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フォールチェイサー(4)

「はあ、はあ、はあ――ッ!!」


 三代 舞は体力には自信があった。子供の頃からかけっこで負けた事はなかったし、体力バカの響でさえ舞には何度も負けて泣きべそをかいていた。

 メガフロートの深夜の町を舞は一人走り続けていた。その顔色は決して良くはない。冷静に思考を展開し、出来得る限り体力の消耗を避けて移動を続けている。

 端的に言えば、彼女は狙われていた。オレンジ色の“ベルサス”を取り出し、画面を覗き込む。もうどれだけ走り続けているだろう? 両足の感覚がもうない。体中が緊張感で痺れ、呼吸も出来ているのか出来ていないのか――。

 汗が全身を伝う。肩を大きく出したトップスの合間から吹き込む風を涼しく感じる。大気が生ぬるい――。息つく事に少しずつ頭がぼんやりしていくような錯覚。

 体力には自信があった。だが、この数週間で彼女の自己認識は変わりつつある。体力に自信があろうがなかろうが、それが事実だろうがどうだろうが、“それを超える化物”は必ず存在するのだ。

 繁華街を抜けた先、自然公園が広がっていた。公園の中に逃げ込もうとした舞の目の前、巨大な剣が突き刺さる。急停止し頭上を見上げる舞の視線の先、空から落ちてくる何かの影があった。


「――ディアブロスッ!!」


 ベルサスを揮う。VSアプリケーションが起動し、大気に亀裂が走る。オレンジ色の電撃が大地に迸り、舞が空中に放り投げた小さな鏡を砕いて巨大な機械の怪物が姿を現した。

 オレンジ色の装甲を纏った“獣”――。巨大な角を持ち、二足で大地に立っているもののその本質は四本足の獣である。ディアブロスはその腕を振るい、大地に突き刺さった剣を頭上に投げ返す。

 轟音と暴風――。ディアブロスの投げ放った大剣は空中を高速回転しながら目標に迫る。空中を踊るように落下してくる“影”は飛来する大剣を何かで弾き、そのままディアブロス目掛けて落下を続ける。

 閃光が迸る。空間を軋ませるような甲高い音――。硝子の表面を鋭い爪で引っかいたような音が響き渡り、ディアブロスは腕を十字に構えて主の前に立つ。

 落下してきた影は落下の勢いそのままにディアブロス目掛けて剣を振り下ろしていた。先ほど大地に突き刺さっていたものとは違う、また別の剣である。ディアブロス目掛けて振り下ろされた剣の一撃、しかしディアブロスの装甲までそれは届かない。


「残念――!」


 ディアブロスは防御能力に優れたVSである。その両腕は非常に高い硬度を誇り、並大抵のVSは傷を与える事さえも出来ない。怪物の雄叫びと同時に影は弾き飛ばされ、空中へと再び放り投げられる。その様は宛ら車に跳ねられた大きな人形の様――。

 影は空中で体勢を立て直す。身動きの取れない空中でそれを成すという事は、弾かれた時には“そうなることが決まっていた”という事。大地に落ち、黒いブーツをアスファルトで削りながら影は着地する。

 ゆっくりと立ち上がった影は黒いライダースーツで全身を包み込んでいた。頭にはバイク用のヘルメットを被り、その表情を読み取る事は出来ない。片手に握り締めた巨大な剣はしかし重量を感じさせない。それは、“剣のVS”――。実体を持たない、質量を持たない、架空の剣。

 舞は額の汗を拭い、呼吸を整えながら前に出る。ディアブロスは両腕を大地に着き、四本足の獣のような体制で敵を見据える。二つの視線が交錯し、ライダーは肩に剣を乗せて首を鳴らした。

 彼女たちの攻防は既に三日間続いている。舞は毎晩のように謎の敵に追われ、毎晩のように命のやり取りを強いられ、毎日のようにこうして戦いを繰り広げる。追い、そして追われる関係が解消されない限りは。

 戦いの決着が付けばこのどうしようもない逃避行も終わるのだろうか――。しかしそれはどちらか片方の死でしか決定されない。自分は死にたくない。なら、あいつを殺すか――?


