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The 13th contractor(3)

「櫻井……。先生はなあ、正直お前に学校を辞めてもらいたくないんだよね」


 というのが、正々堂々と遅刻して教室に入った俺に対する担任教師の言葉だった。

 昼過ぎに教室の扉を開くとたまたま担任教師が教壇の所に立っていた。勿論俺が遅刻している事はご存知である。そりゃまあ、こんなに遅くはなったが遅刻は遅刻、一応学校に来たのだからそれでいいはずだ。

 欠席扱いにされては困ってしまうので担任に交渉を持ちかけたところ、担任教師は眼鏡の向こうでなにやらしみじみした視線を俺に送ってきた。


「お前が入学して学校を……なんていうのかな。言い方は悪いけど、“シメ”てから、不良とかも全然いないし住みよい学校になったんだよね。お前自身、話せば判らない奴じゃないからさ……先生櫻井の事は結構好きなんだよ」


「はあ……いや、俺は別に……」


「まあ、皆まで言うな。櫻井、これからも学校を住みよいところにしてくれよ。先生、学級崩壊したクラスとか担当したくないからな。じゃあそういうわけで」


「いやだから、あの……」


 なんだこの流れ。まるで外で喧嘩かなにかしてきたみたいな言い方だな……。そしてクラスメイトたちが皆同じような目で俺を見ている。先生が公認するもんだから、そういうものだと信じて疑っていないと見える。

 これだから中々遊ぶ友達とかも出来ねえんだよなあ……。皆ビビっちまって、弱い物いじめみたいに見えてやなんだよ。肩を落として溜息を漏らし、自分の席に戻る。


「社長出勤か。おはよう、番長」


「……色々問題があるんだよ、俺にだって」


 氷室の嫌味めいた笑顔をかわして鞄を机の上に放り投げる。どうも昼休みだったようだが、飯は既に外で済ませてきたし……。暇だ。


「それで? 幽霊探しの調子はどうだ。何か手掛かりでもつかめたか?」


「いんや、何も……。まあ別の方向から手掛かりは入ったけどな。それで氷室、今日は……?」


「今の所、奇抜な事件は起きてはいないさ。まあ、あんな事があった昨日の今日だからな……休校になるかとも思ったが」


 校門の上から人が落ちてこようが、それが一体何なのかは基本的に一般人には判らない。あれが事件なのか、何らかの偶然なのか――。奇妙であればあるほど加速度的に噂は広まって行くが、実際問題あれば殺人なのか自殺なのか、そこがハッキリしないままだ。

 もうこの学園で昨日の死者の事を知らない人間はいないのだろう。氷室曰く、実際に昨日の現場に居合わせた奴らの中には学校を休んでいるのも居るらしいが、大多数はそれを噂でしか知らないだろう。

 清明学園側としては昨日の一件をどのように解釈しているのかはある程度想像は付く。こうして何事も無かったかのように学園が運営されている以上、殺人事件だとか騒ぎ立てるつもりはないんだろう。

 しかし昨日があんな調子だったから今日もまた誰かが殺されるもんだと思っていたが……奴の狙いが読めないな。


「神崎はどうだ? 無事か?」


「ああ、普通に隣のクラスにいるよ。しかし、相手が亡霊ではどうにもならないな。俺個人としては興味深いが……。そうだ響、実は昨日家からいくつか心霊グッズを持ってきたんだが一つ貸してやろうか? 神埼は喜んでたぞ」


「…………俺はいいよ。つーか神崎はホント何でも信じるなあ……」


 ま、一先ず神埼が無事で事件もないならばそれでいいとするか……。

 しかし、仮に神崎を殺したとしたら……榛原陽子の恨みってやつは一体どこに行くんだろうか。それでVSであるアンビバレッジが消えるんだろうか。恨みを晴らす為ならば無関係な人間にさえ平然と悪意を向ける化物――。目的を見失ったVSが次にどう動くのか、想像さえ出来ない。

 やはり危険極まりない。もうこれは個人の復讐とか怨念とかそういうレベルの問題じゃないんだ。ほうっておけば復讐劇は殺戮の乱舞に姿を変える……。そうなってからは全てが遅すぎる。


