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恋日和  作者: 依槻
第一章 夏恋日和
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03.夏恋日和③

 ミンミン、と蝉の鳴き声が響く廊下を槙と基は担任に渡されたプリントをそれぞれ抱え、教室への道を歩いていた。

「放課後は居残り決定だね。」

「まあ、夏休み間近だからしょうがないんだけどね。」

ぼやく槙に、基も苦笑いを浮かべて答える。


 2人が音弥に頼まれたのは、いわゆる「夏休みのしおり」的なものだ。高校にはいってまで律儀なものだ、と思うが、最近は物騒であったり、夏は特に浮かれやすく、事故や事件が起きやすい事もあってわざわざ作らされたのだと、音弥が苦い顔で言っていた。


 「でも、そっか。もう夏休みなんだね。」

窓から覗く青空に、槙は足を止め、瞳を細める。

「戸塚さんは、夏休み何か予定あるの?」

「う~ん、家族で毎年恒例の旅行に行ったり、後はいつものメンバーで遊んだり・・・?高倉くんは?」

「僕も似たようなものかな。家族で出掛けたり、友達と遊んだり・・・。後は、文化祭の準備もあるね。」

「そうだね。カフェっていうのは決まったけど、まだ細かいコンセプトが決まってないからまたホームルームで決めていかなきゃね。」

ふと、千夏のクラスは何をするのだろう、と彼の顔が浮かんだ。

(初めての文化祭。一緒に回れたら嬉しいな。)


 その前に、夏休み。どうやったら、もっと距離を縮められるだろうか。

『だって大体毎日同じ話で、進展がないんだもん。』

先ほど、柚子に言われた言葉が思い出され、ため息が零れる。事実、柚子の言うとおり、一緒に帰ったり、話したりは、中学の頃からやっている。引っ込み思案な槙としてはここまで親しくなれただけでもかなり頑張った方だ。

(でも、これじゃあいつまで経っても、何も変わらない。)

「まーき。前見ないと危ないぞ。」

ぴたり、と額に触れた手に、槙は瞳を瞬かせる。

「千夏先輩!」

目の前に立つ千夏の姿に、槙は嬉しそうに名前を呼ぶ。尻尾が付いていたら全力で振っていそうな槙に、千夏はくすくすと笑みを零す。

「そんなに俺に会えて嬉しいの?」

「はい!今丁度、先輩の事を考えていたんです。」

「へ?」

「あ・・・。」

思わず素直に言ってしまった言葉に、槙は顔を真っ赤にする。そして、慌てて言い訳を考えた。

「えっと、その・・・。い、今、高倉くんと文化祭の話をしていて、千夏先輩のクラスは何をするのかな、と思って、いて・・・。ね!高倉くん。」

頬を染めたまま、基に笑顔で同意を求めると、彼は少し困ったように眉根を下げて微笑みながら、頷いた。

「ふ~ん。・・・・・・仲良いの?」

「へ?」

「お前と高倉くん?」

「あ、はい。委員が一緒で、たまに勉強を教えてもらったりしてます。高倉くん、すごく教えるのが上手いんですよ。」

「え!?いやいや、戸塚さんの方がわかんないとこいつも教えてくれてるよ。」

「でも、教えるのは高倉くんの方が上手だよ。おかげで柚子たちにどうやったら説明出来るかわかるもの。」

笑顔で誉める槙に、基は顔を真っ赤に染めながら、「ありがとう。」と、照れくさそうに笑った。

「・・・・・・。」

「ふぎゃ!」

むぎゅ、と千夏に頬を両側から押して潰され、槙の口から変な悲鳴が漏れる。何事かと、千夏を見れば、何だか不満げな顔をしている。

「千夏、先輩?」

「槙の、浮気者・・・。」

「えぇ!?」

言葉の意味がわからなくて、槙はあたふたとし始める。そんな彼女はそのままに、千夏はちらり、と基に視線を向け、すぐに槙に戻す。

「槙。」

「はい・・・。」

「また放課後にね。」

にっこり、微笑んで、千夏は槙から手を離すと、行ってしまった。何が何だかわからなくて、槙は頭にはてなマークを浮かべながら、去っていく千夏を見送る。

「・・・・・・ねえ、戸塚さん。」

「うん?」

「さっき言ってたいつものメンバーに、樋野先輩も入ってるの?」

「・・・・・・入ってくれると嬉しいんだけどね。」

そう言って微笑み、基に向けた顔を再び千夏が去っていった方へと向ける。その横顔は恋をしている事が伝わってきて、基の胸を締め付けた。


 「なんか、面白そうな事になってきた。」

3人の様子を階段の踊り場からこっそり覗き見ていた柚子はわくわくしながらそう呟く。

「人の恋路を面白がるなよ。」

「でも、これで少しは進展するかもしれないよ。」

「・・・っ。」

しゃがみ込んだ自分の上から同じように覗き見していた瑠偉を見上げれば、彼が息を飲んだのがわかり、首を傾げる。

「瑠偉?」

「何でもない。戻るぞ。」

「あ、待ってよ。」

背を向け歩き出した瑠偉を急いで追いかけようとして、柚子は掲示板に貼られたポスターに目を留める。

「花火大会。」

「・・・・・・お前。今、絶対良からぬ事考えただろう。」

「そんなことないよ。」

そう言って笑った柚子の表情は悪戯を思いついた子どもの様で、そう言うときは碌な事を考えていないと、瑠偉は経験上悟っていた。

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