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24・ローブの秘密



 翌日。


 授業は滞りなく開始された。



 一限:選択その一(魔薬学)


 第三実験室。

 広い机に向かう生徒の前には、一人に一つずつ、水に満ちた丸底フラスコとアルコールランプ変わりの『熱石』と呼ばれる高熱を発する宝石、それから小さな植物の種子がいくつかが用意されていた。


「はぁーっ、はぁーっ……植物を使った魔法において……必要になるのは、『水』と『火』ぃ……!! 後者は『熱』と言い換えてもいい……! この二つハァ、どちらも命の起源を司、りぃ、はぁ、はぁ……生物である植物をっ活性化させる役割がある……!! ということで……! フラスコ内にまず『変化の種』をインッッ」


 ポチャチャ、と教師(エンシエン)が教卓の上で自分のフラスコに二つ種を入れるのを真似して、深陽とアルファルド含めた生徒が同じように水の中に用意された種を入れる。


 生徒の一人が「先生、呪文は……」と問う。


「今回まだ演習が始まってないから呪文は無くていい……! 魔法陣が書かれた布がっあるからっそれを使って……ふぅ、すはーーっっ」


 喋りながらエンシエンがフラスコに鼻を突っ込む。刺激性の臭いを発するものだったらどうするんだと深陽は思ったが、彼の奇行もそろそろ慣れた頃だったため、あまり気にせず魔法陣の書かれた布を手に取った。



 二限:選択その二(魔法生物学)


 十五階の教室。

 魔法生物学の教師は亀の甲羅のような顔をした(恐らく)男性だった。

 どこに目と耳と口があるのかわからないが、小声でお喋りする生徒がいると即座に彼から叱咤が飛んで来る。

 アルファルドは授業中七回ほど頭を叩かれた。


「マカイ、ドブツ、デリケート。アタマイイ。コトバハツジナイケドヒトトオナジ。ココロツジル。ドブツジャナクテ、ガイコクノユージンミタイニオモタホガイ」


 とは、その教師の言葉。

 次回からは実際に学校で管理されている魔法生物と接することになるそうだ。



 三限:地理・世界史


 この授業は魔法もへったくれもなく、本当に、普通に地理と世界史の授業だった。

 


 昼を挟んで。

 四限:保健


 保健の授業もまた地理・世界史と同じく深陽が知っている保健と変わりない授業内容だった。

 ただ、教師が少し変わっているくらいで。

 ノンフレームの眼鏡にゆるく巻かれた長い茶髪。タレ目と、厚い唇と、物凄く存在感の強い胸部。ほんの少しでも腰を反ればタイトなスカートに形を映すヒップ。アルファルドが彼女を見た途端やけに神妙な顔で「なるほど……」と何かに納得していた。


「こんにちわブサイクちゃんたち。子豚みたいな貴方達にもわかるように懇切丁寧に教えてあげるけど、私の授業では発言するときは必ず私に許しを得なさい。イイ子にしてたらご褒美をあげる。ワルい子にはその身にこの授業で誰が一番偉いのかわからせてあげる。手取り、足取り、ね」


 聖母のような微笑みを携えながら言った彼女。教室内の数人が「手取り足取り……!?」と喉を鳴らした。



 五限:選択その三(美術)


 『テトリス』東側、第二美術室。

 美術は美術。どこの世界でも、絵や写真等の芸術は人々の心に触れる存在らしい。

 

 深陽がこの教科を選んだ理由は、『識字』『音楽』『美術』『世界芸術』の選択科目の中で一番楽しそうだと思ったからだ。『識字』には今のところ目立って困っていなかったし、歌ったり踊ったりの『音楽』や魔界と人界の芸術文化を学ぶ『世界芸術』より、自分の手で絵を描く方が楽しそうだと思った。


「ハァイ! 美術のロマノ・キスよ! メーロン先生やドローム先生にはもう会ったかしら? もうわかるかもしれないけど、あたしあそこの四男坊なの。だからお兄ちゃんには『ロマノ先生は良い先生』っていっといて」


