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The 13th contractor(2)

 テスタメント――。それは、ユグドラシルネットワーク上に存在する架空の空間。かつ、VSアプリケーションを持つ人間のみがアクセス出来る完全会員制空間……。

 無限の時を刻み続ける契約の羅針盤の上、十三番目の契約者はピンクのうさぎと対面していた。ラビット君と名乗るうさぎを挟んで響の向こう側、舞は腕を組んだまま自分がここに初めて来た時の事を思い出していた。

 あの時は突然過ぎて何も判らなかった。混乱はその通りだし、先ほど響に初心者丸出しという言葉を投げかけた割には全く同じリアクションを彼女もとっていた。ただし今の響と違う事があるとすれば――舞は奏という心強い男に支えられてこの場所に立ったという事。

 七番目の契約者である舞はここで全てを知らされた。“知る事が出来ない”全て――。そして自分たちが巻き込まれた運命の輪の片鱗。避けられない運命の断片。

 うさぎは宙に舞い上がり、虚空に座り込む。舞は顔を挙げ、靴音を鳴らしながら響の目前にまで迫った。


「ここが所有者にのみ許されたユグドラシルの禁断領域……。ここに立ち入る事が出来る人間は十三人の契約者と、その争いの行く末を設定する“管理者ゲームマスター”だけ……。響、あんたもあたしも何も変わらないわ。お互い、ろくでもないゲームに巻き込まれたの。逃れられない運命のゲームに、ね」


「……ゲーム……?」


「“VSの所有者セイヴァーは十三人。VSはVSでしか殺せない”……。このゲームはね、響。十三人の契約者の殺し合いなの。最後に生き残った一人だけがこの街から出る事が出来る……。もう戦いは始まってる。あんたが何も知らずに暮らしていた頃から、ずっとね」


「ちょ、ちょっと待て! なんだ、それ!? 十三人の殺し合い……!? VSを使って、殺しあえって言うのか!?」


『ソレコソガ、コノゲームノ本質ダヨ。難シイルールハ必要ナインダ。タダ、最後マデ生キ残レバイイ! 死ニタクナイナラ、生キツヅケタイなら、戦エバイイノサ』


「……んだそりゃ!? おいこのうさぎ野郎ッ!! てめー人を見下してんじゃねえぞコラッ!!」


 響の怒鳴り声でうさぎはゆっくりと降りてくる。そのうさぎの耳を片手で鷲づかみ、響は顔面を近づける。


「何でそんな事をする!? 何でそれで関係ねーヤツが死ぬ!? 誰がそんな事を仕組んだ!?」


『ソレハ言エナイヨ。デモネ、難シク考エナクテイイ。タダ、死ナナケレバソレダケデイインダヨ?』


「そうじゃねえだろ……! 十三人って事はっ! 俺が最後の一人だって事は……っ!!」


 うさぎを突き飛ばし振り返るその視線の先には舞が立っていた。二人の視線が交錯する。そう、それはどうしようもないたった一つの事実を指し示している。

 幼い頃から共に生き、そして彼女に憧れさえ抱いてきた。そしてこうして“敵”である自分をここまで導いてくれた――三代舞。彼女さえ、戦わねばならない対象――明確な“敵”、どうしようもないその事実が立ち塞がる。

 舞は当然それをわかっていた。わかっていてここへ響を導いた。何の打算も無く、ただ幼馴染であるという理由だけで……自らの敵を、ここまでつれてきたのだ。

 それがどれだけ愚かな事か、もう舞は重々承知している。しかし彼女はこのサバイバルルールに納得しているわけではない。承諾はした。だが、納得は出来ない。


「響……だから、あんたとあたしも本当は敵同士なの。どっちかが死ななきゃいけないの。そういうルール……生き残れるのはたった一人だけ。そういうシンプルな仕組みなのよ、これは」


 信じられる人物から告げられる事実に言葉を失う。響はその場で拳を振るわせたまま肩を落とし、長い前髪で表情を隠した。そんな響の姿を見るのは舞も辛い。しかしそれが現実である以上、かける言葉は全て無意味――。


