平和の御神が遺した魔宝
この物語は主にSF、つまり夢と希望あるファンタジーを日本人がかけないのはどうしてか、なぜ日本人はアメリカのように魔法を使ったりする実写映画を作ったりしないのかという意味をこめて作らせていただきました。
主軸的な内容はほぼ、ハリーポッターの魔法の魅力とインディージョーンズのような冒険心溢れる魅力を足したような物に仕上げたつもりです。
内容の展開が早すぎて理解できないのも無理はないと思いますが、是非見てやってください。
序章 起源 〜Origin〜
A−β(紀元前)‐Century977、エリヴァル時円
かつて、この世界には五つの神が存在していた。
初代ハイデイス大陸皇帝にして平和の御神、マルク
初代ベコット大陸皇帝にして戦乱の御神、メノラ
初代ドラグナース大陸皇帝にして聖の御神、レイト
初代フィブリット大陸皇帝にして虚無の御神、ツェッカ
初代トテライナ大陸皇帝にして真実の御神、サイファン
彼の者達を凄大五神体と言い、その内の、四神はそれぞれに対する執念深い憎しみを抱いていた。戦の神はこの上なく聖を憎み、虚無を司りし者はこの上なく真実が憎かった。然し、唯一人だけ憎しみも恨みも持たない絶対の神がいた。
平和の御神、マルク・ハイデイスである。
ただ、マルク神だけにその意思は持たれ続けていた為、その思いも空しく四神同士による戦いが戦争という形で対立することとなった。
そして世界は、虚しくも混沌に陥った。
国は滅び、山々は梳られ、海川は朱に染まり、大地は枯れ、空は暗黒の世になりつつあった。これを後に、『神臨大戦』と人々は呼んだ。それを視かねた平和の御神マルクは、己の命を犠牲にして“この世の三大禁忌術”の一つ、‘時空間天地創造’を使い世界を元の姿に変えた。其れでも追い討ちを掛けるかのごとく、マルク神はその術を抑制することができず、新たな偽神を二体生み出した。
万物の源となる、賢悟神テツォラ〔別名;最高神テツォラ〕と、第一の世界と第二の世界の狭間の神、ヴァイタイ〔別名;無限神ヴァイト〕
A−γ(紀元前)‐Century1、ドゥーム時真
彼の者達が創り出した世界が此処、天地双球であり、我々人間の生きていく場となった。そこにテツォラは第二の神々を二人生み出した。元神ディオ、そして創神ラヴラ。
賢悟神、無限神の下に元神・創神、その下に凄大五神体が来る、しかし、本来在るべき最高神は嘗ての平和の御神、マルク・ハイデイスの筈だった・・・・・・
第一章 承諾 〜Approval from divine〜
B−Century250、マルワトック時章
ハイデイス大陸、ランブリング地方、イザベル丘陵
この人里を離れた場所に、一軒のレンガ製で出来た家がある。そんな場所に住んでいる僕の名はジョン・ウォールド。
現在の個人的な職務としては冒険家・探究家。それを基に賃金を養っている。服装は時にフードで身を覆い、使い古しのボロボロジャケットに、これまた使い古しのジーパン。傍の眼から見れば、恐らく汚い人間としか解釈されないだろう。歳は二十一、若すぎるようにしか見えないとは思うが、これでも僕は人並みのキャリアを持っている積もりだ。頭髪と眼球はスカイブルーで短髪。性格は自分で言うのもなんだが表面的に明るくてオッチョコチョイながらも、今の今まで仕事中に失敗を仕出かした事はない。そうそう、僕の右腕には何かよくわからない奇妙な星型の痣が付いている。
話が変わるが、僕に家族はいない。いや、幼い頃の記憶すらないという事は記憶喪失なのだろう、いつも僕はそうやって考えていた。それどころか身内も知らないし、友達もいない。僕はいつもどんな時でも“独り”である。だから僕は人一倍、“人”が愛おしい。
僕はいつも通りベッド近くにある窓越しから風景を眺めた。今日も清々しい冒険日和だ。
雲一つない空。此処からだと、街道沿いに約二時間歩いたところにある首都ヴァンダーラも活気づいていて、部位にある煙突から次々と煙が立ち上る様子が窺える。今日も、いつもと何の変哲もない朝となるはずだった。
僕は朝食を摂りに台所へ行き、パンとハム、卵とベーコンを用意した。僕の特製『ベーコンハムエッグサンド』を作るのである。調理し終えると、牛乳を出して朝食を済ませた。そしてその後、僕はやはりいつも通りポストに駆けていった。そこには一枚の封筒があった。僕は何気なしに封筒を開き、中身を覗いた。
“黄泉の門、近く開く。再び古の戦は世に災厄を齎す。
汝、吾が導きの魔宝を探せ、そして洵なる魔宝を世に
現せ。さすれど、黄泉の門閉ざされん。汝、此処より
南に行かんとせよ。初めたる魔宝、其処にあらん。”
僕はその封筒を見て、一時は悪戯かと思った。だがこれも頼まれ事、僕は一度頼まれたら断りきれない性格なのでその言葉を信じ、普段通りの服装とバックを身に纏い、その手紙の言う通りに南方へと向かった。
丘陵を越え、ただただ南に向かった。行く宛てもなく、南へ・・・。家を出てから一時間程度経っただろうか、そこに見たこともない洞窟があった。
「ここは、一体・・・」
僕は見たこともない空間に圧倒されていた。そして僕は中が気になり、その洞窟の中へと入っていった。
中は思っていたよりも明るかった。僕の探検家魂に火が点いて、思わず持ってきたバッグから松明を取り出しそれに火を点けて虫眼鏡で謎の文字を解読していった。所々に欠けている部分がある為、解読していっても生半端な結果でしかなかった。
「神は戦った・・・、相反する者・・・・・神が神を創った?一体どういう事なんだ?