「しかしお前、本当に亡霊を捕まえるつもりなのか?」


「ん? ああ。誰かがやんなきゃいけないだろ? それに仮定の話とは言え、俺たちだけが気付いているんだ。他にやる奴もいないし……」


 と、言いかけた時だった。氷室は自分のユニフォンを俺に差し出す。大きな画面に映っていたのはどうやらシンクロニティウェブのどこかの掲示板のようだった。

 その掲示板では――既に榛原陽子の亡霊による復讐という文字が姿を現していた。慌てて氷室のユニフォンを手に取り、その掲示板へのアクセスの痕跡を確認する。

 それは真ウェブを使って圧倒的な速度で広まって行く。ここは学校――。近距離で次々にシンクロが連鎖する真ウェブの機能が最大限まで発揮される空間だ。学校の噂は一瞬で広まる――。榛原陽子の死、そして逸れに纏わる亡霊としての逸話……。神崎エリスに対する謂れの無い誹謗中傷……。ネットならではの憶測が憶測を呼ぶ現象がそこには広がっていた。


「所謂“学校裏サイト”という奴だ。学園内に限定した情報を真ウェブで飛ばしまくっているどこかの人間……教師か生徒かはわからんが……まあ兎も角この調子だと噂はもう完全に広まっているだろうな」


「マジか……? だって今日も学校は普通なのに……こんなにも違うものなのか」


 誰もが昨日と同じ毎日を繰り返しているように見える。けれどもその裏で情報は次から次に連鎖して噂が広まり続けている。その噂に対する彼らの姿勢も時間の経過と共にどんどん変化している。

 リアルとネットとの間に存在する激しいギャップ……。笑顔で昼食を楽しんでいるクラスメイトのうち何人が、この噂に対し好き勝手な意見を述べているのか――。


「まあ、真ウェブではそう珍しい事ではないがな」


「噂の出所は……?」


「判らん。俺たちが気付いたくらいだ、勘の鋭い奴なら誰でも気付く可能性はある。こういうのの元を手繰るのは容易じゃない」


 そりゃあそうなんだろうが、余計な事をしてくれたな……。まあ実害はないのだろうが、なんだか横槍を入れられたようでいい気分はしない。

 元々神崎と榛原の関係性に事実があったからこそ噂が成立するんだ。火の無い所に煙は立たない――要はそういう事だ。自業自得といってしまえばそれまでだが……。


「氷室、俺のベルサスにそのサイトをシンクロしてくれ」


「勝手にやってくれ。俺も今は情報をオープンに設定している。お前もそうした方がいいかもな。情報関係なら真ウェブに限る」


 確かに氷室の言うとおりだ。最初からシンクロニティウェブの設定をオープンにしておけばよかったんだ。擦れ違いで情報がガンガン飛び込んでくるし、その中から気になるキーワードだけ検索すればいい。

 VSも待機探索状態にセットしてあるし、これであとは普通に一日を過ごすだけでもしかしたら亡霊の全貌を拝む事が出来るかもしれない……。ベルサスをズボンのポケットに突っ込んで窓の向こうを見やる。

 空はこんなに青いのに、世界は何やら面倒な事で満ちているらしい。なんだか体力が落ちたのか、最近ずっと身体が気だるいし……。


「少し寝るわ」


「……次の授業、教室移動だが」


「じゃあ都合いいな。起こすなよ。起こしたらぶっ飛ばす」


「そういう事を言うから番長とか言われるんだろうに……やれやれ」


 そんな氷室の声を無視して机に突っ伏した。それにしてもこうだるいのはいつからだっけな……。夢見心地の中、ふとそんな事を考えていた。



The 13th contractor(3)



「なんでこんなせまっ苦しい路地とかが多いわけ、この街……」


 鳴海の愚痴は街の外から来た人間にとっては当然の思いでもあった。

 東京メガフロートは既に街としての機能は正常に作動している。しかし全体の完成度を見ればまだ60%程度であるとも言われており、街の各所には工事現場が多数存在し、無秩序であるとも言える程乱立するビルや通りの数々は最早把握しきれるような状態ではなく、都心よりもなおゴミゴミとした印象を与える。

 それでも街は機能し続けている。この数年間、既にこの島は誰かの故郷としての思いを受けているし、実際に今も歴史を刻み続けている。住んでいる人間にとっては当たり前のように見慣れたこの景色も鳴海にとっては宛ら迷宮である。

 響の住むマンションから車で40分ほど走った開発地区で鳴海は狭い工事用の通路を眺めて眉を潜めていた。真っ赤なオープンカーを飛ばしている間もやたらと入り組んだ立体的な道路にやきもきさせられどうにも機嫌は斜め向きである。

 助手席から降りた新庄が鳴海に先立ち狭い通路の中を覗き込む。鉄骨で組まれただけのビルもどきの間、それを覆う巨大な布と布の狭間には光から突き放されたような闇が広がっている。新庄は振り返り、鳴海を手招きした。