「――――くっくっく!」


 その時だった。うさぎも舞も同時に視線を響に向ける。響は肩を落とし俯いたまま小さく体を震わせていた。


「……響?」


「フン……ッ! あぁ、くだらねえくだらねえっ!! おい、舞! お笑いだぜこりゃ!」


「……あのねえ。一応これは真面目な話――」


「おいこら、ウサ公」


 響は振り返り余裕の笑顔で首を傾ける。その強気で迷いの無い視線に射抜かれてうさぎは微動だにしない。


「十三人の殺し合い、VSのユーザー同士の潰しあい、ガチンコのマジバトル……なるほどなるほど、判ったぜ。そーいうルールなんだ。ふーん。あっそ」


『……? 君ハモシカシテ、ゲームニ参加シナイツモリ?』


「そんなモン俺の勝手だろーが。なんでテメーみてえな気持ちわりい物体エックスに付き合ってやんなきゃなんねえんだよ。俺は俺にしか従わねー。そんなクソゲーてめらだけで楽しんでろ」


 うさぎを指差して断言する響。そうして片手をひらひらと振り、呆れた様子で振り返る響の前、鋭い眼差しで立ち塞がる舞の姿があった。

 舞は問答無用で響の襟首を掴み上げる。響は冷めた視線で舞を見つめ。舞は表面上冷静さを保っていたが、その腕は怒りに震えていた。


「人が心配してここまでつれてきてあげたんでしょ。もうあんたも逃げられないのよ。あたしはあんたを巻き込まないようにしたかったのに、あんたは勝手に参加して……ふざけるのも大概にしなさいよ」


「ふざけてんのはてめーの方だろが」


 次の瞬間、響の顔面に舞の拳が減り込んでいた。体全体を捻るようにして繰り出された拳は響を一撃で吹き飛ばし、紋章の大地の上に響は転がる事になる。


「何か言った? 成長しないのね、あんた……。子供のままだわ」


 片手で指をコキリと鳴らして舞は片目を瞑って響を見下ろす。うさぎは二人の様子を見て困った様子で耳をぱたぱた上下させていた。


『響クン、君ハマダコノゲームガドレダケ君タチヲ囲ッテイルノカ理解出来テナイミタイダネ……。逃ゲル事ハ出来ナインダヨ? モウ誰モ、コノゲームニ勝利スル以外生キノコル道ハナインダ』


「で?」


 響は平然と立ち上がる。口元が切れて血が出ていたが気にしなかった。指先でそれを拭い、あっけらかんとした様子で二人に語る。


「別に参加しねーとは言ってねえだろ、勘違いすんな。ゲームから逃げられないのもよ〜く判ってるし、実際に人が死んでいる以上これがリアルだって事は重々承知だよ。だけどな、舞――お前、だからってもう諦めたのか?」


「…………何?」


「どうも様子がおかしいと思ったんだよ。お前、やりたくもねえのにこんなのに参加させられてるからそんな浮かない顔してんだろ? パンチにも威力が乗ってないぜ? のび太君だってもちっと気合入ってるわ、ボケ」


 血の混じった唾を吐き、響は舞の襟首を掴み上げる。鋭く迷いのない――しかし真剣なその瞳に舞は思わず息を呑んだ。


「大体事情は飲み込めたぜ。VSの大本が居て、VSのユーザー同士で殺しあってる……。兄貴はそれに巻き込まれたから居なくなった。そういう事だろ? 街から出られないんじゃあ、兄貴はこの街にいるだろうさ。これしか説明受けてねーんじゃあお前にだってわかんねえだろうよ。でも俺は“気に入らねえ”よ」


『気ニイラナイ?』


「おいウサ公。あらかじめ言っておく。俺は捻くれてるぜ? このゲーム、俺と“ジュブナイル”がぶっ潰してやるよ――!」


 啖呵を切った響は突き立てた親指を大地に向かって振り落ろす。あからさまな挑戦に対し、うさぎは数分間そのまま停止していた。

 まさかリンクでも切れているのだろうか……舞と響がそんな不安に駆られ始めた頃であった。突然うさぎはその場で跳ね上がり、そのままの勢いで響の周りをグルグルと走り始める。


