第27話 クロス逃亡劇その2
神を信じる人ごめんなさい
少し転けそうになりながら、門を出る。
外気が一気に体温を冷やしたのが幸いして冷静になれた一端、輝と合流し勇者さんと三人で捜すことになる。
「すまない、クロスが迷惑を」
「……俺も悪かったんだ、とにかく捜すのが先決だ」
「いったい何があったんですか?」
勇者さんは、何かを思いだし顔が青ざめる、輝も溜め息を吐きポケットからケータイを取りだし何処かにかけた。
「それが……」
10分前……。
奏歌がいなくなって、暫くたった心地好い沈黙と甘い香りが漂う室内で、一人の魔王は声を上げる。
「あ……」
「どーした?喉に詰まったか?」
無言で首をふり、クロスの視線を辿っていくテレビには巨大なツリーが映っており警察に配備されている、M・Gが高い所に飾りを着けている。
「ヒカル、あれは何ですか?まだ知識を習得していません、教えてください」
「ん……あれはクリスマスツリーだ、こっちの世界の宗教的な行事だな、つまりは楽しいお祭りみたいなものだ」
「祭り……ですか」
クロスは傍らに置いていた広辞苑に手を伸ばす、その前にセイ・コントが開いていたので膝の上に座っているクロスに見えやすい体制になった。
「なるほど……つまりは恋仲が楽しむ日なのですね、ユカはあの赤毛チビと出かけないのですか?」
「はぁ?なんで奏歌と出かけなくちゃいけないのよ?いつも会ってるんだから、いいのよ」
ソファーから起き上がり雑誌を閉じる、夕夏はたいして反応を見せずに駄菓子を取りだし袋を開けていた。
「……なら、セイ出かけますよ、こっちの世界を見ておくのは損ではありませ知識を習得します」
「ちょ、ダメだクロス、俺様たちは保護されているんだぞ?それに弱体化しているお前を危険な目に会わせるしか」
セイは輝に助けを求める視線を送る、輝も気付きクロスに目線を会わせる小さい子供と話す時は同じ視線でを実行したのだ。
「その……つまりは、我慢してくれ、お前の存在を隠ぺいしているんだここで見付かると色々と」
「なるほど……私はあくまで捕虜なのですね」
「クロス!我が儘を言うな!」
だいたいの事は許してしまう勇者が珍しく怒り、クロスはすっと立ち上がり。
「セイのバカ」
と呟き出ていってしまった。
「なるほど……我が儘魔王の家出か」
「引き留めればよかったんだが……俺も甘えが生じたな」
「いや、輝殿、叱ることは大切だクロスをきちんと叱れる人は必要なのだ」
平気で話してるけど二人走るの速すぎ、息が上がってきたよ。
「よし、クルツが動いてくれそうだ」
「僕は左を捜すから」
「頼む!俺は右」
「任せろ!中央突破!」
無駄に寒い日の高い空のした魔王と勇者の俺は追いかけっこが始まった。
クロス。
勢いで出てきたのはいいが自分がいかにあの非力なのか思い知った。
つまる所貧血なのだ、フラフラと歩く私を愚民どもが見ている消してやりたいがセイを困らせることはこれ以上しなくない、適当なベンチを見つけ座ることにした。
「……寒い……セイのバカ」
不老不死の身体は万能じゃない、一人は慣れているが初めて寂しいと感情が訴えている、ましてや何故セイと出かけたいと言い出したのか自分でも理解できない。
「……いいな……っ!赤毛チビたちに毒されたか……情けない……」
公園と町のネオンそして行き交う恋人たちを見てそんな言葉が漏れる。
そんな時でさえ視線が刺さるのだ本当に消してやりたい……と思う筈なのにセイの事を思い出し、一人で大丈夫かなどと心配してしまう。
「………失せなさい」
「……そっちこそ、ボカァ君に命令される覚えはないけど……ゲホ…」
こんな口答えも赤毛チビ達を除けば初めてだ、あろうことかソイツは私を抱っこしベンチの隅に移動させた……いつの間に。
「ここはボクのお気に入りの場所なんだよ……寒いなちくしょう……ゲホ…ゲホ」
「………」
「…アレか知らない人とは話すなかお姫様?名のれば人の話は聞いてくれるかい?」
「………」
「ボカァ、伊達……伊達隼人だ」
完璧無視の私を気にすることなく白い少し汚れたコートに激甘ミルクカフェオレと書かれた缶のプルタブに本気で苦戦する少年が映る。
マフラーを深く巻いているせいか顔は目しか確認出来ないし髪は前髪が伸び左目が隠れかかっている。
「くっ…よし……温いな」
「クロス・シャドウハート」
此方も名乗ったが完全にスルーさせる、気付いているがコイツ……後がないニンゲンだ……人間ではない最早人間と呼ぶには滑稽過ぎるほど人間を諦め‘ココロ’だけで時間を刻んでいるのだ。
「……はぁ……お姫様は迷子かな?ウチの姫のほうが数段かわいいけど、君もなかなか良いよ…あ!ボカァ、ロリコンじゃないから」
こっちを見ず見えない何かを見て安心している用な表示をしているのか緩めたマフラーを私に巻きながら缶をもてあそぶ。
「かもしれませんね……貴方は」
「僕には友達がいるんだ二人…いや三人かな……正確には名前をハッキリと言える人かな」
この少年は人の話を聞かないタイプだろう、間違っても相手にしたくない人間だ。
「君は?」
「いない……いるのは私の敵…それと使える駒」
一瞬セイの顔を思いだすが押し止めた、コイツに笑われるような気がしたから。
「そうか……じゃ君に幸せが来るように祈ってあげるよ」
「………神様をしんじるのですか?」
ロザリオを持つ手が一瞬震える。
ああ……コイツはコワレテいるんだ、悩む事を止め、ただ行程と結果だけを見てそれでも未来を刻まないカラダを持つ人間は私なんかよりよっぽど危険だと思える。
「いるよ……いないと困る難聴気味で曖昧で、それでいて……ユーモアもセンスもない冗談を平気でプレゼントしてくれるクソ野郎に一発くらいヤキ入れてやらないとね」
「……私なんかよりよっぽどバケモノね……覚めたはさぁ…魔王さん、姫をさらってみたら」
久しぶり胸が高鳴る、こんなに楽しいのは久しぶりだ、戦いにはない興奮と背徳コイツは私を楽しませてくれる。
「……暇だし、姫行こうか」