 これも仕事なのだから仕方が無い。車を降りて新庄のところまで歩み寄る鳴海。近くで見ると改めて作りかけのビルは不気味で、その通路は直薄気味悪い。


「はー……。如何にもワルの溜まり場ってカンジね」


「実際調べてみたらこの一画の工事はもう二年間は停止しているみたいなんスよ。ドラッグの取引現場に使われていたとしてもなんらおかしい事はないッスね」


「ふーん……。正直こういうジメジメした所は好きじゃないけど、これも仕事だからしょうがないわね、ホント」


 長い黒髪をかき上げて鳴海は溜息を漏らす。新庄の握り締めたユニフォンの画面、そこにはシンクロニティウェブの画面が映し出されている。

 彼らがここにやって来たのにはそれなりの理由がある。電子ドラッグの噂は勿論シンクロニティウェブの中に広まっている。それは今はまだ微々たる物だが、情報を探る上でシンクロニティウェブは非常に役立つ情報源である事に変わりは無い。

 新庄は予め真ウェブによる情報の募集を行っていた。電子ドラッグについての噂……。そうしたものを探って行く中でいくつものデマの中に紛れ、ある程度信憑性のある情報を取り上げて虱潰しにする――。表と裏が明確に乖離するこの街でも最終的には足を使うのが最も効果的である。


「まーここで管巻いてもしょうがないしね。行くわよ、新庄君」


「了解ッス」


 二人は肩を並べる事も出来ないような狭い通路を進んで行く。その先にあったのは開けた空洞だった。ビルとビルとの間、不自然に生まれてしまった無駄な空白――。ちょっとした広場のようなそのスペースを見渡し鳴海は小さく息を付いた。


「見るからに不良の溜まり場ってカンジね」


 アスファルトの大地にはスプレーで落書きが記されている。毒々しい色彩を放つ落書きの上には建築資材が放置され、辺りにはの見かけのペットボトルや缶なども転がっていた。


「というか、この建築資材ちゃんと保管管理されてるんスかねえ……。これはこれで別件で問題じゃないスか?」


「新庄君、こっち」


 振り返り、屈んでいる鳴海の元へ進む新庄。鳴海の手の中には飲みかけのコーラのペットボトルがあった。


「やっぱり誰か人がいたみたいっすね」


「しかも結構最近ね。賞味期限まで大分時間があるわ。このコーラの賞味期限は製造日からおよそ一年程度……。製造、出荷されて手元に届いて、それから買って直ぐ飲んだってカンジね」


「なるほど……って、コーラの賞味期限なんてよく知ってますね」


「あら、しょっちゅう飲む物なんだからそれくらい気にしない? ちなみにこれは分刻みで賞味期限が記されているタイプね。まあつまり、本当にごく最近までここで誰かが良くない事をしていたのは間違いないわね」


 周囲を見渡す。ビルの陰に埋もれ真昼だというのに光も微かにしか届かない――。良くある不良の溜まり場ならばそれでいい。だが、この場所がドラッグの取引に使われていたのならば話は違ってくる。

 何よりもここを選んだからにはそれなりの理由があるのだ。いくつもの“お騒がせ”、胡散臭い情報の中からこの場所を選んだ理由――。それは、この場所の情報を書き込んだ人物の言葉の中にあった。

 ドラッグの名前、それが決め手である。鳴海も新庄も電子ドラッグの名前を知らなかった。その情報はまだ警察関係者の中では知られておらず、それを調べる事も二人の仕事だった。そのドラッグの名前――“ムーンドロップ”という名前が明記されていた情報だからこそ、ここを選んだのである。


「ここで何度か深夜に取引が行われている……まあそれだけの情報だったんスけどね。でも少しは目処、立ちましたね」


「ムーンドロップ、ね。洒落た名前だけど問題だわね。それにしてもそのムーンドロップ……人間の脳に影響を及ぼすのよね?」


「ええ。技術者の見解では、多分ダイブスポットを利用した特殊な催眠みたいな物だとされているんですが……。ユニフォンによっては、ネット喫茶にあったような大規模な設備を使わずとも簡易的な外部装置で効果を再現できる機種があるんスよ。ちなみにこれがそうッス」


