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Shadow(3)


「……ここまで来ればもう大丈夫だろう。そもそも……VSを使ってくる奴は組織にも二人しか居ないはずだからな」


 そう語る丞の傍ら、疲れた様子で肩を落す新庄と腰に手を当てて考え事をしている鳴海の姿があった。つい先ほどの新庄救出作戦直後、三人は現場から少し離れた工業エリアに身を隠していた。

 あの場所から脱出する際に他にも揉め事が発生するかと考えていた鳴海ではあったが、結局あれきり何も起こらずに終わってしまった。それも勿論、腑に落ちないのだが――。


「あんた、警察の人間か……?」


「え? ええ、そうよ」


「……悪い事は言わない。もうこれ以上この件に首を突っ込まない方がいい。あんたが何もせずに本土の方でのんびりしていたって事件は解決する」


「どうして?」


 鳴海の問い掛けに丞は応えなかった。それで鳴海は直ぐに理解する。丞は判りきった質問をされるのを嫌う傾向にあるのだ。無駄な会話はしたくない……そんな雰囲気が漂っていた。

 それは一見すると拒絶にも見えるが、その実そうではない。彼は拒絶しているのではなく、己の孤高を貫いているだけなのだ。故に鳴海にこうして忠告もしたし、“自分が解決するから大丈夫だ”と言っている。


「貴方、見た目はアレだけど結構いい子なのね」


 丞は再び応えなかった。腕を組んだまま両目を瞑り、長い前髪の影に表情を落としている。


「でもごめんなさい、そういう訳には行かないの」


「仕事だから……か?」


「それもあるわね。でも、ナメられっぱなしで帰れるほど大人じゃないの、アタシ」


 ピシャリと鳴海がそう言い放つと丞は少しだけ驚いた表情を浮かべた。そのさっぱりとした鳴海の態度が気に入ったのか、僅かに頬に微笑を浮かべてみせる。


「それより貴方、“ジャスティス”の関係者なんでしょ?」


 その疑問は当然の事である。組織――彼らはそう口にしていた。“VS”というものが何なのかは判らなかったが、とにかく彼らが例の組織の関係者である事は最早疑い様も無い。

 鳴海と新庄が襲われた理由――それはムーンドロップについて調査を進めていたからに他ならない。新庄は兎も角、鳴海はそのためだけにわざわざ本土よりここまで赴いたのだ。他に理由があるというのも妙な話。

 結果、今回の唐突な新庄襲撃については組織側からの牽制であると同時にムーンドロップとジャスティスが繋がっているという確信にもなった。丞に視線を向け、鳴海は顔を近づける。


「見たところまだ未成年ってカンジだけど……。貴方、ジャスティスじゃないの?」


「…………違う。だが、ジャスティスには手出しさせない。あれは……俺がケリをつける」


 丞は前髪の合間から覗く鋭い眼差しで鳴海を射抜く。そこには硬い決意のような物が感じ取れた。


「正直な話、あんたたちがどうなろうが俺には関係ない……。だが、今警察に介入されるのは困る……それが俺の本音だ」


「なるほどね。理由は判らないけど、ムーンドロップについては貴方が自分の力でなんとかしたいと。そういう事ね?」


 丞は応えなかった。それを返答と受け取り、鳴海は頷く。


「わかったわ。じゃあもう、警察はムーンドロップについて調査しない」


「ちょ――!? 鳴海さん、何言ってんスか!? 命令違反ッスよ!?」


「話が早くて助かる。何もしないのであれば、ジャスティスの防衛機能も発動しないはずだ。まっすぐ人の多いところに戻れ……」


 そう告げて踵を返す丞。新庄が困ったような視線を鳴海に向ける。すると鳴海は何故かそのままの流れで自らも丞の後に続いて歩き始めた。

 ややあって丞もそれに気づく。困惑した様子で振り返った丞に、鳴海はにっこりと微笑みかけていた。


「いや……なんでついてくる?」


「警察としては介入しないけど、アタシ個人としてはまだ借りを返してないからよ。アタシ、個人的にジョー君のお手伝いをしてあげるって今決めたわ」


「おい……」


 流石の丞も黙っていられなくなったが、鳴海はそんな丞のゆっくりとした喋りにお構いなしに容赦なく喋り捲る。


「さあ、それよりも訊きたい事がまだまだ山ほどあるのよ! さっきのあれ、なんだったの? VSっていうのは? どうして貴方たちは高い所から飛び降りて無事だったの?」


「いや……」


 丞は一気に詰め寄られて参っていた。さり気無く鳴海の背後、新庄へと視線を向ける。しかし新庄は乾いた笑いを浮かべるだけで、丞に助け舟など出す気配は一向になかった。



Shadow(3)



