The 13th contractor(1)
色々あって翌日――。何が色々あったかって? それはもう出来れば思い返したくないので割合する。
鶫のやつは何でも家に帰りたくないらしく、何故か妙な会話の流れで事件が解決するまで俺の家に泊まりこむ事になった。まあこれもすべては鳴海の所為なのだが……あいつに関してはもうだめだから割合だ、割合。
さて、こうして鶫はうちに寝泊りする事になったのだがいくらなんでも女子をずっと泊めて置くわけには行かない。まあ、この数日のうちに事件を解決するつもりである以上別に問題はないはずだが。ある意味背水の陣だぜ……。
一先ず朝、鶫を家に帰した。当たり前だが一緒に登校するわけには行かないし、彼女にも準備があるのだろう。しかし今になって本当になんでこうなったのかが謎である。
兎に角朝、鶫と別れて家を出る。そのまま俺は学校へは向かわず私服に着替え、メガフロートの町を歩き出した。勿論アンビバレッジを探す為だが――闇雲に歩き回っているのではどうしようもない気がしてきたのだ。
目指したのはメガフロートの南。モノレールに乗って数分間街の上空を揺られ――実際そんなに揺れないが――辿り着いたのはボロアパートの一室。
扉の前にま“三代”の二文字――そう、ここは俺の幼馴染である三代舞の住んでいる部屋である。今日はとりあえず夜になる前に舞と会っておきたかった。
舞はアンビバレッジと俺が戦った時現場に現れた。どうもその様子からして、俺たちの戦いを感知してきたようにも見えた。勿論やつから渡されたベロニカとかいうケータイの事も気になるが……舞ならばアンビバレッジを探す方法を知っているかもしれない。
扉を何度かノックしてみるが返事はない。インターフォンなら壊れている。仕方が無くドアノブを捻ってみる。当たり前のように鍵はかかっていなかった。
女の一人暮らしで無用心だなあ、とは思わない。何故ならば舞の腕っ節の強さは俺よりも上かもしれないからだ。ヤツは血の気が多く、昔から暇さえあれば殴り合いの大喧嘩ばかりしていた。
別に素行が悪いわけでも性格が悪いわけでもない。ただ血の気が多いのだ。路肩でケンカを始めるのをスポーツか何かと勘違いしている、そんな女なのだ。
俺も昔は何度もぶん殴られた。ぶん殴られぶん殴られ、そんな事が続くうちにいつの間にか自然とケンカ強くなっていた。お陰で今じゃこんな有様なわけで……。
「舞、入るぞ」
一応声をかけてみる。扉はアッサリと開いた。部屋の中に入ると、黄色やオレンジ、赤と言った明るい色彩が飛び込んでくる。舞は派手な色好きなのだ。部屋の中はまさに舞カラーである。
黄色い花柄のカーテンの合間から朝日が差し込んでいる中、舞はベッドの上に仰向けになって眠っていた。外を出歩いて帰宅し、そのままベッドの上に寝転がって死んだような体勢である。
「舞〜、起きろ〜い……」
返事が無い。ただの屍のようだ。
口元から涎を垂らしながら舞はすやすやと眠っている。寝息を立てる度に形の良い胸が上下している。その様子に視線が釘付けになるが、勿論やましい意味ではない。いや、やましい意味だがそうじゃない。
舞は兄貴である櫻井 奏の恋人――つまり彼女なのである。流石に兄貴の彼女をどうこうするわけにもいかない。小さく溜息を漏らし、舞の肩を揺する。
「おい、起きろ! お前まさかこのまま昼過ぎまで寝てるつもりじゃねえだろうな」
「ん、んん〜……。仮面……らい、ダー……」
何言ってんだこいつ。そういえば仮面ライダー好きだったかもしれないが、夢の中にまでそんなのが出て来るのか……。プロいぜ。
「仮面ライダーは日曜の朝だろが。ほら、起きろ起きろ!」
強引に肩を揺すり続けると舞はゆっくりと瞼を開けた。そうして寝ぼけた様子で俺の顔を見て――がばりと体を起こした。
「奏!?」
「……じゃ、ねえよ。悪かったな、櫻井響でよ」
「あ――。なんだ、響か……。ふわぁ〜……ねむ」
そんな事を言いながら欠伸を浮かべ、舞は寝癖だらけの髪で顔を上げた。
三代舞――。俺が、俺たち兄弟が櫻井の家に引き取られてからずっと付き合いのある少女だ。その真相は彼女が俺の兄である奏に惚れていて、ずっと奏を追い掛けていたからなのだが――とりあえずそれは置いておく。
舞の髪を手櫛で直す。昔からずっとこうだったから、この距離感に違和感は覚えない。舞も特に抵抗するでも否定するでもなく、眠たげな様子で問う。
「響、今何時だと思ってんのよ……」
「朝の九時だよ。大学が休みだからってだらしねーなあオイ」
そう、舞は俺より二つ年上の大学生だ。彼女の通っている大学は既に長期休みに入っており、舞は俺たちよりも一足先に夏休み中というわけである。
舞は立ち上がり、俺の梳いていた前髪を自分の手で引き継ぎながら歩いて小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。ペットボトルに口をつけて一気に半分ほど飲み干し、それから俺に手渡した。
「あげる」
「……おう」
多分飲めって事なんだろうが、モロに間接キス――いや、無心だ。無心になれ櫻井響。こいつは兄貴の彼女なんだ――!