 新庄が手にしているユニフォンを翳す。勿論、どこでもダイブが出来るわけではない。電波状況などによってそれは左右されるのだ。だからこそ実際に実物を持ってきた。


「ここは余裕で対象内ッス。つまりここならユニフォンでダイブが可能なんスね」


「……ちなみに新庄君、大事な事を訊き忘れてたんだけど、いい?」


「なんスか?」


「ムーンドロップの効果、よ。冷静に考えてみたらダイブスポットで既に色々な事が出来るんじゃない?」


「……うーん、その合法か非合法かってラインは実はかなり曖昧なんス。だからなんとも言えないんスけど――」


 ユグドラシルネットワークは体感できるネット世界を架空している特殊なコミュニティツールである。それは既にある意味で麻薬をも超えていると言える。

 夢を見せる機械――。それが夢であるとは言え、痛みも快感も勿論そのままフィードバックされ“感じる”事になる。そのイメージを自在に操り、ユグドラシルネットワークの中で人々は意識を交錯させる。

 例えば剣と魔法の世界のゲームデータをユニフォンに搭載すればそこからデータを汲み取りその架空世界をユグドラシルの中に再現する事が出来る。そこには現実世界にはない物があり、現実世界では許されない行いが許される。

 だがしかし余りにも逸脱した行為はユグドラシルとて禁じられている。勿論その境界線は非常に曖昧で、全ての人間の全ての行為を正しく管理する事は完了出来ていない。


「例えばの話ッスけど、“暴力”とか――。ユグドラシル内部で他の人間を痛めつけたり、ナイフで刺したり……。安全性の問題で、痛みとかは結構セーブされてるんスけど、それだって自分がナイフで刺された感触はゾッとしないッスよね? そういうのは基本的に禁止されているし、そういう事が出来ないようにユグドラシルは出来てるんスよ」


「剣と魔法はいいのに?」


「あれはいいんスよ、楽しいし。対人戦だって合意の上ですし、ゲームとしてのルールがあるッスからね」


「新庄君、ゲーマーなの?」


「ゲーマーというか、ダイバーっすね。“ディアノイア”っていうオンラインゲームにハマってるッス。まあそれは兎も角、ユグドラシル内部ではあまりに逸脱した行為は禁じられている……それはわかってもらえたッスか?」


「ええ。じゃあつまりムーンドロップっていうのは、そのユグドラシルでは本来禁じられている行為を実現するのね」


 ユグドラシルネットワークが姿を現してから数年――。この期間にユグドラシルは一気に拡大、発展を続けてきた。ユグドラシルに対応したプログラムを自作しているような人間も増え、自宅などでもダイブが可能なユニフォンが開発されオフィシャル的に全てを管理できなくなりつつある現状が存在する。

 勿論多少知識がある人間が少し弄った程度ではユグドラシルのセキュリティを掻い潜る事は出来ない。だが中にはそうした法と罰の網を潜り抜けてしまう物も存在する。


「つまりユグドラシルのオフィシャルソフトでは満足出来ない人が、ユグドラシルを利用してあくどい夢を見せていると」


「人間の欲望を本当の意味で満たす幻想は、オフィシャルじゃ味わえないでしょうしね」


「……成る程ね。電子ドラッグというか、何というか……」


「ユグドラシルの開発、販売元である“ジェネシス”も既に調査を開始してるッスが、ネットワークの規模そのものが爆発的に増えすぎて管理しきれないのが現状っす」


「でも、ユグドラシルってこの街の中でしか機能しないんでしょう? 問題を探知するくらいワケないと思うけど……。サポート悪いのね、ジェネシスは」


 二人がそんな会話をしている時であった。新庄が他に何かが無いかと周囲を見渡している時、鳴海は振り返って目を細めた。


「――――それで、いつまでそこに隠れているつもり?」


「えっ?」


 慌てて新庄が鳴海の視線を追う。鳴海の視線の先にあったのは小さな木箱だった。木箱に向かって鳴海が話しかけている……。新庄は慌てて木箱に駆け寄り、その影などを探してみた。


「誰も居ないッスけど……」


「いや、新庄君……その木箱の中よ」


「え? この中って……いや、流石にこれは……」


 そう苦笑を浮かべる新庄の背後、木箱の蓋が内側から開かれた。慌てて飛び退く新庄の視線の先、姿を見せたのは小柄な少年だった。

 少年――歳は十代前半と言った所だろうか。かなり体格が小さく、一見しただけでは男女の区別が付かないような愛らしい顔つきをしている。性別が判断出来たのは、彼が清明学園中等部の学生服を着ていたからである。どこか怯えるような視線で鳴海を見詰め、少年は息を呑んで言葉を投げかける。