「そんな格好して、仮面ライダーのつもり?」


 皮肉めいた言葉。投げかけられる失笑。しかしライダーは剣を降ろし、小さく頷く。


「……あらそう。じゃああんた、改造人間なの」


 ライダーは今度は頷かなかった。しかしそれはどこか――“図星を突かれてカチンときた”ような雰囲気の沈黙だった。まさか、冗談だろう? 舞は背後に足を伸ばす。

 黒い影が奔る。ディアブロスも同時に動き出した。巨大な爪を振り下ろし、人形の存在に襲い掛かる。それは暴力的で、一方的で、恐らく一般人が見たならば怪物に人間が襲われていると見るだろう。

 しかしその影は誰の目にも映る事はない。ノイズ交じりに動き回る黒い爪。ライダーは剣を両手で構え、次から次へと降り注ぐ爪を全て受け止めていた。

 金属と金属とが衝突するような、ノイズ混じりの効果音が鳴り響く。衝突する度に何度も、何度も、何度も、何度も――繰り返し閃光が瞬く。

 ライダーの揮う大剣は青い光の刃を瞬かせる。ディアブロスの爪はオレンジに輝き夜の闇を引き裂く。ライダーは何度もそれを受け、踊るように剣を振るう。

 黒い影にとってディアブロスは恐れるに足らない怪物である。“怪物は正義のヒーローによって打倒”されて当然、至極当然。自分がヒーローならば、これはただの障害に他ならない。

 思考に無駄はない。それはある意味狂気でもある。単純なる、純然なる心だけで剣を振るう。その仕草は我流、しかし美しい流れはまるで刀剣の扱いに積年を費やしたかのようでもある。

 舞にとってその存在は脅威だった。噂には聞いた事がある。話だけならば聞いた事がある。VSを持つ人間を無差別に攻撃する、“VSハンター”――。目をつけられたが最後、それを退けたという話は聞いた事がない。

 ディアブロスが大地に爪を叩き込む。アスファルトを貫いて現れた巨大な岩石の刃がライダーに迫る。勿論それは架空の空想――。しかし実体とした威力を持ってライダー目掛けてそれは繰り出される。

 背後に跳躍する。ライダーはバック宙返りのような動作で刃をかわし、ディアブロスに大剣を投げつける。それは岩石の障壁をバターのように切り裂き、ディアブロスの胸へと突き刺さる。

 突き刺さった剣にディアブロスは四つの瞳を輝かせて吼える。剣を引き抜きライダーへと投げ返す。しかし空中で剣は瓦解し、光の泡が消え去った時そこにあったのは蒼い携帯電話だった。

 携帯電話を受け取り、ライダーは強風の中顔を上げる。ディアブロスとにらみ合い、次の攻防が始まる――そう舞が思った瞬間であった。

 ライダーは自らの携帯電話を操作し、暫くディスプレイを眺めた後に背を向ける。その瞬間舞もディアブロスを収納した。ライダーは普通に歩き去って行く。ただ只管ケータイをいじりながら。


「……なん、なのよ……あいつ……っ」


 ふらつく体でその場に座り込み、舞は自らの胸に手を当てる。そこは丁度ディアブロスを剣が貫いた場所……。VSが受けたダメージは幻痛となって所有者を苛む。舞は額に汗を浮かべながら小さく歯軋りし、明るく輝く夜空の月を見上げていた。



フォールチェイサー(4)



「しっかし、響ちゃんが女の子を連れて帰ってくるとはねえ〜」


 そんな事をほざき、鳴海はあっけらかんとした態度でビールの蓋を空ける。

 さて、これはどういう状況なんだろうか。俺の部屋の中にバスタオル一枚の鳴海と学生服のままの鶫が居る。そして何故か二人は鉢合わせている。俺の記憶が正しければ、鳴海はもうウチには来ないはずだったんだが……。

 いや、もう深く考えないほうがいいんだろうか。なんだかもう嫌になってきた。家に居るのに全然休める気がしないぜ。なんでこの二人はにらみ合ってるんだ? 俺関係なくねえか?