『君ハ面白イッ!! 君ミタイナノガ参加スルノヲズット待ッテタヨ!! 改メテ自己紹介! ボクハ“一番目”のVS所有者――ユーザー名は【ラビット君】ダヨ〜!』


「……きもいなあ。つか、ユーザー名?」


『君ハ【KYO】ニナッテルヨ』


「ちなみにあたしは【M3】――“まいさん”と読むわ」


 なんじゃそら、まんまじゃねえかお前ら――と言いかけ、自分もそうである事に気付いて響は口を閉じた。


「つーかうさぎ……お前も参加者なのか? つーか人間なのか……?」


『人間ダヨウ〜。僕ノグラフィックハ本体トハ全ク別ニシテアルノ。君タチノグラフィックモ、ココマデジャナイケドカワッテミエテルヨ』


「あたしは響に対してはオープンにしてるし、あんたも今はそうなってるはずよ。今のうちに残りのユーザーに対してはオフにしておきなさい」


 響は言われた通りにシステムを設定する。思うだけで設定用のコンソールが現れ、それを操作する事で設定を変化させる事が出来た。


『ジャア、トリアエズ今日ノトコロハココマデ。ソンナワケデ――』


 世界が明るく瞬き、次の瞬間羅針盤の十二の枠の中に無数の人影が現れていた。それらは黒いシルエットで表示され、何も見えないそのシルエットの中にユーザー名だけが浮かび上がっている。

 うさぎによって召集されていたユーザーたちは同時に中心部に立つ響に視線を向ける。突然の事に冷や汗を流す響の隣、舞の姿もシルエットだけになって見えた。


『十三番目ノ参戦ニヨリゲームハ本格的ニ始動スルヨ。コノ中デ誰ガ最後マデ生キ残レルノカ――。誰ガ最強ノVSユーザーナノカ、決メルトシヨウジャナイカ』


 この、永遠の羅針盤の上で――。

 光の中、響は溜息を漏らした。後戻りなど、とっくの昔に出来なくなっていたのだと、その事実を再認識した――。



The 13th contractor(2)



「うーむ、傷がない」


 いっくらユグドラシルの中だからってあんなに思い切りぶん殴るやつがあるだろうか……。

 俺は舞と一緒にテスタメントから抜け出し現実空間へと戻ってきた。店の外に出ると炎天下の日差しで死にたくなってくる。頬は思い切り舞に殴られ、まだ痛みの余韻が残っている。が、傷跡は存在しない。まるでありもしない痛み――VSみたいだ。

 VSの感覚は自分の感覚と不思議とリンクしているところがある。アンビバレッジをぶん殴ったときも、何故か拳に手ごたえがあった。どうもVSというのはそういうもので、ユグドラシルも似たようなものらしい。


「ユグドラシルの中でよかったわね。傷、残ってないわよ」


 そう言って舞は俺の頬を指先で撫でる。笑っている表情が憎めない……。多分こいつとしては判っていてやったんだろうが、こっちはいい迷惑だぜ。まあ現実だろうがなんだろうが、舞は速攻手が出るタイプなわけだが。


「それにしてもあんた、やっぱり型に嵌んないわね〜。どうしてそう集団行動とか苦手なのかしらね」


 しかし、舞の表情はどこか嬉しげというか――うん、楽しげだった。困ったような笑顔を浮かべてはいるものの、その口調は表情とつりあって居ない。


「行き成り殴ったのは悪かったわよ。そんなスネないの」


「スネてるんじゃねーよ……。ま、ああは言ったけど色々気になる事はあるんだし」


 兄貴の失踪。“ベロニカ”。アンビバレッジとそのマスター。自分が十三番目のVSユーザーであるという事。残り十二人の所有者。ユグドラシル内に存在する空間、テスタメント。色々な情報が一気に頭の中に入ってきて混乱する。

 だがまあ、難しく考える事はないだろう。別にゲームがどうとかにマトモに従ってやるつもりはない。襲ってくるやつはジュブナイルでぶっ潰すだけだ。それで全部解決するんだから実にシンプル。

 やる事そのものはこれまでと変わらない。アンビバレッジを探し、その行動を阻止する……。おあつらえ向きにゲームにもなぞってるんだ、上出来なシナリオだろう。ウサ公だって文句は言わないはずだ。


