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十二話 無実を証明するのは意外と簡単だった

 十月五日、金曜日。

 昨夜、美人女子大生とお近づきになれた俺は、朝からテンションが高かった。

 出社するまでは。

 意気揚々と出社すれば、いきなり上司の新田さんから呼ばれた。


「夕べ、会社に電話があってな。遊佐(ゆざ)という社員が酷い無礼を働いたと」


 あのおっさんの仕業か。行動が早いな。

 その熱意を別方向へ向けろよ。もっと建設的な方向へさ。


「遊佐にもメールが届いていると思うが、事情を聞かせてもらいたい」

「いいですけど、最初に言っておきますと俺は悪くありませんよ」

「詳しくは、あとで」


 新田さんとの会話を終えて、メールを確認してみる。

 確かに届いていた。しかも、大げさになっているみたいで、俺以外に四人も参加するらしい。

 新田さん、新田さんの上司、人事の人、電話対応をした人の四人だ。


 人事の人までって、何かしらの処罰でもあるのか? さすがにないと思いたい。

 話し合いは十時からって書いてあり、それまでは普通に仕事をする。

 チームメンバーからはあれこれ聞かれてしまった。俺が本当に悪さをしたとは考えていないみたいで、面白半分って感じだ。


 で、十時になり五人で会議室に集まる。

 俺の対面に四人がずらっと並んで座ると、面接か何かみたいだ。

 まずは、会社にかかってきた電話の内容を教えてもらう。


 電話先の男性、おそらく昨夜のおっさんだろうが、コンビニのレジで会計をしている時にサラリーマン風の男が割り込んできた。

 割り込むなと注意しても聞く耳を持たず、それどころかコンビニ店員の女性に対して猥褻行為に及ぼうとする始末。

 非常識な行動に怒った男性は、サラリーマンをさらに厳しく注意し、連絡先を聞き出した。

 それが俺であり、遊佐京侍(きょうじ)と名乗る男だった。

 遊佐京侍は嘘ばかりを並べ立て、終始反省せずにふてぶてしい態度。

 おたくの会社は、社員にどんな教育をしているのだ、と。


「ええぇ……」


 あまりのデタラメっぷりに、思わず変な声が漏れた。

 随分と都合よく改変してくれたものだ。今の話だけなら、完全に俺が悪い。


「遊佐がそんな真似をするとは思っていないが、相手は相当怒っていたみたいだ」

「はい、それはもう。私、電話を取ったことを後悔したくらいです」


 新田さんの言葉に、電話対応をした女性社員が疲れたように言った。

 迷惑かけて申し訳ない。


「私の言い分を聞いてもらってもいいですか?」


 新田さんたちが頷いてくれたので、こちらの事情を話す。


 割り込んだのは事実だが、それはおっさんが店員に絡んでいたからだ。

 注意しているにしてはやり過ぎに見え、胸に手を伸ばすなどセクハラまがいの行為もしていた。悪質だと判断した俺は、レジに割り込んで助けようと。

 タバコを取りに行ってもらうという(てい)で店員には下がってもらい、俺がおっさんに対応した。

 説教され、しつこく連絡先も聞かれたので、やむを得ず教えた。


 一連の出来事を説明すれば、新田さんから質問される。


「割り込んだのは事実なのか?」

「はい」

「猥褻行為は?」

「私はしていません」

「嘘ばかりを並べ立てたというのは?」

「相手が勝手に嘘だと思い込んでいるだけです。ノーネクタイであることを注意され、クールビズだと答えれば、十月にもなってクールビズはおかしいと。名刺を渡すよう要求され、持ち歩いていないと答えれば、名刺を持たないのはおかしいと。どれだけ説明しても嘘をつくなの一点張りで」

「話が全然違うな……」

「違いますね。この場合、どうなるんですか?」


 俺は自分が嘘をついていないと胸を張れる。

 間違ったことはしていないと断言できる。

 だが、当事者ではない新田さんたちは、どちらが嘘をついているか判断に困るはずだ。心情としては、社員の俺を信じたいかもしれないが、鵜呑みにはできない。

 人事の人が口を開く。


「相手の男性は、遊佐君の処分を求めています。割り込みだけならマナー違反で済みますが、猥褻行為は犯罪ですし、事実であれば相応の罰は必要になります。誤解してもらいたくありませんが、処分すると決めたわけではありません」

「では、どうするんですか? コンビニの店員に聞いていただければ簡単ですが、そこまで大げさにします?」


 こういう場合、会社はどうするのか俺も知らない。

 騒ぎにはしたくないだろうし、警察沙汰なんてもってのほかだ。


「新田君、その店員に」

「はい。遊佐、コンビニの電話番号は分かるか?」


 新田さんの上司が促し、新田さんは俺に話を振った。


「調べれば分かります。電話をかけるんですか?」

「その店員から話を聞かないことには、何もできない。アルバイトに入っている時間を聞いてくれないか? 二、三分で終わるから、軽く聞かせてもらいたいと」

「じゃあ、スマホを使わせてもらいます」


 許可をもらい、自分のスマホで電話番号を調べる。何々店という名前が分かっていれば調べるのは簡単だ。

 電話をかければ、すぐに出てくれた。男性の声だし、三屋村(みやむら)さんではない。


「突然すみません。私は、遊佐京侍という者です。そちらのアルバイトで、三屋村さんという方がいらっしゃると思うのですが……」

『遊佐京侍……ひょっとして、昨夜の? 私は店長の大瀬(おおせ)です。三屋村から事情はうかがっていますよ』


 店長に報告していたのか。

 トラブルは隠したがるのが人情だろうに、律儀というか真面目というか。

 おかげでこっちは助かる。


「実は、昨夜のことで私の務める会社に苦情が入りまして……お手間を取らせてしまい申し訳ないのですが、三屋村さんからも少し説明していただきたく。数分で終わりますので」

