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ブレイドダンサー(4)


 舞からの電話があったのは、鶫と共に帰宅してから一時間ほど経過した頃だった。夕飯はせめて自分が作るからと言い張り、台所に引っ込んでしまった鶫のお陰で俺は絶賛暇持て余し中であり、ぼんやりとテレビオを眺めていた所だった。

 躊躇い……みたいなものはあった。気まずいのが理由である。舞とはなんというか、対立したまま別れてしまった。今日当たり顔を見に行こうかとも思ったが、そこまでせずとも別にいいような気もしてしまっていた。

 舞と俺がケンカするのなんて昔はしょっちゅうだった。取っ組み合いの殴り合いになったりしても、そのうちけろっと忘れちまうもんだ。だから今回もその程度の事。しかも今回に限って言えば殴り合いでさえない。明確にケンカという定義で対立したわけでもない。ただの意見の食い違い――そう言ってしまえばそれだけの事。

 だから俺は直ぐに電話に出る事にした。躊躇したのは恐らく一瞬だけ。ユニフォンを耳に当て、意識をそちらに集中させる。


「舞か?」


『……ごめん、今大丈夫? 少し話したい事があるんだけど……』


 その声はどこか切羽詰っている様な雰囲気である。あの舞がテンパっているというのもまた珍しい話だ。ソファに寝転がっていた体勢から即座に起き上がり、窓の向こうに視線を向ける。既に日は暮れてしまっていた。


「大丈夫だ。どうかしたのか?」


『……どうかしたって程の事じゃないんだけど……その……奏の事なんだけど』


 思わず眉を潜めた。奏――失踪した兄貴の事。まあそんな事は言わずとも判っている。だがこのタイミングで切り出してくるという事は――兄貴の行方がわかったのか?


『厳密には、奏にも関係のあること……あんたにも関係があるかもしれない事って感じなんだけど』


「回りくどいな。もったいぶらずに言ってくれ」


『そうね……。単刀直入にまず結論から言わせて貰うわ。響――あたしと共同戦線を組んで欲しいの』


 そりゃあ、まあ別に構わないんだが……。実際俺は最初から舞とは戦うつもりなんて無い。ゲームだかなんだか知らないが、VSの所有者同士で潰しあうなんてルールに従ってやるつもりは無いしな。

 だが、うちには鶫がいるんだ。鶫はまだ、ユニフォンを捨てたわけじゃない。VSの力を手放していない以上俺たちは最終的には敵同士になる。その前提がある以上、心の底から打ち解ける事は難しいだろう。

 舞と俺が信頼しあっているのは古くから見知った関係だからに過ぎない。それだってまだ擦れ違ったりするんだ。舞と鶫が上手く行かなくたって仕方ないとも思うが……。


『勿論、お嬢さんも一緒でいいわ。戦う意思がないのなら、だけどね』


「いいのか?」


『本当は良くないわよ。あんたの面倒見るようにって奏に言われてるんだから、出来れば危険な要素は排除したいし、この戦いにも巻き込みたくはないわ。でもあんたは何言ったって自分から渦中に飛び込んで行くんだし、お嬢さんだってもう戦うつもりはないんでしょう?』


「その通りだ。話が早くて助かるよ」


『一緒に居ればお嬢さんが変な気を起こしてもあんたを守れるしね。それに――今回の話にあんたも無関係じゃないのよ』


 舞にしては兎に角歯切れが悪かった。とりあえず電話で相談するのもなんだし――鶫も一緒に相談すべきだと考える――家に来てもらう事にした。その旨を簡単に鶫に告げると、


「……判りました」


 と、これまた気まずそうな返答である。とりあえず夕飯の支度は三人前にすると言ってくれたので歓迎していないわけではないと思うのだが……まあ色々あったしなあ。

 そうして夕飯の支度を進めながら待つ事数十分。丁度出来上がる頃合に呼び鈴が鳴り響いた。舞は勝手に上がって来たのだが――その様子には流石に驚いた。


「おま……どうしたんだその怪我!?」


 舞は身体の所々に包帯を巻いていた。血の滲んだそれらは生々しい傷を誇示している。顔色も悪く、疲れた様子で舞は直ぐにソファの上に横になってしまった。相談しに来たんじゃねえんかい。