「でも……ありがとね。なんかあたし、やっぱり疲れてたみたい。イライラしてたっていうか……うん。らしくなかったわ」


「少しはふっきれたか? ウダウダ考えたってしょーがねーんだ。やるだけやって駄目ならその時はその時だ」


「ええ、そうね。響のその力任せの理屈、好きよ」


 別に俺の事を好きと言ったわけではないのだが笑顔も相まってちょっとドキドキする。まあこれで舞に対する用事は大体済んでしまった事に成る、か。


「まあ助かったよ。何故か八つ当たりでブン殴られたけどな」


「……根に持つわね。あれは、だから……あんたを心配してよ」


 ウソつけ〜。絶対八つ当たりだって。ま、あんなシビアな事言われて一人で頑張ってたんじゃモヤモヤした気持ちになってもしょうがないとは思うけどさ。俺でストレス発散しようとするの、いい加減やめてくんねーだろうか……。

 と、そんな事をぼんやりと考えていると舞は背後から俺の肩を叩いた。そのまま振り返るよりも早く、舞は俺の頬に軽く口付けを交わしていた。


「こっちはヴァーチャルじゃなくてリアルよ。これでチャラね」


「…………」


 無言になる。突然の事で思わず固まってしまった。いや……これが初めてってわけじゃないが、もう少し自分の行動には責任を持って欲しい……。


「それじゃ、あたしは家に戻って寝るわ。最近夜に寝られないから昼間に寝ておかないとキッツイのよ。今度からはメールとか見るようにするから、遠慮なく相談してね」


「一応敵同士なんじゃないのか?」


「それ以前に幼馴染――でしょ?」


 すっかり舞は舞らしさを取り戻したらしい。とびっきりの笑顔を見せて彼女は去って行く。その足取りは軽く、どこか吹っ切れたようにも見えた。

 あれだけ元気になったのならばもう大丈夫だろう。心が押しつぶされてしまうこともあるまい。さて、問題は“学校をサボって”ここに居る俺がこれからどうするかって事なわけだが……。


「……学校、行くか」


 とりあえず学校には神崎も鶫もいるだろうし、話が早い。氷室たちにも異常が無かったか確かめたいし――。

 全くなんでこんなに忙しいんだか。俺は早足でモノレールのステーションへと進んで行く。昼飯には――どうにも間に合いそうにもなかった。


「っと――」


 ぼんやりしながら歩いていたのが悪かった。正面から歩いてきていた男と肩がぶつかってしまう。二人とも歩く早さと力が強かった所為か、俺たちは同時に左右に軽く吹き飛んだ。

 同時に振り返って視線を合わせる。相手は俺と同じような体格の、銀髪の男だった。年齢も多分同じくらいだろう。それにしてもこんなに髪の毛銀色で色々と問題ないんだろうか。


「……気を付けな」


「あ? てめえこそ気を付けな。ケータイなんか見て歩いてるからだろ」


 男も俺もユニフォンを片手にしている。勿論俺がぼーっとしていたのもユニフォンが原因だったが、自分の事は棚に上げるぜ!

 二人同時に振り返ってにらみ合う。しかしまさかこんな人通りの多いところで喧嘩をおっぱじめるワケにも行かないし、これから学校に行かなきゃならない。

 仕方がないので無視して学校に向かう。相手側も同じ考えだったのかゆっくりと歩き始めた。ったく、こんな人ごみの中でユニフォンいじりながら歩いてるとか腹立つぜ。

 と、いいつつVSアプリケーションを待機状態にする。これをやっておけば近くにVSユーザーが居た時に感知できるはずだ。今までずっとオフにしていたが、これがあればアンビバレッジの探索も格段に楽になる――。


「……は?」


 待機状態をオンにした瞬間、この街の地図のようなものが表示された。そこには紅いマーカーで俺と――背後にももう一つ、VSのユーザーらしき反応が。

 慌てて振り返る。ケータイからはアラートのような音が鳴り響いている。振り返って人ごみを抜けた先、そこには俺と同じようにアラートの鳴り響くケータイを握り締めたさっきの男が立っていた。


