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十九話 男の甲斐性を見せられると格好いい

 十月が終わり、十一月になった。

 俺の生活は特に変わらない。平日は仕事で休日はのんびりと。たまに丸沢(まるさわ)と飲みに行ったり、友達と遊んだり。


 とはいえ、友達と遊ぶ機会は昔に比べて激減している。

 三十歳にもなれば、誰も彼もが恋人、結婚だ。同性の友人よりも彼女や妻が優先で、集まって何かをするってことがなくなった。


 今年の夏は、およそ夏らしいイベントをこなしていない。バーベキューはしないし海やプールにも行かないし、夏祭りだって遠い世界のよう。

 っていう愚痴を、コンビニの店長である大瀬(おおせ)さんにしてみた。


「確かにそうですよね。私も全然遊ばなくなりました」


 日付が変わろうかって時間帯も相まって、店には俺以外の客がいない。

 それをいいことに、大瀬さんとだべっている。

 怪我をしていた大瀬さんだが、既に完治しており元気だ。傷跡も残らず、イケメンのまま。

 傷跡が残ったら残ったで、恋人を守った証として一層男前になりそうだが。


「大瀬さんは、三屋村(みやむら)さんと付き合っていますよね。出かけないんですか?」

「彼女は学生ですから、社会人の私とは生活スタイルが違います。コンビニの店長なんてしていると、こうして深夜にシフトに入ることもざらですし、合わせるのにも一苦労ですよ。遊佐(ゆざ)さんこそどうです?」

「私なんて全然。いい人がいるなら紹介してもらいたいほどです」


 冗談めかして言っているが、半ば本心だ。

 偏見を承知で言わせてもらうと、イケメンには美人の知り合いが多そうな気がする。その中の誰かを紹介してもらえるなら、俺は喜んで飛びつくぞ。


「紹介できそうな相手には心当たりがありませんが……ところで、実はご相談したいことがありまして。紹介もできないのに相談というのも身勝手ですが」

「いえ、冗談ですから気にしないでください。ご相談とは?」

「遊佐さんは、着物屋に伝手があったり……しませんよね?」

「ありません。ひょっとして、三屋村さんの成人式ですか?」


 三屋村さんが一月に成人式なので、着物を着たいと言っていたのを思い出した。

 恋人として、大瀬さんが願いを叶えてあげようとしているのかなと。


「おっしゃる通りです。ご存じだったのですね」

「お客さんのおばあさんと話しているのを聞きました」

「少し調べたのですが、レンタルならなんとかなりそうです。あるいは安物なら。しかし、何十万、何百万とする着物となると手が出せず……」

「下手な宝石よりも高価ですしね」

「そうなんです。指輪で給料三ヶ月分なら奮発もしますが、成人式の着物に何百万も出すのは二の足を踏んでしまいまして。貯金を使えば出せなくはありませんが」


 そもそも、三屋村さんが受け取るだろうか? そこが疑問だ。

 いくら恋人からのプレゼントとはいえ、少々高過ぎる。


「三屋村さんの性格上、遠慮しませんか? 失礼ながら、贈る側の自己満足になるくらいならやめておく方がよさそうだと思います」

「やはりですか。一生に一度のことですし、男としては甲斐性がある姿を見せたいのですが、自己満足になってしまうのは……」

「変なことを言ってしまい、すみません。私もそこまで恋愛経験豊富ではありませんので、話半分に聞いてください」


 実際は恋愛経験皆無なわけだが、バカ正直に伝える必要はない。

 まさか童貞なんて話もできないし、「そこまで」としておく。

 考えてみれば、童貞のことも魔法使いのことも、包み隠さずに相談できる丸沢の存在って貴重だよな。親や兄弟にすら言えないのに、丸沢には言っているんだ。


 大瀬さんは、まだ着物のことで悩んでいる。清水の舞台から飛び降りるつもりで買おうかと。


「三屋村さんと相談した方がよろしいのでは? サプライズのつもりでこっそり、というのも憧れますが、値段が値段ですし」

「断られる未来しか見えませんね。彼女、普段から物をねだらないんですよ」

「素敵じゃないですか。私なんて……」


 そういや、丸沢も奢られようとしない性格だったか。

 たまには奢るが、逆に奢ってもらうこともあるし、収支はトントンだろう。

 でも、俺たちは恋人じゃない。同じ会社に勤める者同士、対等な立場だ。大瀬さんと三屋村さんの関係は参考にならない。


「私の友人の女性も、何かをねだることはありませんね。二人で飲みに行っても、大抵は割り勘です。友人と恋人では話も変わってくるでしょうが」

「最近は意外と多いみたいですよ。男だから、女だから、という時代ではなくなりました。ただ、私と彼女は、社会人と学生ですからね。しかも、成人式という一生に一度の行事です。何もしないのもどうかと」