「……なんで、判ったんですか?」


「勘よ」


 腕を組んでビシリと言い放つ鳴海。新庄は鳴海の傍まで走って戻り、


「勘って!! そんなんで判るんスか!?」


「アタシって昔から勘だけはすごく良いのよね〜。“黒ひげ危機一髪”じゃ無敗だし、トレーディングカードのパックも見ただけで何となくどこにレアカードが入っているのか判ったし」


「そんな事ってあるんスか!? いや、それよりあの子は!?」


「落ち着きなさい新庄君……。貴方、ここの情報をくれた人ね?」


 驚く新庄の視線の先、少年はゆっくりと頷いた。それから鳴海は新庄を放置して少年に駆け寄り、片膝を付いて微笑みかける。


「アタシたちが信用出来る人間かどうか観察してたってトコかしら?」


「……お姉さんたち、警察の人ですか?」


「ええ。貴方に言っても判らないだろうけど、スーパー警察みたいなものよ」


「スーパー警察……。それじゃあ、ムーンドロップの事……信じてくれたんですか?」


「信じなかったならここには居ないわ」


 腰に手を当てて立ち上がる鳴海。その凛とした眼差しを見詰め、少年は小さく頷いた。


「お願いがあるんです」


「遠慮せず言って御覧なさい。貴方可愛いから聞いてあげるわ」


「…………いや、あの……。お願いしたいのは、その……人を、探して欲しいんです」


 そう言って少年がポケットから取り出したのは一人の少女の写真だった。あからさまに“隠し撮り”といった雰囲気が窺える植え込みからのアングルで、被写体の少女はこちらをまともに向いていない。

 写真を受け取り鳴海はそれを吟味する。少年が鳴海の言葉を待つ。鳴海は写真を指先でひらひらさせ、意地悪な笑顔を浮かべて言った。


「察するに片思いと見た!」


「………………」


「顔真っ赤にしちゃってかわい〜っ! で、この子がどうしたって?」


「……ムーンドロップを配ってる人と、繋がりがあるみたいで……。その……止めさせてあげて欲しいんです」


 そう語る少年の目は本気である。しかしどう見ても写真の少女は少年と同い年かそれ以下である。同じく清明学園の学生服――。新庄は写真を覗き込み目を見開いた。


「うわ、可愛いッスねこの子……。この金髪、地毛っすかね」


「そんな事はどうでもいいのよ新庄君。それよりも今は手掛かりを手放さない事。ねえ、この写真少し借りても――?」


 そう投げかけられた声は少年には届いていなかった。二人の目の前に立っていたはずの少年はいつの間にか姿をくらましていたのである。

 突然の出来事に二人は周囲をきょろきょろと見渡す。しかし勿論少年の姿は影も形もなくなってしまっている。新庄が青ざめた表情で鳴海の背後にくっ付いた。


「なな、なんだったんスかねあの子……まさか、幽霊……」


「そんなワケないでしょ? それよりこの子を当たって見ましょう」


「そ、そうッスね……。でもまた清明学園ッスか? あそこ呪われてるんスかねえ……」


「確か連続自殺事件も清明学園だったわね。本当に何か繋がってたりして」


「あはは、そんな刑事ドラマじゃないんスから」


 ビビって女の影に隠れる奴が何を――。鳴海は軽く新庄の額を小突き、それから歩き出す。

 長い間影の中に居た所為か光がまぶしく見える。ここは居るだけで気が滅入ってしまう。小さく息を付き、写真を片手に鳴海は闇を抜け出した。

〜とびだせ! ベロニカ劇場〜


*更新頻度に定評のあるベロニカ*


氷室「……いや、ウソを付くなよウソを」


響「あんま更新してね〜よな〜。しっかし、ディアノイアのほぼ毎日更新ってマジで狂気染みてたよな。今思うとマジでありえねえよ、四ヶ月で110部とか」


鳴海「あら、二人して何してるの?」


氷室「マンガを読んでいるところです」


響「アイス食ってる」


鳴海「……尋常じゃないだらけっぷりね。今までの劇場は結構頑張ってたじゃない」


響「キャラ多いんだよこの小説!!」


氷室「急にどうした……」


響「なんつーかさー……つーか全然話すすまねーよな。例によって30部くらいまではオープニング的な勢いなんだろうか」


氷室「またか……。そこまで連載する間読者様がついてきてくれればいいがな」


響「とりあえず思ったんだけどよ、次までにここで何したら面白いのか考えようぜ」


鳴海「エロ?」


響「あんたはそれでいいんだが……なんかそうじゃないっていうか……違うよな……」


氷室「ノクターン行きギリギリだな」

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