「全く、こんな夜遅くまで出歩いて帰って来たと思ったら女の子連れてるとはね〜。せっかくお姉さんが夕飯を用意してあげようとしていたのに」


「いや、つーかだからさ、あんた出てったんじゃねえの?」


「だってぇ、ユニフォン忘れてっちゃったんだもーんしょーがないじゃーん」


 何だその態度……それが勝手に人の部屋に上がって風呂入ってビール飲んでた奴のセリフか……?


「……あの、私もしかしてお邪魔でしたか?」


「いや、邪魔っていうか……そんなことはないぞ」


「でも……この人、櫻井君の……その……ですよね?」


 何か激しく誤解を受けている気がする。そしてこれは早めになんとかしておかないと駄目な気がする。

 確かに普通はこんな若い女が部屋の中をバスタオル一枚でうろうろしていたらそういう関係だと思うだろう。でも違うんだ。こいつは一応姉貴なんだ。俺の姉気なんだあッ!!

 しかし鶫の視線は妙に冷たい。なんというか、汚らわしいものを見たかのような視線だ。そんな目で俺を見ないで欲しい。俺は何も悪くないんだ。


「そうそう、アタシは響のアレよ」


「アレとかいうな!! 姉って言えよ素直に!!」


「お、お姉さんなんですかっ!?」


「そうだよ。だから別に――」


「お姉さんと……そんな事……桜井君って……そんな」


 何か激しく誤解していらっしゃるウ――ッ!!


「で、でも……人のプライベートにまで、その……だって、しょうがないですよね? 男の子って……我慢出来ないんでしょう?」


「その知識には大いに間違いがある。この地球全土の半分を代表して断固否定させてもらう」


「男がエロくて何が悪い!!」


「あんたはもう喋るなあああああああああああああ!!!! これ以上状況を悪化させちゃ駄目だって事がわかんないのかよ大人だろおおおおお!!!!」


「心は今でも十八歳よ!」


「真顔でくだらねえ事言ってんじゃねえよバカっ!! ああもうっ!! バカっ!!!!」


 とりあえず鳴海には服を着てもらう事にした。とは言え、ワイシャツに黒ズボンというほぼ仕事着であったが。

 何とか三人で再びテーブルを囲んで向かい合う。何とか空気を誤魔化せないかと思ってテレビの電源をONにしてみたが二人ともそっちを見る気配がない。正に焼け石に水。


「改めて紹介するよ……。こいつは俺の姉、櫻井鳴海だ。鳴海、こいつは隣のクラスの皆瀬鶫」


「よろしくね、鶫ちゃん」


「は、はい……。えと、櫻井さん……じゃなくて、えと……鳴海、さん」


 鳴海が明るく笑顔で握手を求めると、鶫もそれに応じた。さっきまでは多分鳴海もからかっていたんだろう。鳴海の人当たりの良さは半端ないものがあるからなあ。

 鶫も鳴海に対して若干緊張しているようだったが、会話に支障があるほどではない。多分俺が彼女と初めて会った時よりは心を開いている事だろう。鳴海の大人気ない笑顔には人の警戒心を解くような謎の力がある。