「にこにこ」


 というのは、エリスが自分の口で言った言葉であった。


「にこにこ」


 文字通り、にこにこしていた。満面の笑みでエリスは目の前に座る少女――鶫を見詰めている。

 二人の傍ら、ソファには余程最近の疲れがたまっていたのか、寝転がったまま涎を垂らし、おなかを出して寝ている舞の姿がある。場所は櫻井響の家の中、リビングを陣取って女子三人は向かい合っていた。

 何故かそこに家主であるはずの響の姿はなかった。昨晩は遅くまで遊び倒し、そのまま解散してしまった為特に今日には予定が入って居なかったはずだが、昼過ぎ辺りに突然エリスがやって来た事でこの奇妙な状況が成立してしまった。

 しかも家主である響がいつの間にか外出してしまって不在の為、更に状況は混迷を極める。男の部屋に女三人、しかもエリスは満面の笑みである。


「あ、あのう……エリスちゃん?」


 耐え切れなくなった鶫が漸く口を開く。舞は完全にダウン状態であり、ここは自力で切り抜けるしかない。


「えっと……何かいい事でもあったの?」


「え? 特にないよ?」


「あ、ないんだ……。でも、すごくにこにこしてるから……」


「それは、にこにこもするよ? だって楽しいもん! ねえねえつぐみんっ!! いっぱい訊きたい事があるんだけどっ!!」


「はっ、はいっ!」


 テーブル越しに身を乗り出し、エリスは目をキラキラさせながら近づいてくる。思わず鶫は不動の状態でこくこく頷いてしまう。


「響ちゃんって……好きな女の子とかいるのかな!?」


「はいぃっ!?」


 突然の質問に思わず鶫らしからぬ声を上げてしまった。一応その答えについて鶫には心当たりがある。ちらりと視線をおへそを出している大学生へと向ける。まさか、後ろに居る人ですよとはいえなかった。


「ていうか響ちゃんってほんとに女の子が好きなのかな。もしかして男の子が好きだったり」


「え、えぇえっ!? そっ! そうなんですかっ!?」


「だって響ちゃんぜーんぜん女の子と仲良くしようとしないんだもん。でね、前にどうして女の子と仲良くしないの〜って聞いた事があるんだけどぉ……そしたら、」



『あぁ? いや、なんかめんどくせーし……』



「って言ってた」


 何がめんどくさいのかは二人にはわからなかった。が、鶫としてはそれはなんというか、舞が居るからという理由を口にするのが恥ずかしいので照れ隠しでそう誤魔化したのかも知れないと感じられた。