―――一ん、これは??」
そんな時、僕は一つの文章に目を向けた。
「我、平和を愛す者・・・・・神を創りしは、我が未熟なりし呪術が故――――」
僕はこの一文がどうも引っ掛かった。何か物凄い違和感を感じる。それにしても不気味だ。僕はそうやって体力の尽きるまで調査し続けた。平和を愛す者・・・・・・・マルクの事だろうか?!神を創る、未熟な呪術・・・僕が考古学のことで、ここまで頭を悩まされたのは初めてだ。僕は一休みしようと壁画に凭れ掛かった。
その時である!僕の腕に常に付いていた不思議な痣が突如発光し、その洞窟内の全ての壁画に光を燈した。そして、今まで単なる壁だと思っていたところが突然開きだし奥への通路を作り出した。中は地下へと続く螺旋階段になっていた。階段を一段ずつ慎重に降りていった。階段の右側にも左側にも意味深な蝋燭が延延と並んでいた。そして遂に地下に辿り着いた。
そこには一人の男性が佇んでいた。同じ青い髪の長髪だった。目の色は左目が茶色、右目がスカイブルーとバラバラだった。推定年齢二十五歳前後、如何にも僕より年上の風貌だ。身嗜みはピアスを着けていて、ほんのりと蒼いシルクのローブを身に纏っている。それと、何か不思議な杖を持っている。妙に長いステッキの様な物だった。
「お前は誰なんだ?」
僕はその男の正体を一刻も早く知りたかった。
「自らを優先して名乗り出ぬとは・・・―――不届きな奴だ、感心せんな」
謎の男は振り向きもせぬまま、礼儀を語った。彼はしなやかなローブを震わせ、此方にゆっくりと俯いて歩き始めた。そして、僕と男の距離が1メートルほど近寄ったとき、その男の動きは止まった。
「我こそはマルク様の側近にして“時の使者”、クリス・SS・ローレット
―――では貴公にも問う、何故に此処へ来た?」
僕はその男の口振りからして、相当気難しい風格だと知った。そして、僕は先程の‘謎に満ちた手紙’をクリスに手渡した。
「それが郵便箱に入っていたから、依頼を引き受けた。だが来てみたら―――」
「―――これはマルク様の文字・・・――御見逸れしました、貴方故に我らが神
“マルクの巫子”でしたとは!とんだご無礼をお許し下され!!」
クリスは急に180度性格が変わり、自分の身を一歩引き、僕を謙遜するかのように腰を低くし頭を下げた。
「ちょ、一寸待てよ?!急に改まった喋り方をされてもワケが解らない。少し
落ち着いてからでもいい、話を説明してくれないか?それと謙譲語と尊敬語
は金輪際禁止だ」
双方譲らず、心を乱していた。条条話も出来ない状態だった。
それから少しの間、心にゆとりを持とうと時間に間を入れた。僕はうろちょろしていると、心を鎮めたクリスは先程の話の理を語り始めた。
「この世が未だに地球であった時代、まだ凄大五神体が各大陸を統治していた
頃、大地の殆どは恐ろしい状態だった。嘗ては『科学技術』が全ての根源であり、壮大なる宇宙にも繁栄していた。だが、その『科学技術』も、触れてはならないものに触れてしまった―――――『時空間歪曲物質』である。」
「タ、タイマーズストレインマター?」
僕は聞きなれない言葉を有りの儘に聞き返した。
「時空間歪曲物質・・・・・計り知れぬ未知の力を秘め持つその物質、人はそれに手
を付けた。その強大な力は神をも凌ぐ威力を兼ね備えており、凄大五神体に
よる神呪導術で何とか防いでいたが、人間が時空間歪曲物質に触れたことで
“第一の人類”は滅んだ。そして神々は今、その物質の事をこう呼んでいる」
「黄泉の門」
それは先程、マルクという方から送られてきた手紙にあった語であった。
「その後の地球は混乱に陥った―――それぞれの御神は最大神呪導術、天地創
造を使い第二の世界、“第二の人類”を創り出した。しかし、神々はその世界
が気に入らなかったのか、はたまた相反する想いに苛々しかったのか、神々
はかつてなき戦争を勃発させた。―――『神臨大戦』である」
「その戦争は永年続いた。其処に平和の神マルク様は、この世の三大禁忌術を
使いこの世を在るべき姿に戻してくださったのだ。そのような災いが再度起
こりうると視かねた我らが神は、自らの御命を犠牲にしてこの世の三大禁忌
術の一つ、『創降臨造魔宝術』を使い、この“時空導師の錫杖”(通称;時の
杖)そして貴方を創られた」
僕はクリスの話の要点を纏めた。
この世界は第二の世界で、第一の世界と人類は時空間歪曲物質によって滅んだ。時空間歪曲物質とは黄泉の門の事を意味し、平和の御神マルクはそれが再び訪れてくる日が近いと訴えている。
第二の世界と人類は凄大五神体が神の呪術によって創ったが、何らかの原因で神々は戦争を起こした。その戦争を視かねたマルクは、この世の三大禁忌術を使って世界を元に戻した。そして、もう二度とこのような災禍が訪れぬよう、マルクは『創降臨造魔宝術』で時の杖と僕を創った・・・・・―――――待てよ!?
最後は一体どういう事だ、僕は創られたのか?マルクに?!僕は最後の一文を改めて質問した。
「どういう事なんだ!俺は何のために神に創られたというんだ?」
「話はまだ続いています。今貴方も私に聞いた質問ですが、何故貴方を作る必
要があったのか―――それは魔宝を抑制する為の力は人間にはないのです。
無論魔法を使うことでさえもままなりません。故に貴方が“神の巫子”とし
て創られたのです。そのお力を後世に遺すためにも・・・。お気付きかも知れま
せんが貴方は既に我々より遥かに超えた魔力をお持ちです。只その能力が覚
醒しようとしないだけ・・・。」
いろんな疑問が僕の脳裏を過ぎった。僕はこれからどうすればいい?僕の魔法はどうすれば覚醒するの?人が人に疑問を抱くように、僕は僕に疑問を投げつけた。僕が僕である意味を確実に忘れた瞬間であった。
「これから俺にどうしろというのですか?魔宝なんて、聞いたこともないし」
「そうですね。急に魔宝を集めてくださいと言われても無理な質問ですよね・・・。
では、これを受け取って下さい―――これは言うまでもなく“時の杖”です。
念ずれば必ず、貴方の役に立ってくれるはずです」
僕はクリスから時の杖を受け取った。その杖を持った瞬間、何か得体の知れぬ波動が僕の鼓動を波打った。そして次第に力が漲り、僕は新たな僕になった。
「それは次なる魔宝を指し示す‘コンパス’となるでしょう。それら魔宝は永
遠に相反し継続するものの下でのみ力を発揮します―――ですが、私の在る
べきは此処とマルク様の御前のみ。これが“時の使者”としての役目、そし
て使命なのです―――しかしその役目も果たし終えました。それではマルク
様の御前、『時空間象徴空間』に参る、・・・いえ戻るとしましょう」
そしてクリスは目映い閃光に身を委ね、瞬時にしてその場から消え失せた。すると時の杖は、僕の体にクリスと同じような不思議な光を纏わりつかせ、霧がかった光雲のようなものに取り込まれ、自己意識も徐々に薄れていった・・・・・・。
第二章 真価 〜Real value of Magical-treasure〜
僕が気付いている頃には、その景色からして洞窟の在るべき場所の外の筈だった。風に靡かせられ揺れる木々、地面の所々にある土・・・どこからどう考えてもここは洞窟の前の筈だ、だが其処に存在すべきものが消えている!
洞窟がない!?僕は何度も目を擦った。だが其処に洞窟の欠片もない・・・夢だったのだろうか?そんなはずもない!なぜなら僕は、今こうやって洞窟内部で起こった一部始終をしかと覚えている。僕の懐にある“時の杖”が何よりもの証拠だ。ならば、あれは幻の空間だったのか・・・?
いや、違う!僕はいろんな想いを振り切った。すると突然、時の杖は光り輝きだし東方を指した。「きっとこの先に何かある!」僕は一心にそう願った。
時の杖は僕が東へ、東へと進むうちに益々その光は強まっていった。僕はただ胸に期待が募りゆくばかり。暫く道ある道を辿っていくと、遠方に小さく村が見えた。僕はきっとあの村が次の魔宝の在処だろうと確信を抱いた。だが、どこか様子がおかしかった。
村にたどり着くと、既に廃墟と化していた……。
黒煙が立ち上り、家は全壊し、人のいる気配を感じることは出来なかった。僕は無性に気になって、村中を渡って捜し歩いた。広場と思われる広面積の土地、村長が住んでいたと予想できる大きな屋敷、一見賑わっていたと思われる商店が立ち並ぶ場所・・・だがやはり駄目だった、何処にもそれのありそうな場所なんて見当たらない。僕は村を出て、次なる場所を探そうとした、その時だった!
急に杖は振動し、煌きは方角を変え、再び村を指し示した!僕はあらゆる家を探し続けたがなかった、併しそれでもこの錫杖は村を指す。
「何なんだよ、――――コレ?!」
僕は勢い余って杖を地面に放り投げた。すると、杖は意思を持っているかのように宙に浮き、僕の手に掴まった。すると、突然杖に文字が刻まれていった!