「敵にちょっとね……。響、あんたにも多分関係があるわ。VSを手放すつもりがないのなら……お嬢さんにもね」


 俺が鶫を手招きすると、彼女はエプロンを付けたまま小走りで寄ってきた。が、とりあえず飯を食ってからにしようという話になり、三人で台所に向かって皿をテーブルへと運ぶ。

 流石に三人でやると準備はあっという間だったが逆に台所を三人で往復すると邪魔っぽかったりする。成る程、男子厨房に入らずというのは図体でかくて邪魔だからか……そんなわけないか。

 兎に角三人で食卓を囲む。しかしどうにも明るい夕飯というわけにはいかなかった。怪我人一人、落ち込み一人……気まずい雰囲気である。が、鶫の作る夕飯は美味しかった。味噌汁を口にしながらそんな事を考えていると、


「……むう。悔しいけどあたしよりよほど美味しいわね」


 と、舞が一言。まあこいつは家事なんて出来っこないので鶫の方が料理上手なのは最早疑うまでも無いのだが。


「いいわね響はこんなに美味しいご飯が毎日食べられて」


「……それより本題に入ろう。俺にも関係があるって言ってたが」


「そうね……。その前に一つだけ。お嬢さんはVSを手放すつもりはないの?」


 それは俺も気になっていた事だった。舞の問い掛ける声は中々に鋭く、鶫は気圧されるようにして視線を反らしてしまう。

 だが、実際ユニフォンを放棄することでVSの呪縛から逃れる事が出来るかもしれない。それでゲームの敗者として判別されるのかどうかは良く判らないのだが……。

 そもそも殺し合いだの潰し合いだの、一人しか生き残れないだの言ったって別にそれに限るわけでもないんだろうし……。VSを失えば参加者としての資格だってなくなるんじゃないだろうか。

 兎に角鶫はもうどちらにせよVSを使わないほうがいいと思う。だが――あのケータイは榛原陽子の物だ。それを手放すっていう事は……鶫には難しい決断だろう。

 案の定鶫は黙り込んでしまった。それは迷っているからこそなのだろうが、どちらかというと舞の問い掛けには否定の色が強く見える。舞もそう判断したのか肩を竦めて話を続けた。


「VSを持っている限り他の所有者との衝突は避けられないわ。あたしに響、それからお嬢さん……。十三人の所有者のうち三人がここに居るわけだけど、つまり残り十人はまだ動き回ってる事になる。それぞれが恐らく別々の場所で既に交戦を開始しているわ。あんたたちみたいにね」


「当然そうなるだろうな……。中にはもうくたばってる奴も居るかも知れない」


「全ての所有者が出揃った今、一定人数まで所有者が減った際の中間報告くらいでしか安否を確かめる手段はないけど……まあ兎に角、残り十人。まだ戦いは始まったばかりって事」


 だからこそ、鶫はもうVSを手放した方がいいと思う。こいつは本来優しいやつなんだ。人殺しどころか虫だって殺せないような顔をしている。これから先……こんな戦いは辛すぎる。


「中でも強力な所有者っていうのは居るものよ。あたしに傷を負わせた所有者――本題になるけど、つまりそいつを協力して倒さないかって言う話なの」


「そりゃ構わないが……ん? それって……」


 俺が思うに、舞はかなり強いのではないだろうか。VSの扱いも俺より上であり、基本的な生身での戦闘能力も俺以上だ。例のモノレール事件の時も即座に駆けつけあっという間に俺たちを救い出した。

 その舞が手を借りなければ迎撃できないほどの敵が居るっていう事なんだろうか。それはちょっと……危ないな。そんなのに遭遇したら――俺は兎も角、鶫は――。


「そいつ――どうも奏の関係者を狙っているみたいなの」


「は? なんだそりゃ?」


「――今日、奏の知り合いでもあるっていう所有者と会ったの。まあ意図的ではなかったんだけど、情報を交換して……とにかく彼も何度かその敵に襲われているみたいだったの」


