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KYO(3)

 流れる水を眺めていると、世界の全てが押し流されていくような錯覚を覚える。

 鶫はぼんやりと一人身体の半分を水に浸けて立ち尽くしていた。沢山の人々が偽造されたビーチサイドではしゃいでいる中、喧騒に取り残されそうになり孤独が浮き彫りになる。

 ふとした瞬間、自分が一人ぼっちだと感じてしまう。世界に押し流されてしまうのだと感じてしまう。ぼんやりと、波打ち際に掻き消されていく幻想の中、頭上の青空を見上げた。

 ここに来た事は、自分にとってプラスだったのだと思う。雨の日の空は……嫌いだった。世界の全てが涙を流しているようで、自分まで悲しくなってしまう気がするから。

 振り返れば飽きもせずエリスと藤原が走り回っている。その二人に追い掛けられながら笑っている響を見詰め、少しだけ胸が痛む。ちくりと突き刺さる小さな針のように、痛みはじんわりと胸に広がって行く。


「疲れちゃったのかしら、お嬢さん?」


 声の方に視線を向けると舞が腰に手を当てて微笑んでいた。グラマラスなボディを下から上までじっと見詰め、なんと無く圧倒された気分になる。


「体力、あんまりないので……。エリスちゃんと藤原君、元気よすぎてちょっと……」


「そうねー。あの二人なんであんなに元気なのかしらねえ……」


 遠巻きに三人を眺める。二人は肩を並べ、そして沈黙が広がって行く。喧騒の中だというのに、鶫はお互いの息遣いさえ感じ取れる気がした。


「――これから、どうするつもり?」


 その質問は簡単に投げかけられた。しかし答えるのは容易ではない。鶫は全ての道を見失っていた。暗闇の中踏み出した一歩は余りに途方もない。一寸先さえも闇の中のようで、どんな風に歩けばいいのかも判らない。

 眉を潜め、考えてみる。これから、どうする――? 昨晩のように戦うのだろうか。何となく流されて、何となく、この力で。

 しかし力を捨ててしまうという事は親友との絆を断ち切る事のようで躊躇いを誤魔化しきれなかった。親友の力、それを自分が使っている事そのものが既におかしな事だ。しかし、それで……絆を失うのは恐ろしかった。


「……勘違いしないで欲しいんだけど、さ」


 舞は自らの頬を人差し指でかきながら小首を傾げ、顔を上げた鶫を見やる。


「あたしは……お嬢さん、あんたの行いを責めるつもりはないわ。“しょうがなかった”と言うつもりもないけど、だからってそれが“悪い事”だとも言えない。だから誤解しないで欲しいんだけど、あたしはもうあんたをどうにかする気はないわ」


「……でも、私は」


「いつかはケリをつけなきゃならない日って来ると思うの。でも、それは今じゃないし、多分明日って事もないと思う。それまでの間、あんたが響に何もしないっていうならあたしも何もしないわ。もう、響を取って食おうとは思ってないんでしょ?」


「はい。桜井君は、その……優しいです」


 胸に手を当て、彼の事を考える。それだけで少しだけ気持ちが楽になっていくような気がした。“ここにいてもいいんだ”と思える――それは鶫にとってこの上ない救いでもある。


「でも、確かにいつかは終わりが来るのよ。だからあたしが何を言いたいかって言うと――その終わりが来た時、後悔しながら終わって行くのは嫌でしょう? だから騙し騙しでもいい。自分に嘘をついてもいい。それでもいいから、後悔しないように……自分で“それ”と“決め”て、“やり通す”事――それが大事なのよ」


 そこまで来て漸く気付く。舞は自分の今後を案じてくれているのだという事に。一度は敵対しかけたというのに、舞はまるで何事も無かったかのように今は鶫の事を考えてくれている。

 さっぱりとしたその性格が今は本当にありがたかった。負い目を感じて行くのはもう止められないだろう。けれども彼女が自分を許してくれるのならば……背負う罪は少しだけ軽くなるだろうか。


「響と一緒に居れば、きっといい方向に変わっていける。あいつは昔からそう、何となく物事を良くしていける才能があるのよ」


「物事を良くしていける才能……ですか。何となく、判る気がします」


「でしょ? 無茶苦茶で強引で……理屈じゃなくて心で判断してるっていうかさ。でもだからこそそれを信じられる。お嬢さんもそうだったんでしょ」


「はい」


 もしも響と出会う事が出来なかったならば――。そう考えると暗い心の闇に一気に飲み込まれてしまう気がする。彼がいてくれたからこそ今の自分がある。もう、間違いは繰り返したくない。せっかく彼が与えてくれたチャンスなのだ。どんなに僅かな間だけだとしても――それを無駄にはしたくない。