「我を導きし呪の力よ、今こそ此処に覚醒せよ、ラウズ・・・リヴァイン?!」
自分でも一体何を言っているのか解からなかった。だが、自分の中で今ハッキリと何かが呼び覚まされた。そしてその言葉が忘れられることはなかった・・・・・。僕は再び杖を見た。するとどうだろう。杖の形態が変化し、見る見るうちに杖は長くなり、先端が三日月のように丸くなり、その三日月の中に大きな水晶のような透き通った球体が出現した。下のほうに、正六角形の紋章の様なものも浮き出てきた。そのまた下には、「Mark god's heirs to the throne」と刻印されていった。杖は、湖で波紋が広がるかの如く周辺の時間を止めていった。
その間の景色は口も出せないほど最高の気分だった。僕はそれに酔い痴れた。動物は活き活きした容姿でありながらも、呼吸や動作をする様子がなくなり、植物は触れてもビクともしない。まるで夢の世界だった。そして時間が止まったかと思うと、今度は逆戻りをし始めた!
生きているもの総てが元に戻っていく、いや一概に元に戻るといっても口では到底伝えきれないような感じだ。仮に一言でこの場を表すと空間が歪んでいる、そうとしかこれは言い切れない。そうして、村はいつの間にか本来あるべき姿に戻っていた。その瞬間、杖は見計らったかのように時間を正常な速さと方向に合わせた。それにしても、村が崩壊する理由は如何なものか、杖の奇妙な反動の虜となっていた僕は、その因果が気になって仕方がなかった。すると先程見た噴水のあった広場が何か騒々しい様子だった。僕は気になったので其処に駆け行った。
「これは一体何なんだ」
そこは物凄い人混みだった。僕はとりあえず、人の声の聞こえるほうへ行った。他の人々もみんな、広場の中央の方向を見ている。
「こ、これは!」
杖はより一層強い光を放ちだし、先程にも負けず劣れぬ凄い反応を示した。其処には大きな謎のどす黒い球体があった。その球体は時に膨張したり、形を変幻自在に変えたりとこの世のものとは思えない動きをしていた。
もしやこれが時空間歪曲物質?例えそれが間違っていても、僕は村中の人々を前後の考えもなくここに居させるべきではない筈だと思った。
「その光、御主“神の巫子”とお見受けする」
すると見知らぬ御老人が此方にやって来た。
「何故貴方がそれを?!」
「わしはこの村を統べる長ナーヴァ・グレイムと申す。代々この村には古くから
伝承が伝えられてきとる。暗黒の世より出しもの、それ故に黄泉より出し欠
片。欠片は月日と同じくして育ち、そして大いなる災いの基を放つ。黄泉よ
り出し光は漆黒、我が蒼き光はそれを滅ぼさん。後の光、我が巫子にありし。
御主のその錫杖が発する光こそ、我らが救いの光なのじゃ―――」
村長は必死で僕に欲求していた。
「―――村長、駄目ですよ!ここは逃げましょう。旅のお方に押し付けるなん
て、酷過ぎます!さぁ、貴方も早いところお逃げ下さい」
村人の男性は村長を強引に説得させその場を立ち去った。周りを見渡すと、いつの間にか人っ子一人いなかった。ここで逃げるべきか、厭々(いやいや)そんな事をしては時間を遡り、事の因果を知る意味がなくなる。僕の頭の中をその二つが廻り廻って葛藤していた。挙句の果てに、僕は村長の意見に賛同し、どうにかして時空間歪曲物質を消すことを誓約した。
然し相手は“黄泉のもの”、そう簡単に消すことは出来ないはず。その時、杖は自ずと懐から出てきて、溢れんばかりの光を時空間歪曲物質が焦点になるように当てた。すると黒い球体は一掃され、影も形もなくなった。僕は早急に、村の人々を呼び戻した。それにしても何て威力のある錫杖なんだろう・・・・・。
「この度は有り難き次第で御座います、なんと詫びていいものか――――そう
じゃ!これを持って行きなされ。昔から我がグレイム家に代々伝わりし巫子
の魔宝、“生命の霊玉”じゃ」
僕がその霊玉に触れた瞬間、あの時と同じ・・・いや、それ以上とも言える波動が僕の鼓動を波打った。これは一体何なんだろう?僕は気になって仕方なかった。すると、霊玉と杖は互いに過剰に反応し、また新たなる光が次の道を指し示した。
第三章 神の巫子 〜Medium of god〜
次なる方角は北。
それにしても、僕は何故たかが依頼人一人の為にここまでしてやらなければならないのだろう?最初はちょっとした調査のつもりで洞窟に行ったというのに、神がどうとか、世界はどうとか、なんだかここまで来れば僕は利用されているのではないだろうかと疑わしくなっていった。第一、今までの話もうまくいきすぎだ。洞窟を出れば東に行けといい、まんまと行ってみれば村があり、黒い物体も“魔宝”とやらのお蔭で難無く解決し、村の住民から褒美として新しい“魔宝”を今手にした。矢張りどこをどう考えても少し、いや可也できすぎてやしないだろうか?
僕はその場で一度落ち着いて考える為、丁度そこにポツンと突き出た切り株に僕は腰を落とした。ビュンビュンと風が吹き荒ぶ中、僕はただ下を向きため息を吐く。向こう側に花々の集まりが胸高らかに咲き誇る一方、こちらには一輪だけ孤立した花が咲いていた。
然し、その花は向こうに負けないくらいの力量で咲いていた。なぜか不思議と僕の胸は少し温かくなり、その花に励まされた気分になった。僕はこれも何かの縁だと思い、あの花の如く運命に騙されたつもりで精一杯胸を張って一歩ずつ歩んでいった。
僕は北に往く度、光に異変が生じ始めていることにようやっと気がついた。その異変というのも、僕が毎度一歩一歩と踏み締めて進む度、光の力が段々薄れてきているのだ。只管北に向かっていると、二階建ての大きな宿を見つけた。日も暮れてきたし、僕の体力もそろそろ限界なのでその宿に泊まることに決めた、将にその時である。
「あっ!」
終にその光は消えてしまった。もしかすると、この光は太陽の光に連鎖的に反応していたのではないだろうか。どの道、僕は宿に泊まることにした。
カランッコロンッ・・・
暖簾を押し退け、その宿に入った瞬間そこは驚愕と恐怖の空間になっていた。僕が外装を見たときとはまったく違い、誰か・・・・・いや何かに荒らされた形跡がある。
「一体何があったというんだ?―――・・待てよ・・・?」
僕はこの荒らされかたに見覚えが合った。そう。先程の村の惨劇である。
又もや時空間歪曲物質の仕業か。だとしたら、今だけは僕にはそこら辺を捜索することぐらいしか出来ない。杖も玉も何一つ反応を示さないし、日が出るのはまだまだだ。僕はとりあえずその宿を徹底的に詮索した。すると、殆ど破れ掛けた一枚の紙を発見した。僕は黙読した・・・・。
?時空・・・錫・・・と・・命の・・・・納め・・さす・・・・・巫子・・。?
全くもって意味が解らない。
?時空?と?錫?から想定して“時空導師の錫杖”、そして?命の?ときたら、ここはやはり“生命の霊玉”しか考えられない。だが、?納める??巫子?とはどういう事なんだ?謎は益々深まるばかりだった。
調べていると何だか肩が凝ってきた。僕は一階に辛うじて形を保っている座椅子を見つけた。すると、その椅子の下から微かに風が吹いているのを感じた。僕はその場所とほかの場所を比較しながらコンコンッとノックをした。明らかにそこだけ音が違う!しめた!と確信しながらゆっくりと椅子をのけ、その下にある板を発見した。そこの板を開くとAからZまでのアルファベットの大文字小文字が刻み込まれたボタンがあった。僕はその時、時の杖が時間を遡らせたときのことを思い出した。あの時杖に刻まれた文字を一文字ずつ丁寧に入力した。
―――Mark god's heirs to the throne―――
カチャッ
その時、何かが外れたような音がした。そして暫くすると、アルファベットの板は消えて、今度は二つの窪みが出現した。一つは等身大の大きさで長いものが入りそうな窪み、僕はこれだと思って無理矢理時の杖を押し込んだ。すると丁度いいサイズにフィットしていた!もう一つは球状のものが入りそうな窪み、言うまでもなく、僕は生命の霊玉を押し込んだ。無論これも何の問題なくフィットした。すると又、窪みは消えて魔宝が懐に戻り、一枚の手紙がそこに姿を現した。
? 我、マルク神に直属仕えし者にして、巫子を導きし者なり。
汝の手元に在りし魔宝、即ち時空導師の錫杖、そして
生命の霊玉は汝を救い導くであろう。霊魂の呼子、
滅葬の結晶、永久断罪の聖杯この総てを集め、
マザーリー城に行かんとせよ
二十五代目ハイデイス大陸皇帝、ゼィガン・S・ハイデイス?