 “櫻井さん”だと俺と被るからだろう、鳴海の事は“鳴海さん”で通す事にしたらしい。鳴海にくしゃくしゃに頭を撫でられて鶫は恥ずかしそうに俯いていた。


「やだーこの子かわいー! 我が弟ながらなかなかいい子をお持ち帰りしたわね」


「いやいや、だから……」


「あの! 違うんです、これは……! 桜井君が、無理矢理連れ帰ったんじゃないんです……。私が無理を言って、どうしても帰りたく無いって言ったから……っ」


 多分俺に助け舟を出そうとしてくれたんだろうという事は判る。でもそれはただただ、奈落の底に俺を突き落としただけだった。


「…………響、あんたモテるのね」


「違う……聞いてくれ……」


「アタシほら、気にしないからさ。ベッド使っていいから……あ、コンドームいる?」


「なんでそんなモン持ち歩いてんだテメエッ!? じゃなくて、そうじゃないんだよ!! 頼むからマジで聞いてくれ!! 俺はなあっ!!」


「櫻井君、声大きいよ……? もう深夜だよ?」


「そうよ響、少しは静かにしなさい! お隣さんに迷惑でしょう!」


 ああ、そうなんだけどさ。そうなんだけどさ――そうじゃないんだよね。君たちにだけはそれ言われたくないんだよね。ああ、どうしたらいいのかなこれ。どうしたらこのやり場のない感情どうにか出来るのかな。


「兎に角、夕飯はまだなんでしょ? 何か作ってあげるから、希望を聞くわよ」


「……え? そんな……悪いです」


「いいのいいのっ! 精の出る物いっぱい食べなきゃね! あ、こんな時間に食べ過ぎたら太るか」


「そ、そうですね……」


「まあアタシはいっくら食べよーが胸に行くから問題無し!! こんな夜遅くまで歩いてきたって事は、もう野外プレイで一、二回は済ませてきたんでしょ? なんか二人とも汗くさいし」


「「 え? 」」


 俺と鶫は声を揃えた。確かにあっちゃこっちゃ駆け回って汗は掻いたが……。いやいや、なんか露骨に危ない事言ってなかったかコイツ……。


「二人ともさっさとお風呂に入ってきなさい! はいはい、脱いだ脱いだ!!」


「逃げろ鶫!! 真面目に脱がされるぞッ!!!! こいつはやると言ったらやる女だッ!!!!」


「え、えぇ――!?」


 俺たち二人の服を左右の腕で同時に脱がそうとするという無駄に器用なスキルを見せ付ける鳴海。そこから逃げるように俺たちはそのまま同時に脱衣室に飛び込んだ。


「ふう、あぶねえあぶねえ……。今夜も何とか貞操を守りきったぜ……」


「貞操……? 櫻井君、童貞なんですか?」


「………………。そんな真顔でそんな事言わないでくれるか?」


「は、はぅ……す、すみません……」


 自分で何を言ったのかを自覚したのか鶫は顔を真っ赤にしていた。まあいいさ。俺は自分が童貞である事を誇りにしているからな。

 しかしなんだか妙に悲しい……。くそう、なんでこんな話になってんだ……。鶫の視線がなんか痛い……。


「……お前も気をつけたほうがいいぞ。鳴海はホントになんでもありだからな。マジでなんでもありだ。あいつは弟の貞操を毎晩狙うような獣だからな」


「そうなんですか……。でも意外です。桜井君って、その……カッコイイし、不良さんだから、もっとなんていうか……こう」


「言わんとする事は判るが、そこには誤解がある。まず俺は不良じゃない」


「そ、そうなの……? 桜井君、学校で何て呼ばれてるか知ってる?」


「は?」


「えっと……“番長”さん」


 マジで? そんなヤツはいねえんだよ現代日本に。そんなヤツはもうとっくに滅びたんだよ過去に。

 しかし、番長か……まあケンカはしょっちゅうやってるし腕っ節は強いとは思うが、そんな存在に見られていたのか。意外な新事実発覚だ。


「それじゃあ……神崎さんとも、なんでもないのかな」


「は? なんだそりゃ?」


「だって……今日の朝、神崎さんと抱き合ってたから……」


 ああ〜……。抱き合ってたっていうか、人が上から落ちてくるのが見えたから神崎を庇っただけなんだけどな。まあ確かに、朝っぱらから神埼と仲良くしてたし、上から行き成り落ちてきたショックで神崎も俺にすがり付いてたしな。まあ、そういう誤解を受けても仕方ない。