「そういえばお嬢さん、響の事が好きなんでしょ?」


 藪から棒に繰り出された舞の言葉に鶫は目を丸くする。それから暫く考え込み、小首を傾げ、眉を潜める。いざそう訊かれると正直な所微妙な心境であった。櫻井 響と出会って未だ数日、彼の事を理解しているなどとおこがましい言葉を吐くつもりも無い。逆に言えば、自分の事を理解してもらえたとも思えない。

 そもそも鶫はそういった恋愛感情のような物にはとんと縁が無かった。今までの人生の中で他人を好きになった事はおろか、信じた事もない。信じようとした物全てに裏切られてきた自分とそれらを裏切ってきた自分、二つの二律背反が彼女から様々な物を欠如させていた。


「……正直、判りません。好きとか、嫌いとか……そういうの、感じた事がないので」


「あら、そうなの? 思いの他クールっていうか、ストイックなのねえ」


「……あんまり、男の人って好きじゃないです。あ、桜井君は別なんですけど……」


「藤原君と氷室君は苦手?」


 恐る恐る頷く鶫。その様子に苦笑を浮かべ、その頭を撫でる舞。


「な〜んか、あんたって可愛いのね〜」


「えっ? な、何がですか?」


「ううん、こっちの話よ」


「そう、ですか……? それに桜井君を好きになったら舞さん、困りますよね?」


「え? なんで?」


「なんでって……え? 舞さん、桜井君と付き合ってるんですよね?」


 予想外の切り返しに思わず沈黙する舞。二人の間にあった見識の擦れ違いがここに来て浮き彫りになる。

 目をぱちくりさせる鶫を見て舞は思わず笑い出してしまった。なんだか判らずに顔を真っ赤にする鶫の頭をもう一度撫で回し、舞は手をひらひらと横に振る。


「違う違う! なんでそういう誤解してるのか判らないけど、響とはそんなんじゃないわよ」


「そう、なんです?」


「そうなの。あたしにとって響は弟みたいな物だし、響だってそう思ってるわよ」


「そう……でしょうか?」


 鶫は視線を伏せ、それから響へと視線を向ける。舞は弟のようなものだと言うが、響がそんな風に思っていない事は明らかだ。舞に対する響の態度は他の人間に対するそれとは異なる。

 何となく響が空回りしていて全く舞に気持ちが届いていないのだと考えると悲しい気持ちになった。しかし、漸く疑念が一つ解消出来た。


「だから桜井君、童貞とか言ってたんですね。舞さんが彼女さんだとしたら、そんなわけないでしょうし」


「ぶっ」


 思わず仰け反る舞。そのまま両手を鶫の肩に乗せ、冷や汗を流しながら表情を強張らせる。


「あんた、純情そうな顔して平然とすごい事口にするわね……。だめよ、あんたみたいな女の子がそういう事いうのは……」


「は、はい……気を付けます……?」


 鶫は響に視線を向ける。するとタイミングを見合わせたかのように響も鶫に視線を向け、二人の視線が交錯した。響が自分の方に歩いてくる……そう意識すると何となく照れくさくなる。

 次の瞬間、背後から襲いかかった藤原の所為で響は波打ち際に倒れこむ。エリスと藤原が同時に響に水をかけまくり、起き上がった響は鶫を見て苦笑を浮かべていた。それに釣られて鶫も笑ってしまう。

 響が振り返り二人に反撃を開始する。その様子を眺めていると、隣で舞が自分を見ていた事に気が付いた。


「……ほんと、可愛いのね、お嬢さん」


「え?」


「そんなに可愛く笑えるんじゃない、あんたも」


 そう指摘されて鶫は自分の頬に手を当てる。そこには自分が予想できなかった表情を浮かべている顔があった。心の中、どこかで凍り付いてしまっていてもう判らなくなっていた感情の形、それが気付けば当たり前のようにそこにあった。



KYO(3)



「…………」


 相良探偵事務所の扉を開いた先、停止している鳴海の姿があった。今日は相棒である新庄とは別行動であり、丁度いいので惣介のところに顔を出すつもりでやって来たのである。

 これは仕事だから仕方が無くとか何とか来る間ずっと鳴海は自分に対して言い訳を繰り返していたわけだが、せっかくだからと近所でドーナツを購入してお土産に持ってやってきたりしている辺り素直ではない。