『三屋村は、今日明日とバイトに入っていません。急ぎでしたらそちらに電話をかけるよう伝えますが?』

「えっと……お願いしていただいてもよろしいでしょうか?」


 俺のスマホの番号を教え、ここにかけてもらうことにした。

 平日の午前中だし、大学の講義があるだろう。電話がかかってくるとすれば、昼休みになるかな。


 それまでは話をまとめる。俺とおっさん、双方の言い分と、食い違いを。

 改めて見ても、食い違いだらけだ。一致している部分は、割り込んだって点だけじゃないか。


「しかし、遊佐は格好つけたな。困っている女性を颯爽と助けるなんて」


 空気を明るくしたいのか、新田さんがからかうように言って笑った。


「ここまで面倒臭いことになるとは思いませんでした。お忙しい中、すみません」


 新田さんもだが、他の人だってそれぞれ業務を抱えている。

 なのに、くだらない茶番に巻き込んでしまって悪いと思う。


「遊佐は、どちらかというと大人しいイメージがあったからな。ヒーローのような振る舞いをしたのは意外だ」

「そこまで格好いいものじゃありませんよ。綺麗な人でしたし、しかも若くてまだ大学生ですよ。男なら助けたいと思うでしょう」

「遊佐……なぜ年齢を?」

「私が聞き出したわけではありません。昨日のおじさんが詰問じみた真似をしていて、学生であることや年齢などを聞いていたんです」

「大学生に手を出すなよ?」

「だ、出しませんって!」


 実は出そうとしているとは言えない雰囲気だ。

 大学生でも成人しているし、俺は大丈夫だと考えているが、よく知らない新田さんからすれば大丈夫じゃないのかも。


 そんな話をしていたら、知らない番号から電話が入った。

 まだ十一時過ぎなのに、もう?


「はい、遊佐です」

『あ……あの、三屋村ですけど……』

「どうも、遊佐京侍です。店長さんから話は聞きましたか?」

『聞きました。会社に苦情が入ったとか……私のせいでごめんなさい』


 気に病んでいるから、急いで電話をかけてきたのかな。

 新田さんと目配せして、電話を代わる。


「ちょっと上司に代わりますので、昨夜のことを説明してもらえませんか? あの客とは違って、気のいいおっさんなので気楽にしてください」

「ナイスミドルと言え! 俺はまだ四十過ぎだぞ!」


 三屋村さんを安心させたくて茶化せば、新田さんから文句を言われた。

 俺もわざとなら、新田さんもわざとだろう。結構大きな声だったし、電話越しにも聞こえたはずだ。

 少しでも楽になってくれればいい。


「もしもし、お電話代わりました。遊佐の上司の新田といいます」


 しばらく新田さんと三屋村さんで話していて、数分たてば終わった。

 スマホを返してもらい、三屋村さんにお礼を言ってから切る。


「新田さん、どうでした?」

「遊佐の言い分が正しかったな。助けてもらって感謝していると言っていた。まあ、最初から疑ってなかったが」

「信じてくれてたんですか?」

「遊佐にセクハラができる度胸があるとは思えん」


 酷い信頼の仕方だ。

 とりあえず、俺の無実は証明されたからいいが。


 あまりにも穴だらけのやり方ではあるし、しっかりと調査したとは言えない。

 俺がコンビニに電話をかけた証拠はなく、三屋村さんだって俺の知り合いであり、口裏を合わせてもらっただけとも考えられる。


 だけど、会社は警察機構じゃない。大事件ならともかく、些細なことで大騒ぎはしないんだろう。

 俺は当然、処分なし。おっさんへの対処は俺の仕事ではなく、別の人に任せる。

 これにて解散となり、通常業務へ戻る。


「今日は憂さ晴らしに飲みに行くか? 小林とかも一緒に」


 新田さんに誘われたが、あいにく先約がある。


「すみません、同期の友達と飲みに行く約束があって」


 会社の飲み会もいいんだが、タバコを吸いにくいのが欠点だ。

 そこへいくと、丸沢なら気兼ねしなくていいし楽だ。

 俺はただそれだけのつもりだったのに。


「結婚式には呼べよ」

「はあっ!? なんでそうなるんですか!?」

「同期と付き合ってるんだろ?」

「付き合ってません。ただの飲み友達です」

「隠さなくてもいい。俺も、同期の女性と結婚したんだ。入社直後から可愛いと思って目をつけていてな。落とすために猛アピールを……」


 新田さんの武勇伝は知っている。

 本人が言っている通り、会社の同期と結婚した。

 奥さんは退職しているが、当時の新入社員の写真があるので見てみれば、確かに美人だった。

 丸沢とはえらい違いだ。羨ましい。

 先輩の小林さんも、逆ナンしてきた奥さんは美人だし、男はやっぱ顔か?

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