「誤解だな。俺は別に神埼の事はどうでも良い」


「そう……なんですか」


 何故か鶫は寂しげに笑っていた。その表情は――なんとも言えない。喜怒哀楽、その色にも該当しないような笑み……。しかしそれは一瞬で消えてしまった。もしかしたら俺の見間違いだったのかも知れない。


「それじゃあ、鳴海さんとも……なんでもないんですね」


「ああ。やっと判ってもらえたか」


「……はい。でもだったら尚更、あれはどうかと思いますけど」


 それは俺も思ってるんだが、どうにもならんものはどうにもならんのだ。ただ乾いた笑いを浮かべる事しか出来ない。


「じゃ、俺は待ってるから先にシャワーでも浴びてくれ。流石に疲れただろ」


「……ありがとう。でも、いいのかな?」


「どうぞどうぞ。自分で言うのもあれだが、一人暮らしの男が使うには勿体無いほど豪華な風呂だぞ」


 鶫を置いて脱衣所を出る。鳴海は既に料理を開始しているのか、廊下までいいにおいが漂ってくる。確かに何も食べて居ないから猛烈に腹が減った。

 それにしても、疲れたな……。脱衣所の扉の脇に背を預けて座り込む。鳴海は料理を作っているだろうし、戻れば戻ったで騒がしい気がする。鶫もそんなに長い間シャワーは浴びないだろうし……少しここで待つか。

 鶫がシャワーを浴びている音を聞きながら目を瞑る。なんだかここ数日、すごく疲れている気がする。なれない事ばかりやっているからだろうか。目を瞑れば三秒で眠れそうだ。


「……ま、いいか」


 どうせ鶫が起こしてくれるだろう。ここで少し寝て――ちょっとでも疲れを取って――明日も頑張らなきゃな……。

 目を瞑ると本当に三秒で意識が遠のいて行く。過ぎ去って行く意識の中、俺はどこか懐かしい思い出を振り返っていた。



 シャワーを浴びながら鶫は全く別のことを考えていた。それは今ではなく、此処でもなく、そして自分の事でもないように感じる。

 何度も何度も辛い夜を乗り越えてきた。でも、今晩は本当に楽しい夜だった。ぶっきらぼうな態度で歩く響の隣は居心地が良く、それだけに罪悪感に苛まれる。

 朝、神崎と共に居る姿を見て響に対して良くない感情を抱いた。それはゆらりと揺れて霞むような黒い炎の輝き――。“ああ、こいつもか”――そんな風にぼんやりと考えていた。

 男は皆単純だと思う。外見だけで女に釣られ、それがどんな性悪かさえも見抜けない。特に響のような男は警戒心が弱い、頭の悪い馬鹿なのだとばかり考えていた。

 しかし響は思っていた以上にしっかりとした人格を持ち、何の報酬も無く、誰かに省みられるわけでもなく、ただ自分自身の為に夜を駆ける。それは鶫に感動すら与える行いだった。

 彼を聖者であるなどとは思わない。しかしその立ち振る舞いはどこか悲しみを超えてきた経験のようなものを感じさせた。痛みを知るからこそ、痛みを恐れるからこそ、彼は己に正直に生きている。そこに自分の理想の影を重ね、それが叶わぬと知り、そしてまた同じ夢を繰り返す。

 濡れた前髪の合間、鶫は歪んだ瞳で排水溝を見下ろしていた。次から次へと水を吸い込んで行く排水溝はまるで心の闇のよう。見詰めていれば自分も呑まれてしまう、そんな気さえする。

 だがそうして全てが都合よく飲んで消されてしまわれればどれだけラクだろうか。そうして全てなかった事に出来るのならば、いくらでも奈落へと落ちる事を望もう。だがそれは叶わない。