「それで? その響が一体こんな朝っぱらからあたしに何の用なわけ?」
「そりゃこっちのセリフだ。てめー電話にも出やがらねえしメールも返さねーし、しょうがねえからこっちから出向いてやったんだろが」
「あ、そうなの? ふーん、あー、まあそうだったかもね。まあいいじゃない細かい事は。それで、用件は?」
「この間、お前と会った時に渡されたこのベロニカっていうユニフォンと――それからVSについて訊きたい事が2,3点」
「……そう。ま、当然ね。当たり前のようにあんた、また余計な事に首を突っ込んでるんでしょ?」
舞はそう言って溜息を漏らした。余計な事……こいつは俺がアンビバレッジを探している事に気付いているらしい。
昔からそうだった。舞は俺の考えは全部お見通しだ。悔しいが、勉強でもケンカでも一度もコイツに勝てた事がない。年上だからとか女だからとか、そんなもんは通用しないと見える。
「ま、いいわ。こうなる事は判りきってたんだし……うん。あたしも覚悟を決める。響、あんたを巻き込む事になっても」
「巻き込む……?」
頷き、そのまま部屋を出ようとする舞。俺は慌ててその後に続いて行く。舞は昨日の夜の格好のまま、大きく露出した肩を揺らしながら歩く。
「どこ行くつもりだ?」
「朝食と、ついでに説明。ファミレスでいい? 奢ってくれるよね?」
まあ、頼んでいるのはこっちだからな……それくらいするのが道理なのかもしれないが、何となく納得が行かない気もする。
結局舞の笑顔に逆らう事が出来ず、俺はファミレスに移動する間こっそり自分の財布の中身をチェックしなければならなくなった……。
The 13th contractor(1)
「ご注文がお決まりになりましたらそちらのボタンでおよび下さい〜!」
という、若いねーちゃんが去りようやく二人きりになる。時間として微妙なのと奥まった席である所為か周りに人気はない。明るいベージュの席に腰掛け、店内に流れる有線に耳を傾けながら舞に視線を向ける。
舞はどこかぼんやりしている様子だった。いつもハキハキしているが、疲れているのか元気がない。そういう舞を見るのは俺としては心配なのだが、そんな気持ちには気付くはずもないだろう。
グラスに注がれた冷水を一気に呷り、深く息を付く。もう真夏みたいなもんだ。気温は軽く三十度を振り切っているだろう。エアコンの効いた店内から出たくなくなる。
「それで? 何から訊きたい?」
「ああ……。それじゃあ単刀直入に――VSって何なんだ?」
「……難しい質問ね。正直に言えば、あたしも良くわかってない。VSはVSでしか倒せない事、ユニフォンから召喚される事、召喚には触媒となる鏡、或いは自分自身を映し出す物が必要になる事……それくらいね」
「そんな事は判ってる。俺が訊きたいのはVSってのが何なのかって事だ。ルールじゃなくて本質」
「それを話すと長くなるから、とりあえず注文ね。もう決まってる?」
「あ? いやちょっと待て……えーと」
こいつ、なんでこんなにも余裕なんだ? 一応俺たちは結構馬鹿げた話をしているはずなんだが……俺の認識がおかしいのか?