「―――お前のような貧弱な人間が、何故ハイデイスの血を曳く者なのだ?」
気付けばそこにオーバーコートを身に纏った、影の薄い男性が立っていた。その男性は風俗的な帽子をかぶっていた。
「だ、誰だ?!」
僕は咄嗟に声を張り詰めた。
「お前に名を名乗るほどの者ではない。―――そんな下らぬ事よりも、早く錫
杖と霊玉を渡してもらおうか」
そいつは充分闘う積もりだったらしく、傍らから小型のナイフを軽々と僕に突きつけてきた。無論、僕は闘う気など毛頭ない。ただ僕は質問をしたかった。何故僕の命を狙うのか、ハイデイスの血を曳く者とはどういう事なのか、そして何より、何故魔宝を狙うのか。とりあえず僕らは空の下、宿の外に出た。
「は、話を聞いてくれないか?お、俺には何の事だかさっぱり分からない――
―」
「問答無用!」
そいつは僕の事情を一言たりとも聴こうとせずこちらに突進してきた!
まだ朝焼けすら出ていない。太陽の光が出なければ魔宝は何の力も発揮しない。僕が一体何をしたというのだ?僕は死を覚悟した、その時である。
ピカッ
「な、何だ?!」
すると突然、蒼白い閃光のようなものが魔宝の中から発して、僕の体を光で包んだ。満月の光が照らし出されたときのことである。そうか、クリスの言っていた永遠に相反し継続するものとは『太陽と月』の事だったのか、その時初めて僕はその言葉の意味を理解した。
「ハイデイスの魔宝に力が宿ろうとも、我が執念に変わりはなし!――――時
空を越え、今神なりし永久業火の焔よ、覚醒せん―――獄焔の咆哮ぉ!!」
すると彼の体から、溢れんばかりの炎が燃え盛ってきた。そしてそれは獅子の咆哮となり、勇猛に満ち溢れて僕に襲い掛かってきた。僕は再び蒼白い光の文字通りにスラスラ呪文らしい文章を詠んだ。
「時空を越え、今神となりて吾に仇成す者達に、永久なる終焉を迎えたまえ―
――神の審判!」
何だ、この感覚は?僕の体が他人の体になっていく、そんな感じだった。言葉では言い表せない奇妙奇天烈なこの感覚………。
僕はもはや僕ではなかった。その感覚は、事の次第に青白い光の結晶と化した。そして僕は見てしまった・・・神なる者の姿を・・・・・。僕の後ろに勇敢に映るその姿、なんと勇ましい!あろう事か翼まで生えている。そしてその神なる者は翼を最大限まで縮小したかと思うと、今度はその翼を天に捧げるように広げた。そして勢い良く突進してくる獅子を薙ぎ払うかのごとく雷を落とした。そして追い討ちを与えるかのごとく、その謎多き男性にも天罰を与えた。それ故相手は相当なまでに衰弱している。僕はその男性に多くの疑問を投げつけた。
「お前は何者なんだ?―――急に人を襲ったりして、それとも俺だから襲った
訳か?!」
「あぁそうだ、その通りだ。―――小生はこれでもメノラ様の巫子で“他神の
巫子暗殺”を務めとしている」
僕はその言葉を聴いた瞬間、脳裏に衝撃が過ぎった!!
第四章 相違 〜Difference of god's intention〜
僕は彼の話していることが真剣におかしいと感じ取った。巫子は僕だけじゃないのか?何故他にも巫子を作る必要があるのだ?僕は再び疑問で溢れかえった。
「な、何故俺のほかにも巫子が存在するんだ?」
僕はその男に幾度となく質問を繰り返した。
「巫子とは元々、『創降臨造魔宝術』によって創り出された、言わば虚像である。
その為記憶はおろか自分が何者であるかさえ解らないはずだ、そうだろう?」
言われてみれば彼の言う通りだ。自分が何者であるのかも分からないのは確かだ。現に家族という影・形・存在すらないのだから・・・
「では何故その虚像ともいえる我々が存在するか―――――」
「―――――俺たちにしか魔術は使えないし、魔宝の力を抑制することは普通
の人間には到底出来ないから・・・でしょ?」
僕は自慢げに言った。
「大体の事は把握出来ているようだな。ハイデイスの巫子も馬鹿ではないか。
少しは安心した」
彼の見下した態度に、少しカチンときた。
「だが一つ言っておく―――人類は誰もが皆魔宝を抑制出来ないと決定付ける
という事は無難に等しい。」
僕は今一彼の言っていることが理解できなかった。
「どういう事だ?」
「“第一の人類”には使えるという事だ、その血を曳く者もまた然りだ」
いつの間にか上空にあった月も、雲で再び見え隠れしていた。
「“第一の人類”って・・・滅んだのじゃなかったのかよ?!」
「確かに――――古文書の『神臨転書』や言い伝え等では伝説の良い例として
そう書き上げられているかもしれない。併し実際はそうだと言い切る事は出
来なかった」
「血を曳く者?一体誰の事を言っているんだ?」
「‘時の使い’だ―――話を続けるぞ。“第一の人類”と神の巫子との決定的な
違い、それは鍵を持っているという事だ」
「鍵?」
「これ以上先の事は自らの力で学べ、申し遅れたが我が名はフィブライア・A
・ディーン―――紅蓮と戦乱の御神メノラ・ベコット様の巫子だ」
すると、フィブライアと名乗る者は瞬時にして消えた。メノラの巫子・・・・・・。
一体何者なんだ?そう考えていると何時の間にか明朝になっていた。僕はとりあえず次の魔宝である霊魂の呼子を目標として歩き始めた。
不眠のまま、僕はただ歩き続けた。目の下にクマが出来ているであろう。僕の体力も段々限界に近い。目の前もぼんやりとしてきた。まるで水中から青空を眺めるように・・・。そして終に僕の頭の中は空白になり、意識はそこで一時途絶えた―――。
事暫らくして、僕はふと目が覚めた。何だ?香ばしい香りが僕の脳を刺激した。この食欲をそそる香り・・・・・・・・ガーリックか。それに、この独特で絶妙なスパイスの香り・・・・・カレーか。僕は道端で倒れこんで、それから・・・・・
いや待て!僕はそれから気を失った筈だぞ。僕は目を開けた。そしてベッド脇にあった僕の所持品を、左手で勢い良く手に取った。そこにスタスタと一見寡黙な若々しい女性がやって来た。彼女は僕と視線が重なった瞬間、物陰にヒソッと身を隠した。
「あなたですか、僕を助けてくださったのは?」
僕が何を言おうと、彼女から身を挺することは無かった。
「彼女は今、口が利けないんだ――――」
今度はそこに一人のガッチリとした、立派な体格の男性がやってきた。
「貴方は?」
僕は急に登場してきた人物に少々驚いた。
「俺はこの家の主、そしてこの子の父親、アーマネスト・C・ケルヴェット―
――彼女ジーナ・A・ケルヴェットは先の災期の所為で声を失ったんだ」
「先の災期?何のことですか?」
「話を遡ること十七年前、あれは俺たち、そして村のみんなにとって忘れられない日だった。―――俺たち二人は、実はこの村のものではなくてね。ドラグナースからここに移住してきたのだよ。巫子というだけでね。彼女も凄大五神体の一人レイト・ドラグナース様に選ばれた内の一人なんだ。村の人は“神の巫子がいれば村に災いが起こる”なんて、実に戯けた言い伝えを理由にして俺たちを追放した。路頭に迷っていた俺とこの子をこの黒十字の村?ティップタロット?の村長が我々を迎え入れてくれたんだ、だがやはり神は、レイトの巫子ジーナを不幸に陥れた。それこそが先の災期、『最高神覚醒期』」
