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BAD END(1)

「――ふふっ! あはっ!! あ――っはははははははッ!!!!」


 海に面した倉庫街……そこは確かにそのはずであった。しかし今はその面影は残されていない。夜月の下、瓦礫だけが広がる壮絶な景色の中、鶫は腹を抱えて笑っていた。その瞳は虚ろに空を映し、光の下、頭上から降り注ぐ蒼い羽の蝶の光を浴びて輝いていた。

 その周囲は全て光線で切り刻まれ、鋭い切断面が帯びた熱は徐々に冷えて静まって行く。鶫の黒いスカートが風に靡き、髪を揺らして吹き抜ける。口元に浮かべた微笑は引き攣るように、元々の彼女を知っていた人物ならば眼を疑う事であろう。夜月の女王――。荒廃の上に立つその少女を見て。

 瓦礫の中から隼人は姿を現した。辛うじて無事ではあったものの、それはまったくの偶然に過ぎない。アンビバレッジは別に隼人目掛けて攻撃を放ったわけではないのだ。適当に、その辺りに向けて光線を放出しただけの事。

 最早隼人の事など眼中に無い。闇色を背負い、少女は笑う。少年は埃塗れの姿のまま、瞳を震わせそれを眺めていた。感じられるのは狂気のみであり、残されているものなど何も無い。


「化物……」


「……ふふ。もうね、な〜んにも怖くないんだよ? ねえねえ、怖くないんだよ? ねえ――痛くないんだよッ!! 怯えるのはお前の方だ!! 許しを請うのはお前の方だ!! あは! あはは! あはははははっ!!」


 アンビバレッジが光を掌に収束させていく。一本に編みこまれた八つの光は螺旋を描き、放たれる。極太の衝撃が走り、閃光は一瞬で少年の存在を否定しようと夜を裂く。

 側面に跳躍し、衝撃を回避する。閃光は海を突きぬけ、爆発的な量の海水を空に巻き上げる。解け落ちたアスファルトの大地を雨のように降り注ぐ海水が冷やす中、全身をずぶ濡れにさせた隼人は肩を震わせていた。

 目の前の存在は、本当に同じVSの所有者なのだろうか。まるで全く別の存在を相手にしているかのように感じる。VSも遥か異常な存在だ。しかし目の前のそれは――。常軌を逸するという言葉で直生温い。

 雫の中、蝶は羽ばたく。光の粒子が降り注ぎ、少年は震える足で立ち上がった。退くわけには行かなかった。もう帰る場所も無い。なくなってしまった。あの化物の所為で――。


「う――ああああああああああっ!!!!」


『無駄――』


 必死に恐怖に抗って立ち上がる少年。それを前に無慈悲に光が収束する。アンビバレッジが掌を隼人に向けた時――背後から無数の剣が飛来し、アンビバレッジは咄嗟に身体を反転させ飛来する剣全てを閃光の矢で射抜き撃ち落した。

 射抜かれた剣は全て空中で瓦解し、同時に正面から真紅の機体が迫る。響のVS――ジュブナイルが大地を唸らせながら入り、アンビバレッジへと飛び掛っていた。


「鶫――ッ!!!!」


「――あはっ! 桜井君!」


 二つのVSが擦れ違う。瞬間、二機は攻防を終えていた。お互いの装甲に傷をつけ、同時に振り返って拳を繰り出す。ジュブナイルとアンビバレッジ、その体格差は圧倒的である。しかしジュブナイルの拳はアンビバレッジに硬く受け止められてしまっていた。

 二機が力比べを行う中、響は瓦礫の山を駆け抜けていた。鶫の居場所を発見するのはそう難しい事ではなかった。あれだけの衝撃と騒ぎ……。響だけではないだろう。これからここには人が山ほど集まってくる。それこそもう、時間は残されていない。