 少女は口元に笑みを浮かべる。唇だけが動き、声にならない言葉を発する。それは誰かに投げかけたものではない。自分自身へと言い聞かせる言葉。

 白い素肌を伝う雫の数々――それらが舐めるのは少女の背中には似合わない数多の傷跡。醜く歪み、傷付けられた肌の痕。肩まで伸びるその切り傷に指を這わせ、鶫は爪に力を込める。

 傷口に食い込む爪が甘美な痛みと共に悪夢を呼び起こしてくれる。雫の中、肩を震わせて少女は笑う。鏡の中に映る自分に、嫌悪と侮蔑の視線を向けながら――。

〜とびだせ! ベロニカ劇場〜


*とりあえずキャラ紹介。出てるのから順番に*



櫻井 響 (さくらい きょう)


年齢:17 性別:男 ユニフォン:V-02s“ベルサス” VS:ジュブナイル


本編主人公。清明学園高等部二年A組。

望んだわけではなくVSアプリを与えられてしまった巻き込まれ型のオーソドックスな主人公タイプ。

歴代主人公の中で一番ストレートな性格をしている。一応熱血タイプに分類されるようにしたかったけど、どうなるかは怪しい。

サバサバした性格で物事を悲観的に捉えない。出来る事は自分でやり、目に付いた事柄からは目を反らさない実直な性格。

かなりの気分屋で学校をサボったり、不良とケンカばかりしているのでいつの間にか不良のレッテルを貼られてしまい、校内の不良に睨みを効かせているため番長とも呼ばれている。

背が高く、黒い長髪を髪留めで結んでいる。髪留めは舞に貰った物。舞からは弟のように思われており、何かとものを貰う事が多い。そうしたものは全部大事にとってある。

幼馴染の舞が好きだったが、兄である奏と付き合い始めた為諦めた。両親は行方不明で実の兄である奏と共に桜井家に引き取られた過去を持つ。熱血要員。



櫻井 鳴海 (さくらい なるみ)


年齢:24 性別:女 ユニフォン:なし VS:なし


響の義理の姉。警視庁公安部特殊電子課所属。役職は存在しないが、権限は警部相当。

近年新設された特殊電子課に所属し、メガフロートで発生している電子ドラッグ事件の調査の為にやってきた。

その生い立ちには様々な因縁があり、若くしてかなりの権力を持っているが、本人は特に重苦しく考える事は無くラッキー程度に思っている。

極端な楽天家だが頭がキレ、冷静な判断力と的確な行動力を持ち合わせた有能な人物。櫻井夫妻と共に海外を転々としていた過去があり、外国語もペラペラ。

義理の弟である響とその兄である奏の事を何よりも大切に思っている。二人の幼馴染である舞とも関わりが深く、何かと世話を焼きたがる。

本編中ではもう一人の主人公として響とは別の視点から物語に切り込んで行く予定。そしてエロ要員。

あらゆることをカンペキにこなす超人だが、本気を出さない。明日からは本気を出す――そんな女。



三代 舞 (みしろ まい)


年齢:19 性別:女 ユニフォン:V-04s“ベルサス” VS:ディアブロス


VSアプリを早い段階で手に入れ、響よりも先に事件について動き出していた響の幼馴染にして憧れの人。

鳴海同様さばさばした性格で何事も気合で乗り切る傾向にある。露出の多い服装が好みで、趣味はストリートファイト。

響のケンカ強さは舞の手による物で、何度も二人は殴り合いのケンカを繰り返している。そのうち響は何故か舞に惚れた。

非常に高い身体能力を持つが、頭は余り良くない。大学はなんとか気合で奏と同じ伏見大学に入った物の、勉強についていけず毎日ヘコんでいる。

伏見大は既に夏休み期間に入っており、行方不明になった奏を探して夜な夜な町を徘徊している。

謎の所有者である仮面ライダーに追われている。

なお、ユニフォンは最新バージョンのベルサスだが、響は舞と同じケータイが持ちたくてベルサスを使っている。ツンデレ要員。



氷室 真琴 (ひむろ まこと)