VSは化物を召喚するアプリケーションだ。だが判っている事はそれくらいで、それがなんなのか、誰が何の目的で俺に送りつけてきたのか、全ては謎に包まれている。
悪戯メール紛いの通知、ワケの判らないアプリケーション……。人を殺すVSに自分コール……。ここ数日奇怪な現象にばかり巻き込まれてしかも確かなものは一つもない。
さっさと注文を終え、店員が去って行くのを見送る。舞はそれから一呼吸を置き、ゆっくりと話し始めた。
「あたしがVSを与えられたのは大体一ヶ月前――。あんたもそうだろうけど、突然メールが送られてきた。最初は何の説明もなく、何をどうすればいいのかわからなかったわ。でも、回数を重ねるうちに段々と判ってきた」
「回数を……重ねる?」
「この街でVSを持っている人間……所有者はあたしたちだけじゃないの。あたしたち以外にも複数のVSが存在していて、あんたは知らないだろうけどこの街じゃ色々な事件が起きてる」
「俺たち以外にもVSを持ってる人間が……」
勿論予想はしていた事だ。アンビバレッジもそうだし、鶫もそれに選ばれた一人だ。それにしても一ヶ月前には既にVSを持っていたとすると、舞はかなりの先輩になる。
「響、あんたはVSの所有者としてはかなりの後発――ううん、多分最後の一人よ。だからあんたは一番弱い……。戦闘経験も無く、VSがなんなのかもまだ判って居ない。この戦いが始まった当初はまだ、誰もが手探りだった。だから全員が同じ条件でのスタートだった。でもあんたはゲームに遅れて参加してる。つまりそれだけ他のセイヴァーと比べて不利って事」
「ちょ……っと待ってくれ。なんだか良く判らんが……なんだ? 何が起きてるんだ?」
「待って。その説明はまた後でするわ。その方が手っ取り早いから。それよりも他に何か訊きたい事は?」
強引に会話をぶった切り、舞は水を口にする。待ったって言われても……困るんだけどな。
「……じゃあ、ベロニカだ。あのユニフォンはなんだ? 電源も入らないし動きもしねえ。兄貴と何か関係があるのか?」
“ベロニカ”……。ベルサスに良く似た、しかし市場には出回って居ない、非売品のユニフォン。
あの日、アンビバレッジと工事現場で一戦交えた日に舞はこいつを俺に渡した。わざわざチェーンストラップまでつけて、だ。実際俺はそれを肌身離さず持ち歩いているが、舞はこれが兄貴に繋がると言っていた。
俺の兄――櫻井奏は五月末あたりに突然謎の失踪を遂げている。実際にあいつが居なくなったのがいつなのか正確な事はわからない。ただあいつは居なくなった。突然誰にも何の痕跡も残さず、完全に。
勿論、あいつの住んでいたアパートには行ってみた。だが部屋はまるで誰も居なかったかのように完全に何も無い状態に片付けられていた。手掛かりに成りそうなものは何も見つからない。
兄貴は性格に難のある男だ。突然あの野郎が居なくなったとしても別に驚く事はない。実際フラっといなくなって、ケロっと帰ってくることは良くあることだった。だから俺は心配していなかった。だが――。
「あたしは奏を探してるの。奏はこの街のどこかに居る……それは確かだから。奏居なくなる前、何かについて調べていたみたいなの。それが何なのかはわからないけど」
そう、兄貴は昔からずっと何かを探していた。何なのかはわからなかった。俺は兄貴が嫌いだ。正直に言えば顔も見たくない。だがその理由は良く判らない。何となく気に入らない、受け入れられない、遠ざけたい存在なのだ。
だが、兄貴が何を探しているのかはいつも気になっていた。あいつは子供の頃からずっと何かを探していた。だから勝手に櫻井の家を出て、ふらりと居なくなる事なんてしょっちゅうだった。
その兄貴が調べていた何か――それがこのユニフォン、“ベロニカ”に関係しているらしい。兄貴は失踪する直前、このベロニカを舞に託した。
「それがなんなのかはあたしにもさっぱり。でも、これは響が持つべき物だって言ってた。自分が渡しに行く事は出来ないから、時が来るまで預かって欲しい、ともね」
「あの野郎……。正々堂々俺に会いに来る勇気もねえのかよ」
「あんたがそういう態度だからでしょ? 何でか知らないけど、あんたたち昔から異常に仲悪いもんね。ま、大体あんたが一人で噛み付くだけなんだけどさ」
そういう事は思い返したくない。兄貴なんて顔も見たくないんだ。思い出すのも御免だ。それに舞のこの手のお説教は聞き飽きた。結局こいつは、奏贔屓だからな――。