 しかしエリスはそれを真に受けてしまっていた。真剣な表情で鶫の手を取り、


「だからエリス、めんどくさくない女になるっ!」


「めんどくさくない女、ですか……?」


 あぁ、その発想が既にめんどくさいのでは――その考えは勿論口にしなかった。物凄く盛り上がっている本人の目の前でそれを言ってしまうのは良心が痛む。


「でも、響ちゃんって何がめんどくさいんだろーね? てか、響ちゃんて結構めんどくさいめんどくさいって言う割にはなんでもやっちゃうよね」


「ああ……そうかもしれないですね。櫻井君ってこう、悪いのは見た目だけですよね」


「わかるわかる! 響ちゃん、ワイルド系に決めてるつもりかもしれないけど、実際そんなでもないよねーっ!」


 二人して笑い合う。ワイルドというよりは、むしろ頭が悪いというか……単に後先を考えていないのかもしれない。


「そういえば櫻井君、彼女さんとか居ないんですよね?」


「そのはず! 響ちゃんは基本的に学校でも女の子とは絡まないからぁ〜! あ、でも結構怖そうな男の子とかにはよく挨拶とかされてる」


「……それはちょっと関係ないんじゃないかな」


「そう? でも不思議だよねえ、響ちゃん顔かっこいいしー。なんか脱ぐとムキムキだしー。結構モテると思うんだけどなー」


 だからそれはエリスの背後、ソファの上でごろごろと自堕落を満喫している女の所為な訳だが――。勿論何も言わなかった。言った所でどうしようもない。


「あの、エリスちゃん……?」


 そこで鶫は以前から疑問に思っていた事をついでにエリスに質問してみる事にした。エリスが妄想を中断し、目をぱちくりさせて鶫と向き合う。


「仮に、なんだけど……。もし好きになった相手が別の人を好きだったり、或いは思っていたような人じゃなかったりしたら……エリスちゃんは、どうします?」


「どーもしない」


 それは即答だった。鶫はじっとエリスを見詰める。少女は嘘偽りと言う言葉にはどうにも縁が無さそうに見えた。あっさりと、きっぱりと……エリスは応えてしまった。

 常に鶫はその恐怖に覚えていた。裏切られた記憶と裏切ってきた感触が未だに胸の中で疼いている。差し伸べた手はいつから撥ね退けられ……。握り締めた手をいつかは離したくなる……。人間とは身勝手な物で、裏切り、裏切られ、誰かにそうしろと命じられたわけでもなく、ただただ何度でも繰り返して行く。

 鶫にとってそれは恐怖だった。恐怖以外の何者でもなかった。だから誰にも心など開きたくなかった。誰も信じたくなかった。誰にも信じられたくなかった。ただ生きているだけで、それだけで全ての因果が苦痛に見えた。

 だというのに目の前の少女はあっけらかんと言い切ったのだ。“どーもしない”。鶫はその理由が知りたくなり、続きの言葉を催促する。


「んー……。仮にね? ほんとに仮に、だけどぉ。響ちゃんに好きな人がいたら、エリスはそれを精一杯応援するよ」


「どう……して? 櫻井君の事が、好きなんですよね?」


「それとこれとは別だしぃ。エリスは櫻井君の事が大好きだよ。優しくてかっこよくて、番長さんで……めんどくさがりやさんで、いっつも授業サボってて、でもそんな響ちゃんが大好き。響ちゃんの事を大好きになったのは、誰かに言われたからじゃない。響ちゃんを見て、感じて、それでエリスが決めた事でしょ?」


「……はい」


「エリスは響ちゃんの事を好きになりたくて好きになったの。それは誰かの所為なんかじゃない。エリスは別に、響ちゃんにもエリスを好きになってもらう為に好きになったんじゃない。勿論そうなってくれれば嬉しいけど……そうならなきゃ駄目だとは思わない」


 鶫は言葉を失っていた。目の前のエリスが口にした酷く単純な答え――。“誰かの所為ではなく、自分で決めた事だから”……。ただ、それだけの言葉に頭の中が真っ白になっていた。

 誰かに好きになってもらう為に好きになるんじゃない。好きになりたいから好きになる。信じたいから信じて。信じてもらいたいからじゃない。それは全て自分がそう決めた事で。だから一方通行でも構わない、と。


「それでもし、響ちゃんが誰かとくっついたら、エリスはすごく悲しいと思う。でも、それで響ちゃんがらぶらぶになってくれたらそれで全然おっけー! 自分が好きになった人だから、その人が幸せになってくれたら全然おっけーだよ」


「…………」


「それに響ちゃんがエリスの思ってたような人じゃなかったとしても、全然問題なし。だってそれも、エリスが自分で決めた事だから。他人を決め付ける事なんて出来ないよ。出来るのはただ、エリスがどうしたいかって事だけで」


「私、は……」


 楽しそうにそう語るエリスを見ていたら、鶫は酷く惨めな気持ちになっていた。他人が、他人が……いつも理由も苦痛も自分の外側に置いてきた。自分の内にそれらを置き、信じることなどしようとも思わなかった。

 母親から伸ばされた手を握り締めていた時も。親友から伸ばされていた手を握り締めていた時も。いつも誰かがそうしてくれるのを待つばかりで、結局自分では何もしようとしていなかった。

 それなのに殺してしまった。大事な想い出を……。大事な親友を……。助けようとしてくれていたのに。大丈夫だよって言ってくれたのに。裏切られたくないなんて、どうしようもない理由だけで――他人に理由をおしつけたままで。全てを、終わらせてしまった。


