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イケメン讃歌!!

作者: パプリカ

謎のテンション

 『イケメン』

 全てのことが許され、世界で最も羨ましい存在。


 つまりこの俺、天原(あまはら)(しょう)のことだ!


 色素の薄いサラサラヘアーに、キリリとした瞳!

 通った鼻筋に薄い唇。真っ白な歯は光を浴びるとキラリと光る!

 こんな、正統派イケメン他にいるか? いや、いない! 

 断言できる!


「なのに、何故モテないんだよぉ。何でか分かるか?」


「性格の問題じゃないか?」


 俺と一緒に喫茶店でコーヒーを飲んでいるのは、幼なじみである大林(おおばやし)正宗(まさむね)だ。

 何故か俺ではなくコイツが学校一のモテ男だ……ちっ。


「おい、舌打ちすんなよ」


「ちっ!」


「嫌がらせか?」


 真っ黒な髪に小麦色に焼けた肌。獲物を狙っているかのような鋭い瞳。

 そして、剣道部期待のエース。

 現代によみがえった侍、と女子の間では言われているようだ。

 …………調子のってんじゃねぇぞぉぉぉぉ!

 なぁにが、現代によみがえった侍だ!

 だだのゾンビじゃねぇか!

 幼馴染みじゃなかったら神社に藁人形打ちに行ってるぞ!


「つか、何だよ性格が問題って!」


「ん? どう考えても問題だろ」


「どこがだよ!」


「バカなとことか、無駄にうるさいとことか、ナルシストっぽいとことかバカなとことか」


「おい! バカ二回出てきたぞ!」


「バカ掛ける二だから」


 ああ、神よ!

 どうか、この神に愛されし俺を冒涜した正宗に天罰を!


「おい(しょう)、何祈ってんだ?」


「正宗が赤点取りますように!」


「コーヒーぶっかけてやろうか?」


 ちっ!

 ……ちょ、嘘だって、だからそんな怖い顔すんなよ……な?



 次の日。つまり高校二年、春の始業式の日。校門を正宗と二人で(・・・)くぐった時の出来事。


「キャー!正宗君、おはよう!」


「大林君、おはよう……キャー言っちゃった!」


「正宗君! 今度遊びに行こうよ!」


「正宗君、同じクラスだよぉ!」


 ……俺の存在、どこ行った!

 何故だ! 

 顔のスペックは俺の方が上なのに!

 納得いかん……。


 ちなみに、俺も正宗と同じクラスだった。

 ちっ!


 まあ、そんな嫌なことは忘れよう。なんせ今は俺の一年で一回しかないモテ期なんだからな!

 俺は毎年この時期、つまり新入生が入る時期だけはモテるのだ。皆、なぜか時が経つにつれて俺のもとを去り、正宗のファンになっているけどな!

 ……幼馴染みじゃなかったら何かの儀式の生け贄にするところだ。

 神よ! 哀れな俺に救済を!


 今回、俺は正宗にファンを持ってかれないように新入生へのアピールにいつも以上の力を入れた。女の子が大好きな王子様を意識した挨拶や、トキメクこと間違いなしの台詞を連発してきた。一年生の教室にわざわざ行ってね!

 皆の反応から成功したことは間違いないだろう。あんなにすごい視線を浴びたのは初めてだ。

 ああ! 昼休みが楽しみだ!



 そして昼休み。


「なぜ俺のところに誰も来ないんだ!」


 教室の入り口には正宗ファンが大量に集まっているというのに!

 つか、あんなにアピールしたのに誰も来ないってどゆこと!


「お前のアピールの仕方が悪いんだろ」


「それだけは有り得ない。だって狂喜乱舞してたぞ」


「阿鼻叫喚の間違いだろ」


 憎たらしいことばかり言いやがって……。許すまじ。

 だいたい努力した俺より努力してない正宗の方がモテるっておかしくね!