 何だかんだで惣介と会うのを楽しみにしていた鳴海であったが、扉を開けた所で停止しているのには勿論理由がある。散らかった事務所の中、古ぼけたソファの上に視線が釘付けになる。そこにはいつぞやの自分の時と同じように横になって眠っている少女の姿があった。

 勿論見知らぬ少女であり、歳は明らかに自分たちよりも大幅に年下である事は言うまでも無い。そしてそれは鳴海に絶望的な事実を突きつけていた。


「……ん? 鳴海か。出入り口で何をしているんだ?」


 声に振り返るとそこには階段を登ってきた惣介の姿があった。事前に来訪を連絡しておいた為、出先から戻ってきた所であった。惣介の方向へとゆっくり振り返り、鳴海は惣介のネクタイを鷲づかみにして眉を潜める。


「アンタねえ……! いたいけな少女に何やってんのよ……?」


「は? いたいけな少女……というにはお前はちょっと歳が行き過ぎて――いてててっ! 冗談だろう、そう一々憤るなよ」


「うっさい!! 言い逃れは出来ないわよ!? あれを見なさい、あれをっ!!」


 ソファの上に寝転がっている少女を指差す。すると惣介はそれを見て頷き、当たり前のように部屋の中に入って少女の肩を揺すった。


「蓮――。レン君、起きなさい」


「ふえ……? あれ? 先生、おかえり……」


「紹介するよ鳴海。彼女はうちの事務所で働いている――助手の愛染あいぜん 蓮君だ。蓮君、彼女は昔の同僚の櫻井鳴海」


「……え? 助手?」


 鳴海は片手を額に当てて首を傾げる。助手なんて置けるほどこの事務所は大きなものには見えないが……確かに言われてみれば格好的にもそういえない事も無いかもしれない。

 白いワイシャツにネクタイを締め、スカートの裾が短いのは歳相応という事で理解は出来る。赤いリボンで括られた黒髪でツインテールを作り、可愛らしく髪を揺らし、寝ぼけ眼で蓮は鳴海を見詰めていた。


「はじめまして……蓮です」


「――はじめまして、蓮ちゃん」


 その頃には既に鳴海は気持ちを切り替えて微笑んでいた。蓮にお土産のドーナツの箱を渡し、ソファの上にどっかりと腰を下ろす。


「しかし聞いてないわよ、惣介……? なんでこんな可愛い女の子があんたの助手なわけ?」


「それには色々と事情があってな。蓮君、とりあえずコーヒーを淹れてくれないか? お土産にドーナツ……あ」


 そこで漸く惣介は気付く。自分もまた、鳴海をもてなす為にドーナツを購入してきたばかりだったのだ。ドーナツの箱二つを手にし、蓮は無邪気に微笑んでみせる。


「二人とも気が合うんだね〜。いいよ、惣介はいつものでいいんでしょ? 鳴海は何が飲みたい?」


「え? あー、じゃあ惣介と同じでいいわ」


「はーい! ちょっと待っててねー!」


 蓮は明るく笑って台所に引っ込んで行く。その後姿を見送り、鳴海は目を丸くしていた。


「気を悪くしないでやってくれ。あの子は昔からこう……敬語が苦手な子でな。大人相手でもあんな感じだ」


「そう。でもアタシは結構好きよ、ああいう子。屈託なくていいじゃない」


「お前ならそういうだろうと思っていたがな。まあ、バイトというか……住み込みで働いてもらっている。色々事情があってな、知り合いの探偵の妹なんだが……」


「それがなんであんたの事務所にいるわけ? お兄さんの探偵事務所で働けばいいんじゃない?」


「それが、こう、ケンカしているらしくてな……。一人前になるまで戻らないそうだ。兄の方もまだ駆け出しで色々と大変らしいし、まあこれで少しでも手助けになるならな」


 そう微笑みながら語る惣介に他意はないのだと直ぐに判った。惣介はきっと蓮を大事にしている事だろう。そういう事ならばそれはそれで構わないのだ。


「覚えてるか? 昔事件解決を手助けしてくれた探偵がいただろう」


「あ〜、覚えてるわ。片瀬 彼方……だったかしら」


 二人が以前東京で担当した事件の中に、“多重人格殺人事件”と呼ばれる物があった。東京都内で連続で起きた殺人事件で、犯人は四つの人格を持つ十七歳の少女だった。

 少女は自らの人格一つにつき一つの殺人を犯していた。その事情は非常に複雑だったが、端的に言うと少女は人格一つにつき一人の人間と交際しており、少女はその交際相手をそれぞれの人格にて殺害したのである。

