第4話 扉の向こうで〜夕夏〜
雪が降っている、チラチラとそんななか防寒着を真っ赤に染め唖然としている少女、手に持つ黒き矛は地面に刺さり静かに佇む。
《ごめんね……ごめんなさい奏歌》
少女の目に映るのは真っ赤な花を咲かせた赤髪の少年が微かに生命を保っていた。
「…………」
あたしは人生の中でも最も思い出したくない出来事を見ている、それはあたしのトラウマ思い出すたびに喘息のような発作を起こす。
「ヒュー…ヒュー…かは!ごめんね奏歌…ごめんね」
あれはあたしが奏歌と共に中学に上がったばかりの事だった、その日は朝から雪が降っており奏歌も珍しく外にすんなりと出た、この頃のあたしは藤城の家を立て直そうと必死だった。
力の弱い父さんに代わり自分が藤城の長になるため努力をしていた時期だ。
《………………夕夏》
《なに?あんたから話しかけてくるなんて珍しいわね》
この頃の奏歌はあり得ないくらいに無口で無愛想で暗かった。
だから奏歌から話しをきりだすのは珍しいのだ。
《…………僕には君が隠し事をしている用に見える》《なんの事?》
《……夕夏は……》
《なによ?》
今も昔も目線は変わらない違うのは眼の耀きぐらいだ少し上目遣いになるようにあたしの顔を覗きこむ奏歌。
《危ない事してる……カンだけど》
《あんたねぇ》
変に鋭い奏歌の洞察力、コイツのカンは偶然ではなく総合的な判断で結果を出しているのだとあたしは思う。
確かにあたしは無茶をしていた狩崎家の輝、姫守家の伊吹そして藤城と同じで血筋が弱くなったが先代以上の力を持った糸繰家の(鮫島)玲二、かつては藤城も名を馳せた名家だ自分のなが囁かれないのが悔しくて、焦っていた。
《そう………夕夏を信じるよ》
奏歌がポケットの中のカイロを揉みながら真上を見上げ灰色の空を見る。
あたしはその顔を黙って見る白く綺麗な肌に大きな眼に長いまつ毛学ランを着ていなければ確実に女の子だ。
そして、その表情は自分と同じ自分に自信が持てず何をすればいいか分からないそんな顔をする。
《……ほら!行くよ》
《うん》
もう時刻は10時を過ぎようとしている、奏歌はお婆ちゃんの家でバイオリンを習っている、あたしは塾の帰りって嘘を言い一緒に帰る。
「気付け!早く!奏歌を巻き込んじゃ!」
半透明のあたしは過去の二人に向かって必死に叫ぶ肩を掴み止めようとするが金縛りの用に体が動かない。
《っ………そんな!》
《?ど……あ……夕夏?》《奏歌!》
《はぁはぁ……へへ、詰めが甘かったな!》
あたしはたまらず座り込んでしまう、苦しい胸、キリキリと痛む胃、止まらない涙。
《はぁはぁ……あはは!お前のような奴に俺が殺せるかよ!》
《奏歌……っ!あんたは………あんたって奴は!》
詰めが甘かった、少しでも多くの結果を出すためにがむしゃらに仕事をこなす毎日、確かに結果を出しているだが同時に確実性が危うく先程闘った鬼人に止めを刺しきれなかった。
《死ねおや!》
《っ!》
鬼人から放たれる衝撃波、あたしは破紋
の重力波で相殺する、実力も能力も対したことは無いが悪知恵は働くらしく奏歌を狙い撃つ。
《くっ!こんな攻撃!》
《はっ!動きが鈍いぜ!》《なっ!》
全方位からの衝撃波が奏歌とあたしを襲う、破紋を奏歌の隣に刺し奏歌を守る分だけの重力波を展開する。
《っ!うぅ!があぁぁ!》《はん!死にかけの人間を庇うなんてな!あばよ!あの世で後悔しな!》
全方位からの衝撃波は一つ一つがバイクに引かれた用な威力がある、全身を容赦なく降り注ぐ衝撃波の雨、骨の折れる嫌な音、額が割れて流れる血液、酷く耳鳴りのする感覚。