「偶然じゃないか? 奏とそいつ、どういう関係があるっていうんだ」


「偶然かもしれないわね。でも――奏が失踪するより前、あたしはそいつと奏が一緒に居るところを見た事があるのよ」


「何っ!?」


 どうも鶫は完全に置いてけぼりだったが、申し訳ないが今は聞いていてもらうしかない。舞は麦茶の注がれたグラスに手を伸ばしながら眉を潜める。


「これはあたしの憶測なんだけど――。あいつが狙っているのは……響、あんたの持ってる“ベロニカ”かもしれない」


「……あのうんともすんとも言わないユニフォンか?」


「ええ。奏とあいつ、二人が会っているのを見た翌日の事だったのよ。奏がベロニカをあたしに託したのは。だから今思えば――ってことで、しかも憶測に過ぎないんだけど……。もしそうだとしたら響、あんたを一人にはしておけないもの。あいつ――恐ろしく強いわ」


 舞が言うんだから余程の事なんだろう。思わず背筋がぞくりとする。だがしかし、ベロニカを狙っているのだとしたら……確かに他人事じゃないな。

 俺がベロニカを持っている以上、鶫だって無関係じゃない。いや、俺と関係のある人間全員が巻き込まれる可能性を持っている事になる。確かに舞は直接奏にベロニカを託された人間だ。俺にそれが渡っている事が判らなければ舞が狙われるのも頷ける。

 つまり、共同戦線という言い方をしてはいるものの、単純に俺の護衛をしたいっていうのが舞の本音ということになる。怪我しておいて、こいつはなんというか……。


「……判った、手は組もう。だけどお前もここで休んで行け」


「それは駄目よ。あいつは何故だか判らないけどあたしの居場所が判るのよ。確実にあたしのところにやってくる……深夜になると毎日ね。ここにいたらみすみすベロニカの在り処を教えてるようなもんよ」


「って、ちょっと待て? 毎日? お前まさか、毎日戦ってたのか!?」


 思わず立ち上がり身を乗り出す。舞は目を丸くして驚いた様子で小さく頷いた。


「あほかっ!! なんでそれを先に言わないんだよ!?」


「だって……」


「だってじゃねえ!! くそ、道理で最近ぐったりしてると思ったぜ……! 何で俺に助けを求めないんだよ! 言ってくれなきゃわかんねえだろが!」


「うう……」


 流石に今回ばかりは引くつもりは無い。今回は確実に俺の方が正しい。そんな状態のクセに俺の事まで気にかけてやがったのかこいつ……。本当にどうかしてるとしか思えん……。

 それもこれも全部奏との約束の為か。奏、奏って……ホント、あいつにばっかり従順だな。くそ、余計な事頼んでくれたもんだ兄貴のやつ……ありがた迷惑だ。

 俺がそれで助かろうが、ベロニカが守られようが、舞が死んだら意味がないだろうが。あいつ、本当に舞のこと考えてんのかよ……! 自分の彼女だろ……!


「――頭に来たぜ」


 舞の態度もそうだが、あのクソ兄貴……どうしようもねえもんばっかり俺たちに押し付けやがって。何がベロニカだ。動きもしねえユニフォンがそんなに大事かよ。


「尚更ここにいろ、舞。俺がそいつはぶっ倒す」


「だから、あたしの話聞いてなかったの!? 強いのよ、そいつはっ!!」


「知るかよ! レベル差があっても何とかなんだろ? 要は気合だ」


「気合気合ってねえ、あんたそんなので何でも出来たら世の中超人だらけなのよ!!」


「うっせー! 一人でやって怪我してんのはどこのどいつだ、この馬鹿っ!!」


「う、うぐぐ……っ!」


 気付けばお互いに身を乗り出し、相手を睨みつけていた。なんだかこのノリも久しぶりの気がするな……。


「――あの……。それだったら私、少しお役に立てるかもしれません」


 ふと、完全に忘れてしまっていた鶫の言葉で俺たちは落ち着きを取り戻す。視線を向けると鶫はゆっくりと顔を上げ――少し不安げに言葉を続けた。


「相手がどこから襲ってくるのか……それだけでも判れば、手の打ち様はあると思うんです。その……桜井君の言う通り、レベル差があったとしても、やり様によっては撃退は可能だと思うし……」