「あ、あれっ!? つぐみん、も、もしかして泣いてる!?」


「私は……。私は……。どうして……」


 肩を震わせて俯く鶫。エリスはどうしたらいいのかわからずにその場でおろおろしていたが、やがて覚悟を決めたように立ち上がり、鶫の背後へと周る。

 そうして突然背後から鶫に飛びついた。否――体格差がある故にそう見えただけであり。当の鶫は理解していた。エリスは自分を抱きしめてくれているのだという事実……そしてその彼女の気持ちに。


「泣くなつぐみん! 女の子の涙は無駄に流してはいけない! 男の前で流すのだ! って、マンガで言ってたよ」


「…………エリスちゃん」


「なんか、ぶっちゃけエリスには良くわかんないけど……。とりあえずここに居て上げる。ここで、ぎゅーってしててあげるよ。だから元気出して、つぐみん」


「どうして、私に……」


「決まってるしぃ。友達だからだよぉ」


 そう笑うエリスを見て鶫は余計に泣いてしまった。慌てるエリスではあったが、ただ傍に居た。誰かに許される日がいつか来るのならば、いつか自分を許せる日も来るのだろうか。

 涙を流しながら溢れてくる想いはただただ後悔だけだった。償う事はもう出来ないだろう。これからもずっと、背負って行くのだろう。それでも構わないと、いつか思えるだろうか。その罪を選んだのだと、自分を信じる事が出来る日が――来るのだろうか。


「……遅いね、響ちん」


 耳元でエリスがそう呟く。鶫はもう、何も応えなかった。



「――ついたぞ。言われた通りに歩いてきた」


 オフィス街の一角、真夏の日差しに照らされて響はユニフォンを片手に太陽を睨んでいた。気温は軽く三十度を超え、コンクリートで囲まれた世界はじりじりと焼け付いて行くような錯覚さえ覚える。

 響は一人、人の流れの中で立ち止まっていた。耳に当てたユニフォンには通話中の文字が浮かび上がっている。


『……次は、その道を真っ直ぐ進み、信号を二つ渡れ』


 その声に響は苛立ちながらも指示に従う事にした。電話の向こうから聞こえてくる声――それは、櫻井響本人の物に他ならない。

 “自分コール”という噂話がある。響がVSを手に入れた日にそれを受け、そしてVSに関係する事になった人々もそれを受けた事であろう。その自分コールが再びこうしてかかってきたのは、或いはアンビバレッジとの戦いが落ち着いたからなのかもしれない。

 まるで見計らったようにかかってきたコールに響は苛立ちながらも素直に従っていた。電話がかかってきてから既に一時間近く……。あちらこちらをうろうろと歩かされ、既に気分は完全に参っていた。

 道中、自動販売機でスポーツドリンクを購入する。一気に飲み干し、再び太陽を睨んだ。再び――否、最早何度目かは判らない。只管にこの暑さと奇妙な感覚だけが広がって行く。響は最早自分でも何をしているのかよくわからなくなっていた。

 最初は勿論、VSと関係があるのか、とか……。お前は本当に俺なのか、とか……。まともな質問をするつもりでいた。しかし今となってはただこの指示の先に何が在るのか、その一点に興味は集約する。

 信号を二つ渡り、再び着信。電話に出ると余りにも耳慣れた声で指示が続けられる。


『そのまま真っ直ぐ。その場所から既に雑居ビルが見えてくるだろう。その四階“相良探偵事務所”に入れ』


「ちょっと待て、探偵事務所……? それがどうしたっていうんだ?」


『名乗れば判る』


 それっきり通話は一方的に終了されてしまった。響はユニフォンを地面に投げつけたくなったが、兎に角今は雑居ビルに向かう事にする。

 ぼろぼろの如何にも胡散臭いその場所の階段を昇り、響は相良探偵事務所の扉の前に立つ。突然入っていいものかと悩み、しかし兎に角扉を開けてみる事にした。

 この暑さだというのに探偵事務所の中には期待していた冷房など効いていなかった。散らかった部屋の中、居たのは一人の男だけ。団扇を片手にアイスキャンディを舐めていた男は扉が開く音で振り返った。


