六話 童貞を捨てる最良の方法を教えて
三連休でしたので、一日に二話ずつ投稿しましたが、明日からは一話になります。
朝のみですのでご了承ください。
先週も三連休だったが、今週も三連休だ。
九月二十二日から二十四日まで、土日月と三連休。
連休の予定は特にないのでアパートに引きこもり、早速童貞を捨てるための計画を練る。
簡単に思いつく方法は、風俗に行くことだ。
これが一番お手軽で後腐れもない。お金さえ払えば簡単に童貞を捨てられる。
初めてなんだし、奮発して高級店に行ってもいい。一回十万とかする店に。
美人でスタイルがよく、あっちの技量も優れているプロが丁寧に相手をしてくれるだろう。
「でもなあ……」
男のプライドというか、くだらない見栄というか、風俗で童貞捨てましたってのがなんか嫌だ。
素人童貞って言葉もある。プロの女性としか性行為の経験がない男を指し、男としては半人前だと判断される。
風俗では、胸を張って童貞を捨てたと言えない。
そもそも、一生に一度の経験だぞ。プロよりも普通の女性の方がいい。
エッチだけいたして、童貞捨てて、はいおしまい。それで満足か?
童貞丸出しの考えだが、愛し合う恋人としたいよな。
風俗は最終手段にしよう。
幸い、社会人なんだから貯金はあるし、行こうと思えばそれこそ明日にでも行ける。だったら焦る必要もない。
「ま、まずは予習をしておくか。何事も勉強。社会経験。風俗に行くわけじゃないが、知っておいて損はないんだ」
言い訳を繰り返して、俺は自室にあるパソコンを起動した。
スマホでもいいが、できるだけ大きな画面で確認したい。お姉さんの写真とか。
インターネットの検索エンジンを駆使して、俺の住所から近い場所にある風俗店を探す。
「ほ、ほほう……これは……ふむ……」
仕事の都合上、俺は首都圏在住なんだが、今ほどここに住んでいてよかったと思ったことはない。
電車で気軽に行ける範囲に、結構な数の店がある。
風俗街なんて呼ばれているところがあるのか。初めて知った。
お相手をしてくれる女性コンパニオンの写真もあるが、誰もが例外なく美しい。
もっとも、これが本当の顔ではないことくらい、いくらこの手の情報に疎い俺でも分かる。確実に修正しているな。
年齢だって、二十歳そこそこの人が多いが、実年齢はもっと上に決まっている。
それでも、ついつい吟味してしまうのは、男の性というか。
いくつものお店のホームページをはしごして、情報を頭に叩き込んでいく。
ブログも読んでみた。男の風俗体験記や、風俗で働いている女性のブログとか。
気持ちよさげな記事を読んでいるだけで、ムラムラした欲望が……
「これはダメだ。悪魔の誘惑だ」
このままでは、即座に予約の電話をかけてしまいそうだ。
風俗は最終手段。その決定は変わらない。
風俗以外の方法となると、ナンパか?
考えるまでもなく無理だ。俺にナンパなんて真似ができる度胸はない。
コミュ障というほど酷くはないものの、見知らぬ女性に声をかけて誘うのは、通常のコミュニケーションとはベクトルの異なる難しさだ。
ましてや、ただ食事に行きましょうとか遊びに行きましょうでは終わらずに、その先まで誘うんだぞ。ホテルに行ってエッチしましょうって。
無理無理無理。絶対無理。
他の方法は、何がある?
友人の女性に声をかければいいのか。
真っ先に浮かんだ顔は丸沢だったが、あいつはないな。
俺が望んでいるのは、若くて可愛くて処女の女の子だ。
三十二歳の丸沢は若くない。可愛くもない。処女かどうかは知らないが、三十二歳にもなって処女ってことはないだろうし、おそらく非処女。
三つの条件のいずれにも当てはまらないんだから、悪いが問題外だ。
我ながら失礼な感想だとは思う。知り合いに話せば、「女性をなんだと思っているんだ!」とでも苦情が飛んでくるだろう。
だが妥協はしない。
女友達は丸沢一人じゃないし、他の人はどうだろうか。
会社の女性に手を出すのはリスクが高いから、会社以外で。
「……あれ? 誰もいない?」
会社の同期や先輩後輩を除けば、プライベートで付き合いのある異性の友人がいないことに気付いた。
正確には、いるにはいる。学生時代の友人とかな。
しかし、気軽に声をかけて遊びに誘えるような相手かというと自信がない。
大抵は誘われる側だった。誰かが遊ぶ企画を立てて、俺はその中に入れてもらう。男も女もいるグループで、夏はバーベキューとか冬はスキーとか。
合コンも、やっぱり誘われる側。自分で企画したことはない。
「丸沢なら気軽に誘えるのに。飲みに行こうって」
俺って、実は交友関係が狭い? 丸沢だけ?
あ……なんかショックだ。
「いや、違うんだよ。俺の友人ってことは三十歳前後だし、大体結婚してたり恋人がいたりするんだ。夫や彼氏がいる相手を誘うのはあり得ないし、そもそも若くない。だから最初から対象外なんだ」
ということにしておく。じゃないとダメージが大きい。
気を取り直して次の案だ。
出会い系サイト? なんか怖いな。
ああいうのって、詐欺が横行していそうなイメージがある。素人が迂闊に触れると危険だ。
美人局に引っかかったら怖い。童貞の三十路男とか、簡単に食い物にされるぞ。
詐欺ではないにしても、中高生とか出てきたらどうすんだよ。若い女性がいいとは言ったが、大人の俺が未成年に手を出せば犯罪だ。
童貞を捨てるために犯罪者になって会社をクビとか、冗談じゃない。
それなら大人しく風俗に行く。
まずいな、道が封じられているじゃないか。
ナンパ、友人の女性、出会い系サイト。いずれも都合が悪い。
身近なところに、大学生くらいの綺麗な女性がいてくれれば……
「いる! いるぞ!」
行きつけのコンビニの女性店員だ。あの人なら条件に合致する。
見知らぬ相手に比べれば声をかけやすく、大学生くらいの年齢で綺麗な人だ。
童貞を捨てさせてもらう相手として、最有力候補に入れておこう。
「でも、ナンパには変わらないよな。俺にできるか?」
一人で悩んでいても踏ん切りがつかない。
誰かに相談したいが、誰に? まあ、一人しかいないな。
俺はスマホを手に持ち、メッセージを送る。
相手は丸沢だ。内容は「明日の夜、飲みに行こう」と。
今日の夜じゃないのは、昨夜も飲みに行ったからだ。二日連続は避けたい。
丸沢なら、二日連続だろうと三日連続だろうと、金がある限りは付き合ってくれそうだが。
返信はすぐにあった。「OK」だとさ。
俺に言えることじゃないが、三連休だってのに用事はないのかよ。
彼氏とデートするよりも、酒を飲む方が好きそうだし、本人的には幸せなのかもな。
メッセージを送り合って、店と時間を決める。
あらかた決まれば、丸沢からこんな一言が。「なんか相談事?」と。
鋭い奴だ。昨日の今日だし、分かりやすくはあるんだろう。
ここは素直に白状しておく。
「えっと……『童貞を捨てる最良の方法を教えて』」
送ってから思ったが、遠回しな告白か? 丸沢で童貞捨てさせてって意味に受け取れなくもない。
まさか誤解はされないと思うが、ちょっと心配になった。
なお、丸沢からの返信は「死ね」だった。
誤解はされなかったようだが、俺の信用は地に落ちたな。