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復讐(2)

「ジョー君、スプーン曲げ――って知ってる?」


 一度部屋に戻った丞に続き、鳴海も部屋の中に足を踏み入れた。散らかった――というより殆ど放置された部屋の中、スプーンを片手に鳴海がそう問い掛ける。

 丞は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、そのまま口につけて飲みながら頷いた。鳴海はそれを確認し、片手にしたスプーンに触れて見せる。

 暫くの間鳴海はそうしていた。丞は何をしているのか一瞬理解出来なかったが――突然スプーンが真っ二つに折れて床の上に転がる音で漸く鳴海が何をしていたのか気づく。

 折れたスプーンを拾い上げ、鳴海は二つの破片となったそれを丞に手渡す。まるで刃物か何かで切断されたかのようにスプーンの切断面は綺麗だった。鳴海は額に浮かべていた汗を拭い、腰に手を当てる。


「昔から得意だったのよねえ、スプーン曲げ……。やった事は無いけど、その気になれば多分スプーン以外も曲げられると思うわ」


「……マジックとかじゃなくてか?」


「残念ながら天然モノよ。それで、さっきの“VS”の話を聞きながらふと思ったんだけど……。VSっていうのは、もしかして超能力みたいなものなんじゃないかしら」


 VSはユニフォンにインストールされているアプリケーションの一種である。実体の無い存在――VSと呼ばれるそれらを召喚し、行使する。一般人の目には見えず、VSのユーザーにのみ認識する事が出来る。

 鳴海は丞にVSについて簡単に説明を受けていた。丞としてはまさか真面目に受け取られるとも考えて居なかったので、まさかそう切り返してくるとは思いもしなかっただろう。

 超能力……。鳴海がスプーン曲げが出来るようになった経緯については様々あるが、彼女は過去の出来事を切欠として所謂超能力と呼ばれる物に近い能力を備えていた。それはあくまでも“のようなもの”であり、厳密には超能力と呼べるような物ではなかったが。


超能力者サイキックであるアタシにVSが認識出来たって言うのは、多分そういう事なんじゃないかしら。全く同じって事ではないんだろうけど……そうだとすれば、“辻褄が合う”のよね。色々と」


「……そもそも、そのサイキックって部分がにわかには信じられないんだが」


「あら、VSの方が余程胡散臭いじゃないの。超能力者なんてそこらへんほいほい居るわよ、きっと」


 鳴海の言う超能力と言うのは、何も映画や漫画などで見るような物とは異なる。例えば、人より少しだけ勘が鋭かったり、人より少しだけ見えないはずのものが見えたり……。そうしたほんの僅かな、本人が自覚するかどうかさえ曖昧な“力”を指している。

 当然、鳴海もまた超能力者と呼ぶには中途半端な存在である。物理的に物体に干渉できる能力で所持しているのは精々スプーン曲げ程度であり、その他の物も曲げられるかもしれないとは言うものの、その確信があるわけでもない。

 ただほんの僅か、他人より勘が鋭く。他人より感覚的に優れた目を持っているというだけの事である。それは人生の中で特に大きく彼女の貢献する事はない、いわばあっても無くても変わらないような力だ。


「自分と他人の感覚が一緒であるとは限らない。アタシが見ている赤と、ジョー君が見ている赤……それが同じであるかどうかを確かめる術は無い。人は常に肉体と言う檻で隔絶され、孤立した存在よ。故に己を知る事すら叶わない……。人が持つ力と言う奴は、得てして理解に苦しむ物なのよ」


「まるで学者だな」


「当たらずとも遠からず、ね。まあ兎に角、アタシの言いたい事は一つ。アタシだったら足手纏いにはならないわ。VSってやつの動きも、多分ある程度把握出来ると思う」


 丞はペットボトルのキャップを締めながら眉を潜めた。この女、既に自分と行動を共にする気満々である。口で言ってもどうにかなるようには見えないが、女に手を上げるのは寝覚めが悪い。

