終わりの始まり
「そういうことか、全ての知識はある。ただし、自分の記憶がない。」
先ほどまで、自分が横たわっていた壊れかけのベッドに視線を移す。そこは、人が眠れるような状態ではなかった。木造のベッドは中心部分から横に裂けており、先ほどまで自分が横たわっていたとは、とても思えない。
「まぁいい、行動を始めよう。こんな世界の果てにいてもどうしようもない」
少年が今いるのはこの世界「トゥルー」の果て、人も魔物も何もかもが踏み入ったことがない土地「アヴァロン」。
少年がいる廃墟以外は、まさに理想郷と言える土地が広がっていた。
誰の手も入らずに咲き続ける極彩色や無彩色の花々。真理を見通せるかと錯覚するほど澄んだ湖。大きくそびえたつ世界樹。
全てが調和のとれた完璧な空間であった。
が、少年は目もくれずに動き出す。
アヴァロンの最南端、そこにある神々しく飾り付けられ、しかしどこか恐怖心を抱くような門の前に立った。
「手を触れる、世界を見通す、真理を掴む」
目覚めたままの恰好で、少年は合言葉を門へと放つ。
門はゆっくりと音をたてずに開いていく。すべて開ききるまでに、そう時間はかからなかった。
少年は門の先に向かって歩き出す。
その一歩が、踏み出される一歩が、終わりの始まりであることなど露知らずに。