「……そりゃあそうだけど……そう簡単に行くかしら」


「大丈夫だと思います。連携に関して言えば――桜井君と舞さんは気心の知れた関係ですし。それに様子を見ている限り、その……なんていうか、すごく分かり合ってるっていうか」


「「 そうかあ? 」」


 お互いに声を重ねて首を傾げる。その様子には流石に俺たちも固まってしまった。


「……問題は、奴の能力も、どこから襲ってくるのかも何も判らないって事よね。対策の講じようがないもの」


「それなら私がやります。アンビバレッジなら――多分、お二人に足りない部分を補えると思いますから」


 そう語る鶫の表情はどこか吹っ切れたように見えた。俺と舞は顔を見合わせ、それから同時に席に着いた。


「まずは、判っている事から話し合いましょう。それから作戦を練るんです。出来る事を――やる為に」


 勿論、鶫も完全にふっきれたわけではないのだろう。まだVSを使う事に迷いもあるはずだ。だがそれでもこういってくれるのは、単純に俺と舞のためなんだろう。

 事情も判らない、ベロニカって何? って感じの鶫だが、それでもこうして俺たちの為に考えてくれる。その時点で悪い奴じゃないって事が判るのか、舞はなんだか気まずそうだった。

 そりゃあそうだろうな。いい奴だってわかってるのにそいつを疑うのは、どうしたって良心が痛むんだろうから――。



ブレイドダンサー(4)



 時計の針が日付変更を示そうとする真夜中の街の中、ユニフォンを片手に歩く人影があった。全身すっぽりと黒のライダースーツで包み込み、ヘルメットを被った不審者にしか見えない存在。舞たちがライダーと呼ぶその所有者はユニフォンを片手に夜空を見上げる。

 月の美しい夜だった。見上げる視線の先、響の住むマンションがあった。ライダーは暫くの間それを見上げ――振り返る。コンビニエンスストアの前の通り、車線の向こう側に立つ舞の姿があった。

 ライダーは小首を傾げる。舞は確か、このマンションに居たはず――。だがしかし実際に舞は目の前に居る。特に考える事はしなかった。“ならばやる事は決まっている”――。

 車線を跨いで駆け出した。真夜中でも車の通りはある。しかしライダーは一息に跳躍し――まるで宙を駆け抜けるかのように車道を跨ぎ、対岸へと辿り着く。それと同時にユニフォンを剣の形状へと変化させ、舞へと襲い掛かった。

 舞は後方に跳躍して一撃を回避する。身体能力の高さだけで言えば舞は全ての所有者の中でもトップクラスの位置に存在するのだ。それでも直ライダーの動きは尋常では無い。凄まじい勢いで追い掛けてくるライダーから身をかわし、舞は路地裏へと逃げ込んで行く。

 当然ライダーは追い掛ける。迷う事は無く、真っ直ぐに舞目掛けて。幅2メートル程度の細い路地を二人は駆けて行く。舞は全力疾走、それこそこれ以上もう走れないというくらい全力で走っていた。

 脇腹の傷が痛む。血が滲んで行くのが判る。額には球の様な汗が浮かんでいた。しかし歯を食いしばり、それでも走る。逃げ切れるなどとは思っていない――ただ、走り抜けるだけでいい。今は、それだけに集中する。

 ライダーが剣を構え、それを舞目掛けて投擲する。背後を気にしながら走っていた舞の脇を抜け、逃げ道を塞ぐように壁へと突き刺さる。舞は一瞬たじろぎ――その僅かな隙にライダーは追いついてしまった。

 体中のあらゆる場所からユニフォンを取り出し、それらは全て剣の形を成す。それを両手の指に挟み、舞目掛けて投擲しようとした直後――ライダーは漸く異変に気付く。

 身体に僅かな違和感――正体は不明。だが腕が一瞬で動かなくなる。次に両足が、身体が、辛うじて動かせるのは首のみ――。異変に身体が停止し、次の瞬間舞は振り返った。


「結構あっさり引っかかったわね。まあ、それも仕方がないと思うけど――」


 ゆっくりと違和感が正体を現して行く。それは、この細い通路の中に張り巡らされていた無数の糸であった。糸はライダーの全身に絡みつき、がっちりとその動作を封印している。


