に飛び込んだ。兎に角喉が渇いていたので蛇口から直接水をがぶ飲みする。飲むにはあまりいい水じゃあないが、それでも今は充分だった。

 ソファの上に移動し、ベロニカをテーブルの上に放り投げる。髪をかきあげ、深々と息をついて横になった。兎に角体中が痛い……。


「ベロニカシステム……。ライダー……ぐっ! ラ、イダー……」


 そうだ。ライダーと一緒に――――――を、探していたんだ。そしたら――になって、それで俺は――――の所に、そうか、ベロニカシステムについての封筒はここにはない。“無い”んだ。

 でも、ああ――。ライダーに――何か――言われている。ベロニカシステムは――なんだ――くそ、思い出せない。良く考えろ。落ち着いて考えれば思い出せるはずだ。“システムは正常に作動している”んだ。


「そうだ、ポケットの中!!」


 ポケットに手を入れて探る。するとそこからはケースに入った小さなメモリーカードが現れた。そうだった、そうだよ。これだけはとりあえずポケットに仕舞ったんだ。だからここにある。

 身体を起こした。なんだか悪い夢を見ているようだ。俺は確かに――と戦って、そこで――は死んでしまったはずだ。エリスも……。いや、俺が殺したんだ。エリスもそう、俺があそこに連れて行く事さえしなければ――エリスが死ぬ事はなかったんだ。


「し、ぬ……? エリスが……?」


 まて。さっき会ったぞ。死んだ? まて。さっき会ったって。普通に元気だったって。なんで? 何で生きてる? ベロニカシステム? なんだそれは。


「くそ、くそくそくそォッ!!!! 何で思い出せねーんだよっ!! くそっ! くそ、くそ、くそっ!!!!」


 何か――取り返しの付かない事になってしまったんだ。だから俺は――ああ、思い出せない。思い出せない、思い出せない、思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない。

 頭がおかしくなりそうだ。何もわからない。なんでこんなユニフォンを持ってるんだ? ベロニカ? ライダー? ――って誰だよ。なんでここにいる? エリスが死んだ? 違う、生きてる。どっちだ? どっちが正しい?


「あああああああっ!! どっちが正しい!? どっちが!? どっち、どっちどっち、どっちなんだよおおおおおおっ!!!!」



「どっちも正しいの! 響っ!!」



 その声が聞こえた途端、俺の頭の中に鳴り響いていた砂嵐のような音が消え去った。クリアになった思考の中、俺は膝を付くと同時に大量の血を口から吐いていた。

 所謂吐血――いや、なんで吐血……? 意識はハッキリしていたが、まるで身体が動かなかった。何百キロもマラソンさせられた直後のような尋常じゃない疲労が全身を襲った。ゆっくりと振り返ると、入り口にはライダーの姿があった。


「らい、だー……?」


「……うん。ごめんね、探すのに時間がかかった。こっちの響が、何をしていたのか……良く、把握していなかったから」


 そう呟き、目を伏せるライダー。それから直ぐに俺に駆け寄り、俺の肩を抱いてくれた。ライダーの視線がすぐ近くにある……。すると不思議な事に気持ちが安定して行った。先程までどうしてあんなにも自分が取り乱していたのか理解出来ないほどに。

 ライダーの瞳を見ていると頭がぼーっとしてきて気持ちが楽になってくる。深く息をつき、目を閉じた。なんだかとても懐かしい感じだ……。ずっと昔、同じような事があった気がする……。


「……もう、大丈夫? 動ける?」


「ああ」


「自分の名前、言える?」


「櫻井響。清明学園二年A組、十七歳」


「この指何本?」


「三本……。大丈夫だ、ライダー。もう、落ち着いた。悪かったな……。迷惑、かけちまった」


 安心した途端、全身の力が抜けてしまった。倒れこむようにしてライダーに身体を預けると、彼女は片方しかない腕で俺を優しく抱き止めてくれた。それだけでなんだか何もかも許されたような気がして、病み付きになりそうなくらい気持ちが楽になっていた。


「大丈夫。落ち着いていれば、響は平気。一つだけ約束して……? 今の自分を、否定しないで。それだけが君が今、出来る事だから」


 その言葉の意味は判らなかった。しかし意味は判らずとも“そうしなければどうなるのか”は身を持って体感した。身体を離し、首を振る。少しだけ意思がハッキリしてきた。


「ああ。俺はここにいる……。俺は櫻井響……俺は、俺だ」


 ライダーに強く語りかける。それは自分に言い聞かせている事でもある。ライダーは頷き、優しく微笑んでくれた。その笑顔はどこか儚げで――自分が犯してしまった過ちを思い出さずには居られなかった。




「もう一度――やり直したい?」


 あの日、降り注ぐ雨の中、ずぶ濡れになって倒れる俺に彼女はそう言った。


「間違ったエンディングを……正したい?」


 何もかも終わってしまったと思っていた。そんな自分の身体を彼女の剣が貫いた。その瞬間、俺は何か大切な物を引き換えに、大きな運命の流れに飲み込まれてしまった……。そんな、気がした――。


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