 結局困った丞はペットボトルを冷蔵庫に戻し、溜息を一つ。それが丞の諦めのポーズだと理解し、鳴海は笑顔で丞の肩を叩いた。


「これからよろしくね、新しい相棒さん」


「……良いのか? あんたの連れを帰しちまって」


「警察は干渉しないというのが約束だもの、仕方が無いわ。それに新庄君は新庄君でやる事もあるでしょうしね」


 そう口にしながらも鳴海の表情は複雑だった。その鳴海が疑問に思っている事は丞の考えもよらない事である。推測するだけ無駄なので丞はもう考えなかった。


「それで? これからどうするつもり?」


「……ユグドラシルネットワークにダイブする。そこで情報提供者と会い、次のターゲットを決定する。当分はジャスティスが違法に設置したダイブスポットを潰して周る」


「あら、場所がわかってるわけじゃないのね。それに仲間が居るっていうのは意外だわ。一匹狼タイプだと思ってたから」


「…………。仲間、というわけでもない。同盟……というのが正しいだろうな。とりあえずジャスティスを潰すという目前の目的で一致しているだけの関係だ。そういう意味でいいなら、俺以外に二人の仲間が居る」


 正直に言えば、丞は鳴海を助けたかったわけではない。そもそも最初は助けに行く事さえ乗り気ではなかった。ジャスティスに関与しようとする人間がジャスティスという統一組織によって食い潰されてしまう事など珍しくもなんとも無い事である。近づく方が馬鹿なのだ。それをわさわざ助けていたらキリがない。

 しかし彼は一人ではジャスティスに立ち向かえない事を知っている。彼はジャスティスという組織の巨大さも狡猾さも理解している。一人で挑もうものならば、仮にVS所有者だとしても返り討ちにあってしまうのは必然である。

 情報提供者というのは彼と同盟を結んでいる人間の事であり、その人物の指示で丞は各地のダイブスポットを攻略していた。今回鳴海を助けに駆けつけたのはその人物からの依頼であり、どうしてもと言うので仕方が無くやってきたのである。

 その理由については深く訊ねる事はなかったが、こうして鳴海と実際に対面して丞の中には不思議な感覚が芽生えていた。やはり鳴海は一般人とは違う。何か、不思議な感覚を得るのだ。


「それじゃ、さっさとユグドラシルネットワークにダイブしに行きましょう。アタシあれ苦手なんだけど……仕方ないものね」


 笑顔でそう語る鳴海。丞は最早鳴海を追い返そうとは考えて居なかった。むしろその存在がこの戦いにおいてキーとなるのならば……傍に置くのも悪くはない。今はそう思えていた。



復讐(2)



「……そっか。それは大変な事になったね」


 響の話を聞き、志乃は小さな声でそう呟いた。

 二人が会話を交わしていた空間は現実の空間ではない。ユグドラシルネットワークに存在する、VS所有者のみが立ち入る事の出来る特殊なコミュニケーションフィールド、“テスタメント”である。

 大地に浮かぶ巨大な羅針盤の上、志乃と響は向かい合っていた。リアルが多忙な志乃は響の居場所まで向かう事が出来ず、気軽にあえるテスタメントを使用する事にしたのである。

 お互いの存在は最初は秘匿されていたが、現在はその状態は解除されている。任意のユーザーに対して自らの姿と声を明かす事は簡単な操作であった。


「それじゃあ、その鶫って人は今は……?」


「わからねえ……。兎に角探さないと。今のあいつは何をしでかすか判らないからな……」


「そうだね。それに多分、鶫のVSは進化エヴォリューションしてる。並のVSじゃ単騎で戦っても死にに行くような物だよ」


「……進化?」


 VSにはレベルと呼ばれるステータスが存在する。それらは目に見えてユーザーに対してVSの成長度合いを告げるパラメータであり、そのレベルが高ければ高いほどVSの能力は高まって行く。


「というより、レベルが上がれば上がるほど、そのVSの本質が目覚めて行く……とでも言うのかな。レベルは最大10までで、LV10になった瞬間そのVSはVSとしては根源的な力を目覚めさせる事になる」