「ディオ・クライ・ディタ―――」
どこか聞き覚えのある詞。だけどそれが何なのか解らない。覚えのない詞なのに胸が引き締められる。何か苦しい。もがきたくなる様な苦しみだ。
「別称、最高神の芽生え。巫子が最も恐れ戦かれていると言われている時期で、
この世の最高神として崇め祀られている絶対の神テツォラがこの世に具現し、凄大五神体の其其の巫子がテツォラに身を捧げるという事があり、其れにより、かの神が元神ディオを呼び覚ますといったものだが、その為にジーナはテツォラに声を・・・―――」
「そうだったんですか。でも何で声なのですか?他にも捧げられるものは沢山有るのに」
「元々決められているのです。ドラグナースは声、ベコットは力、フィブリットは呪力、トテライナは意識、ハイデイスは記憶――――これら全ては生前のモノで今の巫子は無力に等しい。但しそれらを取り戻すことも出来る」
記憶がないと言われてみれば、よく考えてみると生まれて物心ついた頃の記憶
しかない。そうすると、僕は巫子として生まれて間もなく最高神覚醒期が訪れて己の記憶を奪ったのか。だとすれば、取り戻すことさえ出来れば何もかも思い出すのではないだろうか。僕は不安と期待を胸にアーマネストさんにその方法を聞いてみた。
「取り戻す方法って、一体どうすればいいんですか?申し遅れたけど、俺の名
はジョン・ウォールド、マルク・ハイデイスの巫子だ」
「そ、そうだったのかい?!分かった、教えるよ。同じ同志としてね」
すると今まで立ち話をしていて疲れたのか、彼は椅子に腰掛けた。その瞬間、彼は目付きが変わった。この空気を一言で言い表すと蛇に睨まれた蛙とでも言っておこうか。
「天乾の下に仕えし巽風よ、我が前に在りし邪に果て無き絶望を、天上天下神
羅鉄槌(二ティカル)」
彼は突然何をいう事なく不意を衝いてきた。既にアーマネストさんは別人となっていた。その呪術は、僕の体を重力の力でギュッっと押し付け、そして僕の手足を縛り付けた。
併しその呪術は、従来のものとは異なる空気を漂わせていた。
「急に何を!」
「君も巫子なら少しは人を疑いたまえ。全てが全て正論とは限らないという事
をね」
確かに、軽々しく人を信じすぎたかもしれない。然し僕は、あの言葉の中に偽りがあったとはどうしても考えづらい―――
「全て嘘だったのか?騙していたのか?!!」
「嘘など言っていない。君は人を信じ過ぎると言っているのだ――それ故苦に
なることも考えずに、哀れな・・・。教えてあげよう。魔宝を総て集め、それを
真の形状、清澄の魔玉にする為の儀式、『創降臨造魔宝』を行えばいい。そ
してマルク・ハイデイスを具現化させれば、全ては丸く収まる。然しこの魔玉、
使い道は他にもあるのだ。それこそ彼女、ジーナを救う事の出来る唯一の方
法、賢悟神テツォラ様の具現化」
「そんな事をすれば、黄泉の門が―――」
「開くだろうな。第二の世界も人類も滅びるだろう。第一の人類の末裔である
我々を除いて」
「どういう事だ?」
「まだ解らぬか。ハイデイスは平和の御神、故に巫子の力はそれぞれの失った
ものを取り戻し、再び凄大五神体の力は完全覚醒し、最大神呪導術を唱える
事が出来るのだ。テツォラ様は再生の最高神、故に巫子の力は何もかも全て
彼女だけに与えられる為、完全の巫子となったジーナは凄大五神体をも勝る
力を手にする。そして第三の世界をジーナの世界に仕立て上げてみせる。」
今、確実に彼の頭はどうかしている。どうにかして止めさせなければ、この世が滅びてしまう。けど今の僕にはそれを止めるだけの?力?がない。この世が滅べばマルク神が心から望んでいた、黄泉の門の完全な封印を実行することは疎か、この『第二の世界』を失うことになる。どうすれば、どうすれば良い?何か、何か非力な僕に?力?を与えてくれるものは?!
?力??
?魔宝を抑制する為の力は人間にはないのです。
無論魔法を使うことでさえもままなりません。故に貴方が“神の巫子”とし
て創られたのです。そのお力を後世に遺すためにも・・・。既にあなた様は御気
付きかも知れませんが貴方は既に我々より遥かに超えた魔力をお持ちです。
只その能力が覚醒しようとしないだけ・・・?
覚醒?
言われてみれば、僕は今まで一度も自分で魔法を使おうとしたことがない、と言うよりかは自然と無意識のうちに魔宝が反応している事のほうが殆どである。ならば、今度は自分の意思で戦おうではないか!
僕はもう逃げない!!
そう、自分に言い聞かせた。奴が再生なら、僕は平和だ!それが僕と奴の決定的な違いだった。
第五章 存在理由 〜Reason why I exist in this conduct oneself〜
「マルク神よ、無力な汝の巫子に偉大なる御力を!」
僕は初めて、神という存在を信じ、祈った。そしてマルク神は、僕を受け入れてくれたのか、はたまた慈悲心でいてくれたのか、僕に僅かながら力を与えてくださった。勇み立ち、湧き上がる力。次々と覚醒していく呪術と魔法、見たこともない文字が溢れ出んばかりに脳裏を掠める。そして、確実に何かが覚醒した。普通ではない何かが・・・・・。
「天よ、今こそ光を超越し森羅万象、八卦の元に契約することを吾に誓わん―――冥嚇覇王転生」
これこそ神々の力、奮い立つ呪の力・・・。
一歩間違えれば暴走しかねないこの力、これこそマルクが『創降臨造魔宝術』を使ったものに値するほどではないだろうか、僕は恐ろしくもその神術の一つである『神王転生術』とやらを使ってみせた。そして僕はそこからの意識がなくなり、その身を神王に委ねた。
意識を取り戻すと、辺りは真っ白の虚無空間へと姿を変えていた。僕はその何映らぬ道なき道を、只管歩いていた。あの時を思い出す・・・。それにしても、この何もかもない空間、どこか懐かしさを覚える。こう、心が温まるような、まるでこの世に生まれるような・・・・・。何だか心まで朧気になってきた。ここは一体・・・
「貴方が何故ここに?」
そこに突如として、時空導師の錫杖を僕に預けたあのクリスが現れた!僕は彼に今自分のいる?この場所?の事を尋ねてみた。
「ここはドコ?」
「前にも存知ましたように此処は『時空間象徴空間』といい、神の巫子達が魔
宝もなしに最上級呪術を使い、抑制できずに身を滅ぼした巫子にとって始ま
りと終焉の空間ですが、・・・もしやジョンは最高級呪術をお使いに―――」
「神王転生術を、一つだけ・・・」
僕は顔を引きつりながらそういった。
「て、転生術ですと!それも神王様の・・・私はあの時貴方に一つ、言うべき事を
忘れていました。今後、絶対に転生術の使用を御止め下さい!!次にそれを行
えば、現世で気を失うことは疎か、身を滅ぼしかねません!マルク様の為に
も貴方の為にも、そして何より第二の全ての為にもどうかお願いします。」
そうであった!! アーマネストを止めなければ!それにしても奴は何者なんだ?とりあえず、一刻も早く、僕は元の世界、第二の世界に戻らなければならなかった。僕は事の一部始終をクリスに説明した。
「アーマネスト・・・。セイクリッド言語で?空虚?を意味する・・・・・―――ジョ
ン、其奴はもしやフィブリットの巫子では?」
アーマネストさんが巫子?そんな馬鹿な?!
