1.夏休みってなあに?
仔猫のサラちゃんにも夏休みがやってきました。
さて、3匹の夏は、どうなるんでしょうねぇ(笑
夏休み中特別バージョンです。
どうぞよろしくお願いします!
青く澄んだ空に、大きな白い雲。
緑は濃く、風は柔らかだった。
強い日差しを避けて駆け込む木陰はとても居心地がよくて、遊び疲れて昼寝をするのには、最適だった。
一日中、好奇心の赴くままに、野山を駆け回り、大好きな友達と笑って過ごした。
あの夏の日、わたしたちは夏休みの王様だったと思う。
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世の中は「夏休み」だといいます。
「夏休みって何をするものなのかな?」って聞いたら、街の初等学校に行っている男の子がいうには、勉強しなくてよくって、毎日お友達と遊んだり、家族と旅行に行ったりするんだよ!って教えてくれました。
王立学院に行っている女の子がいうには、夏の間の王都は暑いから、都を離れて涼しい山に行ったり、海や川で遊んだりして、領地の友達とのんびり過ごすのだそうです。
お話を聞いているうちに、「夏休み」がだんだんと羨ましくなってきました。
なので、おうちに帰ってアルにいちゃまに「夏休みにみんなでおでかけしたいの!」とお願いしました。
サラが急にそんな事を言ったので、少しびっくりしたみたいですがアルにいちゃまは、にっこり笑って、
「そうだね、せっかくだから、みんなで夏の旅行に行こうか」っていってくれました。
だから、その日からずーっと楽しみにして、指折り数えていたのに・・・。
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「ナールさまのばかぁっ」
護衛騎士兼、子守り係のエドにしがみつきながら、涙目になりながら抗議してみる。
今回の原因である、ナールさまに八つ当たりするしかないもん!
明日から旅行に行こうねって言っていたのに・・・。
アルにいちゃまがお仕事で、急に国境沿いの城砦まで行かなくてはならなくなりました。
イーちゃんは相変わらず、アルにいちゃまのお仕事でいろんなところを走り回っています。
ウォルにいちゃまは、同じくお仕事で、西の国境付近に行くのだそうです。
「ごめんね、サラ。夏休みの旅行は、延期だね」って、アルにいちゃまが残念そうに言いました。
「なるべく早くに帰ってくるよ」って、サラの頭を優しく撫でて朝も暗いうちからおでかけして行ってしまいました。
アレクお姉ちゃまと、カールにいちゃまも、急に王立学院内の問題が発生してお仕事をしなくてはならなくなったそうです。
サラの夏休みが・・・。
それもこれも、ナールさまが、アルにいちゃまを忙しくして、イーちゃんと、ウォルにいちゃまも一緒に忙しくなって・・・。
ふぅぇぇぇん、にいちゃまぁ、ねえちゃまぁ~。
めそめそと泣きながらエドにしがみ付くと、エドがよしよしって背中を撫でてくれました。
お仕事だもん、しょうがないんだもん。ちゃんと知っているもんっ!
でも、でも、一緒におでかけしたかったんだもんっ!!
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背中を冷たい汗が伝う。
生まれた時から王子をやっているが、これほど焦ったことがあるだろうか?
・・・いや、ない。
6歳で王子としてのお披露目で衆目にさらされた時も、立太子として壇上に立ち大神官と、王の承認を受けた時も、こんなに焦ったことはない。
てか、アーノルドも、一言位いっておいて欲しい。
「国境付近がきな臭いので、城砦の視察も兼ねて、行ってもらえないだろうか?」と頼んだ時、少々ため息をついて、カレンダーをちょっと睨んだけれど、それだけだった。
真面目なアルのことだから、断るという選択肢はないにしても、日延べするなりの対策は考えたのに。
いまや、幼いサラちゃんを泣かす極悪人として、王宮のみんなの冷たい目に晒されている。
本当に知らなかったんだってばっ!