徐々に迫る特大の衝撃波、ぼやける視界が奏歌を捉える、頭部から血を流し右腕が折れている。
《くっ……あたしは……うぅ誰か奏歌だけでも》
体を引きずり奏歌に被いかぶさる、その体は冷たくなっていき顔色は青い、
鬼人の下品な笑い声と衝撃波の迫る音を聞き自分の甘さに憤りを覚える。
家を立て直そうと頑張った危険と平和を両立させれるほどあたしは器用な人間じゃない、だから極力人と関わるのは避けた、関わった人を捲き込む訳には行かない……でも、奏歌だけは違った、ほおっておけなくて、強がってるけど支えてくれる人がいないとダメで、無愛想なふりするけどお人好しのトラブルメーカー。
本当は奏歌をあたしが必要としている……実際、あたしのせいで奏歌が狙われる事は少なくても三回はあった何度も関係を絶とうするが、出来ないそんな自分を嘲笑い見ているもう一人の自分。
《ごめんね奏歌………ごめんなさい》
あたしは目をぎゅっとつむっている、現代のあたしは見ている事しか出来ない。
《はっ!はははぁ?!》
《あぁ〜間に合った〜》
《えっ?》
目の前には玲二さんが居る黒衣の賢者を操る玲二は、圧倒的な強さで鬼人を串刺しにしていく。
《じっとしていろまだ間に合う…………止血はすんだ》
《あなた……》
《俺は輝だ………突然だが藤城夕夏だな》
《……ええ》
《俺達の力になってくれ……俺はお前の力が必要だ》
治癒術を使い一命をとりとめた奏歌にコートをかけてやり輝があたしを立たせる。
《……何をするつもり?》《老人達を倒す》
表情を変えることもなく、あたしの目を見据える。
そして今の幽鬼帝の状況について教えてくれた。《あたしでいいの?もっと優秀な人が》
《あぁ〜お嬢ちゃん、狩崎の人を見る目を信じな君は強くなる》
《………いいわ、奏歌を助けてくれた仮は返します》
ゆっくりと奏歌に歩みより鵬を撫でる。
《おい輝……救急車は呼んでおいた引くぞ》
《姫守伊吹まで?!》
《なに?ボクがいちゃ悪い?》
《このメンバー……本気で幽鬼帝の連中に喧嘩うるきなのね……》
みんなは当たり前だと言う顔をし先に帰っていった。
《奏歌……何時になるか分からない…でも…人間と鬼…本当に共存できる世界を作ったその日に……ちゃんと謝るから》
「……なに、あたしはどうすればいいのよ?」
「うわぁぁぁぁあ?!ブ、ブン!」
『うむ!』
体の自由が戻り、立ち上がると同時に真上から扉が出現、奏歌が悲鳴をあげつつ落ちてくる……激突は磁力で回避したようで深いため息をついている。
「危ない!もぅ……ブン大丈夫?」
『うむ………夕夏』
「へぇ?あふぅ?また試練?!銀王は使ったら負け?」
「バカ本物よ………」
あたしは奏歌を強く抱き締める、昔と違ってほっそりとしているが筋肉がついてプニプニ感が無くなっている、顔を真っ赤にしあたふたするが大人しくなったので離してやった。
「ねぇ、奏歌……事故にあったことあるでしょ?」
「うん」
「あれね……私のせいなんだ……奏歌は鬼人に襲われてあたしは守ることが出来なかった」
それからあたしは、今まで隠してきたこと奏歌が此方に来て思ったことを正直に話した。
そんなあたしを奏歌は黙って聞き入ってくれて頭を撫でられる。
「えっと……ありがと、僕は幸せ者だ」
「ふぅ〜何だか疲れたわ……最後に何時か人間と鬼が共存できる世界になったら奏歌に話すことがあるの」
「うん、僕も楽しみにしてるよ」
気付けばあたし達の目の前には扉が現れあたし達を飲み込んだ。