「本質……? まるで最初はVSが封印されているみたいな言い方だな」


「あ、その封印っていうのはかなり近いかもしれないね。ボクもそこまでよく判っているわけじゃないけれど、VSというのは本来もっと凄まじいものなんだよ。その封印がレベルが上がる事によって徐々に解けて行くんだと思う。進化っていうのは、全てのVSがするわけじゃないらしいけど、中にはそういう事が起こるVSも居るらしい」


「その、進化が起きるとどうなるんだ……?」


「正直、判らない。でもVSの進化条件は様々だから……その条件を満たすような出来事が起きたんだと思う。少なくとも聞く限り、いい状況ではなさそうだね」


 響は溜息を漏らし、片手で頭を抑えた。そう、状況は決していい方向には転がっていない。最早何がどうなっても、恐らくは最悪に近い結末しか待っていない事だろう。

 警察は既に鶫を追っていると考えてまず間違いは無い。直接的に手を下したのが鶫ではないとしても、鶫の家には両親の死体が転がっているのだ。それは彼女が疑われない方が不自然と言う話であろう。

 追い詰められた鶫から出現したVS――進化したアンビバレッジは強力に現実へと干渉するだけの能力を秘めていた。放たれた閃光の威力は計り知れない。あんなものは現実には存在しない兵器であり――同じVSユーザーでしか太刀打ちも出来ない。

 鶫はこれから何をしようとしているのだろうか。彼女の目的が判らなければ追う事も叶わないだろう。しかしそれで目的が判明し、行動を阻止する事が出来たとして……それでも幸福は待っていない。鶫はもう、どこにも逃げられないのだ。エリスに真実を知られ、響の部屋は警察に目をつけられている。

 思いつかない解決策よりもそれが思いつかない自分に苛立ちを覚えた。響は眉を潜め、舌打ちする。本当に厄介な状況になってしまった。


「進化したVSを倒すにはどうすればいい? 俺のVSも進化出来ないのか!?」


「それは難しいね……。響のVS、ジュブナイルはまだLV1だ。VSの進化には条件があって、それは多分個体によって異なるんだと思う。そもそも進化するVSなのかどうかも判らないしね。それにしても、響……妙なんだけどさ」


「あ?」


「どうして響のVSは、その……LV1のままなの? ううん、いや、どうして“LV1になれた”の?」


 質問の意図が理解できず、響は腕を組んだまま首を傾げた。その響の様子に志乃は架空のユニフォンを取り出し、そのデータを空間に表示してみせる。立体映像にように写りこんだその表示を眺め、響は眉を潜めた。


「ボクのVS――“レクレンス”のLVは今3なんだけど……ボクは一度も他のVSと交戦してないんだ。変でしょ?」


「つまり、最初からLVが3だったって事か……?」


 VSのLVが上がる条件については不鮮明な部分が多い。しかし、その能力を使えば使うほど上がって行くのが当然であると考えられる。実際、VSを使用し続けていた鶫のアンビバレッジのレベルは見る見る内に上がって行った。


「多分他の人も最初からある程度LVがあったんじゃないかな。これは推測なんだけど、もしかしてVSのLVっていうのは、所有者本人のVSへの適正みたいな意味もあるのかもしれない」


「つまり、VS能力を扱うにも得意不得意が在るって事か……。じゃあ、なんだ? 俺はVSの才能がないって事か?」


「う、うん……まあぶっちゃけそうなるね」


 最弱のVS――そんな言葉が二人の脳裏に過ぎった。LV1というのはどういう事なのか。アンビバレッジとの戦闘を何度か経験し、響本人はVSの扱いに慣れてきていると感じている。しかしVSのレベルは上がらない……。

 その事実を別に響はなんとも感じていなかった。所詮は表記されるステータス上の話である。しかし余りにも明確なアンビバレッジとの戦力差は問題として直視しなければならない。気合でなんとかしようにも、限度というものがある。