 

「そんなことより隣のクラスに転校生が来たらしいぞ」


「そんなことって言うなよ! ……転校生? 別に珍しくもないだろ、年度始めなんだからさ」


「それはそうだが、何でもその真山っていう転校生、すごいらしいぞ」


「何がだよ」


「性格がめちゃくちゃキツいらしい。部活仲間がアタックしたらひどいことになった」


 正宗の部活仲間よ、悪いがどーでもいい。今問題なのは俺が全くモテないことだ。

 だが、正宗の話はまだ続く。


「そいつ、余程ショックだったみたいで産まれたことを後悔し始めてるんだ」


「……そんなこと俺に話してどうすんだよ」


「いや、ちょっと面白くね?」


 こいつは部活仲間の不幸で笑いを取ろうとしたらしい。なんてやつだ。


「お前より可哀想なやつは沢山いるってことだよ。だから元気だせ」


 ……前言撤回。なんていいやつなんだ! お礼にハグ……はキモいからしないが俺の大好物のタコさんウインナーをやろう!


「いや、いらねーよ」


「カッコつけんなよ。俺がタコさんウインナーをプレゼントするなんて滅多にないんだから、有り難く貰っとけ!」


 フッフッフ。俺は知ってるぞ、お前もタコさんウインナーが大好物なことをな!



 放課後。

 誰も居眠りしてるのを起こしてくれなかったので一人廊下を歩いている俺。

 誰か起こせよ!


 今日は部活もないからさっさと帰ろうと思ってたのになー。


 不貞腐れて歩いていると、少し前にある職員室の扉から女生徒が出てきた。上履きの色が俺と一緒だから2年生らしい。

 あ、ハンカチ落とした。彼女は気づいていないのかどんどん歩いて行く。

 俺はハンカチを拾い上げて声をかけた。


「お嬢さん、ハンカチ落としたよ」


 俺は彼女に駆け寄ってハンカチを差し出した。


「もう少しでハンカチが迷子になってしまうところだったよ」


 素敵な台詞をプレゼント。笑顔ももちろん忘れない。そして、彼女が振り返るのを待つ。彼女はくるりと振り返った。

 涼やかな瞳と真一文字に閉じられた形のいい口、綺麗な黒髪。彼女は綺麗だった。でも、それを帳消しにするくらい……。

 

「気持ち悪い人、ありがとう」


 冷たかった。いや、酷かった。

 俺、ハンカチ拾っただけじゃん!


「台詞がマイナス50点。センスの欠片もない」


 そういうと彼女はさっさと歩いていく。

 俺はそんな彼女をじっと見つめる…………訳がない! ちょと待てこんちくしょう!

 俺は彼女の前に回りこんだ。


「どういう意味だよ!」


「言葉の通り、センスがイカれてる。そんなんじゃ、せっかく顔は良いのに台無しってことよ」


「な、なんだって!」


 お、俺はセンスがイカれてたのか? 全く気づかなかった……。


「じゃ、じゃあ、あんたはセンスがいいってことか?」


「あなたよりは確実にね」


「じゃあ、ちょっと見せてくれないか?」


 今後の参考にしたい。


「嫌」


「そこをなんとか! お願いします! イケてる台詞を1つ!」


 彼女は大分迷ったようだが、周囲に誰もいないのを確認すると……。


「君に見つめられると溶けてしまいそうだよ」


 …………。


「ちょっと、何か言いなさいよ」


 …………。


「ちょっと!」


 彼女に揺すられ俺はこの世に戻ってきた。俺、どうしたんだっけ?

 は! そうだ!


「素晴らしい台詞です! 感動のあまり意識が遠くなってしまいました!」


「え、あそうなの? なら仕方ないわね」


 彼女はうんうんと頷いてる。


「確かに俺はセンスがなかったようです……。ああ! 自分が不甲斐ない!」


「うんうん。失敗は誰にでもあることよ。気にしちゃいけないわ。私だって勉強して手に入れたんだから。私だって昔はあなたと同じだったわ」


「え、師匠にも俺のような時期があったんですか!」


「そうよ…………ん? 師匠って何よ?」


「俺、感動しました! 弟子にしてください! 俺、天原翔といいます!」


「私は真山(まやま)(あん)……じゃなくて、ならないからね師匠とか!」


「素敵な名前ですね、師匠!」


「いや、だからならないって!」




 次の日の昼休み。


「師匠! 焼きそばパン買ってきました!」


「頼んでないし、師匠でもないから!」


「おい、翔! 迷惑だからやめろ!」


「おい、離せ正宗! ししょー!」


 何故俺と師匠の仲を邪魔するんだ!