 大瀬さんの気持ちは分かるし、三屋村さんの気持ちも分からなくはない。

 難しい問題だ。俺には荷が重い。


「お互いが納得できる折衷案を探るしかありませんかね。レンタルで済ませるか、比較的安い着物にしておくか。ありきたりな意見ですみません」

「いえ、聞いていただけただけでも助かりました」


 これ以上は力になれないので、帰ることにした。

 しかし、プレゼントか。女性に贈ったことなんてないな。母へのプレゼントくらいだが、母親を女性には含めたくない。以前も似たようなこと考えたな。


 丸沢にタバコをプレゼントした分もノーカンだ。一番喜ぶかもしれないが、あれをプレゼントと言い切るのは俺が恥ずかしい。

 もうちょいまともなプレゼントを贈ってみるか?


 なんとなく思い立って、帰宅後にパソコンを起動する。

 ネットで調べるのは、「恋人 プレゼント」というキーワードだ。

 他意はない。丸沢と恋人になろうとしているなんて気持ちは、これっぽっちもない。一般的な意見を知りたいだけでしかない……はずだ。


 大瀬さんから美人の知り合いを紹介してもらいたいと考えるほどだぞ。

 三屋村さんと付き合えなくても、好みが変わったわけじゃない。若くて可愛くて処女がいいと思っている。

 相変わらずの性格の悪さだ。ゆえに、失礼ながら丸沢は対象外……のはずだ。


 言い切れないのはなぜだろうな。


 気を取り直して検索すると、まあ出るわ出るわ。

 単純なプレゼントの内容もそうだが、女性側の気持ちに言及しているサイトもあった。


 まず、女とは建前で生きているモノであると。「プレゼントなんかいらないよ」とか「気持ちだけでいいよ」というのは建前で、本音は欲しいに決まっている。女の発言を鵜呑みにするなって話だ。

 次に、形に残る物がいいと。おいしいディナーや手作りのお菓子は不満らしい。アクセサリなどの形に残る物も一緒にプレゼントしなければならない。


 なんていうか……女怖っ!


 ネットの情報だし、どこまで信用できるか定かではない。

 女とひとくくりにできる問題でもなく、人それぞれ異なるだろう。

 にしても、これはちょっと、童貞にはハードルが高い。


「ディナーねえ。丸沢が高級店のディナーで満足している様子が想像できん」


 タバコも吸えないだろうし、そんな店よりも居酒屋が一番って考えそうだ。

 プレゼントも、アクセサリよりタバコ、もしくは酒。

 腹の足しにもならない宝石に何万円も使うなら、タバコをカートンで十個は買える。ビールなら百缶以上だ。

 間違いなく、そっちを選ぶ性格だな。


 分かりやすいが、男泣かせとも言える。プレゼントの贈りがいがない。

 なんか、丸沢にプレゼントを贈る前提で考えているな。


 これは、あれだ。恩返し。

 三屋村さんのことで何度も相談に乗ってもらった。

 失恋した時は発破をかけてもらった。

 丸沢には世話になったし、恩返しをしたい。


 折しも、季節は冬に差し掛かろうとしている。すなわち、クリスマスの時期だ。

 クリスマスに食事にでも誘い、プレゼントを。

 しつこいが、恩返しだ。

 問題があるとすれば、丸沢が喜ぶ物は何か。


「酒とタバコ」


 答えは簡単なんだよ。考える必要すらない。

 だが、それ以外で満足してもらえそうな物は? こうなると困難を極める。


 大瀬さんにも言ったセリフだが、自己満足になってはいけない。そのくらい、童貞にも理解できる。

 俺がプレゼントしたんだし喜んで当然、ではなく、丸沢に喜んでもらえる内容を考える必要がある。


 まあ、まだ時間はあるんだ。ゆっくりと考えよう。

 素晴らしいクリスマスデートを演出し、男の甲斐性を見せられるように。

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