「不可視プラス“任意の物体のみを捕縛する”糸、ね――。便利な能力持ってるわ、お嬢さん」


 舞の背後、暗がりから鶫が姿を現す。その背後にアンビバレッジが姿を見せた。二つの影は完全にライダーを掌握し――最早逃げる事は敵わない。


「この状況なら絶対に外さないわ! 響っ!!」


 頭上に叫ぶ舞。空の切れ間の向こう、ビルの屋上に響の姿があった。路地と屋上、舞と響は同時にベルサスを取り出し、VSを起動する。

 ジュブナイルとディアブロスが同時に起動する。巨大な機械の塊がビルの隙間を落ちて行く。同時に獣が雄叫びを上げ、真っ直ぐライダー目掛けて突進する。

 上と横、二つの直線通路を二つの影は迷わずに直進して行く。二つのVSが同時にライダー目掛けて拳を叩き付けた瞬間、凄まじい轟音と同時に大地が軋み、瓦礫が飛散した。鶫を庇うように前に出た舞が腕を翳す。


「パワータイプ二機の同時攻撃……これなら流石に一発で……!」


 その直後の事である。土煙を貫き、何かが飛来した。呆気に取られ反応できない舞を突き飛ばし、鶫は舞ごと大地に倒れる。

 二人を庇うようにアンビバレッジが前に出る。次の瞬間連続で投擲された剣がアンビバレッジの全身に突き刺さり、あまりの激痛に鶫は声も上げられずにその場で仰け反った。

 鶫の腕の中、倒れたまま舞は確かに見たのだ。煙の向こう側、二つのVSの攻撃を二対の剣で受け止めているライダーの姿を。ジュブナイルの巨腕から繰り出された一撃を細腕で受け止め。ディアブロスの爪を切っ先で防ぎ。ビルの隙間、確かにライダーは生存していた。

 大地が砕けた景色の中、何故か無傷のライダーを見て舞は言葉を失った。鶫は気を失い倒れてしまっている。絶体絶命の状況下――しかし攻撃が確かにライダーにダメージを与えた事実を知る。


「うそ……」


 ライダーの被っていたヘルメットは真っ二つに砕けていた。そうしてヘルメットが大地に零れ落ち――同時に納められていた“長い黒髪”が露になった。

 白い肌。黒い長髪。鋭くも可憐な視線――。そして何より、顔に斜めにつけられた巨大な“切り傷”。それさえも美しく感じられてしまうほど――そこに立っていた人物は凛とした雰囲気を放っていた。

 端的に、それは“少女”であった。舞よりも年下、恐らくは響と同い年か下くらいであろう。髪を揺らし、少女は顔を上げる。傷付けられたのか、額から血を滴らせながら。

 両手に構えた剣を解除し、身を低くする。ジュブナイルとディアブロスの攻撃が空振り、二機は同時によろける。次の瞬間少女は既に剣を再構築し、身体を捻りその場で旋回しながら二機のVSを切りつけた。

 よろめく巨躯。少女の振り回す剣二つだけにこうまでも翻弄される――。舞踊るように剣を振り回し、少女は二機のVSを圧倒していた。


「舞――ッ!! 逃げろッ!!」


「響……!?」


 屋上から声が聞こえた。次の瞬間、空から響が落ちてくるのが見えた。余りにも非常識な光景に舞は思わず叫びそうになったが、響が落下してくると同時にジュブナイルが跳躍し、掌の上に響を拾ってゆっくりと着地する。


「時間を稼ぐ! 鶫を頼むっ!!」


「……くっ」


 他に選択肢はなかった。舞はダメージを負っており、VSの扱いもままならない。鶫を抱えて身体を起こし、ディアブロスを撤退させる。

 逃げようとする舞の前方。アンビバレッジが身体を低くして待っていた。まるで“乗れ”といわんばかりのその様子に思わず疑問が過ぎる。

 所有者が気を失っているというのにアンビバレッジは平然と活動を継続していた。それどころかまるで自意識があるかのようにこうして二人を待っている。何故――?