「てめえっ!!」


 鶫を捕まえようと手を伸ばす。しかし鶫は身を捩り、響の手を紙一重でよけてしまう。響の腕が空ぶった瞬間、ジュブナイルの腕を掻い潜り飛来してきたアンビバレッジが響を蹴り飛ばす。

 うめき声を上げて遥か後方に吹き飛ばされて行く響。それをライダーが受け止め、響は口から血を流しながら顔を上げた。瓦礫の山の上、少女は微笑みながら響を見下ろしている。


「止せ、鶫!! 何やってんだ!? こんなのは目立ちすぎる!! 早くここから離れるんだ!」


「どうして?」


「どうしてって……!?」


「どうして……私ばっかり逃げなきゃいけないの? どうして私ばっかり脅えなきゃいけないの……? 不公平だよ、そんなの。だから私はね、もう逃げないの。何も怖くないよ、桜井君! だって、陽子が一緒にいてくれるもの――」


「響、下がって!」


 声と同時にライダーが前に出る。取り出した剣を構え、思い切り正面に振り下ろした。その瞬間にぴたりとあわせたかのように正面からは閃光が飛来し、ライダーの剣が光の矢を両断する。

 真っ二つに裂けた光は行き場を失い左右へと別たれた。それは再び響たちの背後で爆発を起こし、炎が広がって行く。夜の闇を焦がすような炎をうっとりと眺め、鶫は瓦礫の山を下りてくる。


「……駄目。もう、あの子は……」


「おい、駄目って何がだ……!?」


 無言で剣を構えるライダーの肩を掴み、食い下がる。しかし響は最早全てわかっていた。目の前の地獄絵図の意味も、鶫の笑顔の意味も。

 全てが狂い始めている。音を立てて幸せが崩れ去って行く。その中、赤い光を浴びて響は顔を顰めていた。

 一息にライダーは駆け出した。構えた剣だけではなく、無数の剣を取り出して走りながら鶫へと剣を投擲する。アンビバレッジと鶫の距離は離れていた。遠距離攻撃で所有者である鶫を倒す事が出来れば、あるいはこの戦いも早期決着が可能かもしれない……そう考えていた。

 しかしあろうことかアンビバレッジは主を守るどころか、そのままライダーへと飛んで来たのである。それでいい。確かにそれでいい。攻撃は鶫に命中するだろう。だがしかし、そんな事があるのだろうか。

 鶫が倒せればそれでいい。だが、アンビバレッジはそうさせないだろうと考えていた。主を守る為に隙を見せたアンビバレッジを両断する……それでも良かったのである。だが、アンビバレッジはセイヴァーを守らない――。

 完全に後手に回り、アンビバレッジの爪を剣で受ける。攻防を交わしながら、ライダーは目撃していた。鶫は――。

 彼女は特に、優れた身体能力を有しているわけではない。鳴海のような力があるわけでもなく。体力も乏しい。であるはずの少女が何故か――ライダーの放った四つの剣を全てその場で踊るようなステップで回避していた。

 在り得ない――。脳裏に過ぎる言葉。ライダーはアンビバレッジに意識を戻そうとするが、既に時遅し。アンビバレッジは剣ごとライダーを持ち上げると易々とそれを放り投げてしまう。空中に浮かんだライダー目掛け、八つの閃光が追尾する。

 レーザーの雨を剣で弾きながら何とか着地する。よろめく姿勢は大地に剣を刺して制御。瞬時に判断する事。“手ごわい”――。恐らくライダーが今までに相手にしてきたVSの中で、間違いなく最強の部類。


「もう止めろッ!!」


 その時、響の怒号が空に響き渡った。響はジュブナイルの前に立ち、両手を広げて鶫に言葉を投げかける。それは一種の賭けであり――ライダーは厳しい目つきでそれを眺めていた。

 無謀にも程がある。既にアンビバレッジの攻撃の一つ一つは生身の人間ならば容易に致命傷を与えかねないものにまで昇華されている。付け加えて所有者はまともに会話が出来るかどうかも怪しいものである。それでも響は声を上げる。それはわかっているのに。でも、諦めきれなくて。