「アンビバレッジを止めるにはアンビバレッジを倒せるだけの戦力が必要になると思う。響、ボクも手伝おうか?」


「仕事が忙しいんだろ? それにこれは俺の問題だしな……」


 急がなければならない理由はもう一つあった。本来、響はここに舞と二人で来るつもりだったのである。しかし舞は、響とは考え方が異なっていた。


「――お嬢さんがもしこれ以上VSの力で他人を傷付けるようなら、あたしはお嬢さんを殺すわ」


 というのが話を聞いた舞の台詞である。舞はそのまま響とは別行動を開始してしまった。つまり、舞よりも先に鶫を見つけなければならないという事……。

 舞は十中八九暴走した鶫を殺すつもりで居るだろう。舞の戦闘能力がどれほどなのかは不明だが、どちらが勝利したとしてもどちらかは死ぬ結末を迎える事になってしまうだろう。そうなってしまう前に事態を収集せねばならない。それもこれも、全ては響の甘さが導いた結果なのだから。

 全ての人間を救う事は出来ず、全てを正しいと語る事は出来ない。それぞれの行いに正義と悪があり、その罪全てを晴らす事も出来ない。ならば何かを犠牲にせねばならなかったのかもしれない――今更ながらそう思う。

 しかしそれでも今は進むしかない。考えてもそれは仕方が無いことなのだ。起きてしまった以上、自分に出来る事をしなければならない。その他に出来る事は何もないのだから。


「そっか……。でも、何かあったら連絡してね。出来る限り手を貸すから」


「ああ、サンキュ。幸いまだ事件らしい事件は起きてねえし、今のうちになんとかしてみるわ」


 挨拶を交わし、ログアウトする志乃を見送る。【SHINOがログアウトしました】というテロップが流れ、響は小さく息を漏らした。

 どうする事が正しいのか、正直今は判らなかった。しかしこのままほうっておく事も出来ない。中途半端な気持ちで動けば状況を悪化させるかもしれない……それはわかっている。それでもじっとしている事だけは出来そうにもなかった。


「俺もログアウトするか……んっ?」


 そうして響もテスタメントを去ろうとした時であった。新たなユーザーがログインしたというテロップが流れ、目の前に光の柱が立ち上る。現れたのは黒いシルエットだけの人物だった。


『やあ。初めまして、十三番目』


「……ああ。初めましてだ、三番目」


 シルエットには【3rd】という文字が浮かび上がっている。それは三番目からすれば響も同じ事である。シルエットだけの三番目の声はまるで機械のように変換されており、男か女かも判断する事が出来ない。


『ここには頻繁に顔を出しているが、君と会うのは初めてだ。君は私とは違ってリアルで色々と忙しいのだろうね』


 敵だというのに馴れ馴れしく話しかけて来る三番目サードの声に響は眉を潜めた。すると表情は見えていないはずだというのに、サードはまるで響の仕草が判ったかのように笑う。


『そう邪険にするなよ。ここで会ったのも何かの縁だ、君に手を貸して上げてもいいかなという気分なんだが……どうかな?』


「手を貸すって、どこの誰かもわかんねえのに何をしてもらえるんだ?」


『そうだな……。君の知りたがっている事について答えてあげようか。こう見えても、君よりは少しVSの知識が豊富だと自負していてね。君が探しているお友達の事も、少しは理解しているつもりだ』


 その言葉に響は思わず身構えた。しかしこの空間では敵対する事は絶対に出来ない。VSも出せなければ相手に触れる事すら出来ないのだから。それを思い出し、やる気なく響は肩を竦めた。


「良く知ってるな」


『君のこれまでの戦いも少しは把握しているつもりだ。折角助けた皆瀬鶫シックスス……また助けたいのだろう?』


「何もかもお見通しってか。気分悪いぜ」


『“うさぎ”程ではないがね――。だが、6thを助けるつもりならば急いだ方がいい。彼女は因果を引きすぎる』


「は? 因果?」


『色々とややこしい、という事さ。さて、そろそろ私はお暇するよ。また会おうか、13th』


 突然居なくなるシルエット。響はそれを追い掛ける事も出来ない。ログアウトされてしまってはもう連絡を取る手段もない。尤も、取れたとしても取るつもりなどなかったが。

 響もすぐさまログアウトする。現実の空間、ネットカフェへと意識を回帰させる。少しだけ疲れた感覚で額を抑え、それから直ぐに立ち上がった。ダイブユニットより出ると、正面でお風呂セットを膝の上に乗せてソファの上で気持ち良さそうに転寝しているライダーの姿が見えた。