 考えている余裕はなかった。アンビバレッジの背に乗り込むと、蜘蛛は二人を乗せて移動を開始する。その撤退ルートを確保するかのようにジュブナイルは仁王立ちでライダーを睨みつけていた。


「あの攻撃でなんで無事なんだ……! つーかさっきから動きが人間じゃねえぞ……っ!!」


 響が毒づくのも無理はない。目の前の少女は片目だけ開いたまま剣を両手に響を見詰めていた。そのプレッシャーは尋常ではなく、心臓を鷲づかみにされたような感覚が先ほどからずっと続いていた。


「さあ、来いよ! テメエがなんだかしらねえが、ここは通さないぜ!!」


 響の言葉に少女は眉を潜める。それから剣を振り上げ――ジュブナイル目掛けて真っ直ぐに駆け出した。

 ジュブナイルは反応し、拳を振るう。しかし大振りなその腕の上に足をかけ、ジュブナイルを跨ぎ跳躍する。そうして上空から響目掛けて飛来し――その首元に刃を押し当てた。

 一瞬の出来事であった。何も出来ないまま響は一歩も動けず、時が静止したかのような瞬間が続く。響の額を冷や汗が流れ落ち、そして――。


「邪魔、しないで……響」


 少女の声が聞こえた瞬間、響の首筋にハイキックが減り込んでいた。激痛と同時に一気に意識が遠ざかって行く。僅かな疑問も、その濁流の中に飲み込まれて行った――。

〜とびだせ! ベロニカ劇場〜


*とりあえず第一部完、的な*


氷室「というわけで長らく続いてきたプロローグ的な部分がようやく終わったわけだが」


響「相変わらず進むの遅いな……。これ、ディアノイアでいう所のリリアVSゲルトくらいの段階じゃね?」


氷室「レーヴァテインで言う所のイリア戦線離脱みたいな」


響「…………このペースでちゃんと終わるんだろうか、この小説」


氷室「まだ二十部だ、安心しろ。まだ二十部だ。ディアノイアは百十部行ったからな」


響「だから、百十部いかねえ為になんとかしたいんじゃねえの?」


氷室「まあ、とりあえずアンビバレッジ編が終了したわけだが……アンビバレッジ編は殆ど欝だけの話だった気もするな」


響「ほぼ鶫編みたいなもんだったしなあ。ていうかホント、VSで戦わない小説だな」


氷室「うむ……。次からは段々とVSの謎とかにも切り込んで行く予定だ」


響「やる事が遅くねえか? 俺全然VSとか意味わかんねえまま使ってんぞ」


氷室「仕方ないだろう。まだ開始から一週間経ってないんだぞ、設定的には」


響「マジで!? なが!!」


氷室「五日くらい……か?」


響「成る程ねえ……ま、更新ペース落ちてるしな」


氷室「作者的に色々あるんだよ、色々。言ったら怒られそうだけど色々あるんだ。兎に角色々だ……」


響「…………まあ、最終的には明かせるだろ」


氷室「だといいがな……」


響「さてちょっと裏話。実はベロニカはJustice Logic Alternativeの焼き直しなんだぜ?」


氷室「……ぶっちゃけてしまったな」


響「まあ、同じに見えないように設定とかキャラとかはイジって新作にしてあるけどさ」


氷室「一応、ディアノイアの主人公が住んでいる世界でもあるんだよな」


響「久遠の〜シリーズとも同じ世界になる。“テキスト”もそうか」


氷室「その辺、どっかでそのうち出せたらいいな。まあ判る人がいないだろうが」


響「しかし貴志真君(友人の作者)も言ってたけど、よくケータイオンチのクセにケータイ題材にした小説書く気になったよな。自分のメールアドレスが判らなくて携帯放り投げる男だぞ」


氷室「……ユニフォンはもう携帯というよりはなんかもう別のものだからいいんじゃないか?」


響「ちなみに作者はケータイでインターネットとかした事ありません!」


氷室「なんというオチだ……」


響「それではまた来週!!」

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