「もう、止めろ……! 一緒に帰ろう! 俺たちは仲間だろ!?」


 鶫は無言で響を見下ろしていた。戦場に静寂が訪れる。その時であった。響の背後、物陰に隠れていたエリスが姿を現した。

 響の隣まで駆け寄り、エリスは胸に手を当てて鶫を見詰める。当然エリスには今何が起きているのか、VSも見えない一般人である異常理解は出来ていなかった。だがしかし少女は息を呑み、そうして告げる。友達に――。もっと分かり合えるように。許せるように。


「つぐみん、エリスね……!」


 直後、その言葉を遮るようにアンビバレッジの尾から光が放たれた。カーブを描きながら放たれたそれは大地に着弾する。世界に静寂が戻った。


「え?」


 それは誰の声だっただろうか。ライダーの。響の。エリスの視線が足元に集約される。途端、エリスは耐え切れずにその場に倒れこんだ。背後に倒れたエリスを背後から駆け寄り響が抱きとめた――次の瞬間。

 エリスの両足は音も無く大地に零れ落ちた。両足の、膝から先――それはもう彼女の支配の届かない物へと成り果てていた。まるで止まっていた時間が流れ出すかのように、エリスの両足の“切断面”から大量の血液が溢れ出した。

 血飛沫が舞う。その状況が理解出来ず、誰もが黙り込んでいた。それは響も、ライダーも、エリスも……そう、当事者であるはずの鶫でさえも。

 鶫は自分が何をしたのか判らなかった。否――彼女は何もしていなかったのだ。彼女が何も考えなくとも、彼女のVSは近寄る全てを殺傷する。指先一つで――大切な物を砕いてしまう。


「…………つぐ……。つぐみん、どう……ど…………して…………?」


 エリスは瞳を揺らして笑っていた。両足から流れる血は止まらない。激痛が少女を苛む。しかし彼女には何も見えていなかったのだ。ただ突然、自らの両足が切断されてしまった。地面に転がった足も、もう戻らない感覚も、激しい熱のような痛みも……全ては突然の事。理解は追いつかない。響が傷口を抑える。エリスは震える手で響の肩に触れ、爪を立てた。


「響ちゃ……。いた……っ。いたい、よ……」


「…………エリ……ス……」


「痛い……すごく、いた……う……あ……っ? あぁぁぁぁ……っ! 何で……!? なんでっ!? やだ……!! やだよこんなの……! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


 ライダーが表情を変えた。既にとぼけた様子の少女はそこには居なかった。少女が手を翳すと、頭上より無数の剣が振り注いで大地に突き刺さる。それを手に取りライダーが駆け出した瞬間。

 響もまた振り返り、血塗れの手でエリスを抱きながら涙を流していた。その表情には優しさや哀れみのようなものは一欠片も感じ取る事が出来なかった。背筋がぞくりとするような憎悪の視線……。鶫は脅え、後退する。


「――――ツぐみィイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!」


 空に雄叫びが上がった。

 音を立てて、全てが台無しになって行く――。



BAD END(1)



「――なんだ、あの光は……?」


 街中からも戦いの光は確かに見えていた。夜空に立ち上る赤い光の柱――。違法ダイブスポット装置を破壊した路地から出てきた丞と鳴海は空を見上げる。

 光は直ぐに消えてしまった。しかし非常に高い力を持ったVSの反応を確かに丞は捕らえていた。何が起きているのかは想像も出来ないが、大きな戦いが起きている事は間違いない。