「さ、サラちゃん、ごめんって!
そんなに楽しみにしていた予定があるって知らなかったんだよ。」
エドにしがみ付いたままのサラちゃんは、チラリとこちらを見る、大きな目からぽろぽろと涙をこぼしながら、これ以上泣かないように頑張っているようだ。
しかし、頑張れば、頑張るほど、涙が止まらなくなっているらしい。
あああ、そんなに泣かないでっ
サラちゃんの兄姉に殺されそうだ。。。
「わかった。サラちゃんの夏休みがちゃんと過ごせるようにしよう!」
・・・これ以上、サラちゃんを泣かせるワケにはいかない。
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「もお、やだーーーーっ!!」
王都の神殿では、豪奢な装束をつけた巫女姫が癇癪を爆発させていた。
そう、人から見れば豪奢な衣装。だが、本人にとっては髪飾りは拷問に等しく、腕輪と足環は重しでしかない。さらに、金で作られた帯は体を締め付けて、なんの嫌がらせなのか、教えてほしい位だった。
秋に行われるお祭りで、巫女姫が着る衣装の打ち合わせの真っ最中なのだが、あれもこれもと着つけられているうちに、当代の巫女姫、リンの方が音をあげたのだ。
曰く、「もう、やってらんないっ!!」。
だってね、大人だって重たいって言うこの衣装を、子供の私が着るほうが間違っているっ!!
せめて、この髪飾りっていうか、金の兜ともいうようなブツを頭に置くのは間違っていると思うの!
成長期に、上から押しつけてどうすんのよ、身長が伸びなくなったら、どうしてくれるのよーーっ!
っていうかさぁ、夏なんだよ?
神殿の学校だって、夏休みに入って学舎はかなり静かだ。
神官たちも、研修と称して涼しい山の神殿や、海際の神殿へでかけているのを知っている。
・・・で、なんで、私のだけ夏休みがないのよっ!
神殿の巫女姫として、やれ祭事だ、謁見だ、神事だと働かされているというのに。
そんなのありえないでしょうーーーっ!!
不公平だ、「よーじぎゃくたい」だあっ!!
ブツブツ文句を言っていると、雑用係の見習い巫女さんが、王宮からの手紙を持ってきた。手紙をもらう予定もなかったけど、とりあえず、開いてみる。
「・・・やったっ!!」
うん、これで私も夏休みだっ!!
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「・・・護衛をしてほしいのだ」
「はい」
頑丈な岩に囲まれたその城は、人の手の及ばぬところに聳え立っていた。
竜人の国、ナーガラージャ。
竜でもあり、人でもある竜人は、人の世の争いに巻き込まれぬようにひっそりと暮らしてきたが、近年、近くの国と誼を結び、非公式ながらに交流があった。
長命種である竜人は、絶対数が少なく、更に子供はめったに生まれなかった。
その中でも、最近ようやく卵からかえった竜人ユールは、竜人の国の王族として生まれ、次代を担う王とその名も高い。
しかし、その反面10年も卵のままで生まれなかったユールは、変わり者としても有名だった。
もう一つ、人の子を友人の持つ、竜人としても珍しがられていた。
その友人の護衛をしろと、王がいうのだ。
・・・そんな事頼まれなくても、やるに決まっている。
自分の大切な小さい友人たちは、うろちょろして弱いくせに、イロイロなことに巻き込まれすぎる。
この夏は、そんな小さい友人を守って過ごす事ができる、なんだか楽しくなってきた。
このように、内心は物凄くワクワク、ドキドキしているのに、どういうわけだか表情には一切出ないユールの顔を見て、王はかなり困惑していた。
護衛の子たちを、怖がらせたりしなければいいのだけれど、と。
そんなこんなで、彼らの夏休みは始まるのである。
さて、夏はどこに行くべきか・・・海派と山派分かれますが、オトナは引きこもりが好きです!(マテ)