「おや。これは珍しい客人だ」


「……あ? あー。あの、俺櫻井響って言うんスけど」


 もう面倒くさくなって速攻名乗る事にした。“名乗れば判る”――それが自分コールの言葉だった。もしこれで判らないようであれば、そのまま踵を返すだけだ。

 しかし予想外にも男は頷き、それから響へと歩み寄ってきた。そうしてじっと響を見詰め、それから頷いて言葉を続ける。


「成る程、偽者ではないらしい。聞いていた情報通りだ」


「はあ」


 どんな情報を聞いていたのか若干気になったが、響はとりあえずスルーする事にしたその場に響を待たせ、男は事務用の机の引き出しの鍵を開き、そこから一つ封筒を取り出した。白いその封筒を手に響の元へと戻り、それを手渡す。


「とりあえず名乗っておこうか。俺は君のお兄さん――つまり、櫻井奏の関係者だ。名は相良惣介……しがない私立探偵だ。よろしく、響君」


「ちょ……行き成りだな……。あんたが奏の関係者……? 奏と私立探偵、一体どんな関係があるっていうんだ」


「彼は俺のクライアントであり、同時に弟子でもあった。まあ色々と彼には調べ物が多かったからな……。その資料が君にどんな関わりがあるのかは知らないし、中身も俺は把握していない。一度も開封していないからだ」


 そう語りながら惣介は封筒の封印を指差す。即席の封印は蝋を固めた物で作られていた。勿論、開封されたような痕跡はない。


「だが、もしかしたら君がこれを受け取りに来るかも知れないという話だけは聞いているが――いいのかい?」


「……何が?」


「俺の記憶が正しければ、君がそれを受け取りに来るのはまだ少々早い……そんな気がするがね。まあいい、奏にも読めない事はあるんだろう。兎に角それは君に確かに渡したよ」


「あ、ああ……。ていうかちょっと待ってくれ、色々訊きたい事がポンポン出てきてるんだが」


「それはとりあえずまた次回だ。生憎俺はこれから出かける所でね。そうだ、何かあったら連絡してくれ。連絡先は――」


 名刺入れから名刺を一枚取り出し、それを響に手渡す。そうして響は殆ど強制的に追い出される形で探偵事務所を後にした。

 ぼうっと突っ立っているわけにもいかず、そのまま歩き出す。歩きながら封筒を開き、そして中を覗き込んだ。


「……なんだ、こりゃ?」


 そこにあったのは幾つかの書類、それと一つの小さなメモリーカードであった。見ればそれはユニフォン専用の物であり、メモリーカードを包み込んでいるプラスチックのクリアケースには、奏の文字で“Veronica System Type:B”と記されていた。


「ベロニカ……システム?」


 その意味は理解出来なかったが、一先ずメモリーカードはポケットに仕舞う。そうして封筒の中の書類を拝見しようとした時だった。

 ふと顔を上げると、視線の先には何故かライダーが立っていた。それは偶然と呼べる物ではないらしく、ライダーは相変わらず読めない無表情で響を見詰めていた。


〜とびだせ! ベロニカ劇場〜


*次から新展開*


響「というわけで、次のお話から一気に全てが加速していく……予定」


氷室「全60部で終わるのか?」


響「その話はとりあえず後にしようか」


氷室「あ、ああ……。まあ、あんまり長く続けてもあれだけどな……」


響「そういえば氷室よ」


氷室「どうした」


響「俺って、“普通の主人公”なんだろうか……」


氷室「急になんだ……? メッセージで“響は普通の主人公ですね(笑)”って来るからか?」


響「俺が普通なんじゃなくて今までの主人公が奇抜すぎただけだ!」


氷室「まあ、確かに……。でもあれだ。逆に普通の熱血主人公っていうのが目立つんじゃないか? 普通で」


響「逆に普通すぎてか……」


氷室「ああ……」


響「…………」


氷室「…………」


鶫「それは兎も角、次回からようやくVSについての詳しい説明とかVSバトルとかが激化していきますよ」


響「だからっ!! 背後に気配も無く立つな!! 何で包丁持ってる!?」


鶫「え? お料理の途中だったから……」


氷室「顔に血がついてるぞ……」


響「いやあああああああああああああああああっ!!!!」


鶫「ボケは兎も角、次からようやく物語全体のペースが上がっていきますよ〜! ガンガンバトって、ガンガン進めます!」


響「じゃなきゃ終わんないからだろ……」


鶫「はいっ!!」


氷室「……なんだこのグダグダ感」


響「それが」


鶫「劇場クオリティ」


氷室「……そうですか」

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