「……誰かが派手にVSを使っているらしい。だがあれでは……目立ちすぎるな」


「何が……起きているの……?」


 額に手を当て、鳴海は片目を瞑った。鈍い痛みが頭の中を駆け巡り――そして何かの光景がフラッシュバックする。

 夜空を切り裂く閃光の意味――。痛みの中、鳴海はそれを思い返そうと努力する。しかしおぼろげなイメージを掴む事は出来ず、恨めしげに空を見上げるだけである。


「…………どうしてなの? アタシ、これ……見た事が、ある――?」




「――おぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオッッ!!!!」


 空に立ち上る赤い光――。その袂にはジュブナイルの姿があった。瞳を開き、真紅の眼が鶫と捕らえる。同時に顎であると思われていた部分が次々に開放され、“仮面の中”に隠されていた素顔を現した。

 鋼鉄の仮面の下にあったのは不気味な形状をした赤黒い肌の獣であった。この世ならざる割けた口を開き、空に吼える。それを最後まで見届けずにアンビバレッジは矢を練り上げ、収束した一撃を放った。

 正面に向かってくる閃光は全てを薙ぎ払いながら突き進んでくる。それにジュブナイルは手を翳す。片手で織り込まれた光の矢八発を八方に弾き、熱された装甲が赤く滾る。


『……防いだ……?』


 アンビバレッジの呟きと同時にジュブナイルは後退する。巨体を引き摺り両腕を振るう。次の瞬間、響はベルサスを揮う。光の軌跡を帯びながらディスプレイに文字が浮かび上がった。


 “Mode Change”――。


 次の瞬間、無数の糸がほどけて行くようにジュブナイルは姿を消滅させて行く。光の渦を帯び、響はベルサスを握り込んだ拳を空に掲げる。


「…………響っ!」


 声はライダーの物であった。しかし響に声は届かない。彼は今何も考えてはいなかった。心のどこかにあった何か大切な物が途切れ、今や完全な激情に支配されている。

 言ってしまえば、“響は無自覚にそれを行っていた”。しかし同時に彼は認識し、自覚するのだ。己の力を――その本質と、その扱い方を。

 空を突き破り大気を劈くような音光が止み、それらが響の拳に収束する。ベルサスを中心として装甲が形成され、響の腕がその形を変えて行く――。


 “Positive Action――Raedy?”


 只事ではない雰囲気に反応し、アンビバレッジが前へと飛び出す。その全身、ありとあらゆる場所にある射出口が開き、一斉に閃光の矢が放たれた。その数合計三十二――。

 全ては空中で軌道を変え、何度も屈折しながら目標へと迫る。収束する光の雨が響に着弾した瞬間――光が爆ぜる。まるで明暗が反転したかのような、そんな錯覚を覚える。目標は――傷一つない姿で顔を上げた。

 右腕は赤い装甲で覆われている。巨大化した腕はジュブナイルの腕そのもの――。歪で、鋭く、鈍重で――紅蓮の体現。腕に雷撃を迸らせながら響はゆっくりと走り出した。速度は見る見る増して行き、風のような速さで跳躍する。


『鶫、下がって!』


 空中より響が飛来する。しかしその接触は眼には見えない光の壁で拒絶されていた。アンビバレッジが羽を振動させて起こした微弱な粒子の風が蝶を守る壁となる。それにへばりつき、攻撃を諦めて響は一度後方へと跳躍する。空中を縦に回転し、着地。直後、巨大な瓦礫の破片を右腕で掴み上げた。


「“変換コンバート”――!」


 蒼い稲妻が駆け抜ける。次の瞬間、コンクリの塊に過ぎなかった物体は見る見る内に姿を変え、巨大な槍の形状へと変化した。右腕でそれを構え、再び跳躍。空中より月を背負い、槍を投擲する――。

 粒子の結界へと突き刺さり、槍は停止する。攻撃を防ぎきったと思った次の瞬間、響は自らが結界に突き刺した槍へと蹴りかかっていた。蹴りの衝撃が加算され、槍は結界を貫通する。矛先はアンビバレッジの足元に突き刺さり、直後結界を抜けた紅い腕がアンビバレッジの顔面を鷲づかみにしていた。