 それは少女の人格障害もあり、捜査は難航……更に危険も多かった。しかし結局、惣介の知り合いの探偵が捜査に協力し、事件を解決に導いたのである。


「彼女が抱えている弟子に愛染 桜という青年がいてな。蓮はその妹になる。片瀬には色々と借りがあってな。この事務所を立ち上げたばかりの頃は仕事も貰ったりしたもんだ。まあ、恩返しでもあるわけだな」


「なるほどねえ。あの探偵かなりの変わり者だったと思うけど……まあ、探偵ってそういうもんかしらね」


 そういいながら目の前の男に視線を向ける。惣介は微笑みでそれに応えた。そうしていると蓮がコーヒーカップを三つ運び、鳴海の隣に腰を落とす。


「ねーねー、鳴海って惣介と付き合ってた人だよね?」


「ぶっ!」


 ドーナツを頬張りながら何気なく問い掛ける蓮に思わず鳴海は噴出してしまった。コーヒーを飲もうと伸ばしていた手を引っ込め、凍りついた笑顔で惣介を見やる。


「いや待て、俺は何も言ってないぞ。蓮、どこでそんな事を知ったんだ?」


「そうじゃないかな〜って思ってただけだよ。惣介、電話してる時楽しそうだったし、それに惣介の財布の中に鳴海の写真が入ってたから」


 大人二人は顔を見合わせ、それからお互いに苦笑を浮かべた。なるほど、探偵の弟子というだけの事はある。


「というか蓮、君は俺の財布を開けたという事か……?」


「だって、この事務所汚すぎなんだもん! ゴミ袋もないんだよ? 小銭くらいなくなったって惣介気にしないでしょ」


「まあ、それはそうだが……一応俺は君の雇い主であってだな、一応一言断りを入れるとか……」


「そんな事より鳴海! 何かすごい事件を調べてるんでしょ?」


「え? えーと……そうねえ、まあすごい事件って程でもないんだけど……。その報告を聞きに来たのよ」


 漸く趣旨を思い出し、大人二人は頷きあう。蓮も黙っていた方が話が進むと思ったのか、ドーナツを齧る事に専念し始めた。


「とりあえず単刀直入に言って――氷室 美琴は恐らく誘拐されたわけではないな」


 その答えは勿論ある程度予想していた事だった。ジェネシスまで赴き、実の父親から確認を取ったのだから。だが、続く言葉は鳴海の予想からは若干逸れた物だった。


「だが、同時に行方を眩ましてもいるようだ。少なからず彼女は自宅には居ない。それからもう一つ。彼女はこの街の所謂不良グループと何らかの接点があったらしい」


「不良、グループ? いいとこのお嬢様が……?」


「理由は不明だが、何度か接触があったらしい情報が入った。接触していたグループの名前は“ジャスティス”――。お前の探し物、少しは繋がったかもしれないな」


 惣介は立ち上がり、デスクから茶封筒に入った資料を取り出す。そうしてそれを受け取った鳴海はジャッジメントの勢力図に注目した。

 赤いマーカーでチェックされたエリア、そこはジャスティスが頻繁に出入りしていたと思われるポイントである。そしてその中には新庄と共に彼女が訪れた、“溜まり場”も含まれていた……。



「はふー……。なんだか一気に遊びまわって疲れたねえー」


 というのはエリスのセリフである。そりゃまあ当然だ。俺だって疲れたんだ、エリスみたいなちっこいのが疲れていないはずもない。

 昼過ぎになり、俺たちはビーチサイドにあるカフェに入っていた。流石に遊びまわった所為で腹が減っていたし、疲れたので一休みしたいという気持ちもあった。

 各々ハンバーガーやら焼き蕎麦やらを注文する。見た目はお洒落なカフェだが、なんかラインナップが海の家みたいだった。意識しているのかもしれないが……。


「でも、美味しい焼き蕎麦ってなんか海の家っぽくないな……」


 そんな事を思わず漏らす。俺たちは一度全員集合し、二つのテーブルを合わせて一つにしてそれを囲んでいた。只管泳ぎまくっていた氷室もはしゃぎまくっていたエリスと藤原も、何やら二人で話していた舞と鶫も今は合流している。