「けどあの人、魔法を使っていた・・・。フィブリットは呪力を捧げたんじゃ」
「―――呪力といえど呪術の力、第一の世界より受け継がれる伝説の呪術魔法?八卦術法?は可能です」
「八卦術法?」
僕はその八卦という言葉に関心を抱いた。
「そもそも八卦とは、神王様によって生み出されたもので、それは森羅万象を意味する。天を司る乾、地を司る坤、水を司る坎、火を司る離、風を司る巽、山々や静止を司る艮、穴を司る兌、雷を司る震―――これ故に八卦八陣で、これを細工し、生み出されたものが八卦術法といいます。これを打ち消すには神王様の御力が必要です。今から、凄大五神体のいらっしゃる天界よりマルク様を呼び出し、テツォラ神を転生して冥嚇覇王を時空間象徴空間に呼び戻してもらうよう頼んでみますので、今しばらくお待ち下さい」
「じゃあ一つ聞かせてくれないか?どうして俺は生きている」
「それは、巫子にないものを貴方は持っているからです」
僕はそれが何なのか、大体の見当はついていた。併しそれが本当となると、今此処にこうやって存在している自分が実に恐ろしい。僕は巫子になく自分にあるものを、頭の中で掻き消した。クリスは、颯爽と転生の間という場所へ駆け出した。僕もその後を必死に追いかけた。
クリスは指で呪術を描いた。すると忽ち、転生の間は暗闇から光を放ち、マルク神の魂を象った光の球が現れた。それは蒼く、又威厳があり、神神しかった。その物体は我々に話しかけてきた。
「久方振りです、吾が巫子にして第一の人類への鍵を持つ者、ヴィラ・ディオ・
J・ティア・ハイデイス―――そして彼を導いてくれた時空導師、クリス・
S S・ローレット」
するとクリスは、一歩球体に近づき、体を低くし頭を下げた。
「御目にかかれて光栄です、マルク様。事に当って頂いたのは、少しばかり力
をお貸し戴きたい次第なのです」
「それは一体?」
「最高神の転生です。」
「時空導師よ、そなたともあろう者なら、彼の者の転生がどれ程までに危うい
ものか、承知の上で存じておるのだろうな?」
するとクリスは僕が冥嚇覇王を誤って転生したこと、そしてその為に僕が時空間象徴空間へと足を踏み出してしまったこと等、これまでの経緯をマルク神に説明した。
「そうか。なれば大変であったろうな、ディオよ。無論御主もそろそろ気付き
始めておるのではないか。己が鍵を持つ者であるという事に」
僕の心に鋭い棘が刺さったようだった。やっぱりあの仮説は正しかった。併しそれにしても鍵を持つ者とはどういう事なのだろうか?僕の心に謎は渦巻く・・・。
「わが巫子よ、教えよう―――」
マルク様は心の声が聞こえるのか、すでに僕が何を考えているのか、感じとっているのかを知っていた。
「鍵とは―――即ち清澄の魔玉を生み出す為の紋章を意味する。その腕にある
痣こそが安穏の象徴、清澄の紋章である。鍵を持つ者が、清澄の魔玉を生み
出さぬ限り、他の巫子が悪用することなどまず無に等しい。そのツェッカの
巫子とやらも哀れなる者よ」
心の底から安心した。これで落ち着いて、魔宝の収集が出来るというものだ。
「ところで、先程申されたヴィラ・ディオ・J・ティア・ハイデイスという
のは?」
「そうであった、神王降臨期で記憶が消されたのであったな。御主が、天界
にいた頃の通称名である―――さて、本題に入ろうか。賢悟神を転生すれば
よいのだな?」
そして、マルク神は転生の呪術を、先程のクリスと同様指で描き始めた。そのとき僕は、とある事にふと気がついた。そしてその疑問をクリスに投げかけた。
「さっき聞き忘れていたことだが、何故態々神王を転生しなければならないん
だ?」
「空間逆転生術や空間転生術には、それぞれ位によって使用可能で、人類は凄
大五神体を転生、凄大五神体は人類を逆転生、但しその人類が呪術師、若し
くは巫子である時のみ。凄大五神体は最高神を転生、最高神は逆転生をする
事が出来ず、神王の転生のみ可能、神王は全てが可能といった具合である為だ」
「そう言えば、神王様は冥嚇覇王様以外には何方が?」
「そうですねぇ―――水鎮癒王、空偉昇王、土司凛王、焔哮猛王、煌輝眩王、天
謙誠王、淡那墟王、これら七大神王と冥嚇覇王の双司神王が神天皇、そして太陰陽巫王が神帝といい、最高位のお方だ」
すると、マルク神の魂であるその球体はスーッと物の静かに消え去った。そして転生の間は、忽ち姿を変えて今度は光の空間になった。辺りを見回すと、ほんのりとしたこれまた懐かしい空気が漂っていた。併し矢張り記憶がない・・・。何故だろう、この感情の所為だろうか、何とも言えない苛立ちが体中を迸る。一体何処なのだ、此処は?疑いに身を包まれた自分の気持ちはどうしても隠せなかった。
その時である。先日僕が、覚醒術を使ったときに出現したあの神なるものの姿を再び見た。まさか、あれが最高神だったのか?僕は目を疑った。だがあの勇ましい神体、威厳のある羽翼、どこからどう捉えてもあの時僕の目の前に君臨した神である。だがよく考えてみろ。何故人間である僕が、最高神の転生なんて・・・。もしやこの鍵にその答が?
「ヴィラ、ヴィラではないか?!我が弟よ、何を彷徨う?覚えにないであろう
が、吾こそは君主の兄、テラ・ディオ・A・ツォン・ラフィアスだ」
既に僕は自分が何者であるか、そしていかなる者か、知る由も無かった。僕は誰?その答えは誰も知らない―――。
最初は、神の巫子として、唯有りの儘に身を流していた。併し後になって、鍵を持つ者、最高神の兄弟・・・。一体誰なんだ?僕は、一体・・・・・
「―――残念だがヴィラ、その問いに答えは無い」
僕が誰であるか、テツォラはその問いに答えが無いといった。じゃぁ、僕は何にも属さないのか?人間でもなく、神でもなく、巫子でもないというのか?
「落ち着いて下さい、ジョン様!テツォラ神が仰りたい事とは、貴方は?無限
に等しい存在?だといっているのです。」
「マルク様が何のために貴方を巫子として選んだか、それは貴方が鍵を持つ
者に相応しい澄んだ心の持ち主であるからです。そして、マルク様が時空間
天地創造の際に創り出した、無限神であるからです」
僕が無限神?何かの手違いだ!神なら何故記憶がない?!例え巫子でも、無限神とあろうものならば記憶が有る筈なのに・・・
―――なのに何故?
「ヴィラよ、それは神臨転書を読み知り得た事か?それとも誰かに吹き込まれ
たのではないか??ディオ・クライ・ディタは最高神の芽生えなどではなく、
神王降臨期という巫子にとっては聖なる時期で、神王様が天地双球に降臨し
て頂き巫子達に力を分け与えてくださる、非常に有難き時期の事だぞ」
でもならば何故、記憶がない?無限神としての記憶が?全てが、何もかもが矛盾している!出鱈目だ!全て嘘だ、何もかもが嘘だ!!