 語尾にハートマークが付きそうな声色で冗談──と、思われる──を言ったのが美術の教員だった。メーロンと同じ様な花柄の模様が左頬に入っている。

 深陽が驚いたのはその口調や外見だ。

 声の高い話し方、桃色が中心の服装、バッチリ睫毛と煌めくグロス。身長や体格的に男性であることは間違いなかったが、振る舞いは女性のそれだった。その表情は自信に溢れ、常に広角を上げながら話す姿は、誰かが憧れを産み出すだろうことを想像させた。



───



 六限:世界政治──ではなく、魔法技術演習。


 体験授業のときと同じように中庭に集まる生徒達。

 その中で深陽は、安心したような顔でガッツポーズを控え目に取っていた。横でアルファルドが「どんだけ政治嫌いなんだよ」と呆れている。


「嫌いというか、苦手意識が……」

「それ嫌いなんじゃねーの?」

「うーん……」


 困ったようにやんわりと否定する深陽。

 世界史や地理は平均点を取れるくらいにはわりと好きだ。

 けれど、同じように暗記に重点を置かれているはずの政治はどうにも得意になれない。


 この感情をどう表現しようかと深陽がもごもごと口を動かしていると、前方で「静粛に」と声がかけられた。


 優しげな表情に細い頬。メーロンだ。


 しかし彼の意に反し、魔法を初めて習うことに興奮した生徒達は中々静まらない。


「せ、静粛に……えっと、困ったな」


 メーロンが後頭部を掻いて苦笑した。深陽を含め数人の生徒が周囲に静かにするよう呼びかけるが、いかんせん人数が多い。

 一人が喋りかけると一人が答え、それが連続することで重なる声に深陽がどうしたものかと焦ったとき──ピタリと、それまでの声量が嘘だったように周囲が静まり返った。


「え……」


 深陽が声をもらす。

 突然メーロンの指示が通ったのか。

 しかし回りの生徒の顔を見てみると、その色は困惑に濡れ、自ら喋るのを止めたというよりも無理矢理くっつけられたように口を閉じていた。そしてメーロンも、そんな生徒たちの様子に驚いたようにキョトンとした顔をしていた。


 魔法、と深陽は直感的に思った。

 説明を求めるようにアルファルドを見ると、彼の骨ばった指が、口にチャックをかけたような形で止まっている。


「……アルファルド?」


 小さな声で問うと、彼はその指をパッと開く。その瞬間、周囲の生徒が「ぶはっ」なんて音と共に空気を吐き出した。


 辺りの生徒数人が咳き込む中指はくるりと一度宙を舞い、人差し指を立て内緒のポーズ──驚いたように口を開けた深陽にアルファルドは愉快そうな笑みを携えて前を向いた。


「えっと……あ、ありがとう」


 メーロンのその視線は、間違いなくアルファルドに向いていた。


「それじゃ、気を取り直して始めよう。今日は君たちが着てるそのローブの使い方について説明と実践を行うね。えーと、まだ魔法の発現がまだの子はいるかな?」


 その問いに、生徒達の内深陽を含めた数人が挙手した。


「っ、と。結構多いな……。それじゃあ今手を挙げた子はこっちに」


 深陽はアルファルドに「じゃあ」と一言言うと、メーロンが指差した方へ移動する。その途中、メーロンがぼそぼそとなにかを唱え出した。


「『この花は一族の赤き未来。一言(いちげん)二羅(ふたら)三瀬(みつせ)四捨(ししゃ)五入(ごにゅう)。されど二つ星、水と油の理を』」


 言葉が終わると──メーロンの体の右半身が歪み、そこから、ウニョッとした柔らかそうな物体が伸びた。


 「いっ!?」深陽の横で生徒が目を剥く。


 同じように驚く深陽の目の前で物体はやがて腕の形を取り、さらにメーロンからまだ何か伸び出、体の歪みが収まった頃には彼の右横に彼がもう一人(・・・・・・)立っていた。


「……分身の術?」


 深陽が思わず口から溢すと、メーロンは二人そろって「「案外手間がかかるんだよ」」と笑った。




 かくして魔法技術演習は開始された。


 魔法の発現が済んでいるグループと、

 そうでないグループ。

 それぞれメーロンが一人ずつ(・・・・)つき、授業を行う。


「君たちが着てるローブは普通のローブじゃない。いざってとき君たちを護ってくれるようにと、校長先生が動物と契約して作ってくれたものだ。君達一年生の蛇は『毒の鎧』と『『死』の回避』のまじないがかかってる」