「しかし、水着だなんだとはしゃいでいた割には藤原は普通に遊んでいたな」


「いや〜なんか普通に楽しかったんや……。でもまあ、普通に座ってるだけでも視界におっぱいがいっぱいあるから別にええねん」


 お前のその堂々とした態度はどうなんだろうな。が、藤原の話など女子勢は全然聞いていない。まるで空気のような扱いだ。


「ねーねー響ちゃん、食べ終わったらウォータースライダーね! こう、ボートに乗って二人でくっついて滑るのがあるんだよ〜!」


「そうなのか? そういえば来る時、やたら巨大なスライダー用のチューブが見えたっけな」


 屋外施設にまで飛び出しているんだからかなりの長さだろう。ぼんやりとそんな事を考えていると、鶫がこっちを見ている事に気付いた。


「そういえばお前あんまり遊んでなかったな。午後はどうするんだ?」


「えっと、私は温泉の方に行こうかと……。ミストサウナとか良さそうかな〜って」


 ここまできて温泉ッスか。渋いっすね……。


「なあヒム……汗かいてる女の子ってなんかエロいと思わん?」


「そうだな」


 氷室は話を聞いてるんだろうか。食いながら片手間に話しているから聞き流しているようにも見えるし、マジに答えているようにも見える……。

 にしても全部周るのはどうも無理がある気がするなあ。あんまりにも広すぎるんだよ。実際、計画的にやらないと遊びきれない気がしてくる。

 そんな事を考えていると、ビーチサイドの方が何やら騒がしい事に気付いた。人だかりが出来ており、その向こうから声が聞こえてくる。距離がある所為かはっきりとは聞き取れないが、明るくてよく通る声だった。


「エリス、ありゃなんだ?」


「うん? テレビの撮影とかじゃない? たまに来てるよ、ここ。雨でも海のシーン、撮れるし」


「そういう問題か? しかしまあ、これだけの巨大施設ならそういう事もあるんだろうな」


「誰が来とるんやろ? ちょっとワイ覗いてくるわ」


 野次馬根性丸出しで藤原が立ち上がる。エリスも気になったのか、それに続いて立ち上がった。更に噂好きの氷室もそれに続き、舞と鶫と俺だけがその場に残される。

 そこで突然顔色を変えた鶫が俺の肩を叩いた。それから俺の目の前にまで顔を寄せ、耳打ちしてくる。一瞬ドキリとしてしまったが別にそういうわけではない。


「――ユニフォン用の小型ロッカーの中にしまっておいたの今さっき見てみたんだけど、他の所有者の反応があるの」


「何……?」


 今の時代、ユニフォンを一分一秒も手放していたくない人種というのは珍しくない。そのため防水加工が施されているユニフォンならば持込は可能だし、そうでなかったとしてもビーチサイドに並んだ幾つかのテーブルやパラソルに混じり、ユニフォン保管用の小型のロッカーが配置されていた。俺と舞もそこにユニフォンを仕舞ってあるが、一番早く気付いたのが鶫だったらしい。

 というか、一体どうやってそれに気付いたのだろうか。VSを待機モードにしていたのか……。いや、それはともかく、問題はその俺たち以外の所有者というやつだ。


「反応はどこから来ているの?」


 舞が首を突っ込んでくる。すると鶫は戸惑いながら、ゆっくりと指を指す。その先にあったのは――例の人だかりだった。


「あの、向こう側です」


 人だかりの向こうからは相変わらず明るい声が響いている。俺たちは顔を見合わせ、それから同時に立ち上がって野次馬の方へと歩き出していた。


〜とびだせ! ベロニカ劇場〜


*いつこの小説終わるんだろう*


氷室「三十部が遠く感じるな」


響「ディアノイアのペースが狂気だっただけだろ……。しかしまあ、大体70部行かないくらいで終わる予定なんだろ?」


氷室「そのはずだが、本当に終わるのか怪しくなってきたな……」


響「ま〜そもそもそんな大した事する予定ないしな。世界の命運をかけた戦いとかにはならないだろうし」


氷室「それにしても以前から思っていたが、この小説はノリとテンションで出来ているな」


響「そりゃあそうだろう」


鶫「だったらほら、ヒロインとの恋愛要素を強くすればいいんですよ」


響「ヒイッ!? 急に気配も無く背後に立つな!!」


鶫「やだなあ、最初から居ましたよ?」


響「その方が余計に怖いんだよおおおおっ!!」


氷室「そういえばメインヒロインって誰なんだ?」


鶫「私ですよね?」


響「何で!?」


鶫「桜井君、優しいから――」


響「関係ねえだろがあああああああっ!!!!」

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