「巫者は皆、天地双球を救う為に此処を抜け出す代償として、巫者としての一
切の記憶、意識、力、器、呪力を無くす。天地双球でそれぞれが一つ一つ覚
醒していくと共に、彼らは再び完全な巫者となり、この時空間象徴空間に来
てまた此処を抜け出す・・・・・それが巫子としての永遠の宿命である、無
限神であると共にマルク神の巫者として存在するのが、ヴィラ、お前なのだ。
お前がいるから、今の天地双球がある―――天地双球を創ったのは私だが、
築き上げているのは、ヴィラ、お前なのだ」
第六章 改正 〜Amendment the Second World〜
その後、幾時間が経ち、逆転生の準備は整った。
「ヴィラ、今から逆転生の祭儀を行う。言うまでもなく、第二の世界は、神王
転生を行ったが故に原型を狂わす、荒廃した大地に姿を変えていることであ
ろう。お前は今から、平和神マルク・ハイデイスの巫者の力を最大限に凝縮し
第二の世界を元の姿に戻す為に、黄泉封印の一つ、『時空間再生術』を首都
ヴァンダーラの聖地ヴァルファラにて行うのだ。覚悟は出来ているな、ヴィ
ラ・ディオ・J・ティア・ハイデイスよ」
僕はハイデイスの巫者となりし者、だが、まだそれでも未熟で半人前。一度世界を壊した罪を償うためにも、僕は逃げる事が許されない。
もう後がない・・・。次に失敗を犯せば世界を、第二の世界を、天地双球を失いかねない・・・・・。一人の人間として、第一の人類として、無限神ヴァイトとして、そして何よりマルク神の巫子として・・・・・・・・僕は第二の世界に行く事を決心した。
“黄泉の門近く開く。再び古の戦は世に災厄を齎す。汝、吾が導きの魔宝を探せ、そして洵なる魔宝を世に現せ。さすれど、黄泉の門閉ざされん。”
「あぁ、出来ているとも。多くの犠牲を払い、世界を創り変えたのも、全て自
分の責任だ」
「それでこそハイデイスの巫子だ。少しばかりだが、御主に力を授けよう。お
前は今から他の巫子を導く導師となってもらう」
満ち溢れゆく力の中に、幽かながら文字を見つけた。
“・・・今此処より・‥神・・・より・・・・限神ヴァイ・・・巫子から・・・・・・・巫者と証す”
やっと自分が認められた、僕の心の底で何かが疼いたのが感じ取れた。そして、逆転生は始まった。
凄まじい時空移動の迫力。
森羅万象、全てのものが自分に向かって来る、そんな感じだった。すると、次元空間が著しく変わったのが全身で感じ取れた。そして、変わり果てたあの地に戻ってきた。
「此処があのリヴァース?!信じられない―――たった数時間で、こんな・・・」
もう、何も残っていない。緑豊かな大草原は荒野と化し、活気付いていた町や村も家の建っていた形跡すらなかった。冥嚇覇王、怒りや憎しみによって生み出されし神王、そんな事とも知らず転生を行った、憐れなる自分。全てを元に戻さなければ・・・!僕は再び魔宝を集めに行った。
次は確か、文書によると霊魂の呼子の筈。あれ、何故だ?何故、魔宝は反応しない?そう言えばこの世界、先程から感づいていた事だが太陽は何処にあるんだ?月は何処にある?!先程の次元空間の著しき変化、その時に感じた途轍もない違和感、その正体はこれだったのだろうか?
併し、太陽も月もない状態で、何故こんなにも明るいのだろう??この明るさは何処から・・・・・。僕はその光の向こうを捜した。
「あれは、一体・・・」
僕の眼の先に映ったのは、天高くに聳える忌々しき何かが光を造り出している光景である。黄泉の門、果たしてあの事なのだろうか・・・?黄泉のものでさえ、消し去る事も儘ならなかったこの自分が、黄泉の門等といった高等にして未知の物質を閉ざす事など出来るのか・・・・・?
出来る!
今の俺は第一の人類であり、無限神なのだ!もう、巫子ではなく、巫者なのだ!!無限神ヴァイトがどういう存在なのかは分からない、第一の人類だからと言って、何が出来るというのかは解らない、巫者が巫子と何がどう違うのかも解らない・・・
併し、そんな事がどうしたと言うのだ?!今、この場で跪き狼狽ていては、何一つ解決はしない!!この世界に光がないのであれば、今、自分が光となるしかないのだ!
すると、時の杖は恰も空を舞い、天駆ける鳳凰の如く、僕を何かに導いている様であった。一体何が起きたというのだ?俺はその杖を必死に掴もうとした。正にその瞬間である!
曇り無き眼、晴れ渡りし心にて掌握せよ!さすれば爾、万物の意を表明せん!
僕は目を閉じ、瞑想した。全ての想いを無に還した。そして、錫杖を手に取る・・・
聞こえる、聞こえてくる・・・人々の絶望、怒りや苦しみ、悲しみや後悔、願いや祈り・・・・・皆の声が、聞こえる・・・・。だが、その中に希望はなかった・・・。祈りも願いも、今の自分にとってこれ程尊いものはなかった。
負は絶望を呼び、絶望は苦しみを生む。苦しみは憤りを創り、その憤りは時に死を呼び、時に負を呼ぶ・・・・・その摂理は全てを滅ぼし、無に還す。それが永久なりし因果関係だ!
その時、あの忌々しき物質の中に潜む何かが語り掛けてきた。言うまでもない、黄泉のものの正体であろう。だが今更そんな言葉は、今の僕にとっては全く通用しない!
負が絶望を呼ぶのなら、負の感情を持たなければいい。だがそれも、我々人類にとっては何よりも辛く困難な事かもしれない。併しヒカリさえ見出せば、そうヒカリさえ見出せば容易な事になるかもしれないじゃないか?!僕は巫者、平和の御神に仕えし無限神・・・。あの時テツォラに言われた通り、他の巫子を導く導師とならなければならないのだから・・・・・・・・
爾、誠として疑わぬ心で聖地に行け!和の大君が遺せし魔宝は其処にあらん!
僕は全速力で首都ヴァンダーラに向かった。何とか首都そのものには、黄泉のものと冥嚇覇王による多大な影響はないようだ。だが、闇に飲まれるのも時間の問題・・・ジーナは無事でいるだろうか・・・・・アーマネストは正気にもどっているだろうか・・・・・・・
アッ!
その時、大きな地殻変動が起きたのか、大地が激しく揺れ蠢いた。それが原因か、黄泉のものは先程に増して大きくなりつつあった。そして、あろう事かその物質は動いているではないか?!僕はそれが動き行く先を追った。すると信じられない事に、その先にあるのはヴァンダーラだった!あたかも黄泉のものは、自らの意志を持つかのように行動を起している。僕の考えている事を先読みしているとでもいうのか・・・。こうなれば最早、時間の問題だ!!
漸く辿り着いた首都ヴァンダーラ。街にいる人々は、遥か上空に存在する黄泉のものにすら気付いていない為か、普段通り賑わいでいる。呑気なものだ!
テツォラの言っていたヴァルファラは、今はもう全くもって人気のない、古代の建造物としてされているが、まさか、あそこが聖地だという事を初めて聞いた時は、僕も正直驚いた。六つの石柱に囲まれている真ん中に、不自然と立つ石造りの器。その器の中に、妙な穴が開いていた。丁度、杖が挿し込めそうな大きさの穴だった。
「早くしなければ、もうスグそこに黄泉のものが―――!?」
黄泉のものはもう目と鼻の先だった。
コツッコツッコツッ……………
ヴァルファラの舞台前の石段を登る足音が聞こえた。そして現れたのは、なんとアーマネストだった!!
「……………………………………」
何処か、アーマネストの様子はおかしかった。彼が舞台に上りつくと、黄泉のものはその場に停滞し始めた。
「………させぬ………………」
彼は貪る様な声でボソッと何かを呟くと、神王呪術の文を詠み始めた!