「兄貴の根無しっぷりは今に始まった事じゃねえだろ。なんで探す? どうしてこの街に居ると確信してる?」
「その質問も後、ね。前の質問の答えと纏めて教えるわ」
あっけらかんとそんな事を言う舞。二人の間に料理が運び込まれる。フライドポテトに豪快にケチャップをぶっかけながら舞は顔を上げる。
「今度は逆にこっちから質問。あんた、この間のVSを追ってるんでしょ?」
「ああ。関わっちまったからな。それに、知り合いが狙われてる――。無差別な殺人も開始しやがった。無視は出来ない」
「性格的にそうでしょうね。でも、出来ればそれは無視して。あんたに言っても無駄だとは判ってるけど、一応言っとく」
勿論止めるつもりはない。だが舞は心配そうな目で俺を見ていた。それがなんだか心苦しい。
「他人のVSを察知する方法は三種類あるわ。まず、他人のVSの近くでVSアプリを待機状態にしておく事。近くにVSの反応があれば知らせてくれるわ。VS同士はお互いを察知する能力があるの。その探知距離、精度はVSに依存するけどね。二つ目はVSの能力として遠距離から検索する事。これはVSの特殊能力として探知系能力が無いと無理ね。あんたのVSやあたしのVSは間違いなく直接戦闘に特化してるから関係なし。三番目は、そうした能力を持つほかのVSの所有者から情報を買う事」
「お前が俺たちをかぎつけたのは?」
「あれは、あたしの深夜徘徊の賜物……つまり一番目ね。ただし、こちらがVSを待機状態にしておくと他のVSにも探知されるわ。逆に言えば完全にユニフォンに電源が入って居ないとか、そういうVSは探知できない」
そもそもVSに待機状態なんてのがあることを知らなかった。ユニフォンを操作してみてようやくそれを見つける。今までアプリは常駐していなかった為、これじゃあ周りにアンビバレッジがいても判らない事に成る。
逆に言えば、他のVSに探知される事もないって事か。だがアンビバレッジには既に顔が割れている。そうである以上、あんまり意味はないような気もする。
「あんたは出来るだけVSを使わないで。あんたを狙ってるVSはアンビバレッジだけじゃないの。不用意にVSを起動する事もしないで」
そういわれても、既に何度か不用意に使っちまってるな……。まあ、他のユーザーに感づかれる事はないと思うが。
「でもそれじゃあアンビバレッジを探せないだろ?」
「だから、探さなくていいのよ、わかんないやつねえ……! いい? アンビバレッジは既にLV5にまで成長しているわ。LV1のあんたのVSでどうやって勝てるのよ」
「LV……? 関係あるのか? あいつ、弱かったぞ?」
「…………それは、アンビバレッジの所有者にやる気がなかっただけじゃない? まあ、あのVSの動きは不穏だからなんともいえないんだけどね……。実際実力は未知数よ。それに、こっちの探知を掻い潜る能力を持ってる。逆に言えば探知能力系のVSって事ね」
二人して食事を進める。アイスコーヒーをごくごく飲み干し、サンドウィッチに手をつける。
「だとしても、あいつを追うのは止めねえよ。それにいい加減俺の質問に応えてくれ。なんでお前、そんなにVSに詳しい?」
俺の質問には応えず、舞は食事を進める。仕方が無いので俺も一気に食べ終えた。会計は当然俺持ちで、そのまま店を出て進んで行く。
舞の目的地は近くにあるダイブスポットだった。所謂ネットカフェのような場所で、店内には卵型の装置が並んでいる。確かユグドラシルとかいう、シミュレーター装置だったはずだ。
「あんたの事だから、ダイブは初めてでしょ?」
「あ、ああ……」
店員に金を支払い、ユグドラシルのカードキーを受け取って店内を歩いて行く。舞は手馴れた様子で卵の中へと足を踏み入れる。
「リラックスして座って。それからケータイはここ……そう。シートベルトして、ヘルメット被って。起動はこのボタン。一人で出来る?」
「子ども扱いすんな! んなこと言われなくても一人で出来るっつの!!」
「そう。それじゃああたしは隣のでダイブするから宜しく。ダイブ先はVSアプリケーションの大本――“テスタメント”よ」
それだけ言い残し舞は出て行ってしまった。何気に少し心細くなったが仕方ない。ダイブは初めてだが、やるだけやってみるさ。
確かこのボタンを押して――ヘルメットの中真っ暗じゃねえか。何も見えない……なんて事を考えている間に既に俺は真っ白な空間に立っていた。
「お? おっ?」
なんだ? 何が起きた? 意味がわからん……よ?