 ネットカフェの設備の一つでもあるシャワールームを利用し、ライダーは大分すっきりした様子だった。まだ濡れている頭の上にタオルをかけ、うとうとしているライダーの肩を揺さぶって起こす。


「おい、ライダー」


「う……?」


「起きろ!! ちゃんと頭洗ったか?」


「洗った」


「頭ちゃんと拭け!」


「うん」


 タオルでごしごし頭を拭きながら立ち上がるライダー。長く伸びっぱなしの髪も洗うと随分とさっぱりしたような錯覚を覚える。長さは変わっていないので別に実際さっぱりしたわけではないのだが。

 そうしているライダーを見て漸く響は違和感を覚えた。じーっとライダーを見詰める。ライダーは何故か、片手で頭を拭いていた。片手である。首を傾げる。何故両手で頭を拭かないのか。見れば不便そうに左腕だけで右側も拭こうとしていた。

 何気なく視線を向けた右腕……そこに触れてみる。帰って来たのは柔らかい感触――スーツの手触りだけであった。思わずぎょっとする。もう一度触って確かめてみる。やはり――間違いない。“腕が無い”のだ。


「うええぇぇぇえええッ!? 右腕が、ねえっ!!」


 思わず叫んでしまった響だが、他の利用客や店員から妙な視線を向けられたのは言うまでも無い。ライダーは大声を上げる響を見詰め、それから頷いて見せた。


「ない」


「え、いやっ!? 今まであっただろ!! この間戦った時も両手に剣持ってたじゃねえか!?」


「うーん……。腕はない。ないけど、ある」


「い、意味わかんねえんだが……」


 ライダーは振り返り、ソファに立てかけてあった何かを手に取り響に差し出した。それは人間の腕――を模した機械の塊。SFチックなデザインが施された、シャープなデザインの義手であった。


「これがわたしの右腕。普段は動かなくて、VS能力で動かしてる……どうしたの?」


「いや……なんだ、こりゃ……? オモチャじゃねえよな……?」


 腕を手に取り、まじまじと見詰める。ライダーが今までずっとライダースーツであったが故に気づかなかったが、しかしそれだけではない。義手と呼ぶにはあまりにも精巧にそれは稼動していた。それこそまるで違和感を覚えなかったほどに。

 ライダーは腕を響から取り返し、スーツをはだけさせる。腕は肩口からほぼ完全に消失しており、ライダーはスーツの中に義手を通し、チャックを上げる。腕の切断面には機械のようなもので蓋がされており、そのパーツと連動し義手が稼動しているように見えた。

 義手は機械音も無く、しなやかに動いてみせる。手を握り、開いた動作の後ライダーは響を見詰めた。響は空いた口が塞がらなかった。


「うおー……なんという未来……。一体どういう仕組みで動いてんだそれ……」


「それより用事は終わった?」


「あ、ああ……。兎に角歩き回って探すしかないみたいだな……。それよりお前、いいのか?」


「何が?」


「鶫を探すの手伝ってくれるんだろ? 意外っつーかなんつーか……。俺はてっきり、舞みたいに鶫を殺そうとするのかと思ってたからな」


 そう、ライダーはあれから大人しく響に付き従っていた。どこかへ行ってしまう様子も無く、今のところは非常に従順である。響にはそれが逆に不気味だった。


「別に、いい。それに響は……ごはんをくれたから」


「…………え、そこ重要?」


「重要」


「そ、そうか……。まあいいや。しょうがねえ、鶫を見つけるまで頼むぜ、相棒」


「了解した、相棒」


 淡白にそう切り返すライダーに思わず笑い出してしまう。今は兎も角、鶫を探さねばならない。響はライダーと共にネットカフェを出て街を歩き始めた……。

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