「死と絶望の神、獄界と冥界に巣食いし霊神、今交えし互神ツェッカ・・・黄泉の
名の下に今こそ君臨せよ、虚皇無非!―――そして、混沌より出でし邪神王よ、
今此処に露とせん・・・・・憐貶龍皇慈王!!」
すると、周りの石柱は揺れ蠢き始めた。ダグラス、そしてジャグストックス。
古代文字の発祥であるファターム言語にてダグラスを翻訳すると虚無に等しい無の上位的存在、ジャグストックスは愚かにして慈悲無き王威的存在。ダグラス、ジャグストックス、この二つの共通する意味は中世に滅びたと言われるナドュリア言語による翻訳で、窮地・無謀・絶望、もう一つの意で黄泉・死後・冥途の言葉がある。
何れにせよ、あの二つが黄泉のものに関連するであろう事は、最早明確である。神王呪術は神王転生とは異なり、神王の力による呪術の増大効果を加算した、言わば増力呪術だと、クリスから聞いた事があった。大方、アーマネストは黄泉の脅威に洗脳されているのだろう。彼を助けなくては!!
「止めろ!全てが無益な戦いだという事がまだわからないのか?!」
心の奥底にあった何かが僕を勇気付けた。
「……………フッ…。それがどうしたと言うのだ?―――……俺が無益な戦い
を望まぬような軟弱な巫子に見えたとでも言うのか?…………笑止!戯言を並べる前に、先ず己の置かれている立場を考えろ!!」
アーマネストは左手で右腕を掴み、気功弾を放ってきた。僕は難無く避けたが、そのまま飛んでいった弾は大樹にぶつかると、その大樹は跡形もなく消えうせた!?
「貴方がどれだけ苛酷な奴かはわからない…。だが、どんな人でも一人の人間なら良心ってものがあるだろ?!―――……ジーナさんをも悲しませるつもりか!」
「ジーナ?・・・・・フ・・・知らんな………。下らん話は死んでからしろ!!」
するとアーマネストは聞いた事もないような呪文を唱え始めた。
「Blackness vanity immortal apostle……………―――暗鎮招黄泉酷黒穴…」
物凄い暗黒の力が、僕の全身を引き擦り込もうとする。全ての感情が無に還る・・・そんな感じだった。心地よくも無く、苦しくも無い。快感でもなく、不愉快でもない。もぅ、全てが消えてしまう……このままだと存在さえも・・・・・・・・
その時である。
僕の全身から目映い耀が解き放たれる。それは呪文へ。それはアーマネストへ。そしてそれは・・・・・・・。
「Blaze regeneration ever never apostle…………………―――太陰陽巫王!」
最終章 新世界の理 〜Reason for new world〜
それから、自分にとっての空白が刻まれた。
「今後、絶対に転生術の使用を御止め下さい!!」・・・・・・・・してはいけない事だという事くらい最初から自分には分かってはいた…。しかし、かと言ってあのまま黙ってやられる訳にもいかなかった……。クリス、ゴメンな・・・・・・。僕は只、自分の行いを反省していた。
「此奴、若き頃の太陰陽巫王に類している・・・」
そう一言呟くと、アーマネストから忌々しき醜が抜けていき、そしてその場に勢いよく倒れた。
クリス、やっぱり俺には無理みたいだ……………。時空間歪曲物質は次第に大きくなる・・・。第二の世界を創ってくれたのに、悪かったよテツォラ・・・・・。様々な物が、時空間歪曲物質に吸い込まれていった・・・・・・。無限神の役目もこれで尽き果てるか・・・
!?
突如、腕に激痛が走った。そしてそれは右腕だった。丁度紋章が刻印されている部位・・・。ふと見てみると、右腕とヴァルファラの石柱の中央に位置する場所が互いに反応し合っている。僕はその場所に、全身の余力を尽くして近付いた。何メートルか近付くと、石造りの器の横にもう一つ、台座が低く横幅の広い、そして丸い窪みのある台が現れた。しかし、僕が前見た生命の霊玉をはめ込む板よりかは少し大きめだった。そして右腕は、その台と上手い具合に共鳴していた。
「もしかして・・・・・―――」
僕は全身全霊を振り絞って、先程の石造りの器に時空導師の錫杖を突き刺した!すると、右腕から台に一直線の蒼い閃光が走り、台の下から徐々に球体らしき物体が浮き出てきた。まさかこれが、アーマネストの言っていた清澄の魔玉・・・?
・・・グハッ?!
そして僕は、そこで一時意識が途絶えた。僕の脊髄を何者かが「八卦術法」で攻撃してきたのだ。それはアーマネストだった。
「巫子であり、唯一の娘であるジーナを救いたいのだ・・・。すまぬな、許してくれ・・・・・」
良心に返ったアーマネストはジーナの事を救いたい一心だった。右腕の紋章は抹消した。それと同時に、清澄の魔玉も粉々に粉砕した。
「!―――・・・清澄の魔玉が・・・・・消滅した?!」
この世界は私が創ったが、それを変えていくのはお前自身だ、目を覚ませ、無限神ヴァイト!
「もぅ、無理だ・・・・・」
僕は諦めては地に伏せ、只々近くなりゆく死を待ち望んでいた。しかし、僕は又それに反する想いも抱えていた。僕にしか出来ない、じゃぁ世界はどうなる?滅ぶしか道がないではないか!そこに待つのは、人々にとっての絶対の絶望しかない・・・。この相対する志向は、僕にどうしろと訴えているのだ?!
「永遠に相反し継続するものか・・・・・」
すると、「生命の霊玉」から蒼白い閃光が再度放たれ、そして始まった・・・
時が如く、無限の下に汝を承諾す、安穏の元に巫神の調和を与えん
時が如く、無限の下に汝を承諾す、戦乱の元に巫神の精根を与えん
時が如く、無限の下に汝を承諾す、聖の元に巫神の呪力を与えん
時が如く、無限の下に汝を承諾す、虚無の元に巫神の器量を与えん
時が如く、無限の下に汝を承諾す、真実の元に巫神の智識を与えん
その青白い閃光は僕を優しく包み、僕から今までの全呪力、精力、意識、巫者としての全てを奪い取り、そして新たに巫の神として僕自身の心に降臨した。僕は今ここより神になった。そして、神は僕の身体を使って呪術を使い始めた。
「時の御名の下、厄となりし五悪十悪の化身を滅さん・・・吾、無限神と共に滅す
が事を代償とせん・・・・・―――!!」
大空は忽ち、前面真っ青の晴天となり、黄泉のものは瞬時にして消滅した。僕の鍵でもある腕の痣も薄くなり、遂には同じく消滅した。僕は神として、また神は僕として時空間象徴空間へと転送された。これから僕は、一体どうなるのだろう?人は死ぬと自然界へと還る・・・。しかし僕は人間でもなく、巫者でもなくしてこの世に送り込まれてきた存在・・・・・・
僕は僕である事に疑いを持った。
そして、僕はまたジョンとして始まり、ジョンとして終わる・・・
僕に「人生の終焉」という言葉は存在しない・・・・・
幾千年もの時を経て、ジョン・ウォールドという名の人物の物語は伝説に終わる。始まりのものには終りがあるという、永劫果てる事のない自然の摂理には幾ら神でも適わないのだ。マルク神が望む新たなる世界は、次世紀という時を越えて漸く叶うのである。そう。僕が新世界となったのだ!これ以降、巫子の姿を見たものはいなかった。ボクが消滅するD−Centuryまでは・・・・・。
どうもここまで見てくださり、感謝の至りです。
夢と純真さを大切にする人ほど、小説は書けると思うので、皆さんも機会があれば是非書き綴ってください。