「……!」


「まさか……?」


「「 てめえ、所有者か!? 」」


「「 だったらどうするってんだ、あぁ!? 」」


 二人同時に同じ言葉を連続で発する。ユニフォンがうざったくアラートを鳴らし続けている。声を重ねた偶然を奇妙に思いつつ、ベルサスをズボンのポケットに捻じ込み――。


「「 とりあえずブチのめす――ッ!! 」」


 同時に足を振り上げる。繰り出されたハイキックが空中で交差する。力には自信があるが、ヤツの蹴りは俺と同格――同じだけの威力と手ごたえを跳ね返す。

 その場で思わず固まってしまう。なんだかよくわからんが、俺の真似ばっかりしやがって……気にいらねえ。


「……なんだ、テメエ……。真似すんじゃねえぞコラ」


「そりゃこっちの台詞だ!! てめー……だがとりあえず一つだけ言いたい事がある」


「ああ……」


 今度は声に出さなかった。二人して繁華街のど真ん中で蹴り合った為、周囲には通行人が輪を作ってしまっていた。

 余りにも居心地が悪い……しかもこんなところでVSなんか使ったら大変な事になる。どうやらヤツも考えは同じだったらしく、二人で人ごみを掻き分けて移動する。

 辿り着いたのは裏通りにある狭い路地だった。昼間だろうがなんだろうが人なんて寄り付かない……。つまり、どっちかが間違って死んでも問題ないってことだ。

 二人して日陰の中でにらみ合う。お互いにユニフォンを取り出しているところを見ると、もうVS所有者同士だっていう事には気付いているんだろう。


「てめーが街中で行き成りVSを使う馬鹿じゃなくて安心したぜ」


「…………こっちの台詞だ。もう逃げも隠れも出来ねえぞ」


「その言葉、そっくりそのまま返すぜ! つーかなんかさっきからやる事なすこと俺に似てんだよてめえ!!」


「真似してんのはお前だろ……」


「いいや、お前の方だね!! ジュブナイルッ!!!!」


「来い、“イクアリティ”――!」


 同時に電撃が迸る――! が、VSは出現しなかった。二人して目を丸くして周囲を見渡し、ヤツは片手をポケットに突っ込んだままケータイを覗き込み、俺はケータイを軽く振り回してみるが一行にVSが出てくる気配がない。

 何故出ない――? 二人して不思議そうな顔をする。しかし次の瞬間ヤツは自分の手首から下げていたドクロのシルバーシングを翳す。そこに何かが映りこんだ次の瞬間、ヤツのVSが姿を現した。


「……馬鹿かお前。VSは自分を映すモンがないと召喚出来ないぜ」


「てめーもさっきまで忘れてた癖に偉そうに……! 絶対にぶっ飛ばす……ッ!」


 とりあえず自分が映ればなんでもいいらしい。俺だって鏡みたいなもんの一つや二つ――持ってない。何せ財布とケータイだけ持って家を出てきたんだし。

 やばい、学校に行ってればケータイくらいは持ってたんだろうが、これじゃVSが召喚出来ない……!? 周囲にも使えそうなものは無い。最初の時みたいなラッキーはないって事か――!?


「…………おい、まさかテメエ……」


 ヤツが心配そうな顔でコッチを見ている。くそ、心配されてたまるかよ!!


「――――どうした、かかって来いよ? 怖気づいたか?」


 舐められたくなかったのでとりあえずカッコイイポーズで断言してみた。が、勿論今の俺にはVSを出す為の触媒がない。つまりVSが使えない。つまり――今の俺はVSが見えるだけのただの一般人同然――。

 が、知った事ではない。舐められたら終わりだ。VSが無くても一度は切り抜けたんだ、ここからどうにでもやってやる。最悪所有者をぶっ潰せばVSは動かなくなるんだろうし……いやいや待て待て、アンビバレッジは所有者を失っても動いているぞ。まさかVSは主が死んでも稼動するのか? だとするとそれじゃあ勝った事にはならないんじゃ――。


「……くだらねえ」


 そんな事を考えていると相手はVSをさっさとしまってしまった。そのまま俺に背を向けて去って行く。


「逃げるのか!?」


 全く俺の話は聞いて居ない。そのまま男は去ってしまった。正直ほっとしたが――なんだか負けた気がするぞ。いや、事実負けだなこれは。


「…………鏡、100円ショップで売ってっかな……」


 そんな独り言を漏らして肩を落す。な、なんだかなあ〜…………。

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