目の前には幾つかの文字が浮かび上がっている。ダイブ先を選んでください、との事だ。とはいえダイブ先は一つしかない。何故なら俺のユニフォンにはろくにアプリが入って居ないからだ。
そのままVSアプリケーションのコミュニティらしいテスタメントという空間を選択する。次の瞬間視界が変革され、ばらばらになった空間が再構築されるようにしてダイブが進められていく。
遠くから風が吹き込み、純白の大地が崩れて行く。やがて現れたのは時計版にも似た巨大な紋章――。闇の空間の中、青白い光を放つ紋章の上に俺は立っていた。
なんとも洒落た演出だが、一歩足を踏み外せば奈落の底まで落ちて行きそうだ。なんだかここまで一気にどっときたので驚いている間が無かったが、冷静になってくると怖い……。
「何が、どうなってるんだ……」
『ハローハロー、ドウモコンニチハ! ハジメマシテ、十三番目!』
「おわあっ!?」
思わず仰け反ったのはびっくりしたからだ。そう、俺の目の前には巨大なうさぎの着ぐるみが立っていたのである。さっきまで何もいなかったはずなのに、ピンクのうさぎの着ぐるみは無機質な目で俺を見ている。
その声はまるで合成音声のように不自然だ。男とも女とも取れる、奇妙な声……。ノイズにも似たその声で挨拶をし、俺の前を飛び跳ねる。
『君ガココニ来ルノヲマッテイタンダ。君ハイッコウニココニクル気配ガナカッタカラ心配シタヨ』
「はあ……? 何ほざいてんだてめえ……」
「何ほざいてるのはあんたよ。全く、初心者丸出しね」
うさぎの向こう側、いつの間にか舞が立っていた。舞は既にここに来た事があるのか、慣れた様子で片目を閉じてうさぎを見詰めている。
「久しぶりねラビット。十三番目の所有者を連れてきたわよ」
「お、おい……どうなってるんだ? なんだここは?」
「ここは、ユグドラシルネットワークの中に存在する、VSユーザーだけが立ち入る事が出来るコミュニティフィールド――通称“テスタメント”」
舞はあっけらかんとそう語るが、俺は全く付いていけない。改めて思う。俺は一体何に巻き込まれたんだ? 何でここに居る――?
『何ハトモアレ、ヨウコソ十三番目ノユーザー! 僕ノ名前はラビット君! 仲良クシテネ!』
「きめえ!! その着ぐるみの顔がきめえんだよ!! 無機質な目で俺を見るな!! 焦点があってねーんだよっ!!」
『酷イナア、友達ジャナイカ』
「お前みたいなのと友達になった覚えはねえんだよ!?」
巨大なうさぎはぴょんこぴょんこ跳ねて紋章の中心に移動する。そうして振り返り、短い手足を伸ばして言った。
『ヨウコソ、十三番目! 君ヲ僕ラハ歓迎スルヨ!』
うさぎは俺を見ている。視線を舞に向ける。舞は無言で話を聞くように俺に言っているように見えた。
ここが、舞が俺の質問を後回しにした理由なのだろうか? なんだか良く判らないが、これがダイブの先にある世界――VSの世界なのか?
ピンクのうさぎを見据える。不気味はうさぎは俺をじっと見詰めていた。それに歯向かうように、俺も鋭い視線でうさぎを睨み返した――。