年齢:17 性別:男 ユニフォン:F-04t“フラッタ”他六機種 VS:なし


響の友人。清明学園高等部二年A組。

金髪青目の外国人のような外見をしているが立派な日本国籍。半分外国人の血を引いている。

その割にはやたらと小難しい喋り方をし、噂や都市伝説を調査するのを趣味としている胡散臭い一面もある。

クラス一番の秀才だが、奇抜な性格のせいか友人は少ない。何故か気のあってしまった響とは一年生の頃からの付き合いである。

都市伝説である自分コールを体感したくて大量のユニフォンを契約するなど無茶な一面もあるが、真面目に調査すれば意外とちゃんとしている。

響と違って腕っ節は強くなく、線の細い中性的な少年。どこか達観した所がある。ガチホモ要員。



藤原 龍之介 (ふじわら りゅうのすけ)


年齢:18 性別:男 ユニフォン:D-04k“デキサ” VS:なし


響の友人その2.清明学園高等部二年A組。

胡散臭い関西弁で喋る関東出身の少年。常にヘッドフォンを首からぶら下げ、ユニフォンで音楽を聴いている。

やたらと明るく友人も多く人気者だが実はオタク。が、それも公言しているので別に実はって事もない。

オンラインゲームに嵌っており、たまにそのまま一日中やっていて学校に来ない。色々あって一年留年しており、実際は響たちにとっては先輩に当たる。

ユニフォンの機能を使いこなしており、ダイブスポットにも毎日のように通っている。響たちとは二年A組になってからの付き合いだが、昔からの親友のように振舞う。

響のマンションの一階にあるコンビニでは以前バイトをしていた事があるが、これは全くの偶然で響が後から引っ越してきた。

ノリとテンションで生きているような男。響は番長で氷室は危ない男なのでそれが面白くていいらしい。馬鹿要員。



神崎 エリス (かんざき えりす)


年齢:17 性別:女 ユニフォン:S-04a“シンクレア” VS:なし


清明学園高等部二年B組。響に一目ぼれ。

地毛の金髪で、かなり小柄な少女。見た目どおりに頭が悪く、可愛くてお金持ち、でもそれだけである。

両親はメガフロートの開発などにも関わっていたらしく、かなりの発言力を持っている。清明学園内でも一目置かれる存在。

大量の取り巻きに囲まれて日々を優雅に過ごしている印象からか、彼女に対する印象は大きく二分されている。が、実際は特に何かを考えているわけではなくただ毎日普通に暮らしているつもりしかない。

純粋な性格だが、純粋が行き過ぎて馬鹿に見える。頭の悪い発言と行動は悪意から来るものではなく、常に本気である。

響には以前から惚れており、一度デートしてみたのだが響がエリスに付き合いきれなかったという過去がある。

自分コールと連続自殺事件に巻き込まれて命を狙われ、響たちに救いを求める。新ジャンル、バカデレ。



皆瀬 鶫 (みなせ つぐみ)


年齢:17 性別:女 ユニフォン:M-03s“マリシャ” VS:不明


清明学園高等部二年B組。いじめられっこ。

何故か伊達メガネをかけている、箱入りだった少女。イジメを苦に自殺した榛原陽子の幼馴染であり、イジメの次のターゲットにされている。

次々に死んでいくいじめっこたちを見ていい気味だと思いつつ、こんな事はもう終わりにしなければならないとも考えている。

VSユーザーの権限を持つがアプリはダウンロードしていないためVSは存在しない。が、VSは見えるため響と共にアンビバレッジの捜索を行う。

何かと後ろ向きな性格で、常におどおどしている。しかしその一方すっぱりと物事を言い切ったり、冗談を言って見せたりとどうにも性格が安定しない。感情の起伏が激しく、ちょっとした事で泣いてしまったりもする。

真っ直ぐな目をした響に興味を持っており、響の傍に居る事で自分も何かが変われるのではないかと期待している。

死んでしまった榛原陽子から貰ったラピスラズリの原石を大切にしている。ヤンデレ要員。


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