 すごい勢いで人気のない屋上まで連れてかれた。そして昨日の出来事を根掘り葉掘り聞かれた。


「へぇー。そんなことがあったのか」


「だから、絶対弟子にしてもらうんだ!」


 師匠の技術を伝授してもらうのさ!


「ちょっといい」


 誰かと思ったら師匠だった。


「師匠!」


「転校そうそう騒がせて悪いな真山」


「別にいいわ。それより天原翔! 私のことを手伝ってくれるなら師匠になってもいい」


 ガッツポーズ! やったぞ!


「本題に入る。悪いけどデカイ人は席を外してくれる?」


「デカイ人ってなぁ……。分かったよ」


 デカイ人……プッ。ざまぁみろ!

 正宗の姿が見えなくなると師匠は喋りだした。



「私、夢があるの」


「そうなんですか。どんな夢何ですか?」


「私、作家になりたいの!」


…………。


「ねえ?」


…………。


「やっぱり私が作家だなんて変よね?」


「か」


「か?」


「カッコいいです! やっぱり師匠はすごいです」


 さすが師匠! そこに痺れる、憧れ……げふんげふん。むせた。


「そ、そうかな? そんなこと初めて言われたよ」


 師匠は嬉しそうに笑っている。何だか胸が温かくなった。俺も嬉しくなってきた。


「師匠のこと誠心誠意応援します!」


「じゃあ、これで正式に私達は師匠と弟子ってことね」


「はい! これからよろしくお願いします!」


「こちらこそ」


 俺と師匠は固く握手をしたのであった。


 頑張ってスタイリッシュなイケメンになってやる!




「あ、でも学校では師匠って呼ばないで。恥ずかしいから」


「えー。師匠って呼びた」


「やめて」


 師匠って呼びたかったのにー。


「じゃあ、なんて呼べばいいんですか?」


「普通に名前でいいわよ」


「え!」


 な、名前だと!

 イケメンだけど彼女いない歴17年の非リア充の俺が女の子を名前呼び……。顔が熱い。


「あ、杏」


「え、そっちなの?」


 え、もしかして名字のほうだった?

 これは恥ずかしいよ俺……。


「まっまあいいわ。私はなんて呼べばいい?」


 ふぅ。良かった。怒られるかと思ったぜ。

 あれ、顔が赤いけどもしかして師匠も照れてる?


「俺も名前でいいです」


 俺も名前呼びなんだし当然だろう。


「しょ、翔」


 よ、呼んでくれた……。

 師匠が呼んでくれた!

 俺も呼び返す。


「杏」


「翔」


「あ」


「ちょ、やめよう。恥ずかしい……」

 

 いつの間にか名前呼びあってた。顔がまた熱くなってきた。師匠も顔が赤い。


「じゃ、じゃあそういうことで」 


「分かりました」


 そう言って師匠は足早に去っていった。



 最初は嫌なやつかと思ったけど師匠のこと好きになれそうだな。

 

 嬉しい気持ちのまま、俺は何となく校庭を見た。

 体育着を着た正宗がこっちに手を振って何か叫んでる。


「速く着替えないと遅刻するぞ!」


  わ、忘れてた……。次、体育。

 無情にも鐘は思い出したのと同時に鳴り響いた。


 つーか、弁当も食ってない……。


気の迷いとしか言えない……。

イケメン少年のぶっ飛び具合がやばい。

けど、嫌いになれない。

杏ちゃんはクールで毒舌だけど普通の感性を持った女の子……と思わせたぶっ飛び少女です。


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