 説明を聞いていると、背中がもぞりと動いた気がした。


 ただ学年を分けているわけでは無かったのか、と深陽が思っていると、メーロンが懐からナイフを取り出し──一人の生徒に向かって投げ付けた。


「え、」


 学校の教師が、

 今の今まで気さくに笑っていた彼が突然殺気を出しながらそんな行動を取ることなど、誰も予想しなかっただろう。


 太陽の光を受け刃を銀色に煌めかせたナイフは真っ直ぐ生徒の鼻先に向かい、生徒が腕で防御する間も首を縮こませる間も無く彼の鼻腔を貫くかと思われたが、突如強風が吹き軌道がわずかに擦れ、ナイフは頬を掠めて通り過ぎた。


 瞬刻の後、ざす、とナイフが地面に突き立つ。


「『死の回避』はこういうことね。生命の危機に瀕した際のみ、本人の魔法使用能力の有無に関わらず魔力を使って運命を曲げる。ほんのちょっと曲がるだけだから怪我をすることは結構あるかな。……アズナ、いい加減授業中は静かにね」


 遅れて現実を受け止めたのか震え出した生徒──アズナ──の足元に黄色い液体が徐々に溜まっていく。メーロンはそれを放ってすたすたと歩いていき、地面に刺さったナイフを抜き取った。


「君達に問題があるのは『毒の鎧』の方で、こちらは意識的に発動させるものなんだ。魔法の出現に至っていない君達は使えない……、それだと危険な状況に陥ったときに困るよね。だから、発現までコレを使う」


 そう言って彼が手の内に転がしたのは、ブルーベリーに似た濃紺色の球体。ころり、と揺れると、反射された光が深陽の瞳を打った。


「『熱石』と同じように魔力を中に内蔵してる。ローブなら使用回数は大体……八回かな。使うほど色が濁るから、完全に光を反射しなくなったら新しいのを渡すね」


 言いながらメーロンは生徒一人一人に石を配って回る。「はい」と言われてもらった石は歪みも角も無く完全な球体で、太陽にかざしてみると色が透けて青に近くなった。


「呪文や魔法陣はいらない。宝石をなるべく心臓に近い位置の内ポケットに、そう、入れたね。そしたらフードを被って──頭を垂れる」


 彼に言われた通りにすると、


 深陽は背面部に熱が集まり、それが弾かれるようにしてローブ全体に伝わるのを感じた。


「うっ!?」


 同時に発生した重み。


 ローブを引っ張って見てみると、ただの布だったはずのそれが熔けた鉄が再び固まったような形と硬さに変化していた。色もなんとなく、毒々しい紫だ。


「あ、ミハル良い感じだね。ちょっとこっちに」


 手招きされよたよたとメーロンの方に歩み寄ると生徒達に見えるようにくるりと体を回転された。


「『毒の鎧』は物理的な状況下では最高クラスの防御になる。ローブの三センチ範囲なら石も鉄も空気もあらゆる物質を一瞬で()かしてくれるから。ただそのとき有害ガスが出るから、やっぱいざってとき以外は個人で対処出来るようになろうね」


 「結構魔力も食うし」と言いながら深陽のローブの背中にナイフを押し当てるメーロン。熔けた鉄がどろろろろ、と背中を伝っていく感覚に身震いした。



 しばらくメーロンが一人一人ちゃんとローブが機能するか確認し、動作の練習を行った後。チャイムが鳴ったのをきっかけに授業は終了となった。


「けほ……来週は一級魔法の実技を行うから、教科書五ページから十ページに目を通しておいて。はい、解散」


 若干の異臭が漂っているからかメーロンは咳き込みながらそう告げた。


 今日の授業はこれで終わりだ。

 寮に帰って復習でもしようか、とアルファルドの方を見た深陽は、そういえば彼がローブを着ていないことに気付いた。


 「アルファルド」と近付きながら声をかければ、「あー?」と伸びをしながら彼は適当に相槌を打った。


「気になってたんだが、アルファルドは制服着ないのか」

「あんなナンセンスなやっちゃ着なくても俺は大丈夫なんでぇ」

「……嫌いなのか?」

「んー、校長と服の趣味合わねんだよなぁ俺」


 そんなことを話しながら、二人は寮に戻った。




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