「ぉおおおおおおおお――らあッ!!!!」


 声と共に大地へとアンビバレッジを叩き付ける。途端にアスファルトが窪み、亀裂が走った。鶫の後頭部に激しい痛みが走り――アンビバレッジは反撃の腕を伸ばす。

 それを阻止するように執拗に何度も何度も激しくアンビバレッジを大地へと叩き付け、胸を踏みつけ腕を捻り上げる。巨大な腕に捕まれたアンビバレッジの腕はまるで玩具ようであった。力が全く及ばず、文字通り子供の腕を捻るかの如くアンビバレッジの左腕は捻じ切れてしまった。

 筋肉組織ごと引き千切り、腕を握りされるアンビバレッジ。自らのVSの腕を引きちぎった響を見る鶫の目は完全に脅えていた。何が起きているのか――最早何も理解出来はしない。

 そう、彼女は自分がなぜこうなっているのかさえ全く理解出来なかった。言ってしまえば全てはただの偶然――そう、彼女が彼と出会ってしまった事さえも。

 燃え盛る炎を背景に響が鶫を見やる。アンビバレッジを蹴り飛ばし、引き千切った腕を“変換”――。出来上がったのは巨大なレーザーライフルであった。銃口を鶫に向けて構える。響の表情は――前髪に隠れて見えなかった。

 しかし鶫は確かに見た。声にもならない、言葉にならない声で――。響の唇が、彼女の運命を告げていた。歪んだ口の端と同時に引き金が引かれる。

 放たれた真紅の閃光は周囲の風も空も全てを切り裂いて放出される。銃口が焼け付く程にレーザーを照射し続ける。響の正面、瓦礫が全て蒸発し、奇妙な異臭と熱が場を支配していた。

 目の前に迫る死の光を前に鶫に出来る事など何もなかった。触れれば一瞬で蒸発する凄まじい熱量の嵐を前に呆然と立ち尽くし――その影は光に飲み込まれてしまう。

 だが、鶫は燃え盛る熱の渦の中で辛うじて肉体を維持していた。焼け付いた瞼をゆっくりと開くとそこには自分を庇って翼を広げた嘗ての親友の姿があった。その背中を見詰め、振り返って笑うアンビバレッジへと微笑を返す。次の瞬間――。

 アンビバレッジの翼は燃え上がり、その身体を維持する事が出来なくなった。燃え上がったVSの壁を失い、鶫は光に飲み込まれた。何もかもが消えてしまった景色の中、少女は一瞬だけ心の中に想い出を描き、そして――光の濁流は海へと突き抜けて行く。夜の闇を屠り、海を叩き割りながら。

 閃光が止むと同時に銃は砕けて散ってしまった。響はその掌の中から音も無く崩れ去ったアンビバレッジの腕であったものを見下ろし、それから自分の目前に広がる無の空間を眺めた。響の背後、眉を潜めたライダーがゆっくりと近づいて行く。


「……響」


 響は振り返った。ライダーは何故か悲しげな表情を浮かべていた。響はライダーを無視し、その脇を通り過ぎる。後方に倒れていたエリスは青い顔をして息も絶え絶えに眼を瞑っていた。

 エリスを抱き上げ、響は失われてしまった足を捜して周囲を見回す。しかし戦闘の衝撃で足はどこかへ隠れてしまったのか、見つけ出す事は出来なかった。

 再びエリスに視線を向けた時、エリスは既に息をしていなかった。煤で汚れた頬を涙の雫だけが伝っていき、エリスはもう動かなかった。その小さな身体を揺さぶり、響は唇を噛み締める。


「……違う」


 そう、こんなはずではなかった。何故こんな事になってしまったのだろうか。鶫は死に、エリスもまた死んだ。何もかも死んで……自分だけが生き残ってしまった。


「俺は、こんな未来望んでなかった……! 俺は……っ!! 俺はああああああああああああああああああっ!!!!」


 夜空に叫びがこだまする。燃え盛る大地の上、悲しみは全てを飲み込もうと空へと手を伸ばし続けていた――。


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