1話 ゴーレム少女
失意の中、ただただ歩いていた。何十分経ったのだろうか。いつの間にかあの洞窟の前まで来ていた。昔から立ち入り禁止とされている場所で、幼い頃は入ってみたいと思ったことが何度もあった。だが今はここから逃げだしたくてたまらない。
だが、戻ってところでもはや僕の帰る場所は無くなってしまったのだった。意を決して、生き延びることを諦めて中へ入って行く。
支給された粗悪品のランプを片手にゆっくりと進んで行くと、また泣きそうになってしまった。こんなに切ない気分になったのはいつ振りだったろうか。
「誰だ」
不意に声がする。僕は驚いたが、恐怖は感じなかった。なにせその声はとても可愛らしかったからだ。目の前には大きくいかつい一体のゴーレムがいた。
そんな中再びあの声が洞窟内に反響した。
「答えろ、誰だ」
「ハインス、都市バースの騎士だ、お前は何者だ」
「聞かれて答える間抜けが何処にいる」
さらっと馬鹿にされたことに少々憤りを感じなくもないが、更に質問を続ける。
「では何故ここにいる」
「答える必要はない。さっさと去れ、死にたくないのであればな」
「それは出来ない。こっちにも都合があるんだ」
そう答えた瞬間、そいつの拳が風を切り凄まじい勢いで迫って来た。だがその拳は僕に当たるすんでのところで止まった。
「何故殴らない」
「気まぐれだ。次はない。もう一度言う、さっさと去れ。」
もしかしたらこいつは案外いい奴なのかもしれない。そんな思いが湧いて来た。生き延びる希望に賭けて一つ提案をする。
「話し合わないか。僕達は分かり合える気がするんだ」
長くて奇妙な会話がスタートした。